15.-2


学年が上がる毎に、月日が経つ度に。
授業は難題となり宿題は膨大となる。

膨大な量の宿題をこなすには時間を要する。
消灯時間を過ぎている事も少なくなかった。
日が落ちると湖の方から「コッコッ」とヒキガエルの合唱が聞こえてくるようになり、気が付けば二月に入っていた。





『……。』





毎年の事ながら二月十四日の朝は、目覚めたての名前の頭を冴えさせるに十分な光景が広がっている。
ベッドの足元に積み重ねられた大量のプレゼントと、纏めれば一冊の本が作れそうな量のメッセージカードが、今にも崩れそうになっているからだ。

年を追う毎に増えていっている気がするが、心当たりは全く無い。
しかも贈り主の名は一切記されていないのでお返しのしようも無い。
この時期の名前は申し訳無さそうにちょっと落ち込んでいる……ように見える。

しかしどんなに忙しかろうが気分が落ち込んでいようが、名前は屋敷しもべ妖精に頼み込んでキッチンを借り、来る十四日に備えてクッキーを作っていた。
目的はいわゆる「友チョコ」である。
けれど今回の一人目はネスだ。友と呼ぶには微妙な仲だが、御世話になっているのは違いない。





『いつもありがとうございます。良かったら食べてください。
ここに置いておきますね。』





「動物もどき」の姿で生活していようとも、まさか飲まず食わずではあるまい。
誰もいない寝室でネスにそう告げて、ポンと枕の横へ置いた。
イエスかノーか、どちらとも受け取れる鳴き声を返し、ネスは名前の肩へ降り立つ。
フワフワの羽毛が頬を包んだ。

鞄の中にクッキーを詰め込み、朝食を摂りに大広間へ向かう。
バレンタインとホグズミード行きの日が相俟ってか、擦れ違う生徒は浮き立っていた。
大広間から聞こえてくる談笑も心なしか騒がしい。





『ハーマイオニー。』



「あら、ナマエ!」



『おはよう。手紙を出しに行くの。』





大広間に入る瞬間、ばったり出会したのはハーマイオニーだ。
片手に手紙、もう片方の手にはトーストが一枚握られている。





「おはよう。ええ、急ぎなの。」



『そう。転ばないように気を付けてね。』



「うん。───あっ!」



『……。』





一際大きな声に振り返る。
少し廊下に進み出たハーマイオニーが、こちらへ向き直った。





『どうかした。』



「ナマエ、お昼頃に『三本の箒』へ来てくれない?
それで出来ればこの事、あなたの口からセドリックにもお願いして欲しいのよ。」



『どうして。』



「申し訳無いけど今は説明している時間が無いわ。どうかしら。お願い出来る?」



『……。』





内容を把握しなければ頷きにくい。しかし随分と大事な用事があるらしい。
切羽詰まったハーマイオニーの様子に、名前はついつい頷いてしまった。お願いされると断るのが苦手な性分である。
ついでにラッピングを施したクッキーを手渡した。とはいえハーマイオニーの両手は塞がっていたので、了承を得てポケットにしまわせてもらう。
ハーマイオニーは「ありがとう」と言って、今度こそ名前の横を通り過ぎていった。

ハーマイオニーと離れた足で真っ直ぐハッフルパフの長テーブルへ向かう。
ハッフルパフの生徒は近寄ってくる長身痩躯に釘付けになった。
遠巻きに見詰めていた、というか嫌でも目に入るグリフィンドールの長身痩躯が、確実に接近してきているからだ。
しかも肩に真っ白な鷹を乗せているので特別目立つ。
当然セドリックも名前の姿に気が付いた。
談笑していた友人に制止するポーズを示し、椅子から立ち上がって名前の方へ向かう。





『おはようございます、セドリックさん。』



「おはよう、ナマエ。どうしたんだ?」



『急な話で申し訳無いのですが、お昼頃に『三本の箒』へ来る事は出来ますか。』



「構わないよ。それとも、どうだろう。いっそ一緒に行こうか。」



『……』



「勿論、無理にとは言わないよ。先約があるなら仕方無い。」



『いいえ。誰かと行く約束はしていません。けれどセドリックさんは、ご友人との約束があるのではないですか。『三本の箒』の事、こちらこそ無理にとは言いません。』



「大丈夫。僕は適当にぶらついて、すぐ帰る予定だったんだ。今日は勉強にあてようと思って。」



『勉強は、』



「明日にやればいいのさ。それじゃあ、一緒に行こうか。朝食の後に玄関ホールで会おう。」





朗らかな笑顔を見せてからセドリックは席に戻っていく。
友人に集られているところを見ると、どんな話をしたのか聞き出そうとでもしているのだろう。

名前はグリフィンドールの長テーブルへ向かい、ハリーとロンの姿を見付け、空いている席に座った。





『おはよう。』



「おはよう。」



「おはよう。」





二人は気だるそうに名前を見上げ、朝食に戻る。
話し掛けるのが憚られる程に二人の纏う空気が重苦しい。
けれど名前は勇気を振り絞り、鞄をゴソゴソさせ、二人の前にラッピングを施したクッキーを置いた。





『ハッピーバレンタイン。』





ハッピーともバレンタインとも名前の印象からはかけ離れた言葉が飛び出す。
二人は思わず名前の顔をまじまじ見た。
相変わらず無表情で、涼しげな目元が見詰め返してくる。
眼下に目を向ければ簡素ながらも丁寧にラッピングされたクッキーが置いてある。バニラとココア生地のチョコチップ入りクッキーだ。
各々礼を言ってそれをポケットに詰め込んだ。





「……
セドリックと何を話していたの?」





ハリーは強張った顔で遠慮がちにそう聞いた。
隣のロンは憂鬱そうな顔を浮かべ、コーンフレークを掬っては落としている。





『一緒にホグズミードに行く話。』



「へえ。どうして?」



『……。』





どうしてと言われても。
カクリ。名前は首を傾げる。
気が付いたら一緒に行く話になっていたのだ。





『どうしてだろう。』



「僕に聞かないでよ。」





それから暫く会話も無く。先に朝食を終えたらしいロンは憂鬱そうに立ち上がり、「また後で」とか何とかボソボソ言って、大広間を出ていった。
何故あんなにも憂鬱そうなのか。小さくなっていくロンの背中を目で追いつつ、名前は首を傾げる。
それを見たハリーは「クィディッチの練習でホグズミードはお預けなんだ。」と答えをくれた。
成る程と頷く名前。
口数が少なくても付き合いが長ければ、そこそこ意志の疎通をはかれるらしい。

疑問は解消されバレンタインのクッキーを渡すミッションもこなし、名前はのんびりサラダを咀嚼する。
その隣のハリーは落ち着き無く、ティースプーンを鏡代わりに髪を撫でつけている。
やがて名前を一人残し、ハリーも大広間を出ていった。

のんびりと少ない朝食を摂った名前は席を立ち上がり、歩きながら鞄から大判のマフラーを取り出して首に巻く。
少し春めいてきたが外気はまだまだ冷たい。
防寒対策バッチリの状態で玄関ホールに辿り着くと、樫の扉の横にセドリックが立っていた。
直ぐ様名前に気が付き、微笑みながら手を振ってくる。





『お待たせしました。』



「いや、そんなに待ってないよ。
むしろ早かったね、ナマエ。ちゃんとご飯は食べられたのかい?」



『はい。』



「それならいいんだけれど。」





少々出遅れたのか、ホグズミード行きのフィルチのチェックの列に待機している生徒は少なかった。
列は淀み無く進み二人は歩みを止める間も無くチェックを抜けて外へ出る。

外の空気は少し湿っていたが、風は爽やかだ。
肩からネスが大空へ飛び立っていった。
白い羽が太陽の光を照り返し輝いている。





「いい天気だね。」



『そうですね。
あの、セドリックさん。』



「何だい?」



『どうして一緒に行こうと、俺の事を誘ってくださったのですか。』



「どうしてって、うーん……友達を誘うのはそんなに不思議な事なのかい?」



『……。』





───僕は君を友達だと思っているけどな。───
以前ホグズミードの「ホッグズ・ヘッド」へ集まった帰り道、セドリックが名前に放った台詞だ。
唐突に思い出したらしく、名前は数秒固まって、成る程と一人ウンウン頷き、それからセドリックに向かって首を左右に振った。
学年も所属している寮も異なるが、それでも友達という関係は成り立つものなのだろう。
名前は鞄をゴソゴソ探り、取り出したクッキーをセドリックに差し出した。





『甘いものはお好きですか。』



「うん、もらっていいのかい?」



『はい。『友チョコ』というものです。』



「クッキーだけどね。でも、ありがとう。」





相手が男であろうが女であろうが、友達ならば渡しても構わないだろうという単純思考である。
いきなり鞄からクッキーを取り出した名前の行動には多少驚かされたセドリックだったが、ニッコリ微笑み、大切そうに懐へしまいこんだ。

クィディッチ競技場を通り過ぎ、馬車道を通って校門を出る。
ホグズミードの入ると目の前の大通りは大勢の生徒が行き交っていて、二人は揃って立ち止まった。
ホグズミード行きの日とバレンタインデーという一大イベントが重なった為か、大通りでさえ混み合っている。





「どこか行きたい所はあるかい?」



『いいえ、特には無いです。セドリックさんは行きたいお店、ありますか。』



「いや、ぶらつくだけで目的は無かったからなあ……適当に歩いてみようか。」





程ほどの距離を保って歩き出した二人だが、人の多さに度々互いの体をぶつけ合い、その度に謝り合い、人を避けようとして人波にさらわれ迷子になりかける。
何度も繰り返している内についに策を弄した。
お互いに引っ付いて歩くという手段に出たのだ。
そうすればはぐれないし、人を避けようとした際には同じ方向に寄ればいい。
大の男が二人引っ付いて歩くのは異様な光景であったが、幸い人の多さに紛れている。





「ナマエ、警備が手薄だと思わないか?」





押し寄せる人を避けながら、セドリックは名前の耳に口を寄せた。
もはやパーソナルスペースなどあったものではない。





「二年前にシリウス・ブラックが脱獄した時、ホグワーツもホグズミードも沢山の吸魂鬼がうろついていた。今回は十人も死喰い人が脱獄したのに、不気味なくらい変化が無い。」



『吸魂鬼を制御しているのは魔法省ですよね。制御出来なくなったのでしょうか。』



「考えたくはないけれど、そうかもしれないな。あるいは見て見ぬふりをしているかだ。」





ポツリ。鼻先に冷たいものを感じ、反射的に二人は自身の鼻を触れた。
確かめてみると濡れた感触がする。見てみるが色は無い。
雨だ。
瞬く間に大粒の雨が降り注ぎ、人々が店や軒下に逃げ込んでいく。

他の人と同じように、二人は近くの軒下に駆け込んだ。
軒先から滝のように雨水が流れ落ち、地面を叩いて跳ねている。





「どこかの店に入りたいところだけど、考える事は皆同じだな。」





急などしゃ降りにより店は混み合っていた。
地面を跳ねる雨水がズボンの裾を濡れ色に染めていく。





「すぐに止むとも思えないし、軒下を移動しながら『三本の箒』に向かおう。」



『はい。』





走ってすぐ到着する距離ではなかったので、二人は店の軒下を転々と歩き、徐々に移動する事となった。
それでも店と店の間は当然頭上を守る物など無く、二人の髪や衣服は少しずつ湿って重たくなっていく。
ようやく「三本の箒」の戸口に到着した頃には、二人共しっかり濡れ鼠となっていた。

扉を潜ると暖かい空気が体を包む。
店内の暖かさに体の力が抜けたものの、温度差にクシャミを連発した。
鼻をすすりながらセドリックは、同じく鼻をすする名前を見る。





「聞いてなかったんだけれど、『三本の箒』にどんな用事があったんだい?」



『俺も分かりません……。友達に呼ばれたんです。』



「それじゃあ、その友達を探さなきゃいけないね。」





名前を先頭に、二人して寒さに身を縮こまらせながら混み合った店内を歩く。
テーブルはどこも満席だ。探すのも一苦労である。
キョロキョロ辺りを見回しながら、テーブルと椅子の間を縫って歩く。





「ナマエ!」





喧騒の中から名前を呼ばれた気がして名前は立ち止まる。
後ろを歩いていたセドリックも立ち止まり、声の主を探して首を捻った。





「ナマエ!こっちよ!」





ハーマイオニーの声は良く通る。
戸口からは遠く離れた店の向こう側であっても、ハーマイオニーの声はハッキリ耳に届いた。
立ち上がって手を振っているのが見える。
姿を捉えるのは容易かったが、そこまで辿り着くのは中々の難題だった。





「いいところに来てくれたわね、二人共。」





テーブルに辿り着いて目に入った光景に、名前はその場で固まる。
ハーマイオニーは一人ではなかった。
ハリーがいた。それはいい。
ルーナ・ラブグッドもいた。それも、まあいい。
だがこの大人の女性の存在は予期していない。





「リータ・スキーター……?」





背後でセドリックが呟いた。
昨年の三校対抗試合に付いて回った「日刊予言者新聞」の記者だ。
だが今の彼女に以前の溌剌とした姿は見る影も無い。
きっちりカールしていた髪は垂れ下がり、真っ赤なマニキュアを施した爪は所々剥げ落ち、特徴的なフォックス型眼鏡のイミテーション宝石が欠けていた。





「兎に角、二人共座って。」



「あ、ああ……。」



『……。』



「さあリータ、目撃者の三人が揃ったわよ。」





ハーマイオニーは自信たっぷりに言い放った。
話の先が見えない二人は、けれども口を挟む事はせず、ハーマイオニーとリータを交互に見る。





「真実の記事を。全ての事実を。ここにいる三人が話す通りに。全部詳しく話すわ。あそこで見た、『隠れ死喰い人』の名前も、現在ヴォルデモートがどんな姿なのかも、───あら、しっかりしなさいよ。」





その台詞で名前とセドリックは今ここでどのような話が行われていたかを理解した。
昨年の夏。あの墓場で起きた件を、目の敵にしていたリータ・スキーターの手で記事にしようという魂胆らしい。

突拍子も無い計画だが特別驚いた様子を見せない名前とセドリックに反し、リータは飛び上がって側にあったグラスを引っ掛けた。
震える手でハーマイオニーに投げ付けられたナプキンを握り、リータはハーマイオニーを見つめたまま、引っ掛けて濡れた場所を拭う。
中身はアルコールだったらしく、ぷんと強い刺激臭が鼻を突いた。





「『予言者新聞』はそんなもの活字にするもんか。お気付きでないざんしたら一応申し上げますけどね、ハリーの嘘話なんて誰も信じないざんすよ。皆、ハリーの妄想癖だと思ってるざんすからね。
説が分かれてはいるざんすけど、そこにいるお二人さんも結局は同じ事。三校対抗試合の崖っぷちに立たされて見えた幻覚、妄想、混乱。そんなところざんす。
まあ、あたくしにその角度から書かせてくれるんざんしたら───」



「三人が正気を失ったなんて記事はこれ以上いりません!
そんな話はもう嫌という程あるわ。折角ですけど!私は、真実を語る機会を作ってあげたいの!」



「そんな記事は誰も載せないね。」



「ファッジが許さないから『予言者新聞』は載せないっていう意味でしょう。」





冷静に見えてハーマイオニーはかなり苛立っているらしく、静かながらも刺々しい声でそう言い放った。

リータはハーマイオニーを睨み付けた。
反論が飛び出てくるかと思いきや、けれど口は閉ざしたままだ。

両者睨み合い暫く。
先に動いたのはリータだった。テーブルに身を乗り出し、ハーマイオニーに顔を寄せた。





「確かに、ファッジは『予言者新聞』にてこ入れしている。
でも、どっちみち同じ事ざんす。そこの三人、特にハリーがまともに見えるような記事は載せないね。そんなもの、誰も読みたがらない。大衆の風潮に反するんだ。
先日のアズカバン脱獄だけで、皆十分不安感を募らせてる。『例のあの人』の復活なんか、兎に角信じたくないってわけざんす。」



「それじゃ、『日刊予言者新聞』は、皆が喜ぶ事を読ませる為に存在する。そういうわけね?」





リータは椅子に座り直し、グラスの中身を一気に飲み干す。





「『予言者新聞』は売る為に存在するざんすよ。世間知らずのお嬢さん。」



「私のパパは、あれはへぼ新聞だって思ってるよ。」





場違いな程のんびりとした声が割り込んだ。
カクテル・オニオンを飴のようにしゃぶりながら、ルーナがリータを瞬きもせずに見詰めている。





「パパは、大衆が知る必要があると思う重要な記事を出版するんだ。お金儲けは気にしないよ。」



「察するところ、あんたの父親は、どっかちっぽけな村のつまらないミニコミ紙でも出してるんざんしょ?
多分、『マグルに紛れ込む二十五の方法』とか、次の『飛び寄り売買バザー』の日程だとか?」



「違うわ。
パパは『ザ・クィブラー』の編集長よ。」





リータが吹き出した。風船の空気が抜けて飛んでいってしまう時のような、プーッという大きな音だ。
近くにいた客が振り向くくらいには大きな音だった。
しかしルーナは笑われた事にも振り向かれた事にも気にせず、せっせとオニオンをギリーウォーターに浸している。





「『大衆が知る必要があると思う重要な記事』だって? え?
あたしゃ、あのボロ雑誌の臭い記事を庭の肥しにするね。」



「じゃ、あなたが、『ザ・クィブラー』の格調をちょっと引き上げてやるチャンスじゃない?
ルーナが言うには、お父さんは喜んで三人のインタビューを引き受けるって。これで、誰が出版するかは決まり。」





リータはルーナとハーマイオニーを見比べる。
やがて我慢の限界とでもいうように、心底おかしそうに笑い出した。





「『ザ・クィブラー』だって!
ハリーの話が『ザ・クィブラー』に載ったら、皆が真面目に取ると思うざんすか?」



「そうじゃない人もいるでしょうね。
だけど、アズカバン脱獄の『日刊予言者新聞』版にはいくつか大きな穴があるわ。何が起こったのか、もっとましな説明は無いものかって考えている人は多いと思うの。だから、別な筋書きがあるとなったら、それが載っているのが、たとえ───
たとえ───その、異色の雑誌でも───読みたいという気持が相当強いと思うわ。」





笑いが治まってからも暫く、リータは呼吸を整えるフリをしながら黙っていて、忙しなく考えているようだった。





「よござんしょ。仮にあたくしが引き受けるとして。
どのくらいお支払いいただけるんざんしょ?」



「パパは雑誌の寄稿者に支払いなんかしてないと思うよ。
皆名誉だと思って寄稿するんだもン。それに、勿論、自分の名前が活字になるのを見たいからだよ。」



「ギャラ無しでやれと?」



「ええ、まあ。
さもないと、よくお分かりだと思うけど、私、あなたが未登録の『動物もどき』だって、然るべきところに通報するわよ。もっとも、『予言者新聞』は、あなたのアズカバン囚人日記にはかなり沢山払ってくれるかもしれないわね。」





昨年の所業が無ければいくら口下手な名前であっても報酬について口を挟んでいたかもしれない。
その場合はハーマイオニーだって同じ考えだっただろう。
けれど昨年の所業がある以上、同情の余地は無い。





「どうやらあんまり選択の余地は無さそうざんすね?」





気落ちよりも怒りによって、リータの声は少し震えていた。

傍らに置いてあるワニ革のハンドバッグに手を伸ばす。
中から羊皮紙を取り出し、自動速記羽根ペンを構えた。





「パパが喜ぶわ。」





リータの唇は噛み締められた。
何か言いたそうに痙攣している。





「さあ、お三方?」





ハーマイオニーが此方を見た。
ハリー、名前、セドリックの順に、しっかり顔を見る。





「大衆に真実を話す準備が出来た?」





三人は顔を見合わせる。
ハリーの目に迷いは無い。残る二人に問い掛けるような視線を遣るだけだ。
突然な話だったがセドリックは落ち着いていたし、名前は相変わらず無表情で、視線に答えるようにコクリと頷いた。

ハリーは顔を前に向けた。
リータがインタビューの準備する様をじっと眺める。





「まあね。」



『うん。』



「ああ、僕に答えられる事なら話せるよ。」





答えを聞いてハーマイオニーは満足そうに頷いた。
傍らに置いてあるグラスの底からチェリーを一粒摘み上げる。





「それじゃ、リータ、やってちょうだい。」

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