10.-1


無事成功させた第一回目のDA集会を終えて、その後何度か積み重ねること二週間。
たった一時間程の練習が二、三回行われただけだったが、皆の腕前は確実に上達していた。
ネビルがハーマイオニー相手に武装解除をやって退けた時には、周囲の者が一緒になって喜んだものだ。

集会にはグリフィンドール、ハッフルパフ、レイブンクロー、それぞれのクィディッチ選手がメンバーにいたので、クィディッチ練習日と集会日が重ならないよう設定するのは、中々に困難だった。
その上悪天候続きでクィディッチ練習日が日程通り行われる事など早々無く、日程を組み直す事が殆どだったのだ。

だがアンブリッジが目を光らせている今、集会日が不規則なのは却って良かったかもしれない。





「金貨の縁に数字があるでしょう?」





けれど集会日を伝える為に異なる寮の者同士がテーブルを行き来するのは目を引く行為だ。
好ましくない状態にハーマイオニーは直ぐ様対応した。
四回目の集会を迎えた日、「ハーマイオニーの対応」の為に少し早めに切り上げた。





「本物のガリオン金貨には、それを鋳造した小鬼を示す続き番号が打ってあるだけです。
だけど、この偽金貨の数字は、次の集会の日付けと時間に応じて変化します。
日時が変更になると、金貨が熱くなるから、ポケットに入れておけば感じ取れます。
一人一枚ずつ持っていて、ハリーが次の日時を決めたら、ハリーの金貨の日付けを変更します。私が金貨全部に「変幻自在」の呪文をかけたから、一斉にハリーの金貨をまねて変化します。」





見本に一枚金貨を掲げて、ハーマイオニーは説明した。
しかし賛成する声も質問する声も上がらない。
皆じっとハーマイオニーを見ている。
ハーマイオニーは自信を失ったように萎んだ。





「えーっと───いい考えだと思ったんだけど。
だって、アンブリッジがポケットの中身を見せなさいって言っても、金貨を持ってる事は別に怪しくないでしょ?でも……まあ、皆が使いたくないなら───」



「君、『変幻自在術』が使えるの?」
テリー・ブートが尋ねた。



「ええ。」



「だって、それ……それ、NEWT試験レベルだぜ。それって。」



「ああ、
ええ……まぁ……うん……そうでしょうね。」



「君、どうしてレイブンクローに来なかったの?その頭脳で?」



「ええ、組分け帽子が私の寮を決める時、レイブンクローに入れようかと真剣に考えたの。
でも、最後にはグリフィンドールに決めたわ。それじゃ、ガリオン金貨を使っていいのね?」





今度は賛成の声が上がった。
皆が続々と進み出て、ハーマイオニーが用意したバスケットの中から、本物そっくりの金貨を一枚ずつ取っていく。





「あのね、僕これで何を思い出したと思う?」





名前が金貨を眺めている隣で、ハリーは静かにそう言った。
名前は金貨からハリーに顔を向ける。
ハリーはハーマイオニーを見ていた。





「分からないわ。何?」



「『死喰い人』の印。
ヴォルデモートが誰か一人の印に触ると、全員の印が焼けるように熱くなって、それで集合命令が出た事がわかるんだ。」



「ええ……そうよ。実はそこからヒントを得たの……
でも、気が付いたでしょうけど、私は日付けを金属の欠けらに刻んだの。団員の皮膚にじゃないわ。」



「ああ……君のやり方のほうがいいよ。
一つ危険なのは、うっかり使っちゃうかもしれないってことだな。」
金貨をポケットに忍ばせて笑った。



「残念でした。
間違えたくても本物を持ってないもの。」





偽金貨を切なげに見詰めて、ロンは悲しそうにそう言った。
けれど折角準備したこの金貨が本領を発揮するのは後々の事になりそうだ。
クィディッチ試合が近付いているのである。
集会は一時的に休み、その代わり選手の練習に捌かれた。

最初はグリフィンドール対スリザリンの試合だ。
昨年は三校対抗試合でお預けを食らったせいだろう。
誰も彼も妙に燃え上がっている。





「あなた方には、今、やるべき事が他に沢山ある事と思います。」





グリフィンドール寮監、マクゴナガルもその一人である。
試合の一週間前になると、今まであれだけ大量に出していた宿題をピタリとやめた。

そしてマクゴナガルはハリーとロンを見詰めて、真剣にこう続けた。





「私はクィディッチ優勝杯が自分の部屋にある事にすっかり慣れてしまいました。
スネイプ先生にこれをお渡ししたくはありません。ですから、時間に余裕ができた分は、練習にお使いなさい。二人とも、いいですね?」





スネイプの名前が出ると、ハーマイオニーは横目でチラリと名前を見た。
「好きがどういう好きか調べましょう」と提案されてから二週間以上経過したが、未だに名前は答えを出していない。
ハーマイオニーはその人の事を考えるだけであって難しい事じゃないと言ったが、名前は考えるだけでも難しかったのだ。
気恥ずかしくてそれどころではなくなる。





「それってやっぱり相当よ。」





クィディッチ練習でハリーやロンがいない時を見計らい、名前は素直に白状した。
ハーマイオニーは呆れた様子だ。
そしてやはり恋愛から離れていない。





『……そうかな。……』



「ええ。まあ確かに、スネイプとデートだなんて想像するのも難しいでしょうけど。
でも、私やハリーだったらどう?ロンだったら?
例えば、二人きりでホグズミードに行ったりしたら?」



『……』
想像を膨らませているようだ。
『楽しいだろうな。』



「そういう事よね。」





ハーマイオニーは腕組みし、重々しく頷いた。





「とっても申し訳無いけど私、どこが良いのかサッパリ分からないの。
憧れであれば、まだ納得出来るけど。」



『……』





返す言葉が出て来ない。

最近のスネイプといえば、クィディッチ練習の為に競技場を頻りに予約し───
(そのせいでグリフィンドールは圧倒的に練習量が少ない)
───スリザリン生がグリフィンドールの選手に呪いをかけようとした、実際呪いをかけた、と申し立てる生徒が大勢いたのに素知らぬ顔である。
挙句の果てには自分で自分に呪いをかけたのだろうと言う始末。





「おい、ポッティ、ワリントンがこの土曜日には、必ずお前を箒から叩き落とすって言ってるぞ。」





当然こんな嫌がらせも知らんぷりだ。
クィディッチに限らずスリザリンは大抵この調子だが。





「ワリントンは、どうにもならない的外れさ。
僕の隣の誰かに的を絞ってるなら、もっと心配だけどね。」





ハリーはずっと耐えてきた。だから笑って見せた。
ロンとハーマイオニーも笑った。
名前だけは相変わらず無表情だったが。
パンジー・パーキンソンの笑みは消し飛んだ。

問題はロンである。悪口や脅迫を受けた経験が無い。
いつも矛先はハリーに向けられていた。
それにハリーに負けず劣らず直情径行型で分かりやすい。
悪口を受ければ顔が真っ赤になるし、脅迫を受ければ真っ青になった。

十一月に入ると気温はぐっと下がる。
遠くに見える山々は雪を積もらせ、芝生は凍り、地面には霜柱が輝く。
その日の最高気温が十度を下回るなんて珍しくもない。
屋外に出ると刺すような痛みさえ感じる。
校内にも冷気が漂っていた。





『……』





クィディッチ試合日、空を見上げると薄曇りだった。
早朝のロードワークとシャワーを終えて、名前は防寒対策バッチリの状態で大広間へと向かう。
校内が冷え込むので移動する時は、殆どの生徒がマフラーや手袋を身に着けているのだ。





『……』





大広間に足を踏み入れると目がチカチカした。
生徒がスリザリンとグリフィンドール、それぞれの寮のイメージカラーを身に着けていたからだ。

しかもスリザリンの方は王冠の形をした銀色のバッジを付けていて、それが照明を反射して眩しいったらない。

名前はなるべく光を見ないよう目を細めて、グリフィンドールの長テーブルに沿って歩く。
すぐにハリーとロンを見付けた。
皆、赤と金の何かしらで装っていたので、普段通りの二人は見付けやすい。
向かいを見るとハーマイオニーとジニーが座っている。
此方は赤と金色のスカーフに手袋、バラの花飾りを身に着けている。





『おはよう。』



「おはよう、ナマエ。」





ロン以外は顔を上げて挨拶を返した。
目の前の皿に少し牛乳が残っている所を見ると、コーンフレークか何か一応食事は摂れたようだが、ロンは項垂れて微動だにしない。





『ロン、大丈夫か。』



「死にそうだよ……。」



『……』





口を開くのもつらそうだ。
名前はロンの隣に腰掛けた。
食事を摂らなければいけないが、名前まで緊張してくる。
手近なゴブレットにミルクを注ぎ、自分の皿に少しだけサラダを取り分けた。

十分程経った頃、ハリーが立ち上がった。
競技場へ行って着替えなければならないからだ。
食事を済ませていたので、名前とハーマイオニーも立ち上がる。
大広間の扉へ向かう途中、ハーマイオニーはハリーの腕を引っ張って口を寄せた。





「スリザリンのバッジに書いてある事をロンに見せないでね。」





ハリーは不思議そうにハーマイオニーを見たが、首を左右に振るだけで答えない。
ロンがゾンビのように覚束ない足取りでやって来たからだ。
顔色もゾンビのように血の気が無い。





「頑張ってね、ロン。」





血の気の無い頬に、ハーマイオニーは爪先立ちになってキスをした。
そしてハリーに向き直る。





「あなたもね、ハリー。
ナマエ、観客席に行きましょう。」



頷く。
『ハリー、ロン。幸運を祈る。』





大広間前の扉で分かれ、ハーマイオニーと名前で廊下を進む。





『バッジに何て書いてあったの。』



「ウィーズリーこそ我が王者。
気になってたんだけど、その指どうしたの?火傷みたいに見えるわ。」





スリザリンのメッセージだ。とても前向きには受け取れない。
何故ハリーではなくウィーズリーと名指ししたのか、その意味を考える間も置かず、ハーマイオニーが名前の左手を掴み上げる。
指だけでなく手の甲も所々赤く、まだら模様になっていた。





『ちょっと。』



「ちょっと何?」



『……やりたい事があって、その時にちょっと失敗した。』



「アンブリッジがナマエに何かしたわけじゃないのね。それで、やりたい事って?」



『……』
首を傾げる。
『自主訓練のようなもの。』



「何で首を傾げたのか理由が気になるけれど。まあ、向上心があるのは良い事だわね。
でもちゃんと治療をしなきゃダメよ。消毒だけじゃなくて、ケアもしっかりね。」



『ああ、うん。』





玄関ホールを出ると刺すような冷気が体を包み込んだ。
二人は身を縮こまらせ石段を下りる。
競技場の観客席へ続く階段を上り、グリフィンドールの観客席へ向かった。

席に落ち着いて城の方を見る。
大勢の生徒が長い列を為して競技場へ向かってきていた。
やって来た生徒が次々席を埋めていく。
あっという間に観客席が人で満杯になり、いよいよ選手入場となった。

まずはスリザリンのチームだ。
更衣室から出てきたスリザリン・チームが、眼下の芝生の上を威風堂々と歩いて登場した。
スリザリンの観客席から歓声が湧き起こる。
選手が中央の位置に着くと、次はグリフィンドール・チームの入場だ。





『……』





グリフィンドールの選手はスリザリンよりも大きな歓声で迎えられた。
歓声の中にスリザリン観客席からのブーイング、そして歌うような声が聞こえてくる。

スリザリン・チームとグリフィンドール・チームが対面した。
あの大柄はクラッブとゴイルだろう。やる気満々で
ビーター棍棒を振り回している。

審判役のマダム・フーチが何事か声を掛けると、キャプテンのアンジェリーナとモンタギューが歩み寄って握手した。
それから選手は箒に跨り、マダム・フーチのホイッスルを合図に、ボールと選手が空へと飛んだ。





「さあ、ジョンソン選手───ジョンソンがクアッフルを手にしています。
何という良い選手でしょう。僕はもう何年もそう言い続けているのに、あの女性はまだ僕とデートをしてくれなくて───」



「ジョーダン!」





リー・ジョーダンのおふざけに素早くマクゴナガルが対応する。
クィディッチ試合の時には大抵この漫才のような解説が聞ける。
彼方此方で笑いが起こるのだから、おそらく楽しみにしている者も多いだろう。





「───ほんのご愛嬌ですよ、先生。盛り上がりますから───
そして、アンジェリーナ選手、ワリントンを躱しました。モンタギューを抜いた。そして───
アイタッ───
クラッブの打ったブラッジャーに後ろからやられました……モンタギューがクアッフルをキャッチ。
モンタギュー、ピッチをバックします。そして───
ジョージ・ウィーズリーからいいブラッジャーが来た。ブラッジャーが、それっ、モンタギューの頭に当たりました。
モンタギュー、クアッフルを落とします。ケイティ・ベルが拾った。
グリフィンドールのケイティ・ベル、アリシア・スピネットにバックパス。スピネット選手、行きます───アリシア───
───ワリントンを躱した。ブラッジャーを躱した───
危なかった、アリシア───
観客が沸いています。お聞きください。この歌は何でしょう?」

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