04.-1


新学期早々に繰り広げられたアンブリッジとハリーの言い争いは、居合わせた生徒の耳だけに留まらなかった。





「セドリック・ディゴリーとナマエ・ミョウジが襲われたのを見たって言ってる……。」

「『例のあの人』と決闘したと言ってる……。」

「まさか……。」

「誰がそんな話に騙されると思ってるんだ?」

「まーったくだ。」





大広間での夕食中。
当事者の周囲にいるのにも拘わらず、無遠慮な視線とひそひそ話が降り注ぐ。

沢山の人間が揃ってお喋りすれば、普通なら当然───聖徳太子のように一斉の話を聞き取れるのなら別だが───会話は断片的にしか聞こえてこない。
けれど彼らは打ち合わせてあったかのように、所々声を強調させて、これみよがしに聞かせたのだ。
当事者がこれを聞いて、アンブリッジの時のように怒鳴りだせば、彼らは話を聞く事が出来る。

ハリーは両手が震え、ついにナイフとフォークをテーブルに置いた。
とても食事どころではない。





「僕には分からない。
二ヶ月前にダンブルドアが話した時は、どうして皆信じたんだろう……。」



「要するにね、ハリー、信じたかどうか怪しいと思うわ。
ああ、もうこんなところ、出ましょう。」





ハーマイオニーもナイフとフォークをテーブルに置いた。
名前はとっくに食事を済ませており、周囲の会話よりも教師陣のテーブルの方を気にしているようだった。

ロンはまだデザートの最中だった。
未練たらたらではあったが、食べ掛けのアップルパイを半分皿に残し、席を立った。

四人が大広間から出る最後まで、視線はピッタリついてきた。















「ダンブルドアを信じたかどうか怪しいって、どういう事?」





黙々と歩いて二階の踊り場まで来た時、ハリーはハーマイオニーに問い掛けた。





「ねえ、あの出来事の後がどんなだったか、あなたには分かっていないのよ。
ハリーだけじゃない。きっとナマエもね。」



『……』





他の誰もいないのに小さな声で言って、ハーマイオニーはチラリと名前を見た。

約束もあるし、クィレルから話を聞いているとは言えるはずもない。
名前はそっと目を逸らした。





「芝生の真ん中に、あなたは動かないセドリックとナマエをしっかり抱えて帰ってきたわ……
迷路の中で何が起こったのか、私達は誰も見てない……
ダンブルドアが、『例のあの人』が帰ってきて二人を襲い、あなたと戦ったと言った言葉を信じるしかない。」



「それが真実だ!
セドリックもナマエも生きている。僕の他に証人が二人もいる!」



「ハリー、分かってるわよ。お願いだから、噛みつくのをやめてくれない?
問題は、真実が心に染み込む前に、夏休みで皆が家に帰ってしまった事よ。それから二ヶ月も、あなたが狂ってるとかダンブルドアが老いぼれだとか読まされて!」





四人はグリフィンドール塔へ向かった。
まだまだ夕食時である現在、石畳の廊下には名前達四人だけが歩いている。

道すがらハリーは時折、額の傷痕に触れた。
雨の日は傷痕が痛むという話があるが、ハリーの傷痕が例外なく当てはまるのかどうかは、名前には分からなかった。

「太った婦人」に続く廊下へやって来た時、ハリーは窓の外を見遣った。
ハグリッドの小屋がある方向だ。
しかし外には明かり一つ見当たらない。





「ミンビュラス ミンブルトニア。」





ハーマイオニーが唱えた。
肖像画が開いた後に現れた横穴を、四人は順によじ登る。
談話室には誰もいなかった。
いるのは肘掛椅子で丸まるクルックシャンクスと、その肘掛部分に止まるネスくらいである。

ネスはピューッと飛んで名前の肩へやって来た。
クルックシャンクスは素早く身を起こし、肘掛椅子から飛び降りる。
尻尾をピンと天井に向けて立てて、ご機嫌な足取りだ。
クルックシャンクスの喉のゴロゴロは大きくて、足元にいても聞こえてくるくらいだった。

暖炉に近寄って、四人は各自好きな椅子に腰掛ける。
他に誰もいないから選び放題だ。
クルックシャンクスは待ってましたとばかりにハーマイオニーの膝に飛び乗って、すぐさま丸まった。





『……』





ネスが体を寄せてきた。
鋭い爪と力強い足を持っているとは思わせない、慎重な力加減で肩を掴んでいる。

甘えたなペットを演じているのか、クィレルの何か意図があっての行為なのか。
分からなかったが、柔らかな羽毛はつい頬を埋めたくなるくらいに名前にとって魅力的だ。

誰も言葉を発さず、談話室は静けさに満ちていた。





「ダンブルドアはどうしてこんな事を許したの?」





唐突に叫んだハーマイオニー以外、全員その場で飛び上がった。

飛び上がったと表現したが、名前は身を強張らせて何事かとハーマイオニーを見遣った程度である。
元は人間である「動物もどき」とはいえ、見た目は動物なのだから、ネスも飛び上がったりはしない。精々膨らませていた体を細くしたくらいだ。
そして同じく動物であるクルックシャンクスも、膝から飛び降りて少々気に入らなさそうに主人を見上げた。

一番のリアクションを見せたのはハリーとロンの二人だろう。
暖炉の火をボーッと見詰めて、すっかり油断していたのだ。
飛び上がった拍子に椅子から落ちかけていた。





「あんな酷い女に、どうして教えさせるの? しかもOWLの年に!」



「でも、『闇の魔術に対する防衛術』じゃ、素晴らしい先生なんて今までいなかっただろ?」





怒り任せに肘掛部分を叩くハーマイオニーを見遣りながら、ハリーはそう言った。

ほつれた糸の隙間から、白い綿が頭を覗かせてきている。





「ほら、なんて言うか、ハグリッドが言ったじゃないか、誰もこの仕事に就きたがらない。呪われてるって。」



「そうよ。でも私達が魔法を使う事を拒否する人を雇うなんて!ダンブルドアは一体何を考えてるの?」



「しかもあいつは、生徒を自分のスパイにしようとしてる。
憶えてるか? 誰かが『例のあの人』が戻ってきたって言うのを聞いたら話しにきてくださいって、あいつそう言ったろ?」



「もちろん、あいつは私達全員をスパイしてるわ。
分かりきった事じゃない。そうじゃなきゃ、そもそもなぜファッジが、あの女を寄越したがるっていうの?」



「また言い争いを始めたりするなよ。
頼むから……黙って宿題をやろう。片付けちゃおう……。」





ハリーのうんざりした様子に、ロンは開きかけた口を閉じた。
そして宿題をやる為に鞄を取りに行って、また元の椅子に座った。





「最初にスネイプのをやるか?」



『いいよ。』





談話室にちらほら他の生徒が戻り始めた。
無遠慮な視線を投げ掛けてくる。

名前は教科書とノートを鞄から取り出す。
ロンは羽根ペンのペン先をインクに浸した。





「月長石の……特性と……魔法薬調合に関する……その用
途。
そーら。」




呟きと共に羽根ペンを動かす。
羊皮紙の一番上にその言葉を書いて、下線を引けば題の完成だ。

ロンは羊皮紙から顔を上げて、名前とハーマイオニーを見た。





「それで、月長石の特性と、魔法薬調合に関するその用途は?」



『……』





教科書もノートも開いた。準備万端だ。
いざ問い掛けに答えようとした時、名前は何やら思い留まってハーマイオニーを見た。

宿題。試験前。
大抵名前とハーマイオニーは教える側で、ハリーとロンは教えられる側である。
名前は分かりやすく説明するのは上手だったが、教え過ぎてしまうのが難点だった。
だからいつもハーマイオニーにセーブされながら教えている。

しかし、ハーマイオニーの意識は別な方向へ向いていた。
眉を寄せて見詰める先には、一年生らしき少グループが椅子に座っている。
そしてそのグループの中に、他の一年生に比べてひょっこりと背の高い三人が混じっていた。
フレッド、ジョージ、リー・ジョーダンの三人だ。





「駄目。残念だけど、あの人達、やり過ぎだわ。」



「僕───なに?」





フレッドは大きな紙袋から何かを取り出し、一年生に配っている。
一年生が口に運んだ所を見ると食べ物のようだが、この悪戯好きの三人が関わると、どうにも素直に食べ物とは思えない。

ついにハーマイオニーは、再び膝で丸まっていたクルックシャンクスを名前の膝に移し、立ち上がった。
けれど三人の行く手を阻むのは憚られたのか、ロンはあからさまに時間稼ぎをしたのだ。





「駄目だよ───あのさぁ、ハーマイオニー───
お菓子を配ってるからって、あいつらを叱るわけにはいかない。」



「分かってるくせに。
あれは『鼻血ヌルヌル・ヌガー』か───それとも『ゲーゲー・トローチ』か───」



「『気絶キャンディ』?」





呟くようにハリーが付け加えた。
一年生が次々に気を失い始めたのだ。
椅子に座っていたから落ちそうになる者もいたし、ぽっかり開いた口から舌を垂らす者もいた。

見物客は笑っていたが、名前は笑えない。
たとえ体に害が無くても、白目を向いて倒れる様は見ていて恐ろしい。
まあ名前は、いつだって無表情なのだが。

フレッドとジョージはクリップボードを手に、一年生の様子を観察している。
そこへハーマイオニーが突進していくのを、ロンは椅子から立ち上がり掛けて、結局止められなかった。





「ハーマイオニーがちゃんとやってる。」





立ち上がり掛けた姿勢のまま、ロンは言い訳のようにそう言った。
そして、ゆっくりと椅子に戻っていった。





「たくさんだわ!」



「うん、その通りだ。
確かに、この用量で十分効くな。」
ジョージが飄々と言い放った。



「今朝言ったはずよ。こんな怪しげなもの、生徒に試してはいけないって。」



「ちゃんとお金を払ってるぞ。」
フレッドの声は失礼なという物言いである。



「関係ないわ。危険性があるのよ!」



「バカ言うな。」
フレッドはちょっと笑った。相当自信があるようだ。



「カッカするなよ、ハーマイオニー。こいつら大丈夫だから!」
リーは一年生の開いた口に、紫色のキャンディをポイポイ放り込んでいる。



「そうさ、ほら、皆もう気が付きだした。」





ジョージが言った通り、一年生は意識を取り戻し始めていた。

床に寝ていたり、椅子から落ちかけていたり。
我が身に何が起こったのか分からず、一様に愕然としていた。
どうやら彼らは、何の説明も無しに食べさせられていたらしい。

ジョージは身を屈め、足元に転がった女の子を助け起こした。




「大丈夫かい?」



「だ───大丈夫だと思う。」



「よーし。」



「よーし、じゃありません!」





ハーマイオニーはフレッドの手から、クリップボードと「気絶キャンディ」を鮮やかに抜き取った。

嬉しそうな顔を一変。
フレッドは怒った顔になった。





「もちろん、よーしだよ。皆生きてるぜ、え?」



「こんな事をしてはいけないわ。もし一人でも本当に病気になったらどうするの?」



「病気になんかさせないさ。全部自分達で実験済みなんだ。これは単に、皆おんなじ反応かどうかを───」



「やめないと、私───」



「罰則を科す?」



「書き取り罰でもさせてみるか?」





フレッドもジョージも挑戦的な笑みを浮かべて見せた。
見物客が笑う。
ハーマイオニーの怒りのボルテージはぐんぐん上がっていく。





「違います。
でも、あなた方のお母さんに手紙を書きます。」



「よせ。」
ジョージが初めて怯えた。
ハーマイオニーから一歩退いたのだ。



「ええ、書きますとも。
あなた達自身がバカな物を食ベるのは止められないけど、一年生に食べさせるのは許せないわ。」





効果は抜群だ。もうフレッドとジョージは挑戦的な笑みなど称えていなかった。
ハーマイオニーはギロリと睨め付けてから、フレッドの手に引ったくった物を返した。
クリップボードと「気絶キャンディ」が手元に戻ってきても、二人はすっかり意気消沈している。

一仕事終えたハーマイオニーは戻ってきた。
先程まで座っていた椅子に腰を沈め、肘掛椅子の中で縮こまるロンを一瞥する。





「ご支援を感謝しますわ、ロン。」



「君一人で立派にやったよ。」





目も合わせないまま、ロンはゴニョゴニョそう言った。

名前の膝で丸まっていたクルックシャンクスが顔を上げた。
主人であるハーマイオニーを見詰め、移動しようかどうか迷っているらしかった。
眠っているところを何度も起こされては堪らないという雰囲気だ。

そんな視線には気が付かず、ハーマイオニーは机の上を見下ろしていた。
机の上にはロンの羊皮紙とインク壷、羽根ペンが置いてある。





「ああ、駄目だわ。もう集中出来ない。寝るわ。」





苛々した声でそう言って、ハーマイオニーは鞄を開ける。
手を突っ込み、中から何かを取り出した。

毛糸で出来た何か、という事は分かる。
形が歪で何の為の物なのかまでは分からない。

取り出したそれを、暖炉脇のテーブルへ置く。
更にその上に書き損じであろう丸めた羊皮紙、折れた羽根ペンを置く。
満足そうに眺めるハーマイオニーを、ロンは不審者でも見るかのような目で見詰めた。





「何をおっぱじめたんだ?」



「屋敷しもベ妖精の帽子よ。」





屋敷しもべ妖精関連でハーマイオニーが行動を起こすとなると、SPEW───しもべ妖精福祉振興協会の事だろう。

ハーマイオニーはテキパキと教科書を鞄にしまい込んでいく。





「夏休みに作ったの。私、魔法を使えないと、とっても編むのが遅いんだけど、学校に帰ってきたから、もっと沢山作れるはずだわ。」



「しもべ妖精の帽子を置いとくのか?
しかも、まずゴミくずで隠してるのか?」



「そうよ。」



「そりゃないぜ。
連中を騙して帽子を拾わせようとしてる。自由になりたがっていないのに、自由にしようとしてるんだ。」



「もちろん自由になりたがってるわ!
絶対帽子に触っちゃダメよ、ロン!」





少々頬を上気させて、ハーマイオニーは女子寮へと消えた。
名前の膝の上からクルックシャンクスが飛び降りて、素早く主人の後を追い掛けていく。

ハーマイオニーの姿が見えなくなってから、ロンは帽子の方へ手を伸ばす。





「少なくとも、何を拾っているか見えるようにすべきだ。」





上のゴミを払い除けて見えるようにした。
歪な形の、毛糸の塊が二つ。
帽子と言われれば、まあ見える。





「兎に角……。
これを今終らせる意味はない。ナマエがこっそり教えてくれるなら別だけど、ハーマイオニーがいないと出来ない。月長石を何に使うのか、僕、さっぱり分かんない。君は?」





羊皮紙を丸めるロンを見つつ、ハリーは返事代わりに首を振った。
その拍子、どこか痛んだかのように顔を顰めた。

明日もきっと宿題が出るだろうし、今夜の内に宿題を一つでも終わらせなければ後々必ず埋め合わせがくるのだ。
そんな来る未来を憂いたのか、もしかしたらどこか本当に痛いのかもしれない。

けれど理由は分からなかった。
ハリーが片付けを始めたからだ。
もうお開きの雰囲気である。





「僕も寝る。」



『……俺も寝る。』





名前が教える事は出来ただろう。
そうすればハリーとロンの宿題は一つ終わり、将来的に多少の負担が軽くなったはずだ。
しかし名前は教え過ぎてしまう。
ハーマイオニーはすぐに見透かすだろう。
そして「甘やかすな」と怒るだろう。

怒られると分かっていてやる名前ではない。
それに、いざという時はハーマイオニーは強力な味方になってくれる。
今夜やらずとも、きっと大丈夫だ。

名前達三人は揃って男子寮へ向かった。
途中、シェーマスの前を通った。
シェーマスはハリーを目で追った。
何か言いたげだった。実際、口を開きかけていた。
けれどハリーは見向きもせず、立ち止まりもしなかったのだ。





『……』





翌日を迎えても天気は相変わらずの雨だった。
しかし名前はいつも通り朝早くからロードワークに赴いている。
さすがに防水対策は施してあったようだが、横殴りの雨により案の定濡れ鼠であった。
融通がきかないというか、ストイックというか。
はたまた、やらなければならないという強迫観念に駆られているのか。
普段通り一足遅れて大広間にやって来た名前を、ハリー達は少々呆れた目で眺めた。

朝の挨拶をしながらハーマイオニーの隣に腰掛けて、ゴブレットにミルクを注ぐ。
空っぽの皿に何を装うか悩んでいるらしい。
テーブルの上に広がる数々の料理を、名前はじっと見下ろした。





『……』





不意に名前の視線は教職員テーブルの方へ流れた。
料理を選ぶ延長線上でそう見えただけかもしれないけれど。

それから視線はやっぱりサラダを選んだ。
サラダの入ったボウルを近付けると、空っぽの皿へ盛り付ける。
そうして、また悩んで料理を眺め回した。
また教職員テーブルの方を見たようだった。
悩んだ末、コーンスープを掬った。名前にしては進歩である。





『……』





フォークを持っていざ食べようとした時、名前は違和感を覚えて動きを止めた。
───妙に静かだ。
いや、大広間はいつも通り、談笑する生徒の声で騒がしい。
特別に名前の周囲が───ハリー達が会話をしていないのだ。

持っていたフォークを下げ、名前はハリー達の顔を見回した。
正面の席に座るハリーと目が合った。
ハリーは、ロンとハーマイオニーをチラリと見遣る。
二人は食事に集中していて見向きもしない。
ハリーはもう一度名前と目を合わせた。
肩を竦めた。うんざりという顔だ。
二人はまた喧嘩をしたらしい。





『何があったんだ。』



「昨日の夜ハーマイオニーが帽子を置いていっただろう?今朝見たら無くなってたらしいんだ。」



『上手くいったんだ。』



「どうかな。兎に角、いつもの事だよ。ロンがからかったんだ。
あれは帽子に見えないし、服のうちに入らない、毛糸の膀胱だって。」



『……。』





授業に向かう途中。
ハリーは名前に、こっそりそう教えてくれた。

ハーマイオニーは午前いっぱい、ロンと口をきかなかった。



最初はフレッドとジョージの口から出たはずだ。
OWLがいかに生徒達を苦しめる試練になるかを。

それが間違い無く正しい事実であると生徒達が認識するのに、大して時間はかからなかった。
先生方はこぞってOWLの重要性について説いたし、授業の端々にOWLの言葉を登場させたからだ。





「皆さんが覚えておかなければならないのは───この試験が、これから何年にもわたって、皆さんの将来に影響するという事です。
まだ皆さんが真剣に将来の仕事を考えた事が無いなら、今こそその時です。
そして、それまでは、自分の力を十分に発揮出来るように、大変ですがこれまで以上にしっかり勉強しましょう!」





授業開始十五分。
フリットウィックは積み上げた本の上に立って、キーキー声で鼓舞するかのようにそう言った。
その後の残り一時間以上、授業は「呼び寄せ呪文」の復習に費やされた。

授業が終わる数分前に復習を切り上げさせると、この呪文は絶対にOWLに出ると言って、過去に例が無い沢山の宿題を出した。
この時点で殆どの生徒がうんざりしていただろう。
少なくともハリーとロンの顔は、ちっとも嬉しくなさそうだった。

しかし悪夢はこれだけに留まらない。
お次は二時限続きの「変身術」だったが、こちらも気力を削ぐのに十分な威力を持ち合わせていた。





「OWLに落ちたくなかったら───刻苦勉励、学び、練習に励む事です。きちんと勉強すれば、このクラス全員が『変身術』でOWL合格点を取れないわけはありません。
ええ、あなたもです、ロングボトム。
あなたは術に問題があるわけではありません。ただ自信が無いだけです。それでは……
今日は『消失呪文』を始めます。『出現呪文』よりは易しい術ですが、OWLでテストされるものの中では一番難しい魔法の一つです。『出現呪文』は通常、NEWTレベルになるまでやりません。」





これまで行ってきた授業だって決して容易なものではなかった。
それなのにその上に難しくなっていると嫌でも体感せざるを得ない。
練習台の蝸牛を消失させるのに生徒の殆どが苦戦して、二時間いっぱい使っても成功した者はハーマイオニーと名前のみだったのだ。
マクゴナガルはこの二人に十点ずつボーナス点を与えて、他の生徒には次回の授業に備えて今夜練習するよう宿題を出した。

大量の宿題を消化しようと、昼休みの一時間は宿題にあてる事となった。
ひとまず片付けるべきは魔法薬のレポートと目星をつけ、ハリーとロンは図書館に向かうと、ハーマイオニーと名前に向かって昼食時にそう宣言した。
あわよくば教えてもらおうという考えが透けて見えていた。
勿論ハーマイオニーはその考えを見抜いていたし、まだロンに腹を立てていたので一緒には行かなかった。
ハーマイオニーが行かなければ名前も教える事は出来ない。
名前はハーマイオニーと共に談話室で宿題を進めた。

四人が再び合流したのは、午後の「魔法生物飼育学」の授業だった。
頭上は濃い灰色の雲に覆われて、時折小雨が降り注ぎ、おまけに冷たい風が吹き荒びローブを通して肌を刺す。
外は連日の悪天候の影響で、地面も芝生もぬかるんでいた。
そんな天候の為か、合流したハリーはまたしかめっ面だった。





『ハリー、体調が悪いの。』



「大した事無いよ。」





その答えは暗に体調が悪いのだと認めているようなものだったが、ハリーはあまり突っつかれたくないらしい。
他に聞き耳を立てる生徒がいるかもしれないからか───
そもそも、他人に打ち明けたくない事なのかもしれない───
兎に角、名前はすぐに引き下がった。

ハグリッドの小屋の近くで、グラブリー-プランクと共に他の生徒の到着を待つ。

学校に続く坂の方から大きな笑い声が聞こえてきた。
反射的にそちらを見る。そこにはドラコ・マルフォイと、その取り巻き達が此方へ向かって歩いてくるところだった。
此方を───名前を───ハリーの方を見ながら。





「皆集まったかね?」





坂の方にいた生徒が全員、小屋の前に集まったようだ。
グラブリー-プランクは生徒をぐるりと見渡した。





「早速始めようかね。
ここにあるのが何だか、名前が分かる者はいるかい?」





グラブリー-プランクは目の前の物を指差した。
長い架台に積み上げられた、大量の小枝だ。
名前の隣、ハーマイオニーの手が素早く挙がった。

二人の背後でマルフォイが悪意あるハーマイオニーの物真似───歯を出っ歯にして、ジャンプする───といったものを披露して、取り巻きの一人であるパンジー・パーキンソンが笑っていたが───
名前は素早く挙がったハーマイオニーの手が胸を打ち、息が詰まってそれどころじゃなかった。

それに背後の様子を確認する暇も無く、パンジー・パーキンソンの笑い声はすぐに悲鳴に変わったのだ。

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