16.-2


『先に行ってて。』





「変身術」の授業を終えてハリー、ロン、ハーマイオニーの三人は、いざ教室の扉へ向かおうと体を捻った所で、ピタリと動きを止めた。
名前が先に行けと促したのはつまり、マクゴナガルに用事があるからだ。
けれど用事なんて滅多に無い、これは珍しい事である。

三人は顔を見合わせて不思議そうに目を見交わしていたが、特に追及はせずに教室を出ていった。
遠退く三人の背中を見届けてから名前は生徒も疎らな教室を歩き、大股で教壇へ向かう。
マクゴナガルは授業の片付けをしていた。





『マクゴナガル先生、少しお時間よろしいですか。』



「何でしょう、Mr.ミョウジ。」



『……』





ハンドバッグをパチンと閉めて、マクゴナガルはテーブルを挟んで立つ名前を見る。
すぐに名前は答えなかった。
目だけを動かし辺りを見回して、教室に誰も残っていない事を確認していた。
それから黙ったままローブのポケットに手を突っ込み、取り出した物をマクゴナガルへ差し出した。
ポチ袋程のサイズの紙平袋だ。
マクゴナガルは名前の掌に乗った小さな紙平袋を見詰め、それから名前の顔を見た。





『これを受け取って欲しいのです。』



「これは何ですか?」



『お守りです。』



「お守り?」



『はい、お守りです。あの、いつもお世話になっているので……。』





鸚鵡返しに聞き返すマクゴナガルの困惑した反応に、名前の言葉は尻窄まりになっていく。
マクゴナガルの顔を見詰めていた涼しげな目元も、今や伏せられテーブルの木目に向けられていた。

「お守り」を渡すと決めたのは夢を見てからだ。居ても立っても居られなくなり即決した事である。
渡す寸前まで何の迷いも無かったが、マクゴナガルの反応を目の当たりにして、今更ながら自身の行動に疑問が生じてきたらしい。





「あなたが私の身を案じている事は分かりました。ありがとうございます、頂きますね。」





掌から紙平袋の感触が消えた。伏せていた目を上げる。
紙平袋はハンドバッグの中へしまわれ、マクゴナガルはいつもの厳格な表情を浮かべていた。





「さあ、早く教室を出なさい。ドローレスに見付かって、折角のプレゼントを取り上げられたくないですからね。
それからMr.ミョウジ、あまりに治りが遅いようでしたら医務室に行くのをお勧めします。マダム・ポンフリーが一瞬で元気にしてくれますよ。」



『はい。……』





安堵の胸を撫で下ろす名前の背中を、構わずマクゴナガルは押し出した。
ローブのポケットには、まだ二つ紙平袋が入っている。
明るい内にハグリッドの小屋へ向かわなければならない。

遅れて合流した名前に対して特に言及せず、ハリー達三人は迎え入れた。
おかしな夢を見たのだとしたら自分達に話すはずだし、近頃は寮の点を稼ぐのに奮起して事に当たっているので、おそらく授業の質問でもあったのだろうと見当を付けたのだ。
残念ながら彼らの見当は外れていたが。
実際名前はおかしな夢を見ていたし、そのせいでお守りをプレゼントするという奇行に走っており、けれどハリー達は言及しなかったし、名前は渡した事で満足してしまって、話す事などすっかり頭から抜け落ちていたのだった。

擦れ違いに気付くはずもなく午後の授業を終えた後、四人は図書室へ足を運んだ。
目当ての本を探して通路を進む。





「ゲッ。」





小さな呻き声を上げたのはロンだった。
目当てのコーナーを覗き込んでから此方へ振り向いて、嫌そうに顔を歪める。
ロンに倣い他の三人もコーナーを覗き込む。

奥の方に四人の生徒が屯していた。
後ろ姿でも分かる。輝くプラチナブロンドのオールバックはマルフォイだ。
ならば大柄の二人は腰巾着のクラッブとゴイルだろう。





「あいつは誰だ?」



「セオドール・ノットよ。」



「ノット、成る程ね。」





マルフォイ、クラッブ、ゴイル、ノット。
どれも昨年の夏に墓場に現れた人物の名だ。
そして「ザ・クィブラー」の記事に、死喰い人として連ねられた名でもある。





「さっさとずらかろうぜ。」



「そうだね。」



「何の本を探してるんだっけ?」



「『部分消失術』の本。」





手分けして本棚を見回す。人の気配に気が付いたのか、さすがに額を寄せ合っていたマルフォイ達が振り返った。
接近していたのがハリー達だと知るやと否や、彼らの態度の変化はとても分かりやすい。
ゴイルはふんぞり返って指を鳴らし、マルフォイはクラッブに耳打ちした。
(それに対抗してロンは名前を盾に持ってきたが、全く意図を理解していないので、ただの木偶の坊である)





「それに、一番いい事はね。
あの人達、あなた達に反論出来ないのよ。だって、自分達が記事を読んだなんて認める事が出来ないもの!」





図書室を出た途端にハーマイオニーは、それまで浮かべていたクールな表情を止めて相好を崩した。
その足で夕食を摂りに大広間へ向かう。
グリフィンドールの長テーブルに沿って歩き、空いている席へと各々腰を下ろした。
そこへスキップのような足取りで現れたのはルーナだ。
「ザ・クィブラー」の売れ行きが好調だと言う報告だった。





「パパが増刷してるんだよ!
パパは信じられないって。皆が『しわしわ角スノーカック』よりも、こっちに興味を持ってるみたいだって、パパが言うんだ!」





彼女はそれだけ言うとまたスキップのような足取りで、自分の寮のテーブルへと戻っていった。
罰則を控えるハリーと名前はお喋りに興ずる時間も無かったので、これは幸いと言えば幸いだったかもしれない。
兎に角夕食を掻き込み席を立つと、同じく罰則を受けるセドリックと出会した。
三人で仲良く罰則を受け、談笑しつつ談話室へ戻る。
もう慣れたものである。

談話室の扉を潜ったハリーと名前は、一歩踏み込んでピタリと立ち止まった。
扉の真正面の壁にハリー、名前、セドリック三人の写真が、拡大されてでかでかと貼り付けられていたからだ。
しかも部屋中に響き渡る声で(もしかしたら廊下にも漏れて出ているかもしれないが)、「魔法省の間抜け野郎」とか「アンブリッジ、糞食らえ」とか喋るのだ。





「おっと、英雄のご帰還だ。」



「ガーゴイル女のご相手ご苦労様であります。さぞお疲れでしょう。さあ、お席へどうぞ。」





死角から現れたフレッドとジョージが、固まるハリーと名前の肩を抱いた。
恭しく手を持ち上げ、労るように暖炉前のソファーへ誘っていく。
ソファーの周囲には既に大勢の生徒が待機しており、ハリーと名前の方を期待を込めた眼差しで見詰めていた。
まるで二人の演説を待っているかのようだった。





「壁のアレ、イケてるだろう?『ザ・クィブラー』の表紙を使わせてもらったんだ。」



「パンチが足りないんで、ちょいと弄ってあるけどね。まあ俺達の遊び心ってやつさ。」





その「遊び心」を快く思わない者がいる。ハーマイオニーだ。
彼女が仏頂面なのは何も女子生徒に話をねだられているだけではあるまい。
その証拠にハーマイオニーはソファーに腰掛けたハリーと名前の手当てを終えると、集中力が削がれると言って寝室に引っ込んでしまった。
演説は残されたハリーと名前に託されたわけである。
ハリーはともかく名前が口下手であるという情報がすっぽ抜けるくらいには苛立っていたようだ。
それでも名前は努めて話したし、ハリーは楽しんでさえいた。
しかしそれが一、二時間も続けば初心など忘れてしまう。

ポスターに掛けられた呪文の効果が薄れてきたらしい。
言葉が切れ切れになり、しかも甲高くなってきた。
何時間も通して喋る経験が無かった名前はすっかり声が掠れ喉を押さえていたし、ハリーはポスターの不安定な音声に気分が悪くなっていた。
インタビューの話をせがまれて、同じ話を何度も丁寧に答えていた二人だが、如実に表れた体調の変化に降参し、がっかりする生徒達の間をすり抜けて寝室へ向かったのだった。





「ナマエ、喉は大丈夫?」



『うん。』



「嘘だね。今の声、殆ど空気だったよ。」



『……
ハリーこそ顔色が悪いけど、大丈夫。』



「あー、……ちょっと頭痛がするんだ。」





寝室の扉を開ける。ハリーに続いて中へ入った。
窓際にネスが佇むだけで、同室の者は他にいない。

ハリーはベッドへ向かわず、ネスの佇む窓際へ近付く。
飛び去らないネスを一撫でし(内心ネスはどぎまぎしていた事だろう)、ハリーは窓ガラスに額を寄せた。
その様子を横目に眺めながら名前は、さっさと寝間着に着替える。





『もしかして、風邪をうつしたかな。』



「うーん……どうだろう。」





もう一度ネスを撫でてからハリーは窓際から離れた。
のろのろとした歩みでベッドに向かい、いつもより時間をかけてパジャマに着替えた。
どうやら普段の何気無い動作が痛みに響くらしい。

慎重にベッドへ寝そべるハリーの隣、名前は歩み寄って跪き、顔を覗き込んだ。
前髪の下へ指を滑り込ませ、額に触れる。





『ちょっと熱い気がする。』



「ナマエの手が冷たいんだ。」



『そうかな。』



「そうに決まってる。君は心配性なんだよ。
でも出来れば暫く、そのままでいて欲しい。」



『いいよ。』



「ありがとう……。」





瞼を閉じたハリーはすぐに眠ったようだった。
呼吸が深くゆっくりしたものへ変わり、痛みに強張っていた体から力が抜けていた。

「暫く」と言われた名前は律儀な事に、ハリーが眠った後でも時折手を替えて額を冷やし続けた。
その間ネスと交流を持つでもなく、本を読むでもなく、ただ友人の寝顔を眺めるだけである。
見ようによってはちょっとアブナイ人物だ。

言われた通り「暫く」額を冷やし続けた名前だったが、ハリーの寝顔に眠気を誘われたらしい。
自分のベッドへ戻る間も無く、そのままハリーのベッドに身を預けて、自身も夢の中へと旅立ってしまった。





───……





意識を取り戻した時、目の前に広がるのは星空だった。
見慣れた夢だ。マクゴナガルが倒れる、あの夢である。

夢は日記にしたためられた内容のまま繰り返される。
ハグリッドの怒号、女子生徒の悲鳴、月明かりに照らされたマクゴナガルの姿。
目に、耳に、記憶に、焼き付いていく。

一つの夢が終わる。
景色が遠ざかっていくのか、体が引っ張られているのか。
そうして夢は頻繁に切り替わる。





───……





時間帯も場所も出来事も全て滅茶苦茶な夢を記憶していくのは困難な業だ。
記憶するべく意識を強く持つと目覚めてしまう。
あるいはその方が良いのかもしれないが。

いくつかの夢を見終えた後、名前は幾分疲弊した状態で、今度は暗い場所に立っていた。
小さな燭台が一本、頼り無げに辺りをぼんやり照らしている。
燭台の傍に古びた椅子が置いてある。
その椅子の背凭れを、白い手が掴んでいる。





「どうやら俺様は間違った情報を得ていたようだ。」





聞き覚えのある声に名前の手はつい杖を探した。
蝋燭の灯りでは顔まで確認出来ないが、椅子の背凭れを掴む白い手の主は、昨年の夏に相対したあのヴォルデモートだったのだ。
掠れた声は落ち着いているものの、明確な怒りを孕んでいた。





「ご主人様、どうぞお許しを。」





足元で発せられた嗄れ声に、名前はつい足元を確認する。
自分は透明なのかそこに自身の足は無く(おそらく体も無いのだろう)、男が跪いているだけだった。

男はこの薄暗がりに溶け込んでしまいそうな真っ黒いローブに身を包んでいる。
蝋燭の灯りでぼんやりと見える後頭部が、小刻みに震えている。





「お前を責めるまい、ルックウッド。」





背凭れを握っていた指がゆっくりと離れていく。
青白い手は暗闇に消えた。
一瞬、蝋燭の灯りに人物のシルエットが映る。
シルエットはだんだん此方へ近付いてくる。

自分自身で見えないのだから、相手に名前の姿が見えるはずがない。
それに何よりこれは夢なのだから、逃げたり身構えたりする必要は無いのだ。
理解していても名前の心臓は鼓動を早めていった。

目の前にヴォルデモートが立っていた。
微かに見える赤い瞳は、足元の男───ルックウッドを見下ろしている。





「ルックウッド、お前の言う事は、確かな事実なのだな?」



「はい。ご主人様。はい……。私は、な、なにしろ、かつてあの部に勤めておりましたので……。」



「ボードがそれを取り出す事が出来るだろうと、エイブリーが俺様に言った。」



「ご主人様、ボードは決してそれを取る事が出来なかったでしょう……ボードは出来ない事を知っていたのでございましょう……間違いなく。だからこそ、マルフォイの『服従の呪文』にあれほど激しく抗ったのです。」



「立つがよい、ルックウッド。」





ルックウッドは立ち上がろうとしてよろめいた。
恐怖で足が震えて思うように動かないのだろう。
中腰の体勢から動かなかった。





「その事を俺様に知らせたのは大儀。
仕方あるまい……どうやら、俺様は、無駄な企てに何ヵ月も費やしてしまったらしい……しかし、それはもうよい……今からまた始めるのだ。ルックウッド、お前にはヴォルデモート卿が礼を言う……。」



「我が君……はい、我が君。」



「お前の助けが必要だ。俺様には、お前の持てる情報が全て必要なのだ。」



「御意、我が君、どうぞ……なんなりと……。」



「よかろう……下がれ。エイブリーを呼べ。」





ルックウッドは中腰の体勢のまま海老のように後退した。
暗がりの中ドアを開閉する軋む音が響き、部屋は静まり返る。
ヴォルデモートは壁の方へ歩いていった。

認識してはいないだろうが、部屋にヴォルデモートと二人きり。
ヴォルデモートの一挙一動を見逃さないよう、名前は目を逸らさなかった。逸らせなかった、と言う方が正確だ。
いっそ目覚めてもおかしくないインパクトである。
神経が逆立ち、心臓が素早く収縮している。

瞬間、光が走った。





「大丈夫かい?ナマエ。」





心配そうな顔をしたロンが顔を覗き込んでいる。
ロンの肩にはネスが止まり、同じように覗き込んでいた。

二人の背景に広がるのはベッドの天蓋ではなく木目の天井だ。
どうやら目覚めたらしい事は分かったが、何故心配されているのか、自分の身に何が起こっているのかは分からない。

ぼんやりしている内に顎へ衝撃が走った。
目の前に星が散り、ガチリと歯が鳴った。





「じたばたするのはやめてくれよ。ここから出してやるから!
ナマエ、ちょっと待っててくれよ、今ハリーをどかすからさ……。」





自分の体の上で折り重なるようにしてハリーが乗っており、更にベッドカーテンへ絡まりながら滅多矢鱈に暴れている。
何やら叫んでいるのも聞き取れた。

点滅する視界の中で名前は少しずつ状況を飲み込んでいった。
おそらく悪夢を見たハリーが暴れた際か寝返りを打った際、傍らで眠りこけていた名前を巻き込んでベッドから転がり落ちたのだろう。
魘されるハリーに殴打され、名前は目覚めたのだ。

自分で脱け出せばいいのだが体が動かない。
正座でハリーのベッドに寄り掛かり、腕を枕にして寝たのが災いし、すっかり体が固まっていた。
おまけに感覚が無い。動かし方も分からない。
ロンがハリーをカーテンから助け出すのを見ているしかなかった。





「大丈夫?立てるかい。」



『俺は大丈夫。ハリーを見て。』



「床に寝てるつもりか?ほら、掴まれよ。」



『動けない。』



「そんなに打ち所悪かったの?」



『いや……。』





呻くような返事をした後、名前は真一文字に口を閉じた。
じわじわと体の感覚が戻るにつれ、痺れもやって来たのだ。
何もしなくても全身に嫌な感覚がする。身動ぎ一つすれば、もっと激しい痺れに襲われるのは目に見えている。

ロンは名前の体の上に倒れるハリーを引っ張り起こした。
ビリビリ痺れに襲われ、名前はますます口を固く閉じた。





「ごめん、ナマエ。殴るなんて、僕、そんなつもりは無かった。嫌な夢を見て、それで、本当に……」



『気にしないで、ハリー。気を付けるべきは俺の方だ。俺が自分のベッドで寝てればこんな事にはならなかった。
それより、顔色が悪い。嫌な夢って、どんな夢。』



「そうだ。ハリー、また誰か襲われたのか?
パパかい?あの蛇なのか?」



「違う───皆大丈夫だ───
でも……エイブリーは……危ない……あいつに、間違った情報を渡したんだ……ヴォルデモートがすごく怒ってる……。」





床に大の字になる名前の方を気にしながらも、ハリーはベッドに座り額を擦った。
どうやら傷痕が痛むらしい。
そして不思議な事におそらく、以前アーサーと蛇の夢を見たように、ハリーと名前は視点こそ違えど、またもや同じ夢を見ていたようだ。

この現象を夢と呼ぶべきかどうかは分からない。きっと現在進行形で起きているであろう事だからだ。
夢の内容は今もどこかで続いている。ヴォルデモートはエイブリーを罰するはずだ。





「でも、ルックウッドがまたあいつを助ける……あいつはこれでまた軌道に乗った……。」



「一体何の話だ?
つまり……たった今『例のあの人』を見たって言うのか?」



「僕が『例のあの人』だった。
あいつはルックウッドと一緒にいた。アズカバンから脱獄した死喰い人の一人だよ。憶えてるだろう?ルックウッドがたった今、あいつに、ボードには出来なかったはずだと教えた。」



「何が?」



「何かを取り出す事がだ……。ボードは自分には出来ない事を知っていたはずだって、ルックウッドが言った……。ボードは『服従の呪文』をかけられていた……
マルフォイの父親がかけたって、ルックウッドがそう言ってたと思う。」



「ボードが何かを取り出す為に呪文をかけられた?
待てよ───ハリー、それってきっと───」



「武器だ。そうさ。」





木の軋む音が響く。ドアの開閉音だ。
頭をもたげて確かめる程の余裕は名前には無かったが、談笑の声からして入ってきたのはディーンとシェーマスだろう。
同室の来訪にハリーとロンは二人して「普段通り」を取り繕った。
ハリーはたった今ベッドに乗りましたという風に座り直し、ロンはベッド脇の机に置いてある水差しの方へ向き直ったのだ。
対して名前はと言えば床に大の字に寝そべったまま取り繕う様子も無い。





「ナマエ、そこで何をやっているんだ?」



『足が痺れて動けない。』



「寝惚けて自分に『くらげ足』の呪いでもかけちまったのか?」





ディーンとシェーマスは大して気に留めず、笑ってパジャマを手に取った。

堂々としていれば案外乗り越えられるものなのかもしれない。
それか名前のキャラクター性がそうさせるのかもしれない。
兎に角、名前は放置され続けたのだ。

ロンの肩から床へと舞い降りたネスは、そんな名前を哀れそうに見下ろしたのだった。





「君が言った事だけど、君が『例のあの人』だったって?」



「うん。」





ディーンとシェーマス二人の談笑する声に混じり、ロンとハリーは小さな声で言葉を交わしている。
目だけは自由に動くので視界の端に、ロンが水を煽り飲む姿が見えた。





「ハリー。話すべきだよ───」



「誰にも話す必要はない。
『閉心術』が出来たら、こんな事を見るはずがない。こういう事を閉め出す術を学ぶはずなんだ。
皆がそれを望んでいる。」





それ以降、会話は途切れたままだった。

ロンは自分のベッドへ戻る前にもう一度、名前に手を差し出した。
まだ痺れは取れていなかったが動けない程では無かったので、名前は有り難くその手を掴み、肩を借りて漸く自身のベッドで横になれた。
ネスが枕元へ舞い降りたのを見届け、それから「おやすみ」の挨拶をして、ついでにカーテンを閉めてくれた。

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