09.-2


「あのさあ。さっき、ハリーの傷痕が痛んだらしいんだ。それでその時、『例のあの人』の感情が伝わってきたって言ってた。
ナマエ。君、何か感じたわけじゃないんだね?」



『何も無い。』



「感情じゃない。気分だ。」



「似たようなものだよ。『あの人』は怒ってるんだろ?」



「ああ。そう言っただろ?やつは何かをさせたがっている。それなのに、なかなかうまくいかない……。」



『……
ハリー、痛むか。』



「まあね。でも峠は越えたと思うな。」





それでもまだそこそこ痛むらしい。
額を擦り、ハリーは顔を顰めた。

じっと、名前はハリーを見詰める。
一瞬チラとネスを見て、それからまたハリーを見た。





『おまじない、やるか。』





ハリーとロン、そしてネスが名前を見る。
ハリーは不安そうで、ロンは訳が分からないというふうな表情だ。





「オマジナイ?」



「ナマエ、僕、この傷痕に効く魔法があるとは思えないんだけど……。」



「なあ、何の話をしてるんだ。おまじない?」



「傷痕が痛んだらおまじないをするから教えてって、ナマエにそう頼まれてたんだよ。」



「へえ。癒術呪文か何かかい?」



『いや。痛みを取り除くだけだ。』



「痛みを取り除く……。うーん……
ナマエ、正直僕も見込みが無いと思う。ハリーの傷痕に効果あるかな……。」



『両親が俺にしてくれた事がある。その時は効果を感じた。』



「ふーん……まあ、
やってみるだけやってみたらどうだ?ハリー。」



「……うん、そうだね。よく分からないけど、まあ、ちょっとでもマシになれば、宿題も捗るだろうな。
ナマエ、やってみてくれるかい。」



『うん。』





開いていた本に栞を挟み、パタンと閉じる。
立ち上がって椅子の上に本を置いた。

歩み寄ってハリーの前に立つと、顔の高さが同じになるよう屈み込む。
鼻先がくっつき合いそうな程に近い。





「な、何するの?」
ロンの声が上擦っている。



『おまじない。』



「だって、杖は?」



『使わない。』





額にかかる前髪を除ける。
ハリーは不安そうに名前を見詰めた。
名前は相変わらずの無表情だ。





『ちちんぷいぷい。』



「……へェッ?」



『痛いの痛いの飛んでいけ。』





額の傷に唇を寄せる。
触れるだけのキスをして、すぐに顔を離し、丸めた背中を伸ばした。





『終わり。』



「……」



「……」





二人とも顔を真っ赤にさせて絶句していた。
クィレルが人の姿であれば、多分同じ状態だっただろう。
この場で平然としているのは所行に及んだ名前と、熟睡しているクルックシャンクスだけである。





「な───なン───ナマエ、君───えぇ……?」



「僕、小さな子どもじゃない。」



『そうだね。』



「ナマエ。僕ら男同士で、同年代だよ。」



『分かってる。』



「いいや、分かってないね。
男なんだよ。おかしいと思わないか?」



『父はやってくれた。』



「ああ、そう。分かった。うん。つまりナマエ、君はハリーを家族みたいに思ってるんだな。」



「嬉しいよ。
でも次にやる時は、皆の前ではやらないでね……。」



『……分かった。』





少々不思議そうに首を傾げつつも承知して、名前は元の席へ戻った。
置いていた本を手に取り腰掛ける。





『ハリー、痛いのどうなった。』



「え、」





痛みどころでは無かったハリーは、名前に言われて思い出す。
傷痕に意識を戻し、少しの間、触れたりして確かめた。
するとハリーは驚きに見開いた目で名前を見た。





「痛くない……」



「えぇっ」
ロンが声を上げた。



『よかった。』



「効果あるんだ……スゴいぞ、このおまじない。
ナマエ、僕にも出来るかなあ?」



「ロン、誰にやるの?今のを?」



「ア……自分にさ。怪我した時に。クィディッチの練習の時とか……。便利だろ?」



『それは医務室で治してもらった方がいい。痛みが引くだけで治るわけじゃない。
あと、多分、自分には効果が出ない。』



「うーん、そっかあ……。」





その後暫く。
ハリーとロンは宿題に集中し、名前は読書に勤しんだ。
読書をしているかと思えば、時々助言や間違いをこっそり指摘するので、名前はムーディのように「魔法の目」を持ち、それも沢山あるのではないかと二人が思った程だ。

暫くしてロンが寝室に行くと言った時、ハリーは殆ど進んでいなかったが、名前の申し出も断り、一人談話室に残った。
ロンと名前は二人で寝室へ向かった。

翌日も相変わらず悪天候で、外出など愚の骨頂だと誰もが思った事であろう。
けれど名前はいつも通り日課を済ませてから大広間へ向かった。





「ナマエ、部屋を見付けた。」





名前が挨拶するよりも先にハリーが切り出した。
ハーマイオニーが名前の腕を引っ張って座らせる。





『『防衛術』の。』



「うん、そうだ。夜中にドビーが僕の所へ来た。ヘドウィグの傷が治ったから、連れてきてくれたんだ。それで、……
聞いてみた。先生の目に届かないような部屋があるか。ドビーは学校の事に詳しいだろうし。」



『それで、いい部屋が見付かったのか。』



「うん。『必要の部屋』って呼んでた。
場所は八階の『バカのバーナバス』がトロールに棍棒で打たれている壁掛けの向かい側だ。
先にロンとハーマイオニーに相談したんだけど、今夜八時、そこで会合をする事になった。
僕達は皆よりちょっと早く行く事になるだろうけど。」





朝食を終えて「薬草学」の授業へ向かう為に外へ出た。
雨はザアザア、風はビュウビュウ吹いている。
ぬかるんだ野菜畑を横切る数分の間に、授業を受ける前からあっという間に泥んこになった。
授業中は温室の屋根を喧しく雨が打ち、スプラウトがいくら声を張り上げても何を言っているのか聞き取れない程だ。

さすがにこの天候では授業に支障を来すと先生方が判断したのか、午後の「魔法生物飼育学」は一階の空き教室に変更。
昼食時にはアンジェリーナがクィディッチ・チームの選手を探し、練習は中止だと伝えて回った。





「よかった。
場所を見付けたんだ。最初の『防衛術』の会合は今夜八時、八階の『バカのバーナバス』がトロールに棍棒で打たれている壁掛けの向かい側。ケイティとアリシアに伝えてくれる?」





緊張したように顔を強張らせたが、アンジェリーナは承諾した。
選手探しに戻るアンジェリーナを見送り、ハリーは止めていた食事の手を再び動かす。
不意に顔を上げ、南瓜ジュースの入ったゴブレットに手を伸ばしかけ、ハーマイオニーの視線に気が付いた。
ハリーは口をモグモグ動かしながら尋ねた。





「なン?」




「うーん……ちょっとね。ドビーの計画って、いつも安全だとは限らないし。
憶えていない?ドビーのせいで、あなた、腕の骨が全部無くなっちゃった事。」



「この部屋はドビーの突拍子もない考えじゃないんだ。
ダンブルドアもこの部屋の事は知ってる。クリスマス・パーティの時、話してくれたんだ。」



「ダンブルドアが、その事をあなたに話したのね?」



「ちょっとついでにだったけど。」



「ああ、そうなの。なら大丈夫。」





ダンブルドアの名前は効果てきめんだ。
ハーマイオニーはそれ以上何も言わず、代わりにチラリと隣の名前を見た。
名前は温野菜のニンジンを口に運んでいる。

今夜会合なのだから、兎に角急がなければならない。
昼食後の休憩時間は生徒探しに費やされた。
広い校内を歩き回り「ホッグズ・ヘッド」で集まった二十五人の生徒を探し当て、先生方や他の生徒の目を掻い潜りながら今夜の会合の事を伝えるのは、生半可な精神では困難な事だった。
けれども四人は手分けして事に当たり、夕食が終わる頃には、何とか全員に伝えられた。

夜の七時半。
四人はグリフィンドールの談話室を出た。
警戒しながら八階に向かう。





「止まれ。」





最後の階段まで来ると、ハリーは後ろの三人を押し止めた。
辺りに人気は無い。
ハリーはポケットから羊皮紙を取り出して広げると、杖で表面を叩いた。





「我、ここに誓う。我、よからぬことを企む者なり。」





「忍びの地図」だ。
他の三人が警戒して辺りに目を配らせる中、ハリーは地図に顔を近付けた。





「フィルチは三階だ。
それと、ミセス・ノリスは五階だ。」



「アンブリッジは?」
ハーマイオニーは心配そうだ。



「自分の部屋だ。
オッケー、行こう。」





ハリーの合図で最後の階段を上る。
「必要の部屋」に向けて廊下を進む。

ハリーが止まった。壁掛けの前だ。
「バカのバーナバス」がトロールに棍棒で打たれている絵が飾ってある。
「必要の部屋」はその向かい側。
振り返って見る。
ただの石壁があるだけだ。





「オーケー。」





ハリーが呟くと、絵の中のトロールが此方を見た。





「ドビーは、気持ちを必要な事に集中させながら、壁のここの部分を三回往ったり来たりしろって言った。」





八時まで時間は残されていない。
直ぐ様取りかかった。

ハリーは前を見詰めて、ロンは顔を顰め、ハーマイオニーはブツブツ呟き、名前はやっぱり無表情に。
石壁が続く角から角を歩く。

三度ほど往復した時だ。
石壁に扉が現れた。





「ハリー!」





大慌てでハーマイオニーが呼ぶと、角にいたハリーは駆け寄ってきた。
そして、警戒するように扉を見据えるロンの前に進み出る。
真鍮の取手に手を伸ばし、ゆっくり扉を開けた。

室内はどこの教室よりも広かった。
三十人程で使うにしては広過ぎるくらいだ。
壁際にはずらりと背の高い本棚が並び、ぎっしり本で埋まっている。
一番奥の棚は本ではなく、様々な道具が雑多に置かれている。

床に置かれた大きなクッションの一つを、その弾力と柔らかさを確かめるように、ロンが足で蹴った。






「これ、『失神術』を練習する時にいいよ。」



「それに、見て!この本!
『通常の呪いとその逆呪い概論』……『闇の魔術の裏をかく』……『自己防衛呪文学』……ウワーッ ……。
ハリー、素晴らしいわ。ここには欲しいものが全部ある!」





早速本を引き抜いてクッションに埋もれ、ハーマイオニーは本を読み始めた。

───コンコン。
ノックする音が広い室内に響き、直後扉を開く軋んだ音が続いた。
ジニー、ネビル、ラベンダー、パーバティ、ディーンの五人が連れ立ってぞろぞろ入ってくる。





「フワーァ。ここは一体何だい?」





ディーンは目を輝かせて辺りを見回した。
ジニーやネビル達も夢中になって見渡している。

説明の為にハリーが近付いて行った。
その短い間にもどんどん人が入ってきたのできりがない。
全員が集まるのを待った。

八時になる前に全てのクッションが人で埋まった。
人数と顔を確認して名前が頷くと、ハリーは扉に向かい鍵を掛ける。
皆の方へ振り返ると、全員がハリーを注目していた。
ハーマイオニーも本に栞を挟み、読むのを止めてハリーを見た。





「えーと、」





ハリーは緊張して強張った顔で皆の顔を見渡した。
そして一度通り過ぎたはずの名前を見る。
「座ってないでこっちへ来い」という無言の願いだ。
名前はハリーの方へ向かって隣に立った。
それだけでも幾分、ハリーは安心したようだった。





「ここが練習用に僕達が見付けた場所です。それで───皆は───えー───
ここでいいと思ったみたいだし。」



「素敵だわ!」
チョウが声を上げた。
他の何人かがウンウン同意した。



「変だなあ。」
フレッドは室内を見回す。
「俺達、一度ここで、フィルチから隠れた事がある。ジョージ、憶えてるか?だけど、その時は単なる箒置き場だったぞ。」



「おい、これは何だ?」
ディーンが奥の棚の道具を指差した。



「闇の検知器だよ。」
ハリーが答え、道具の方へ移動する。



『……』
何となく付いていく。



「基本的には、闇の魔法使いとか敵が近付くと、それを示してくれるんだけど、あまり頼っちゃいけない。道具が騙される事がある……。」





そう言ってハリーは曇った鏡の前に立った。
鏡には何体もの人影が現れたり消えたりを繰り返している。

以前似たような鏡を、名前は偽ムーディの部屋で見た覚えがある。
確か「敵鏡」という道具だ。

ハリーは皆の方へ向き直った。





「えーと、僕、最初に僕達がやらなければならないのは何かを、ずっと考えていたんだけど、それで───
あ───
なんだい、ハーマイオニー?」



「リーダーを選出すべきだと思います」
挙手しながら答えた。



「ハリーがリーダーよ。」
素早くチョウが言った。



「そうよ。でも、ちゃんと投票すべきだと思うの。ナマエもいるし。」



『ハリーがいいと思う。』



「ナマエ、あなたの意見は分かったわ。
でも兎に角、それで正式になるし、ハリーに権限が与えられるもの。じゃ───
ハリーが私達のリーダーになるべきだと思う人?」





全員が挙手した。
勿論ハリーの隣に立つ名前もだ。
ハリーは高々と挙がった沢山の手を右往左往見て、ジワジワ顔を赤らめた。





「えー───うん、ありがとう。
それじゃ───なんだよ、ハーマイオニー?」



「それと、名前をつけるべきだと思います。」
手を挙げたまま答えた。
「そうすれば、チームの団結精神も揚がるし、一体感が高まると思わない?」



「反アンブリッジ連盟ってつけられない?」
アンジェリーナが提案した。



「じゃなきゃ、『魔法省はみんな間抜け』、MMMはどうだ?」



ハーマイオニーはフレッドを睨んだ。
「私、考えてたんだけど、どっちかっていうと、私達の目的が誰にも分からないような名前よ。
この集会の外でも安全に名前を呼べるように。」



「防衛協会は?」
チョウが提案した。
「英語の頭文字を取ってDA。それなら、私達が何をを話しているか、誰にも分からないでしょう?」



「うん、DAっていうのはいいわね。」
ジニーが賛成した。
「でも、ダンブルドア・アーミーの頭文字、DAね。だって、魔法省が番恐いのはダンブルドア軍団でしょ?」



「DAに賛成の人?」





賛成する声と笑い声が上がる中、続々と手が伸びる。
ハーマイオニーはクッションの上に膝立ちになって、挙手の数を数えた。





「大多数です───動議は可決!」





ハーマイオニーは立ち上がって壁に向かうと、「ホッグズ・ヘッド」で署名した羊皮紙をピンで止めた。
そして一番上に「ダンブルドア軍団」と書き足す。
ハーマイオニーがクッションに戻ったのを見計らい、ハリー再び口を開いた。





「じゃ、それじゃ、練習しようか?
僕が考えたのは、まず最初にやるべきなのは、『エクスペリアームス、武器よ去れ』、そう、『武装解除術』だ。
かなり基本的な呪文だっていう事は知っている。だけど、本当に役立つ。」



「おい、おい、頼むよ。
『例のあの人』に対して、『武器よ去れ』が僕達を守ってくれると思うのかい?」
ザカリアス・スミスが腕組みし、天を向いた。



「僕がやつに対してこれを使った。
六月に、この呪文が僕の命を救った。

だけど、これじゃ君には程度が低すぎるって思うなら、出ていっていい。」





ザカリアスの「やれやれ」というポーズに苛々するでもなく、怒鳴るでもなく、ハリーは冷静だった。

ザカリアスも、他の誰も動かない。
じっとハリーを見詰めている。





「オーケー。
それじゃ、全員、二人ずつ組になって練習しよう。」





空気を変えるようにハリーは少し明るい声を出した。
全員が腰を上げて立ち上がり、早速組を作る。
ごちゃごちゃと人が入り交じる中、セドリックが真っ直ぐ此方へやって来た。





「やあ、ナマエ。君と組になってもいいかな。」



『……
はい。』





取り残されたネビルの方へ向かうハリーを確認してから、名前はセドリックに頷いた。





「よーし───
三つ数えて、それからだ───」





ハリーが大きな声を出して伝える。
少し距離を置いて、杖を構える。





「いーち、
にー、
さん───」





ハリーの合図で「武装解除術」が一斉に唱えられた。
瞬く間にセドリックの杖が弾き飛ぶ。
回りを沢山の杖が同じように空を舞った為、どれが自分の物か見失う始末だった。
けれどセドリックは驚きに目を見開き、次いで悔しそうに顔を顰め、最後に笑った。





「さすがに素早い。」



『……』





空中でクルクル回るセドリックの杖を「呼び寄せ呪文」でキャッチして、本人へ歩み寄り手渡す。
褒められ慣れていないのだろう。
名前は戸惑うように目を泳がせた。





『ありがとうございます。でも、セドリックさんは今後必ず上達します。
それに、セドリックさんが本調子であれば、結果は変わっていたと思います。』



「ありがとう。頑張るよ。───おっと。」





当たり損ねた呪文が二人の間を通って本棚に当たった。
何冊かの本がバラバラと床に落ちる。
本を拾い上げて元に戻し、名前とセドリックは周囲を見た。

狙った相手に呪文が届かない。
呪文が逸れる。
力が弱くて武装解除に至らない───。
ざっと見るだけでも十分な成功をさせた者はいなかった。

眺めている人混みの中から、ハリーがネビルを連れて此方へやって来る。





「ネビルとセドリックで練習してくれるかい?
他の皆がどんなふうにやってるか、見回ってくるから。」



「分かったよ、ハリー。
よろしく、ネビル。」



「うん、此方こそ……。」



「ナマエ、行こう。」



『……』
頷く。





二人から離れ、ハリーと名前は部屋の中央に進み出た。





「ナマエはこっちの列から見て回って。僕はこっちから見る。いいかい?」



『分かった。』





総勢三十名。内二人は先生役のハリーと名前。
残り二十八名が二人組になると、十四組出来る計算だ。
その十四組は誰が指図したわけでもないのに、中央を道として空け、左に七列、右に七列、キレイに分かれている。

名前とハリーは左右に分かれ、二人組の様子を見て回る。
途中でハリーと入れ替わり、最後に最初の場所で合流した。





「オーケー、やめ!
やめ!やめだよ!」





いくら声を張り上げても練習に夢中な彼らの耳には届かない。
そうでなくても物音が多いこの環境で、ただ大声を出すだけでは限界がある。

本の上にホイッスルが現れた。
まるで最初からそこにあったかのように置いてある。
ハリーがホイッスルを「必要」だと思ったのだろう。
早速それを取り上げて吹いた。

甲高い笛の音は室内に良く響き、皆が注目した。
ホイッスルを下ろして、ハリーは口を開いた。





「中々よかった。
でも、間違いなく改善の余地があるね。
もう一度やろう。」





再び練習が始まる。
先程と同じように、ハリーと名前は分かれて皆の間を見回った。
ただし今回はただ見るだけではなく、助言をしたり手助けをしたりした。
杖の振るい方、姿勢、呪文の強弱などなどだ。

繰り返しているうちに魔法はより正確に、より強力に変化していく。
それは明らかな変化だった。
皆もその感覚が分かるらしく、先程よりもずっと夢中になっている。





「ねえ、ナマエ。時間は大丈夫?」





ハーマイオニーが心配そうに尋ねた。
腕時計を確認する。





『……九時十分。』



「ああ、大変。もう寮に戻らないと……。」



『ハリーに伝えてくる。』





名前は辺りを見渡した。背が高いとこういう時に便利である。
すぐにハリーを見付けた。
部屋の向こう端に、チョウとルーナと一緒だ。
長い足を駆使して大股で歩み寄る。
あっという間に辿り着く。





『ハリー。時間だ。』



「えっ?」





背後から急に現れたせいか、ハリーは名前が何と言ったか分からないようだった。
名前が『時間』と繰り返すと、ハリーはようやく時計を見る。

九時十分過ぎ。
五年生が廊下に出てよい時間は九時までだ。
罰則の恐れがある時間である事、そして一時間以上経過している事に、ハリーは驚いた様子だった。

ハリーはホイッスルを吹いた。
皆が注目するのをざっと確認して、ハリーは口を開く。





「うん、とってもよかった。
でも、時間オーバーだ。もうこのへんでやめた方がいい。来週、同じ時間に、同じ場所でいいかな?」



「もっと早く!」





もどかしそうにディーン・トーマスが叫んだ。
同意する生徒も多かった。
けれど間髪を入れずアンジェリーナは言った。





「クィディッチ・シーズンが近い。こっちも練習が必要だよ!」



「それじゃ、今度の水曜日だ。練習を増やすなら、その時決めればいい。
さあ、早く出よう。」





来た時と同じように「忍びの地図」を頼りに、ハリーは八階に誰もいない事を確認する。
誰もいない事が分かると皆を三人から四人ずつ部屋の外へ出した。
皆が無事寮へ辿り着いたのを見届けて、ハリー、名前、ロン、ハーマイオニーも外へ出る。





「ほんとに、とってもよかったわよ、二人とも。」



「うん、そうだとも。」





力強く同意して、ロンは扉を見た。
瞬く間に石壁へ戻っていく。





「僕がハーマイオニーの武装解除したの、見た?」
ハリーと名前の顔を交互に見る。



「一回だけよ。
私の方が、あなたよりずっと何回も───」



「一回だけじゃないぜ。少なくとも三回は───」



「あーら、あなたが自分で自分の足に躓いて、その拍子に私の手から杖を叩き落としたのを含めればだけど───」





ハリーは「忍びの地図」を見るのに忙しく、二人の話を全く聞いていない。
残された名前が二人の話を受け止めていたわけだが、二人は談話室に戻るまでずっと言い争っていた。

- 226 -


[*前] | [次#]
ページ:




×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -