13.-1






「ナマエ、図書館に行くの?」



「ちょうどいいわ。ねえナマエ、試験勉強を兼ねてご一緒していいかしら?」



「ハーマイオニー、試験はまだズーッと先だよ。」



「十週間先でしょ。ズーッと先じゃないわ。…」



『………』





頭二つ分は小さな彼らにトライアングルに囲まれて、名前は身動きできずにいた。

名前の返答を聞かずに、三人(特にハーマイオニーとロンは)またやいのやいのと討議している。
人の往来がある廊下のど真ん中でそんなことをやっているので、通る人々は至極鬱陶しそうな顔をして睨んできた。
しかし事の中心の人物が名前だと知るなり、勢いよく前を向いて足早に去っていく。
中には名前の姿を見るなりユーターンをする者もいた。
そんな人々の背中を見つめる名前の後ろ姿からは、どことなく哀愁が漂っている。

名前はとりあえず、この場から立ち去るために、コクリと一つ頷いた。















人も疎らな図書館は静かで、少し音を立てただけでも睨まれる。

だから名前たち四人は、奥の隅っこ、日当たりの良い窓際を選び、各々勉強や読書に勤しんだ。

禁じられた森であった事を見た日以来、ハリーたちは前以上に名前によく話し掛けるようになった。当然一緒にいる時間も、ぐんと増えた。
そして三人は、クィレルにも異様に優しい。

その様子から、ハリーがクィレルとスネイプの話を聞いていたであろうことは、容易に察することができた。
そしてそのことは、ハーマイオニーとロンにも話したのだろう。





「こんなのとっても覚えきれないよ。」





ロンはぐったりと机に伸びた。
音を立ててペンを放る。

名前は横目でちらりと、隣に座るロンを見る。
今にも引っ掛けて溢してしまいそうなインクに蓋をして、そっと遠くにやった。

ロンは気付かない。
浜辺にうちつけられたクラゲのように伸びきっている。





『……………』





本を閉じて席を立った。
別の本を借りに行くためだ。

名前は一時間に一冊のペースで本を読み続けている。





「ハグリッド!図書館で何をしてるんだい?」



「いや、ちーっと見てるだけ。」





背後から突然会話が聞こえ、名前は顔だけ後ろを向いた。

本棚と本棚の間で、ぬりかべのような大男が立っている。
毛むくじゃらの髪の毛と、グローブのように大きな手が目立つ。

名前はハグリッドを知らない。
しかし、ハリーたちの会話の中で、ハグリッドの名は何度か聞いたし、話も聞いていた。





『………』





爪先から天辺まで、ぐるりとハグリッドの後ろ姿を見つめる。
そうして、名前はふむふむと頷いた。

ハグリッドは後ろ手に、分厚い本を何冊か手に持っていた。
(ハグリッドの手はとても大きいので、分厚い本も手帳サイズにしか見えなかったが)

『趣味と実益を兼ねたドラゴンの育て方』

と、書いてある。

見てから、名前は興味が失せたようにスッと目をそらした。

本を探しに奥へ入っていく。





「おまえさんたちは何をしてるんだ?
まさか、ニコラス・フラメルをまだ探しとるんじゃないだろうね。」



「そんなのもうとっくの昔にわかったさ。
それだけじゃない。あの犬が何を守っているかも知ってるよ。賢者のい」

「シーッ!…」





ハグリッドの疑わしげな声。
ロンの得意気な声。
ハグリッドの慌てた声。

その後は、ぼそぼそとしか聞こえなくなり、やがて静かになった。

名前は四人から大分離れた本棚までやって来ていた。





『………』





ぐるりと本を見渡す。
ぴたりと視線を止めて、一冊の本を抜き出した。
分厚く、重たそうな、ハードカバーの本だ。
パラパラとページをめくり、目的の言葉を探す。
手を止めて、指で文字をなぞる。

【賢者の石】

ポケットから紙切れを引っ張り出す。
折り畳まれた紙切れを開き、本に書かれた内容と、紙切れに書かれた内容を見比べた。
そして、名前は一人頷く。
本を閉じて、元の位置に戻した。
紙切れを折り畳み、ポケットにしまう。

やや首を傾げながら、本と本との隙間を見つめた。





『(…マグル界の知識と同じ…
賢者の石…
…物をお金に変えたり、病気を治したり、……
…不老不死になる、石…)』





ポケットの上から紙切れを触り、存在を確かめる。

もしこれを落として、スネイプかクィレルが拾いでもしたら。

落とし主など、魔法があるこの世界なら一発でわかるだろう。

名前は青ざめた。

寮に戻ったら、誰もいないときに、暖炉で燃やしてしまおう。
強く決心する。





『(スネイプ先生か、クィレル先生は、…お金がほしい、…
もしくは、病気を治したい…
それとも、不老不死になりたい…のか)』





本当にそうだろうか。
名前は首を傾げる。

どれも二人のイメージにあてはまらない気がする。

それとも、実は病気を患っていたりするのだろうか。

他人は自分ではない。
だから頭の中など、わからないが…。





『(どちらに、忠誠を…)』





そのとき、名前に電流が走る。

よくよく思い返してみると、二人には別の、忠誠を誓う人がいるのだ。

賢者の石は、その忠誠を誓う人に捧げるものだとしたら。





『(…わざわざ学校に移動して置いている。ダンブルドア校長先生が、賢者の石を狙う…なんてことは、ないと思う…あるんだから。…すぐ近くに………
すぐ近くに置いておかなきゃいけない理由…狙われる…誰に………
俺がクィレル先生に見られている、らしい…理由、…わからない…
…ハリーの箒に呪いをかけた、スネイプ先生………
でも、クィレル先生には近付いちゃいけない………

……………ハリー…危険な目に合った…
……賢者の石、不老不死…………
ダンブルドアが近くに………)』




ハリーが狙われた。
賢者の石が狙われた。

今年、ハリーが入学した。
今年、賢者の石がホグワーツに移動した。

ハリーと賢者の石。

関係はあるはず、と名前は思う。





『(お金がほしいのか、病気を治したいのか、不老不死になりたいのか…わからない…でも……
…ハリー…




ヴォルデモート…)』





ハリーが撃退したというヴォルデモートが、命からがら逃げ延びたと仮定して。

ハリーを再び殺そうと狙っていたら。

賢者の石を使い、不老不死になり、二度と死ぬことはない体になって、ハリーを狙っていたら。





『……………』





ぶるぶると頭を振る。
考えすぎだ、と言い聞かせる。
しかし、一度思い描いた想像はなかなか頭から離れない。
さっと踵を返した。
このコーナーにはいたくなかった。
早足で歩く。

もしヴォルデモートがハリーを狙っていたら。
もしクィレルかスネイプが、それに加担していた。
クィレルかスネイプが、ハリーを殺そうとしていたら。

―――そんなのいやだ―――

深みにはまると、ズブズブと沈んでいってしまう。

ぎゅう、と一回、強く目を閉じて、図書館の出口を目指す。

名前は走り出しかった。
早く賑やかな談話室に戻って、いつも通りゆったりとしたかった。

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