13.-3


寝る前や食事の際など、シリウスが傍にいる時。
寡黙な名前とは対照的に、大体シリウスは淀み無くお喋りする。
大抵は学生時代の話だが、よく話題が尽きないものだと感心する程だ。
クリスマスの雰囲気がそうさせるのか。
いつもより饒舌なシリウスと少し遅い昼食をゆっくり済ませた後、名前はシリウスが持ってきてくれた本を読んで過ごした。
そのまま日が沈み夕方になると、何やら部屋の前の廊下を数人分の足音が迫って来る。

そのまま通り過ぎるかと思われた足音は部屋の前でピタリと止まり、遠慮がちに扉が叩かれた。
名前が返事をすると扉開かれ、ひょっこりハーマイオニーが顔を覗かせた。
それからハリー、ロン、ジニーと続々入室する。
ハーマイオニーとジニーは椅子に座り、ベッドの端にハリーが座った。
毛足の長いカーペットの上にはロンが座り込んだ。

皆がそれぞれの場所に落ち着いてから数秒。
辺りは沈黙に包まれ、妙な緊張感が漂っていた。
それを打ち破ったのはハーマイオニーだ。
ハーマイオニーは少し緊張した面持ちで素早く皆の顔を見渡し、名前に向き直って口を開いた。





「調子はどう?ナマエ。」



『熱があるくらい。
クリスマスプレゼント、有難う。』



「こちらこそ。」





ぎこちないやり取りの後、ハーマイオニーはお見舞いであった出来事を話してくれた。

アーサーのお見舞いを終えてから院内を歩いていると、入院しているロックハートに偶然出会った事。
(二年生の時にハリーとロンの記憶を永久に消そうとしたが、壊れたロンの杖を奪って使った為、呪いが逆噴射し自らの記憶を失ってしまったのだ)

ロックハートの病室でネビル・ロングボトムとその祖母に出会った事。
同室にネビルの両親が入院している事。





「ネビルのパパとママの事、僕は知ってたんだ。ダンブルドアが話してくれた。でも、誰にも言わないって約束したんだ。
ベラトリックス・レストレンジがアズカバンに送られたのは、その為だったんだ。ネビルの両親が正気を失うまで『磔の呪い』を使ったから。」



「クリーチャーはベラトリックス・レストレンジが好きみたいだったけどね。」



『クリーチャー……』



「ここの屋敷しもべ妖精の名前さ。ここへ来た夜に会っただろう?あの偏屈そうなヤツ。あの夜からどこにいるのか分からないみたいだけど。」





話している内に緊張が解れてきたのか、名前の機嫌を窺うようにしていたロンやハリーも、だんだん饒舌になってきた。
だがロンが口にた「あの夜」という言葉を皮切りに、またも妙な緊張感が漂い始めた。
皆名前の顔色を窺い、互いに目配せをしている。

マイペースと評価されがちな名前だが鈍感なわけではない。
この異常な雰囲気を敏感に感じ取り、名前も皆の顔色を窺うようにじっと見詰めた。

ついに覚悟を決めたのか、名前としっかり目を合わせたのはハリーだ。
一体どんな言葉が出てくるのかは分からないが、名前も覚悟を決めて居住いを正した。





「ナマエ、あのさ、」



『……』



「あー、何ていうか、その……。
夢に見た事、気にしてる?」



『何の夢。』



「あの夜だよ。ここに来た日の、あの夜の……ロンのパパが蛇に噛まれた夢だよ。
ロンのパパの視点で見たんだろう?それってまるで、ナマエが取り憑いたみたいじゃないか。あの、ヴォルデモートみたいに。
それで僕達、ナマエが気にしてるのかと思っていたんだ。それで、僕達を、人目を避けてるんじゃないかって。」



『……』





今はこうして話せるようになっているが、ハリーはこの屋敷に来て暫く人目を避けていた。
アーサーに噛み付いた蛇の夢を見た為に、自分がヴォルデモートに操られているのではないかと危惧したからだ。
自分自身がそうだったように名前も気に病んでいるのではないかと、ハリーを含めこの場にいる皆が、名前の事を真剣に心配しているらしい。

対して名前はじっとハリーを見詰め、パチパチと瞬きを繰り返している。
やがてあっさり首を左右に振った。





『ううん。』



「ああ、そう……。ならいいんだ。」



「一応報告しておくけど、お見舞いに行った時、パパに確認してみたんだ。蛇に噛まれた時の事。パパは意識がしっかりあったって。
ほら、前にジニーが『例のあの人』に取り憑かれた事があっただろ?『例のあの人』に取り憑かれたら、自分が何をしていたとか、気が付いたら別の場所にいたとか、そういう事が起こるらしいんだよ。」



「だからナマエが気に病む必要は無いのよ。
でもその様子だと、本当に偶々風邪をひいただけみたいね。」



『……。』





名前の熱は風邪によるものではない。
傷の炎症によるものだ。
しかし決して言うわけにはいかない。それがダンブルドアの判断だからだ。

名前はいたってナチュラルに視線を逸らした。
こういう時ばかりは何故か無駄にスキルが高いのだ。





『夢の件で伝える事がある。』



「夢って、今回の件?」



『いや、予知夢の件。』



「何か見たの?」





恐る恐るロンはそう聞いた。不安そうな表情だ。
返事の代わりに名前は首を左右に振る。





『夢は見ているけど、予知夢かどうかは分からない。
伝える事はそういう話じゃない。もしかしたら、皆が勘違いしているかもしれない事。』



「僕達が何を勘違いしてるって言うんだ?」



『墓場での出来事。あれは予知夢だったけど、夢の中に俺はいなかった。』





トラウマを残した出来事だ。ハリーの表情は少々強張った。
この話題は古傷を抉るようなものである。
皆は心配そうにハリーの方を窺った。
けれどハリーは一呼吸置いて名前を見据え、努めて冷静な様子で口を開いた。





「ナマエがいなかったって、つまりどういう事だい?」



『俺を除いて墓場での出来事が進行していった。夢の中でセドリックさんは殺されていた。』





驚きと戸惑い。そんな所だろうか。
この言葉にはハリーもついに口を閉ざした。
名前から視線を逸らし、助けを求めるように皆の方を見る。
皆もハリーと、そして互いに顔を見合わせていた。

すぐに呑み込める内容ではないと名前は予想していたらしい。
皆の様子が落ち着くまで待ち、それから再び口を開いた。





『あの日、俺は不安で墓場に行った。そうしたら夢の通りに出来事が進行していった。だからセドリックさんの死を防げた。』



「夢の通り進行して、だから防げたって、……
当たり前じゃないか?僕達は別に、勘違いなんかしてないよ。そうだろう?」



「ナマエの話を聞いてなかったの、ロン?大きな違いがあるわ。ナマエは夢の中にいなかった。だけど現実にはナマエがいた。
夢の通りに出来事が進行したにも関わらず、夢の結果と現実の結果が変わっているのよ。」



「だから?」



「分からないの?」



「ハーマイオニー、勿体ぶらずに教えてくれよ。」



「いい?本来の予知だったら夢の中にナマエが存在したはずよ。そしてそのままの結果が反映されるはず。
けれどナマエはいなくて、夢の中でセドリックは殺されていた。現実では夢の通りに出来事は進行したけれど、セドリックは生きているわ。
つまり予知夢で見たそうなるべき未来は、ナマエの介入によって覆された。ナマエの存在は異質だったのよ。
これって、とっても恐ろしい力だわ……。」



「どうして?僕はとっても良い力だと思うけど。だって、未来を変える事が出来るんだろう?
実際その力のおかげでセドリックは助かったじゃないか。」



「ハリーの働きがあってこそよ。そうでなければセドリックとナマエは死んでいたでしょう。
それに、もしかしたらハリーだって殺されていたかもしれない。」



「……」



「確かに良い力よ。これからナマエが予知夢を見た時、皆で協力して行動すれば良い方向に未来は変わるかもしれないわ。だけど逆に沢山の被害が出るかもしれない。
今回は上手く事が運んだばっかりに、私達皆希望を持っている。そうでしょう?
それに、ヴォルデモートはナマエの力を無視出来ないでしょう。操ってでも配下にするか、絶対に殺そうとするか。きっとどちらかよ。
多分、これまで以上にナマエは狙われる。だからこそ恐ろしいのよ。」





あけすけな物の言い方だがハーマイオニーの顔色は悪かった。
皆の表情も同様に不安そうである。





「ハーマイオニー。ナマエは……
僕達は……、
どうするべきなんだろう。何か出来る事はあるのかな?」



「そうね。……
ナマエ、この事は誰かに言った?」



『ダンブルドア校長先生と、セドリックさん。』



「そう。それなら安心ね。先生なら先手を打ってくださるでしょうし、セドリックなら信頼出来る人柄だわ。
あの人ならきっと誰にも言い触らしたりしないもの。」





話しながらハーマイオニーは必死に考えているようだった。
皆の視線を受けながら、目の前にいる名前の肩越しに窓を見詰めている。





「ナマエ。私、夢の内容を書き記すようにすべきだと思うの。勿論誰にも見られないようにね。」



「ハーマイオニー。トレローニーのバカげた宿題と同じ事をもう一度ナマエにやらせるなんて、まさか君が言い出すとは思わなかったぜ。」



「確かに夢は非現実的な幻覚ね。だけどナマエの場合は日時も登場人物もそっくりそのまま現実になったし、現実の行動によっては夢の結果が変わる。
予言が覆されるという事よ。これはとっても重要で必要な事だわ。」



『分かった。書くようにする。』



「ええ、そうして。……」





相槌を打つもののハーマイオニーの目は虚ろだ。
まだ何か考えに耽っているらしい。
名前はじっとハーマイオニーを見詰めた。

いい加減名前も誰に何を話したのか、話していい事は何か、把握が困難になってきた。
嘘を吐いたり誤魔化すのが苦手な名前が今まで持ち堪えてきたのは奇跡的ではあるが。
相変わらずのポーカーフェイスだが、何を言われるのかと内心ドキドキしている事だろう。





「今回の件でも思ったけれど、ナマエは少し特殊な力を持っているようね。それが何なのか、よく分からないけれど……
兎に角この話、もう誰にも話しちゃ駄目よ。先生方には大丈夫かもしれないけれど、なるべく秘密にしましょう。」



「そうね、それがいいわ。それでナマエ、気になる夢を見たら、私達にこっそり教えて。」



「大袈裟じゃないか?秘密にしろだのこっそり話せだの。ナマエが見た夢が全部現実に起こるわけじゃあるまいし。まあ、試験の内容なら教えて欲しいけど。」



「ナマエは予知夢の件が無くても命を狙われているのよ。わざわざ理由を増やす必要無いわ。
それにねロン、あなたみたいに、ナマエの能力を利用しようと考えるかもしれないでしょう。」



「僕は別に利用しようってんじゃないぜ。今のはただの冗談だよ。」





ロンはいかにも不機嫌そうな表情を見せたが、動揺までは隠せていなかった。

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