07.-1


「闇の魔術に対する防衛術」を教える先生になって欲しい。

そうハーマイオニーに話を持ち掛けられてから優に二週間が経過した。
この二週間で勉強の難易度や宿題の量など、ようやく様々な生活サイクルに慣れてきた頃だった。
月日の経つのは早いもので、今や九月も下旬である。





「どうかしら。『闇の魔術に対する防衛術』の事。
ハリー、ナマエ、あれから考えた?」





ある荒れ模様の夜。
図書館で魔法薬の材料を調べている時、ハーマイオニーは出し抜けに切り出した。

読んでいた「東洋の解毒剤」から、ハリーは目を上げてハーマイオニーを見た。
名前も顔を上げたが、やがて首を傾げた。
本を読んでいる所に突然声を掛けられた為、話の内容までは理解していないようだった。





「そりゃ、考えたさ。
忘れられるわけないもの。あの鬼ばばぁが教えてるうちは───。」



「私が言ってるのは、ロンと私の考えの事なんだけど───」





ロンは不本意そうにハーマイオニーを見た。
ハーマイオニーは顔を顰めた。





「いいわよ、じゃ、私の考えの事なんだけど───
あなた達が私達に教えるっていう。」





話の内容を理解したらしい。
名前は首を元に戻し、思案するように視線を泳がせた。

ハリーもすぐには答えず、「東洋の解毒剤」へ目を落とした。
本を持つ手が照明に照らされ、アンブリッジの罰則によって刻み付けられた文字が白く浮かび上がっている。

二週間。名前とハリーは考えていた。
突拍子も無い計画だと思う反面、必要とされていると知ると、頭のどこかで現実的に考えてしまう。
お互い意見を交換する事もあった。それでも一人で考える時間の方がずっと多かったが。
けれど答えは出ない。
やるかやらないか、どちらにも踏み切れないままだ。





「まあね。」
チラリ、名前と目を交わす。



『うん……』
視線を受けて曖昧に頷いた。



「ああ、僕───僕達、少し考えてみたよ。」



「それで?」



「そうだなあ。」



「僕は最初から名案だと思ってたよ。」





前回のように怒鳴る気配が無いと分かり、ロンは普段の調子を取り戻した。
ハリーは座りが悪そうに身じろぎ、名前は目を伏せた。





「幸運だった部分が多かったって言ったのは、聞いたろう?」



「ええ、ハリー。
それでも、あなたが『闇の魔術に対する防衛術』に優れていないふりをするのは無意味だわ。だって、優れているんですもの。
先学期、あなたとナマエだけが『服従の呪文』を完全に退けたし、あなたは『守護霊』も創り出せる。
一人前の大人の魔法使いにさえ出来ない色々な事が、あなたは出来るわ。
ビクトールがいつも言ってたけど───」





ロンは勢い良くハーマイオニーを見た。
勢いが良すぎて首の筋を痛めたらしい。
首を揉みながら口を開いた。





「へえ?それでビッキーは何て言った?」



「おや、おや。……
彼はね、自分も知らないような事を、ハリーがやり方を知ってるって言ったわ。ダームストラングの七年生だった彼がよ。」



「君、まだあいつと付き合ってるんじゃないだろうな?」



「だったらどうだっていうの?」
頬が微かに赤く染まった。
「私にペンフレンドがいたって別に───」



「あいつは単に君のペンフレンドになりたいわけじゃない。」



『……
話の腰を折るようだけど、』





呆れて頭を振るハーマイオニーと、ハーマイオニーから目を逸らさないロン。
二人は名前が話し出すと、そちらに注目した。
ハリーも名前を見た。





『俺は何も成し遂げていない。『守護霊』も創り出せない。
誰かに何かを教えられるほど、知識も経験も無い。』



「ナマエは『守護霊』を出せないの?」
ハリーは意外そうだ。



頷く。
『呪文は知っているけど、使った事は無い。』



「でもね、ナマエ。あなたは知識も経験もあるし、色々な事を成し遂げているわよ。あなたは無い、無いって言うけれど。」



『……』
首を傾げる。



「咄嗟の行動力と判断力がずば抜けていて、魔法もお手本のようだし、それに強力だわ。
それに言ったでしょう?『闇の魔術に対する防衛術』に優れているって。
本当に何も無かったら私だって無理に頼まないわよ。」



『……』
まだ首を傾げている。



「まあね、ハリーの活躍で影になってはいるかもしれないわね。」



「確かに。」



「何だよ、僕が悪いの?」



「ハリー、悪くないわ。ナマエも悪くない。
あなた達二人へ頼んだ理由として重要なのは、勿論『闇の魔術に対する防衛術』に優れている点もあるけど、お互いを補い合う部分にあるの。」



「それって、どういう事?」



「いくら二人が優れていても、先生をやるのに仲が悪かったら上手くいかないでしょう?」



「そりゃあ、そうだろうけど……。」



「つまりね。優れた先生は一人でも多い方が良いって事よ。」





ハーマイオニーは一呼吸置いて、それからハリーと名前を見比べた。





「それで、どうなの? 教えてくれるの?」



「君とロンだけだ。いいね?」



『……』
それなら、と頷いた。



「うーん……。」
ハーマイオニー少し心配そうな顔だ。
「ねえ……ハリー、お願いだから、またぶち切れしたりしないでね……
私、習いたい人には誰にでも教えるべきだと、ほんとにそう思うの。つまり、問題は、ヴォ、ヴォルデモートに対して───
ああ、ロン、そんな情けない顔をしないでよ───
私達が自衛するって事なんだもの。こういうチャンスを他の人にも与えないのは、公平じゃないわ。」



「うん。でも、君達二人以外に僕達から習いたいなんて思うやつはいないと思う。
僕達は頭がおかしいんだ、そうだろ?」



「さあ、あなた達の言う事を聞きたいって思う人間がどんなに沢山いるか、あなた達、きっとびっくりするわよ。
それじゃ、……」





ハーマイオニー周囲を気にしつつ、名前とロンに目配せし、ハリーの方へ額を寄せた。
秘密の話をしようとしているらしい。
名前とロンも額を寄せた。





「ほら、十月の最初の週末はホグズミード行きでしょ?関心のある人は、あの村で集まるって事にして、そこで討論したらどうかしら?」



「どうして学校の外でやらなきゃならないんだ?」



「それはね、
アンブリッジが私達の計画を嗅ぎつけたら、あまり嬉しくないだろうと思うからよ。」





話が終わって各自作業に戻り数分。
名前は読んでいた本から顔を上げた。
腑に落ちないまま承知してしまった事に気が付いたのだ。
しかし皆作業に集中しているし、だからといって後で撤回出来る雰囲気でも無い。
そのまま数秒石のように固まっていたが、やがて本に戻った。
諦めたようだ。

ホグズミードまで一週間も無い。
同じような立場のハリーは、ホグズミード行きを楽しみにしているようだった。
けれど、ホグズミードと言えば。

暖炉にシリウスが現れた時、ホグズミード行きを仄めかすような発言があった。
引き止めた事が気に触ったのか以後音沙汰無しだ。
ハリーはホグズミード行きが楽しみであると同時に、シリウスの事が気掛かりなようで、ポロリと心配だと零した。





「まあな、シリウスが外に出て動き回りたいっていう気持ちは分かるよ。

だって、二年以上も逃亡生活だったろ? そりゃ、笑い事じゃなかったのは分かるよ。でも少なくとも自由だったじゃないか?
ところが今は、あのぞっとするようなししもべ妖精と一緒に閉じ込められっぱなしだ。」





しもべ妖精を貶めた言い方にハーマイオニーはロンを睨んだ。
しかし非難も追及もせず、自分を落ち着かせるように大きく息を吸い込むと、ハリーへ向き直る。





「問題は、ヴォ、ヴォルデモートが───
ロン、そんな顔やめてったら───
表に出てくるまでは、シリウスは隠れていなきゃいけないって事なのよ。
つまり、バカな魔法省が、ダンブルドアがシリウスについて語っていた事が真実だと受け入れないと、シリウスの無実に気付かないわけよ。
あのおバカさん達が、もう一度本当の『死喰い人』を逮捕し始めれば、シリウスが『死喰い人』じゃないって事が明白になるわ……
だって、第一、シリウスには『闇の印』がないんだし。」



「のこのこ現れるほど、シリウスはバカじゃないと思うよ。
そんな事したら、ダンブルドアがカンカンだし、シリウスはダンブルドアの言う事が気に入らなくても、聞き入れるよ。」



『シリウスさんはすごく行動力があるけど、頭の回転が速い賢い人だ。見付かる可能性があると分かっているのだから、そうならないようにするよ。』





三人はそう言ってハリーを励ました。
名前だけは「バレなきゃ平気だ」というふうにも聞こえたが。
そのせいか、ハリーはまだ心配そうだった。
ハーマイオニーは横目で名前を一睨みして(メデューサに睨まれたかのように名前は固まった)、それからもう一度口を開いた。





「あのね、ロンと二人で、まともな『闇の魔術に対する防衛術』を学びたいだろうと思われる人に打診して回ったら、興味を持った人が数人いたわ。
その人達に、ホグズミードで会いましょうって、伝えたわ。」



「そう。」



「心配しない事よ、ハリー。
シリウスの事がなくたって、あなたはもう手一杯なんだから。」





ハーマイオニーの言葉はもっともだ。
慣れてきたとはいえ宿題はやっと追い付いている状態だし、加えてクィディッチの練習もある。
ロンにいたってはその上監督生の仕事もあったので、ハリーより忙しそうだった。

不思議なのはハーマイオニーである。
彼女は誰よりも授業を取っていた。当然それだけ宿題も相当量出ているはずだ。
なのに全部済ませていたし、編み物の時間までも確保している。近頃は編み物の腕も上達してきていた。
それに付き合う名前の腕も勿論の事である。



幸いホグズミード行きの日は快晴だった。
朝食の後で行列に並び、フィルチのチェックを受ける。
フィルチはハリーの番になると、顔を近付けて犬のように匂いを嗅いだ。
それから渋々頷き、ハリーを通した。

石段を下りて外に出ると、途端に冷たい風が吹き付ける。
風は強く絶えず吹き、何度直しても髪の毛を掻き混ぜた。





「あのさ───
フィルチのやつ、どうして君の事フンフンしてたんだ?」





校門に繋がる道を歩きながらロンが聞いた。
遮蔽物の無い馬車道で、容赦無く風が叩き付けてくる。
もう容姿を気遣う気力は無い。
名前達四人の髪は鳥の巣状態だ。





「糞爆弾の臭いがするかどうか調べてたんだろう。」
小さく笑った。
「言うの忘れてたけど……」





そう前置きして、ハリーはシリウスに手紙を送った時にあった出来事を話し出した。
何でも、手紙を出した直後フィルチがやって来て、手紙を見せろとハリーに迫ったと言う。





『手紙を出した後で良かったね。』



「本当、間一髪だったよ。」



「あなたが糞爆弾を注文したと、誰かが告げ口したって、フィルチがそう言ったの?でも、一体誰が?」



「さあ。
マルフォイかな。面白い事になると思ったんだろ。」



「マルフォイ?うーん……
そう……
そうかもね……。」





台詞と表情が裏腹だ。
校門を抜けてホグズミードに到着するまで、ハーマイオニーはずっと考え込んでいた。
到着しても考え続けるので、ハリーが声を掛ける。





「ところで、どこに行くんだい?『三本の箒』?」



「あ───ううん。違う。あそこはいつも一杯で、とっても騒がしいし。皆に、『ホッグズ・ヘッド』に集まるように言ったの。
ほら、もう一つのパブ、知ってるでしょ。表通りには面してないし、あそこはちょっと……ほら……胡散臭いわ……
でも生徒は普通あそこには行かないから、盗み聞きされる事もないと思うの。」



『……』





「三本の箒」は人が一杯で騒がしい。
という理由で候補から除外されたのであれば、「ホッグズ・ヘッド」は人が少なく静かなのだろう。
今回の会合を良く思わない生徒に話を聞かれる心配は無いかもしれないが。

その状況は名前達の存在を目立たせるだろうし、「ホッグズ・ヘッド」に居合わせた人々には話が筒抜けになるだろう。
もしもその中の誰かが学校へ連絡でもしたら当然アンブリッジの耳に入る。





『……ハーマイオニー、『ホッグズ・ヘッド』の人は安全なの。その……
……学校に連絡したり、』



「多分、大丈夫よ。身に覚えがあるような人達ばっかりだもの。叩けば埃が出るような事を進んでやったりはしないでしょう。」





一抹の不安が過りながらも、もう後戻りは出来ないのだ。
名前はハーマイオニーに付いて歩いた。

表通りをひたすら進み、「ゾンコの魔法悪戯専門店」、郵便局を通り過ぎて、薄暗い路地に入る。
入った途端、雑踏のボリュームが小さくなった。
表通りのような人気は全く無い。
どこを見ても廃墟の如く寂れている。

行き止まりに辿り着くと、そこが「ホッグズ・ヘッド」だった。
小さな宿屋だ。ここも同じように寂れている。
扉の上に腕木が突き出し、朽ち果てた木の看板が揺れている。
扉の前で四人は顔を見合わせた。





「さあ、行きましょうか。」





声音からハーマイオニーの不安を感じ取り、ハリーが先行してドアノブを捻った。
扉を潜った瞬間、獣のような匂いが鼻を突いた。
そして名前はクシャミを連発した。

ムズムズする鼻を押えて室内を見回す。
窓は黴か埃か黒く汚れ、室内は薄暗い。
テーブルの上に殆ど溶けた蝋燭が置いてあったが、照明としてはあまり役に立っていないようだ。
どこもかしこも埃でコーティングされている。
床なんて埃が踏み固められ、ちょっとした絨毯だ。





『……』



「ほんとにここで良かったのかなあ、ハーマイオニー。」





数人の客を用心深く観察しながら、ハリーはそう呟いた。
名前も客を注視していた。
バーに包帯ぐるぐる巻きの男がいたからだ。

ハーマイオニーに話を持ち掛けられた事はクィレルに相談したが(「私は良い考えだと思いますよ」と反対されなかった)、今回の会合の事は伝えていない。
だがハーマイオニーはロンと二人で、「闇の魔術に対する防衛術」を学びたいだろうと思われる人達の間を回ったと言っていた。
一週間あったのだ。
ネスの姿で飛び回るクィレルが、その際に会合の事を聞き付けても不思議ではない。





『……』





包帯男は名前の視線など素知らぬ様子で、口を覆う包帯の隙間から、煙が湧き上がる液体を飲んでいた。
ただのそっくりさんかもしれない。名前は目を逸らした。

窓際のテーブルにはフードを被った二人が座り、強いヨークシャー訛りで話している。
暖炉脇の片隅には天辺から爪先まで黒いベールに身を包んだ魔女がいた。
ハリーは特にこの魔女を見ていた。





「もしかしたら、あのベールの下はアンブリッジかもしれないって、そんな気がしないか?」





カウンターの方へ向かいつつ、ハーマイオニーは魔女を観察した。





「アンブリッジはもっと背が低いわ。
それにハリー、たとえアンブリッジがここに来ても、私達を止める事は出来ないわよ。何故って、私、校則を二回も三回も調べたけど、ここは立ち入り禁止じゃないわ。
生徒がホッグズ・ヘッドに入ってもいいかどうかって、フリットウィック先生にもわざわざ確かめたの。そしたら、いいって仰ったわ。ただし、自分のコップを持参しなさいって強く忠告されたけど。
それに、勉強の会とか宿題の会とか、考えられる限り全て調べたけど、全部間違いなく許可されているわ。
私達がやっている事を派手に見せびらかすのは、あまりいいとは思わないけど。」



「そりゃそうだろ。特に、君が計画してるのは、宿題の会なんてものじゃないからね。」





カウンター裏の部屋から老年の男性が現れた。
四人の方へゆっくりした足取りで近付いてくる。
長い白髪の顎ひげを蓄えた、偏屈そうな爺さんだ。





「注文は?」



「バタービール三本お願い。」





どうやらこの老人がバーテンダーのようだ。
カウンターの下に手を入れ、瓶を四本、カウンターにドンと置いた。





「八シックルだ。」



「僕が払う。」





ハリーが銀貨を渡すと、バーテンはハリーを観察するように隅々まで目を走らせた。ー瞬、額の傷痕に目を止めたように見えた。
それから目を逸らして、受け取った銀貨を木製のレジの上に置く。
引き出しが勝手に開いて銀貨を収めた。

バタービールを持ってバー・カウンターから離れる。店内は狭かったが話を聞かれない為に、少しでも奥のテーブルを選んで向かった。
どこも薄汚れていたがそれでも椅子に腰掛けて、周囲を見渡す。





「あのさあ、」





カウンターの方を見ながら、ロンは声音にワクワクを滲ませて呟いた。
カウンターの方では、包帯男が拳でカウンターをコンコン叩き、バーテンから煙を上げる飲み物を受け取っている。





「ここなら何でも好きなものを注文出来るぞ。あの爺さん、何でもお構い無しに売ってくれるぜ。
ファイア・ウィスキーって、僕、一度試してみたかったんだ───」



「あなたは監───督───生です。」



「あ。
そうかぁ……。」



「それで、誰が僕達に会いにくるって言ったっけ?」



「ほんの数人よ。」





時計を確かめてからハーマイオニーは、心配そうにドアの方を見た。
ハリーがバタービールを開けて飲んだので、名前も飲もうと瓶を掴む。
しかし瓶も埃で覆われ、更に蓋が錆びていた。
それを見て名前は動きを止める。
多分、消費期限について考えているのだ。





「皆に、大体この時間にここに来るように言っておいたんだけど。場所は知ってるはずだわ───
あっ、ほら、今来たかもよ。」





扉が開き、室内に光が射し込んだ。
入ってきた人影に遮られて消える。

先頭はネビル。続いてディーンとラベンダー。
その後ろにパーバティとパドマ・パチル、チョウ・チャンが女友達の一人を連れて入ってきた。
それからルーナ・ラブグッド。ケイティ・ベル、アリシア・スピネット、アンジェリーナ・ジョンソン、コリンとデニスの兄弟、アーニー・マクミラン、ジャスティン・フィンチ-フレッチリー、ハンナ・アボット。

名前を知らない、長い三つ編みを一本背中に垂らしたハッフルパフの女子生徒。
レイブンクローの男子生徒である、アンソニー・ゴールドスタイン、マイケル・コーナー、テリー・ブート。
次はジニーと、鼻先が上を向いた痩せぎすで背の高いブロンドの男の子。
確かハッフルパフのクィディッチ・チームの選手だ。

そして最後はジョージとフレッド、リー・ジョーダンのコンビだ。
三人共ゾンコの商品を詰め込んだ紙袋を持っている。





「数人?
数人だって?」



「ええ、そうね、この考えはとっても受けたみたい。」





集まった人数に驚き、ハリーの声は掠れていた。
ハーマイオニーの声は元気に弾んでいる。





「ナマエ、ロン、もう少し椅子を持ってきてくれない?」



「やあ。」





名前とロンが席を立ち椅子を掻き集め始めると、フレッドがバー・カウンターに向かった。

カウンターではバーテンが、布でコップを拭く体勢のまま固まっている。
店に大勢の客が押し寄せて驚いているようだ。

フレッドは気にせず背後の人数を数えていた。





「じゃあ……バタービールを二十五本頼むよ。」





注文の言葉にバーテンは我に返った。
目の前のフレッドを一睨みしてから布とコップを置いて、カウンターの下からバタービールを取り出し始めた。





「乾杯だ。皆、金出せよ。これ全部を払う金貨は持ち合わせちゃいないからな。」





皆はフレッドから配られたビールを受け取り、小銭を探してローブのポケットをまさぐる。
その間も談笑しており、まるで食事時の大広間にいるようだった。

名前とロンは店内を歩いて椅子を運ぶ。





「君は一体、皆に何て言ったんだ?
一体、皆、何を期待してるんだ?」



「言ったでしょ。皆、あなたが言おうと思う事を聞きに来たのよ。ナマエ、あなたもよ。」



『……』





椅子を並べる手を止め、名前はハーマイオニーを見た。
突然話を向けられた為に内容を理解していない。
それに何だかハリーは怒っている。
名前は目をパチパチさせて、ハーマイオニーとハリーを見比べた。





「あなた達はまだ何もしなくていいわ。まず私が皆に話すから。」



「やあ。ハリー、ナマエ。」





ハリーの向かい側にネビルが座った。微笑みかけてくれたが、ハリーも名前も笑い返さなかった。
前者はド緊張で余裕が無く、後者は表情が変わらないので分からない。

ロンの右側にチョウが腰掛け、ハリーに微笑みかけた。
チョウの友達であろう巻き毛の女生徒も腰掛けたが、此方は胡乱げにハリーと名前を見ていた。
その後も着々と生徒が椅子に腰掛け、確実にお喋りが減っていく。
そしてついに全員の視線がハリーと名前に集まった。





「えー、」





皆の顔を見回し、ハーマイオニーは深く息を吸い込む。
緊張で声が震えており、少し上ずっていた。





「それでは、───えー───こんにちは。」





皆の視線がハーマイオニーに集まった。
しかし時々、ハーマイオニーの両隣に座るハリーと名前の方も、チラチラ見ていた。





「さて……えーと……じゃあ、皆さん、何故ここに集まったか、分かっているでしょう。
えーと……じゃあ、ここにいるハリーと、ナマエの考えでは───つまり、
私の考えでは───良い考えだと思うんだけど、『闇の魔術に対する防衛術』を学びたい人が───
つまり、アンブリッジが教えてるようなクズじゃなくて、本物を勉強したいという意味だけど───
───何故なら、あの授業は誰が見ても『闇の魔術に対する防衛術』とは言えません───。
───それで、いい考えだと思うのですが、私は、ええと、この件は自分たちで自主的にやってはどうかと考えました。」





言葉を切って、ハーマイオニーはハリーと名前を横目で見た。
それからまた深く息を吸い込む。





「そして、つまりそれは、適切な自己防衛を学ぶという事であり、単なる理論ではなく、本物の呪文を───」



「だけど、君は、『闇の魔術に対する防衛術』のOWLもパスしたいんだろ?」
マイケル・コーナーだ。



「勿論よ。だけど、それ以上に、私はきちんと身を護る訓練を受けたいの。何故なら……何故なら……」





ハーマイオニーは一際大きく息を吸い込んだ。





「何故ならヴォルデモート卿が戻ってきたからです。」





やにわに騒がしくなった。阿鼻叫喚の嵐だ。
彼方此方で悲鳴が上がり、動揺して何人もバタービールを零した。
この阿鼻叫喚もそう長くは続かない。
騒ぎが治まって皆が落ち着きを取り戻したが、けれど一層興奮気味に目を光らせている。





「じゃ……兎に角、そういう計画です。
皆さんが一緒にやりたければ、どうやってやるかを決めなければなりません───」



「『例のあの人』が戻ってきたっていう証拠がどこにあるんだ?」
ハッフルパフの生徒が言った。



「まず、ダンブルドアがそう信じていますし───」



「ダンブルドアがその二人を信じてるって意味だろ。」
ハリーと名前の方に顎をしゃくる。
それからちょっと考えて、
「いや、三人か。セドリック・ディゴリーも君達と同じだったな。彼は学校に来ていないようだけど。」



「君、一体誰?」
ロンが無愛想に聞いた。



「ザカリアス・スミス。
それに、僕達は、その二人が何故『例のあの人』が戻ってきたなんて言うのか、正確に知る権利があると思うな。」



「ちょっと待って。この会合の目的は、そういう事じゃないはずよ───」



「構わないよ、ハーマイオニー。」





ハリーはザカリアスの顔を睨むように見詰めた。
そして鋭く、突き放すような声で、こう続けた。

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