彼は天然の人たらし


男子寮の寝室にクルックシャンクスが入り込み、名前のベッドの上に出来たプレゼントの小山に飛び込むという事件が勃発した。
どうやら授業時間中に起きた事件なようで、同室のハリーとロンが戻って来た時、プレゼントの粗方は引っ掻き傷でズタズタになっていた。
そしてズタズタにした当人は、素知らぬ顔で名前のベッドでくつろいでいる。

ハリーが床に散らばったプレゼントを拾おうとすると、クルックシャンクスは目の色を変えて飛び掛かって来た。
寸でのところで避けたものの、依然としてクルックシャンクスは毛を逆立てて唸っている。
困り果てたハリーは飼い主であるハーマイオニーに頼み、クルックシャンクスを引き取りに来たが、クルックシャンクスの興奮はどうにも治まらず手が付けられない。





「もしかしたらプレゼントの中に、何か悪い物でもあるんじゃない?」





プレゼントに手を伸ばすと襲い掛かって来る時と来ない時があり、それを見ていたハーマイオニーは閃き任せにそう言った。
三人で手分けしてプレゼントを仕分けして、猫パンチされなかった物と分けていく。





「悪い物って、例えば何?」



「さあ、そうね。ナマエのモテっぷりを嫉妬した誰かさんが毒でも仕込んだか、それとも惚れ薬かしら?」



「確かにこのプレゼントの山を見る限り、ナマエはモテるみたいだね。」



「でもさあ、僕、前から不思議に思ってたんだけど。
ナマエってどうしてモテるんだ?」





拾ったばかりのプレゼントを払い落とされ、ロンは顔を顰めた。





「ナマエがハンサムだって事は認めるさ。だけどそれだけじゃないか。」




「ロン、ナマエは優しいよ。」



「そりゃあ知ってるとも。だって友達なんだから、色んな事を知ってるよ。ハリー、僕が言いたいのはそういう事じゃないんだ。
僕達以外にホグワーツの中で、どれだけの奴がナマエの事を知ってるっていうんだ?例えばミルクが好きだとか、意外と抜けてるとことかさ。」



「まあね。確かにナマエは物静かな人よ。多分私達が一番一緒にいる時間が長いでしょうし、一番親しいと思うわ。
でもナマエはずっと私達と一緒にいるわけじゃない。他の子と全く接触無く過ごすなんて無理な話よね?」



「僕らの知らない所で女の子と話してるってこと?」



「そういうこと。ロン、私達女の子の間ではね、ナマエの話は毎日のように聞くわよ。」





プレゼントの仕分けが終わった。
大小二つの山を見詰めてから、ハーマイオニーはダメ認定された方を袋に詰め込んでいく。
今度は払い落とされなかった。





「これは私達が内々に処理しましょう。こんな事を知ったら、ナマエ、きっと傷付くわ。」



「意外だな。ハッキリ伝えた方が良いって言うかと思った。
でもまあ、それは想像出来る。」



「ねえ、提案があるんだけど。」





ロンとハーマイオニーは揃ってハリーを見た。





「これから数日、交代しながらナマエを観察しない?」



「それってつまり、……尾行するってこと?」



「ああ、そうだ。そうすれば普段ナマエがどういう風に人へ接しているか分かるし、それにもしかしたら、プレゼントに何かを仕込んだ犯人を見付けられるかもしれない。」



「ああ。そりゃあ良いアイデアだぜ、ハリー。」



「ねえ、ちょっと待って。二人とも本気?本当にナマエを尾行する気なの?」



「勿論だよ。だってハーマイオニー、見ての通りだ。プレゼントの中に何か仕込まれていたって、身を以て分かったじゃないか。」



「そうかもしれないって言ったのよ。断言はしてないわ。
プレゼントの数を見たでしょう、見付かりっこないわ。探すだけ無駄よ。」



「ハーマイオニーにしては珍しく弱気な発言じゃないか。君がやりたくないって言うんならやらなきゃいいのさ。僕とハリーでやるだけだ。
あーあ、もしかしたらナマエ、惚れ薬とか呪文とかで、襲われちゃうかもなあ。人手があれば防げるかもしれないけどなあ。」



「そんな言い方しないでよ、ロン。
分かった、分かったわよ。やればいいんでしょう。」



「君がいれば百人力だよ、ハーマイオニー。」





当事者は知らぬまま、かくして彼らの計画は決行されたのである。















まずは名前の一日の行動を把握する事だ。
尋ねれば不思議そうに首を傾げたものの、名前は素直に答えた。

朝は六時頃起床し、八時頃までトレーニング。
その後は一旦寮へ戻り、シャワーを浴びて制服に着替え、朝食を摂りに大広間へ向かう。
それから午前の授業を受け、終われば昼食を摂り、午後の授業まで中庭で本を読んだり、宿題をやったり、図書室へ行ったりする。
それから午後の授業を受け、終われば夕食を摂り、寮へ戻って読書、あるいは宿題、そしてシャワーを浴びて就寝だ。
休日の過ごし方は授業を抜いただけで、読書、宿題、勉強と、殆ど同じ事をやっている。
場所は寝室か談話室、中庭、図書室だ。

大抵はハリー、ロン、ハーマイオニーの三人の内の誰かと行動を共にしているが、ずっと一緒ではない。
昼食中にフラリとトイレに立ったかと思えば夕食まで出会わなかったりする。
一人でいる時間も割りとあるのだ。
この時厄介なのは、名前が誰にも行き先を告げないと言う点である。





「こんな朝早くからよくやるよ……。」





言い出しっぺのハリーが早朝を任されたのは仕方無いかもしれない。
けれどロンとハーマイオニーが今頃ベッドの中でぬくぬくグースカ寝ていると思うと、ハリーはちょっぴり腹立たしくなる。
当事者の名前に計画を知られるわけにもいかず、どこで誰が見ているか分からないし、ハリーの存在が相手を警戒させるかもしれないから、「透明マント」の下であくびを噛み殺して名前を眺める。

まさか見られているとは夢にも思わない名前はトレーニングウェアを身に付け、ストレッチしたり、走ったり、ひたすら自分のやる事に集中している。
頬や首筋に汗を伝わせる名前の姿は物珍しくもあり、真摯に取り組む一生懸命な姿は、友達ながらどこか胸を打つものがあった。

一通りのトレーニングを終えれば寮に戻りシャワーを浴びる。
後ろを付かず離れずついて歩けば、廊下で擦れ違う生徒の視線が、名前に向けられている事に気が付いた。
トレーニングウェアが見慣れないせいかと考えたが、それにしては熱っぽい目付きなのが気にかかる。
名前は全く気にしていない───というか、気付いていないようだった。
注目されるのが苦手な癖にこういうところは鈍感である。





「起きて、ロン。大広間に行かなきゃ。」



「ううーん……ナマエは?」



「シャワー。」





さすがにシャワーを覗くのは憚られた為、名前が寝室を出たタイミングでロンを叩き起こした。
いつもは大広間にハリー、ロン、ハーマイオニーが三人集まり食事を摂り、その最中に名前が現れる。
二人が遅れて登場すれば名前は不思議そうにはするだろうが、だからと言って詮索するタイプではないので、別に焦る必要は無いのだが。
身支度を整えた二人が大広間へ向かうと、既にハーマイオニーが席に着いていた。





「どうだった?ハリー。様子のおかしい人は見付かったかしら。」



「分かんない。少なくともトレーニング中に人は見当たらなかったと思う。でもその後で、ナマエを見ている人が沢山いたんだ。」



「ああ。ほら、おでましだ。」





大広間の扉を潜る生徒の群れの中に紛れた長身痩躯。
猫背でもハグリッドの次に背が高い名前を群集の中で見付ける事は容易い。
涼しげな瞳が此方を見付け、大股で近寄ってくる。
そこで普段ならば朝食に戻る三人だが、今回は周囲に目を光らせた。
すると名前が近付く度に周囲の生徒の顔も移動している事に気が付いた。名前を目で追っているのだ。
しかし名前はハリー達の姿しか目に入っていないらしく、周囲の生徒の視線に何の反応もよこさない。





『おはよう。』



「おはよう、ナマエ。」





ハリーの隣に腰を下ろした名前は、手近なゴブレットにミルクを注ぐ。
そこでも三人は予断を許さず周囲の反応を窺う。
各寮のテーブルからチラチラ視線をよこす者、遠慮無く凝視する者もいる。

ハリーとロンは驚愕した。
今まで全く視線に気付かなかった自分達に。
そしてこんなに沢山の人々が名前を見ている事に。
しかし更に驚かされるのは、当人が全く気付いていない事だ。気付いていたら猫背が更に丸まるはずである。
サラダを装い、プチトマトを捕まえるのに手間取っているのだから、呑気なものだ。
しかも、一体どのように乾かしたのだろうか。
シャワーを浴びたはずなのに後頭部の髪が一房鉤状に跳ねている。

ある者は口元を抑え、ある者は友人の肩を借りて身悶えし、ある者はテーブルに倒れ付し、声なき声を上げた。
大広間の喧騒とさすがに距離も離れておりハリー達の所までは声は届かなかったが、口が「ソウ キュート……」と動いているのが確認出来た。





「ナマエが可愛いって、どこが?」





教室へ向かう途中。
数歩前を歩く名前の猫背から目を離さないまま、ロンはハリーとハーマイオニーに囁いた。





「さあ、僕には分からない。格好いいって言うなら分かるけど。」



「確かにナマエは格好いいわね。だから偶々見せるちょっと抜けたところが可愛らしく感じるんじゃないかしら。」



「それってドジなだけだろ?普段格好良い分、抜けたところを見たら、余計に格好悪く見えるんじゃないか。」



「あなた達にはそう見えるのかもね。」



「君は違うの?」





ハーマイオニーは答えずに、前方を気にするように首を伸ばした。
二人がハーマイオニーの視線を追うと、曲がり角で名前が足を止めている。
どうやら下級生と出会い頭に衝突したらしい。
友達とのお喋りに夢中で、ろくに前を見ていなかったその子は、名前の鳩尾辺りにスッポリ嵌まっていた。

慌てて体を離した下級生が「ごめんなさい、先生!」と半ば叫ぶように言って、その時初めて顔を向けた。
先生と叫ばれた名前は固まり無反応だ。
無反応の名前を不思議そうに見詰めた下級生は、自分と同じ制服姿に気が付いて目を見開き、此方も固まった。
自分の発言に間違いがあった事に、下級生は俯いてモジモジと落ち着きなく体を揺らし、やがて友達の手を引っ掴み、名前の横をすり抜けていった。
ハリー達と擦れ違い様に見た下級生は、首まで真っ赤だった。





『ねえ。
俺って老けて見える……。』





昼食時にポツリと呟かれた言葉に、三人は危うく噴き出すところだった。
何の前置きも無く放たれた台詞は普段ならば冷静に、急に何を言い出すんだと聞き返す事も出来ただろうが、名前とその周囲に目を配り常に意識している今の状況で、平然を装うのは困難だ。
なんならぶつかった時のやり取りや、名前の石像化も容易に思い出せる。
名前は何にも気にしていないような無表情で、そんな些細な事を気にしているのだ。
それがどうにもおかしかった。
三人は笑いながら名前がむしろ幼い顔立ちだと伝え、老けて見えるのではなく「落ち着いているだけだ」とか「背が高いからだ」とか言って、名前を慰めた。
昼食後には立ち直った。なんとも単純なものである。





「僕はちょっと分かった気がする。」



「ハリー、何の話だ?」



「ナマエが可愛いって話さ。」





昼食後は午後の授業まで中庭で過ごす。
名前は木の幹に寄りかかり読書中だ。
傍らに寄り添う三人の会話は耳に入っていないし、当然視線も気付くはずもない。
昼食後に大広間からついてくる者もいたし、遠巻きに見詰める者、偶然を装い何度も通り過ぎてはチラチラ見る者もいる。





「何にも気にしてませんって顔をしてるのに、あんなちょっとした事を気にしているんだ。可愛いやつだよ。」



「僕は面白いって思ったけど。」



「ロンが一番わざとらしい慰め方だったものね。」



「君だって笑いを堪えてた!」



「シーッ、静かに。ナマエが気付く……
いや、大丈夫か。」





名前は午後の授業へ向けて予習をしているらしく、周りの喧騒などお構い無しに黙々と教科書に目を通していた。
いっそ感心するほどの集中力だ。
傍らでどれだけ騒がれようが、あらゆる方向からどれだけ視線を浴びようが、名前はちっとも気が付かないのだから。

周りをぐるりと見回せば、多くの生徒が名前の一挙一動を見詰めている。
どうして気が付かないんだろう───と、ハリーは不思議に思って、試しに肩を叩いてみる。
すると名前は簡単に本から目を離し、ハリーを見詰めた。

ハリーは此方を見る女子生徒の集団を指で示した。
名前は指を見て、指し示す方向を見る。
名前の視線を受けて女子生徒は目白のように身を寄せ合い、きゃあきゃあ笑い、手を振ってきた。
名前はパチパチ瞬いて、ハリーを見詰めた。




「ナマエにだよ。」




言いながらハリーは名前を指差す。
名前はまたパチパチ瞬いて、自分を指差す。
ハリーは頷いた。
名前は女子生徒を見て、自分の顔を指差した。
女子生徒はきゃあきゃあ笑っている。
返答が無いので自信がないが、名前は控えめに手を振り返した。
女子生徒は殊更大きな声で笑い、頬を赤らめ、ブンブン手を振った。

これだけ分かりやすく熱烈なアピールを受けていながら、名前はそそくさと予習へ戻る。
素っ気ない態度だったが女子生徒は気を悪くした様子も無く、芸術品でも見るかのようにうっとりと眺めていた。
まあ確かに、学校の石壁と壁を伝う蔦植物が
バックにあるおかげで、雑誌の表紙を飾れそうな見た目ではある。





「なあ、ハリー。」



「何?」



「あれ。」



「どれ?」



「あそこ、渡り廊下の端。」





ロンに言われた通り、渡り廊下の端へ目を遣る。
そこには太陽光に反射して眩しく光る物があった。
目を細めて正体を確かめる。
カメラだ。カメラのレンズが反射している。
レンズはしっかり此方を向いていた。

ハリーが周りを見ると、ロンとハーマイオニーも此方を見ていて、名前だけは変わらず教科書に没頭している。
顔を見合わせた三人は密かに頷き合い、その場へハーマイオニーと名前を残し、ハリーとロンが現場へ向かった。

カメラの持ち主について大方の見当はついていた。
この学校でカメラを持ち歩く人物は、コリン・クリービーくらいだ。
そして二人の思惑通り、渡り廊下にはカメラのシャッターを切り続けるコリンが立っていた。





「おい、コリン!」





ロンの荒っぽい呼び掛けにコリンの体が飛び上がる。
生徒が行き交う渡り廊下をキョロキョロ見回し、近寄ってきたのがロンとハリーだと分かると、安堵したように表情を緩めた。
しかしそれも束の間。仏頂面のロンを見て、再び体を縮こまらせる。





「何ですか?」



「お前、中庭にカメラを向けてただろ?誰を撮ってたんだ?」



「ナマエ・ミョウジです。」



「ナマエの写真を撮ってどうする気?」



「分かりません。ただ、僕は、撮るように頼まれただけで……。」



「誰に?」



「あなたのお兄さんです。」



「フレッドとジョージか!」





「あいつら問い詰めてくる」とロンは走り去っていった。
午後の授業前直前に戻ってきたが、仏頂面をますます極めていた。
フレッドとジョージが見付からなかったか、もしくは話が拗れたのか。
仏頂面の理由が明かされたのは、その日の夕食の席での事だった。





「あいつら、ナマエの写真をファンに売ってるらしい。しかも全く意に介してない!」





裏ではウィーズリーの双子がクリービー兄弟を使い、名前のプライベート写真を売り捌いている。
ファンクラブの片棒を担いでいるわけだ。
ファンクラブの間で個人の写真が流通しているのだから恐ろしい話である。





「それどころか『俺達は満たされない欲求を解消している、だからナマエに余計な危険が降りかからないんだ、むしろ感謝してほしいね』───だって!」



「ナマエの写真が出回っているのは知ってるわ。私、見せてもらった事があるもの。」



「それで君は勿論取り上げたんだよな?」



「あら、しないわよ。」



「何でさ?」



「良く撮れてたし、写真を持ってる子達に悪意は無いの。本当にナマエの事が好きなのよ。」



「だからってナマエが望んで撮ったものじゃない。盗撮じゃないか!ナマエが知ったら傷付くと思わないのか?」



「ナマエは知ってるわよ。」



「えっ。」



「沢山写真が出回っているんだもの、本人の目に届かないはずがないでしょう。」



「それで、ナマエは何だって?」



「恥ずかしそうにしてたけど、それだけね。学校新聞に偶々写り込んだくらにしか思っていないんじゃないかしら。あんまり深刻には捉えていないみたい。」



「……。」





勿論この場に名前もいる。今の話も聞いている。
しかし平然とスープを口に運んでいるのを見て、ハリーとロンは力が抜けた。
目立つ事が苦手なくせに、この上なく鈍い。
注目されている事に気が付いていないのだ。
おかげで尾行は楽だが無防備過ぎて不安になる。

その後も名前の観察は続けられた。
先に聞いていた普段の行動を取り除けば特筆すべき点は、キッチンへ屋敷しもべ妖精にレシピを教わりに行った事と、マダム・ポンフリーの手伝いをした事くらいだろうか。
後は図書室で届かないのであろう女子生徒の代わりに本を取ったり、階段にはまった生徒を助けたり、ぶちまけた鞄の中身を拾い集めるのを手伝ったり、ちょくちょく先生に捕まってお使いを頼まれたり。

驚くべき出来事は「魔法薬」の授業で起きた。
大鍋を覗き込み作業する名前のつむじに、結構な勢いで紙飛行機をぶつけられたのだ。
衝撃に顔を上げた名前と、紙飛行機をぶつけたらしいスリザリンの女子生徒の意地悪な笑みとが会う。





『……。』





ともすれば大鍋の中へ落ちて大惨事も待ったなしの嫌がらせ。
しかしダイブは免れて幸いにも紙飛行機は机の上へ着陸した。
作業の手は止めないまま、スネイプの視線を気にしつつ、名前は紙飛行機を拾い上げて見る。

羊皮紙で折られたらしいそれは、所々黒い部分が見え隠れしている。広げてみると絵が描いてあった。
異様に背の高い手足の長い、黒ずくめでのっぺらぼうの人間が、背後にうねった闇を背負って立っている。
某都市伝説の架空キャラクターにも見える。
おそらく名前の身体的特徴を揶揄して描かれたものだろう。

名前は大鍋の片手間、羊皮紙に何やら書き留めて、紙飛行機を投げた女子生徒にそれを見せた。
途端にスリザリンの女子生徒は顔を真っ赤にさせて、此方も何やら羊皮紙に書き留めて、また紙飛行機にして飛ばした。
飛ばす所を見ていたので、今度はぶつかる事無くキャッチする。
紙飛行機を広げた名前は、ウンウン頷き、スリザリンの女子生徒に控え目なお辞儀をした。
スリザリンの女子生徒は真っ赤な顔でそっぽを向いてしまった。





「……。」





隣で一連のやり取りを見ていたハリーは、机に置かれた紙飛行機と、名前が書き留めた物を横目で覗き見た。

───上手だね、俺が貰ってもいいの。
一見煽りにも受け取れるが、名前には一切その気は無い。はずだ。
───あんたが触ったものなんて欲しくない
これを返したスリザリンの女子生徒は満更でも無い様子だった。

スリザリンの生徒がグリフィンドールの生徒に対して小馬鹿にするような態度は常だったので、名前は気にした様子もなく絵を鞄にしまった。

スリザリンの生徒でさえ掌で転がした。
名前の人たらしたる所縁を垣間見て、ハリーは恐ろしくなったのだった。





「僕この一週間で洞察力が身に付いた気がするよ。」



「僕も。」



「あら、良かったじゃない。ナマエのおかげね。」





ハーマイオニーはサラリと言ってのけた。
名前を先に就寝させ、残りの三人は談話室で作戦会議である。





「それで、犯人は分かったかしら?」



「それに関してはお手上げだね。あんなに候補がいたんじゃ絞れないよ。」



「だから無駄だって言ったじゃない。」



「君はナマエが心配じゃないのか?」



「勿論、心配よ。だから私、ファンの子に話したの。ナマエにおかしな物を贈りつけたら二度と誰からも受け取ってもらえなくなるわよって。そうしたらお互いに気を付け合うでしょう。」



「なあハリー、女子って怖いよな。」



「心外だわ。男の子の可能性だってあるじゃない。」



「どうしたらいいかな?ハーマイオニーが措置をしてくれたんなら、後はこのまま放っておいていいと思うかい。」





二人が口論を始めそうな気配を察知し、ハリーは急いで早口でそう言った。
二人ははたとハリーを見て、うーんと考え込む。





「僕、ナマエはこのままじゃダメだと思う。もう少し警戒心を持つべきだよ。周りの目に気付いて、意識するんだ。
取り合えず、知らない人からのプレゼントは開けない方がいい。」



「だからそれについては、こっちで警告をしたの。」



「絶対に大丈夫って言える?」



「それは出来ないけど……。」



「ほらね。後は、もう少し控え目になる事だ。」



「ナマエは十分控え目です。透明にでもなれって言うの?」





止めたはずの口論が勃発してハリーは項垂れた。
解決策は見出だせないまま時間が過ぎていく。

後日。
ハーマイオニーが二人の元へやって来て、ファンクラブの中で新たに「ナマエ護衛隊」が結成されたと教えた。
名前についてのマニアックな難問題を潜り抜けた勝者が護衛隊に選抜され、ファンクラブのプレゼントをチェックする事がその役割だ。
結成についてはフレッドとジョージが率先して選抜を行い、もしも今後二度と同じ事が起ころうものなら、写真は売らないし名前にも近付けさせないと断言した。

今回の出来事には憤りを覚えるファンもいるらしく、警戒の目を光らせている。
人知れず、ひとまず名前の平穏は保たれたのだった。

















大変お待たせいたしました。申し訳ないです。
天然タラシなお話をとのリクエストでしたが、リクエストに添えるような内容になりましたでしょうか。
私自身が天然タラシについて理解に至っていない点もありますが、主人公が積極的でない性格でもあり、タラシとは……女の子にキャーキャーとは……と、手探り状態でした。
お楽しみいただけたら幸いです。
リクエストありがとうございました。

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