16.-1


インタビューの時間はあっという間に過ぎていった。
元とは言え記者であったリータの腕は衰えを見せず、言葉巧みに名前達三人からより良い答えを引き出させたし、羊皮紙には読者を惹き付ける魅力的な言葉が羅列されていく。
口下手な名前からでさえも言葉を引き出させたのだから大したものである。

"生き残った男の子"であるハリーの存在は勿論、リータの目には魅力的に映った。
そして三校対抗試合の選手でもないのに居合わせた名前の存在は異質であり、此方も大変興味を覚えたらしい。
特殊な"予知夢"の力によって現場に駆け付けた事も、両親を亡くしている事も、彼女にとっては魅力的なフレーズだったようだ。
度々名前の能力や家族について話が脱線しそうになり、その度にハーマイオニーが睨みをきかせていた。

けれど兎に角、インタビューは無事終わったのだ。















「君達の話がおおっぴらになったら、アンブリッジがどう思うか、楽しみだ。」



「いい事をしたね。ハリー、ナマエ。」





月曜日、夕食時。
ディーンとネビルが尊敬したようにそう言った。





「きっと……辛かっただろう?……それを話すのって……?」



『……。』
墓場の件では当時ハリーに尻拭いをさせるような真似をしてしまった手前、名前は素直に頷けない。



「うん。
でも、ヴォルデモートが何をやって退けるのか、皆が知らないといけないんだ。そうだろう?」



「そうだよ。
それと、死喰い人の事も……皆、知るべきなんだ……。」





暫くして他の者は席を立ち、テーブルに残ったのはハリー、ハーマイオニー、名前の三人だった。
名前がゆっくり食事を摂っている事も理由の一つだが、クィディッチの練習が長引いているらしく、ロンがまだ夕食の席に姿を現していないのだ。





「あ、聞くのを忘れてたわ。
チョウとのデートはどうだったの? どうしてあんなに早く来たの?」



「んー……それは……
めっちゃくちゃさ。聞かれたから言うだけだけど。……あ、ありがとう、ナマエ。」



『……うん。』





テーブルに身を乗り出し手を伸ばすハリーの手へ、名前はルバーブ・クランブルのデザート皿を引き寄せた。
お礼を言うハリーの顔は浮かない。
その顔のまま呟くようにデートの報告を始めた。

ホグズミードへやって来たハリーとチョウの二人はまず、行く宛も無く辺りをブラブラしていたらしい。
そこへ雨が降ってきて、チョウがお茶をしようと提案したと言う。
ハリーは喜んで付いていったが、やって来たのはカップルだらけの可愛らしい店だった。
キスするカップルに囲まれつつも、ハリーは頑張って話を続けていたが、やがて雲行きが怪しくなり……。





「……というわけで。
チョウは急に立ち上がって、そう、こう言うんだ。『ハリー、じゃ、さよなら』。それで走って出ていったのさ!
つまり、一体あれは何だったんだ?何が起こったっていうんだ?」



「ハリーったら。
言いたくはないけど、あなた、ちょっと無神経だったわ。」



「僕が? 無神経?」





「あなたもそう思うでしょ?」と言うハーマイオニーの視線。
「そんなわけないだろう?」と言うハリーの視線。
双方から同意を求められるように見詰められ、名前は食事の手を止めて固まった。





「二人でうまくいってるなと思ったら、次の瞬間、チョウはロジャー・デイビースがデートに誘ったの、セドリックとあのバカバカしい喫茶店に来ていちゃいちゃしたのって、僕に言うんだぜ───一体僕にどう思えって言うんだ?」



「あのねえ。
デートの途中で私に会いたいなんて、言うべきじゃなかったのよ。」



「だって、だって。
だって───十二時に来いって、それにチョウも連れてこいって君がそう言ったんだ。チョウに話さなきゃ、そう出来ないじゃないか?」



「言い方がまずかったのよ。こう言うべきだったわ。
───本当に困るんだけど、ハーマイオニーに『三本の箒』に来るように約束させられた。本当は行きたくない。できる事なら一日中チョウと一緒にいたい。だけど、残念ながらあいつに会わないといけないと思う。どうぞ、お願いだから、僕と一緒に来てくれ。そうすれば、僕はもっと早くその場を離れる事が出来るかもしれない。───
それに、私の事を、とってもブスだ、とか言ったらよかったかもしれないわね。」



「だけど、僕、君がブスだなんて思ってないよ。」



「ハリー、あなたったら、ロンより酷いわね……おっと、そうでもないか。」





大広間の扉の方へ目を向けて、ハーマイオニーは溜め息を吐いた。
見ると、泥だらけのロンが此方へやって来るところだった。





「あのね───あなたが私に会いに行くって言ったから、チョウは気を悪くしたのよ。だから、あなたにやきもちを焼かせようとしたの。あなたがどのぐらいチョウの事を好きなのか、彼女なりのやり方で試そうとしたのよ。」



「チョウは、そういう事をやってたわけ?」





向かい側にロンが座った。
仏頂面にソバカスだか泥だが区別出来ない点々が飛び散っていている。
泥だらけの手でろくに料理を確認せず皿を引き寄せていくので、見兼ねたのか名前は布巾を手渡した。
仏頂面のままロンは大人しく手を拭いた。





「それなら、僕が君よりチョウの方が好きかって聞いた方が、ずっと簡単じゃない?」



「女の子は、大体、そんな物の聞き方はしないものよ。」



「でも、そうすべきだ!
そうすりゃ、僕、チョウが好きだって、ちゃんと言えたじゃないか。そうすれば、チョウだって、セドリックが怪我した事をまた持ち出して、大騒ぎしたりする必要はなかったのに!」



「チョウがやった事が思慮深かったとは言ってないのよ。
ただ、その時の彼女の気持を、あなたに説明しようとしているだけ。」





ロンの隣にジニーが座った。此方も仏頂面に泥を飛ばしている。
新しい布巾を手渡すと同時、込み上げてきたクシャミを我慢出来ずに顔を逸らして対応した。
ブルリと体を震わせる。悪寒がしたらしい。





「君、本を書くべきだよ。
女の子の奇怪な行動についての解釈をさ。男の子が理解出来るように。」



「そうだよ。」





どうにも食事が進まない。スープを飲んだだけで名前は食事を終えた。
周りに目を向ければハリーがレイブンクローのテーブル───お目当てはチョウだろう。熱心にチョウを見詰めている。

───誰かを目で追うって事は、普通はね、気になる人にやるものなの。それも好意を抱いた人に……───
ふと頭を過ったのは以前ハーマイオニーが言った言葉だ。
確かにその通り、ハリーはじっとチョウを見詰めている。
それに思い出したくもないがよくよく思い返してみれば、惚れ薬の影響でマーカス・フリントの恋愛対象になってしまった時、名前はいつも熱のこもった視線にさらされていた。

だがチョウの方は一切此方へ視線を向けず、そのまま大広間を出ていってしまった。
熱に浮かされた表情は途端に落胆した表情に変わる。
それから気持ちを振り払うように、ロンとジニーの方へ向き直った。





「それで、クィディッチの練習はどうだった?」



「悪夢だったさ。」



「やめてよ。まさか、それほど───」



「それほどだったのよ。
ぞっとするわ。アンジェリーナなんか、しまいには泣きそうだった。」





チョウに対するハリーの好意は尋ねるまでもなく恋愛感情だ。
キスだのデートだの、模範的な恋人関係だと言える。
しかしスネイプに対する名前の好意は何と呼ぶべきだろう。
ハーマイオニーいわく、名前はスネイプに恋をしていると言う。だから目で追うのだと考えている。

少なからず好意を抱いているのは確かだろう。そうでなければ気が咎めたりしない。悶々と悩んだりしない。
「好きがどういう好きか調べましょう」と提案されてから何週間も経っているが、名前の答えは出ていない。
ハーマイオニーは恋愛から離れていない。

チョウに対して抱く感情をハリーに教えてもらえば、名前も少しは理解出来るかもしれないし、ハーマイオニーに答えを出せるかもしれない。
答えを先伸ばしにし続けるのも限界があるのだ。





「ナマエ、何だか顔色が悪いわ。」



『そうかな。』



「僕にはいつも通りに見えるけど……でも、そう言えば夕食もあんまり食べてなかったね。」



「今夜は休んだらどう?宿題は大切だけど、ナマエは計画的に進めているし、何より体が資本だわ。」



『……そうする。』





夕食を終えて談話室に戻り、山積みの宿題に取り掛かろうとするものの、名前の手は一向に進まない。
見兼ねたハーマイオニーに勧められ、名前は広げた筆記具を再び鞄へしまい、一人フラフラと男子寮へ戻っていった。

寝室に入ると窓辺に佇むネスと目が合った。
寝巻きに着替えて早々にベッドへ潜り込む。
冷えたベッドの中で体を丸める。
枕元へ舞い降りたネスは名前の異変を感じ取っているのか、そっと顔を覗き込んできた。
金泥色の瞳をじっと見詰め返す。

体調が優れないせいか。眠気のせいか。
名前の頭の中は靄がかかってハッキリしない。
ぼんやりと見詰めている内に、いつの間にか名前の瞼は閉じていた。





『おはよう。』



「おはよう……どうしたの?そのマスク。」



『風邪ひいた。』





おそらく雨に濡れたままインタビューを受けたのが原因だ。
名前はしっかり風邪をひき、授業に出たり宿題をこなしてはいたが、土曜のグリフィンドール対ハッフルパフのクィディッチの試合は、残念ながら観戦する事が出来なかった。
(と言うか、ハーマイオニーが許さなかった)
競技場からだろう。ベッドの中にいても、微かに歓声が聞こえてくる。
瞼を閉じて暫くすると意識が浮き沈み始めた。
歓声が遠ざかっていく。
夢の中へ落ちていく。





───……





ふと気が付けば目の前に望遠鏡があった。
片手には羽根ペン、もう片手には星座図が握られている。
夢を見ているのだと理解するのに時間はかからなかった。
何せ何度か見ている夢だったからだ。
そして何度か見ている内に夢は続きが継ぎ足されていった。

今回はどこまで見るのだろう。前回はどこまでだったか……。
名前は操られるように頭上を見上げた。
視界いっぱいに星空が広がり、月が浮かんでいた。
顔を元に戻す。周囲には沢山の生徒がいて、皆必死に観測をしている。
その様子を見慣れない大人が見て廻っている。
腰の曲がった小柄な老婆と、禿げ頭に鼻眼鏡の老人だ。

望遠鏡を覗き込み、星座図を書き込む。
何度か繰り返していると眼下の校庭に光が射し込んだ。
それに気が付いた名前は吸い寄せられるように真下の地面を覗き込む。





───……





正面玄関の扉が開き、そこから光が射し込んでいるらしい。
細く照らし出された芝生に五つの人影が蠢いた。
扉は閉められ、辺りは再び暗闇となる。
けれど月明かりのおかげで人影の動きは目で追う事が出来た。

人影は芝生を下りハグリッドの小屋の前で止まった。
小屋の窓に灯りが点される。扉が開き、五つの人影は小屋の中へ入っていった。
そして暫くして───夢の中なので、時間の感覚は分からないのだが───ファングのものと思われる吠え声が響き渡った。




───皆さん、気持ちを集中するんじゃよ。





鼻眼鏡の老人が優しく声を掛けた。
傍らに立つハーマイオニーはハグリッドの小屋の方を見詰めている。





───ゥオホン、あと二十分。





ハーマイオニーは星座図に戻った。
直後、バーンと大きな音が校庭に響き渡った。
見ると、ハグリッドの小屋の扉が開いている。
小屋の中から六つの人影が躍り出た。

一際大きな人影が拳を振り回している。あれはハグリッドだ。
残り五つの人影はハグリッドを囲み、一斉に赤色の光線を浴びせた。





───やめて!



───慎みなさい!試験中じゃよ!





ハーマイオニーの悲鳴は鼻眼鏡の老人に遮られたが、今や誰も星座図に取り組んではいなかった。
ハグリッドの小屋の周りで不気味な赤色の光線が飛び交っている。
光線はハグリッドに当たっていたが、跳ね返されているようだった。





───大人しくするんだ、ハグリッド!



───大人しくが糞喰らえだ。ドーリッシュ、こんな事で俺は捕まらんぞ!





光線がファングに当たった。勇敢にもハグリッドを護る為に五つの人影へ飛び掛かっていたのだ。その場に倒れてしまった。
ハグリッドはファングを倒した男に突進し、天高く体を持ち上げて投げ飛ばした。
男は起き上がらなかった。





───見て!





誰の声かは判断出来なかった。けれどその声が何を示していたのかは分かった。
正面玄関の扉が開き、芝生に細く光が射し込んでいたのだ。
一つの人影がハグリッドの小屋を目指して走っている。





───ほれ、ほれ!あと十六分しかないのですぞ!





鼻眼鏡の老人が急かしたが、生徒は皆、眼下の出来事に集中している。





───何という事を!
───何という事を!





マクゴナガルの声だ。
気が付くと同時、マクゴナガル先生だわ!とハーマイオニーが叫んだ。





───おやめなさい!やめるんです!
───何の理由があって攻撃するのです?何もしていないのに。こんな仕打ちを……





女子生徒から悲鳴が上がった。
小屋の方向から走り寄るマクゴナガルへ向かって、赤色の光線が放たれたのだ。
一瞬、マクゴナガルの体が赤い光に包まれた。
直後撥ね飛ばされたかのようにマクゴナガルの体は空中に持ち上がり、芝生の上へ落っこちた。
仰向けに倒れたマクゴナガルはピクリとも動かなかった。





『……』





視界に天蓋が広がっている。
瞼が開いていた。目を覚ましたのだ。

誰かの大きな鼾が寝室に響いている。
この鼾のせいで目覚めたらしい。





『……』





体が緊張で凝り固まっている。随分長い間毛布を握り締めていたようで、拳を開くのが難しかった。
早鐘を打つ胸に掌を当てて、深呼吸を繰り返す。

瞼を閉じればその裏に、月明かりに照らされたマクゴナガルの姿が浮かび上がる。
耳には女子生徒の悲鳴がこびりついていた。

寝返りを打って俯せになる。枕を抱えてじっとする。
暫くして落ち着いたのか、枕の下から夢日記を取り出して、見たばかりの夢を書き込んでいった。





「ナマエ、まだ休んでいた方がいいんじゃない?」



『やる事あるから。』





そう言って重たそうな鞄を肩に下げ、マスク姿の名前はフラフラと談話室を出ていった。
昨日の散々な試合内容を掘り返されるのは免れたが、ハリーもロンもハーマイオニーも、名前の様子が気にならないわけではない。
それでも「ここでやればいいじゃないか。」の一言が言えないのは、言う暇も与えない速さで名前がさっさと出ていってしまったからだ。

体調は徐々に快復へ向かっていたので、月曜の朝はいつも通りトレーニングをこなした。
それでも念には念を入れてマスク姿で大広間に赴く。





『……』





大広間の扉を潜った名前は、グリフィンドールの長テーブルを見て足を止めた。
異様な光景だった。梟の群れがハリーを囲んでいる。
しかし佇んでいるわけにもいかないので、名前は何とか足を動かした。





『おはよう。梟、どうしたの。』



「ああ、おはよう。僕達がこの前受けたインタビューが載った、『ザ・クィブラー』が届いたんだよ。それ以外の梟は読者の手紙。」



「本の方はアンブリッジに見付かっちゃって、もう手元には無いけどね。中傷的な手紙もあったけど、説得された人もいたわ。ナマエ、後で見てみるいいわよ。あなた宛の手紙もあるんだもの。」



「それにしてもアンブリッジはカンカンだったな。見せてやりたかったよ、顔を真っ赤にさせてブルブル震えて……一足遅かったな。
ナマエ、君、五十点減点と、罰則一週間だってさ。ハリーとセドリックもだけど。」





言いながらロンは振り返って、ハッフルパフのテーブルを見た。
見ると此方程ではないが、セドリックの周りにも梟が集まっている。

席に着いて一旦マスクを外し、ゴブレットにミルクを注いだ。
パンやスープを取り分けて、食べながら既に開封済みの手紙に目を通す。
「聖マンゴでの治療を勧める」という皮肉もあれば、「現実的ではないが信じざるを得ない」という意見もあった。

「ザ・クィブラー」の出来がどれ程のものか見てはいないが、影響は確かなものだったようだ。
その証拠にこうして大量の手紙が届けられ、昼前には学校中に告知が出た。





『ホグワーツ高等尋問官令。
「ザ・クィブラー」と所持しているのが発覚した生徒は退学処分に処す。
以上は教育令第二十七号に則ったものである。
高等尋問官、ドローレス・ジェーン・アンブリッジ。』





名前が読み上げると、ハーマイオニーはニッコリ微笑んだ。
いたるところに貼り出されているこの告知を見掛ける度にハーマイオニーが微笑むので、ハリーは不思議そうに首を傾げた。





「一体、何でそんなに嬉しそうなんだい?」



「あら、ハリー、分からない?
学校中が、一人残らずあなた達のインタビューを確実に読むようにする為に、アンブリッジが出来る事はただ一つ。禁止する事よ!」





リータ・スキーターいわく「ボロ雑誌の臭い記事」。
ハーマイオニーいわく「異色の雑誌」。
という評価を下されている「ザ・クィブラー」が、世間一般でどれ程認知されているのかは不明だが、インタビューが載った発売したばかりのその雑誌は、発売当日の内に学校中に広まり、インタビューの話題で持ちきりになっていた。
一体ホグワーツでどれだけの生徒が「ザ・クィブラー」を所持しているのかは分からないが、それにしても恐ろしい早さで広がったのである。

告知を出したアンブリッジは何とか侵食を押し止めようと考えたらしい。
学校中を歩き回り手当たり次第に生徒を呼び止めて、持ち物検査を始めたのだ。
「ザ・クィブラー」の所持を禁止されている事が分かっている生徒達が何の対策もせずにいるわけもなく。
魔法をかけて対策を施された「ザ・クィブラー」は生徒達の手を回り、アンブリッジの健闘もむなしく、ついに学校中の生徒が読んでしまった。

インタビューを受けた張本人であるハリーや名前に直接話を持ち掛ける者はいなかったが、廊下で擦れ違う時や教室の前で待機している時、昼食の時、所々耳に入ってくるのは自身の名前や「ザ・クィブラー」の名前だった。
そしてハーマイオニーが意気揚々と教えてくれたのは、授業の前に立ち寄った女子トイレで、集まった生徒が全員その話をしていたという事だった。





「それで、皆が私に気付いて、私があなたを知っている事は当然皆が知っているものだから、質問攻めに遭ったわ。
それでね、ハリー、ナマエ。皆、あなた達を信じたと思うわ。本当よ。あなた達、とうとう、皆を信用させたんだわ!」





信用してくれたのなら大変喜ばしい事だが、寮の得点がゴッソリ減ってしまったのが気にかかる。
玄関ホールに置かれた寮の砂時計を見掛ける度に、名前は申し訳なさそうに背中を丸めた。

そこで名前は普段ならば絶対にやらない行動に出た。
授業中、積極的に挙手し、答えを述べたのである。
この変化にはハリー、ロン、ハーマイオニーは勿論、教師陣も驚いていた。
しかしこの変化を好意的に捉えたのか、もしかしたらインタビューの件で思うところがあったのか、分からないが、普段よりも大幅に加点してくれたのだ。

短期間の内に砂時計の中身は確実に量を増し、結果的には減点される前よりも多くの点数を勝ち取っていた。





「アンブリッジは気に入らないって顔だったね。」





書き取りの罰則を受けた帰り、ハリーは傷付いた左手を擦りながらも笑って言った。
噂の卑劣な罰則は名前とセドリックにとっては初めてだったが、別段痛がる素振りは無い。
アンブリッジは始終渋い顔で三人の罰則を見届けたのだった。





「だって、減点した時よりも得点が増えちゃったんだもの。」



「だけど二人とも、何だか先生方が優しくなったように思わないか?僕は減点された分だけでも取り戻そうとしているんだけど、ちょっとした事でも加点して下さるんだ。」



「うん。僕もだよ、セドリック。まあナマエの方は、積極的に点を取り戻そうとしてるけど。」



『減点された分は取り戻そうと思って。』



「ハーマイオニーが増えたみたいだもの。」





一泡吹かせてやったとばかりにハリーは笑った。
今更書き取り罰則など歯牙にも掛けていないらしい。

悪い事は続くと言うが、良い事はどうだろう。
その日を境に少なくともハリーにとっては幸運が続いた。
翌日の「変身術」の授業へ向かう際チョウと出会し、誤解がとけて仲直りが出来たのだと言う。
それに「変身術」の教室に着いた時いの一番にシェーマスが進み出て、ハリーを信じるという旨を伝えたらしい。

先に席へ着いていた名前達へ、ハリーは笑顔で報告してくれた。

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