30.


萎れた花を元気にした───という日を境にして、名前は自身の感覚を頼りに、母親から受け継いだ能力の模索に力を入れ始めた。

一年生の時は死者の声、人の心の声を聞いた。
二年生の時は動物の声を聞いた。
三年生の時は、狼になったルーピンと心が通じた瞬間があった。
四年生の時は予知夢を見た。
そして今夏の一件。

どれも無意識で自ら望んだ結果ではない。
これらを意識的に使えるようになれば役立つはずだ。





「力の訓練がしたいだって?」



『はい。』





ジムの無い昼間、午後。
こういう日、クィレルは自然体で過ごしている。
今ものんびりと紅茶を飲んでいたところだ。
しかし名前の申し出に、虚をつかれたように咳き込んだ。
どうやら紅茶がおかしな方へ流れ込んだらしい。

その噎せっぷりに名前はチョコチップ入りのスコーンに伸ばしかけた手を止めて、「大丈夫ですか」なんて心配そうな口振りで、
向かいから隣の席に移動して、遠慮がちに背中を擦る。
相変わらずの無表情で、ちっとも悪びれた風に見えないが。

苦しそうに「すみません」だか「ありがとう」だか言いながらも咳き込んで、ようやく治まった頃、
クィレルは名前を涙目で見た。





「力って、あの、花に使ったような、君のお母さんの、あの力ですか?」



『はい。そうです。』



「そうですか。うーん……。」



『……クィレルさんがお忙しいのは分かっています。だから、俺一人でやります。目立たないように。
ただ、許可がいただきたいだけです。でも、ダメですか。』



「いいえ、ダメではないですが、私がいる時にやりましょう。
少なくとも、初めのうちは。」



『分かりました。』



「ただ、…」





花の一件はダンブルドアの耳へ届いているだろうし、学校外では魔法禁止という制約を例に、名前の能力も禁止やら制限やら当然設けられるものと思われたが。
意外にも訓練は許可されている状況らしい。

訓練は勿論、実技だ。ものによっては危険が付き纏う。
元よりダンブルドアはそれを見越しているだろう。ところがアッサリ許された。
けれどクィレルの返事は、どれも歯切れが悪い。





「ただ、……こんな事は言いたく無いですが、困難だと思いますよ。私は……
ミョウジ。私は可能な限り協力したい。協力したいのは山々なんです。
しかし君のその力は前例がなく、魔法界でも夢物語だと思われるような未知の力です。
指導するような、教えられる事は、残念ながらありません。」



『魔法界に無いのですか。』



「あるかもしれません。
私は教師として過去に色々な勉強をしてきました。色々な場所へ赴き、色々な文献を読んだ。それが全てではない。
でも聞いた事が無いのです。」



『……』



「知らないのです。ダンブルドアでさえ。
私が出来る事と言えば、ダンブルドアから聞いた君のお母さんの話……とは言っても、詳しくはありません。
後は、どうすれば力を扱えるようになるか、一緒に考える事くらいです。」



『……
あの、俺の力が、母から受け継いだものであるなら、……』





考えながらか、名前は途切れ途切れに、慎重に言葉を選んで、話を続けた。





『母も、その母から受け継いだのでしょうか。つまり、祖父母にあたる人がそういった力を持っていた、というような話は、あるのでしょうか。
俺は両親から身内の話を聞いた覚えが無いので、もしもクィレルさんがご存知なら、教えていただきたいのです。』



「身内の話を聞いた事が無い?」





驚きに目を見開いて、クィレルはオウム返しに言葉を繰り返した。
記憶を探っているらしく、やや間を置いた後、ちょっと迷いながら名前はコクリと頷いた。





『覚えが無いです。俺が忘れているだけかもしれませんが、
祖父母や従兄弟が存在するような話は聞いた事がありません。』



「そうですか。」





驚きに見開いていた目を、今度は細めた。
まるで体のどこかが痛くて、それで顔をしかめているようだった。





「酷な話ですから、話したくなかったのかもしれませんね。」



『どういう話です。何があったのですか。』



「今はミョウジ、君の力について……いや、
まあ……よくある話だと言えば、そうなのですがね。」





あからさまに軌道修正を試みたが、「話したくない」という意を汲み取って大人しく引き下がるほど、名前は従順ではなかった。
逃さんと言わんばかりに、瞬きもせずにじーっとクィレルを見つめたのだ。

時に視線というものは凶器になる。
マクゴナガルの厳しい視線、スネイプの冷酷な視線、ダンブルドアの何でもお見通しの視線───クィレルは経験してきた。
教鞭を執っていた頃、生徒に様々な視線を向けられた。
でも視線というのは大抵、感情や状態が伴うものだ。
名前のような何も感情が読み取れない視線は、あまり、というか殆ど経験が無い。
感情が読み取れない視線というのは、人形に見つめられているようで恐怖が生まれる。
人形であれば向きを変えたり、移動すれば視線は無くなるが、相手は生きた人間だ。
向きを変える事は出来ないし、移動すればどこまでも視線がついてくる。

早々にクィレルは折れた。
発言が藪蛇になったと、ますますしかめっ面だ。





「分かりました。お話します。家族の話となれば、君は知りたいでしょうね。当然知る権利もある。
ただ、本当に、君にとってはつらい話になると思います。」



『……』



「周囲の人からすれば、自分の事ではないわけですから、他人同士で話す分には、ただのニュースでしかないでしょうが、
やはり関係者に話すとなると、気が引けて話したがらない。
それに知れば君は、もしかしたらご両親を嫌いになるかもしれない。
でも、それでも君が知りたいと言うのなら、誰かが話さなければならない。」





以前、マクゴナガルやダンブルドアに、学生時代の両親の話が聞けそうな機会があった。
二人とも露骨に、両親に何かとんでもない事があったという雰囲気を醸し出しておきながら、
しかし、名前に話を聞かせようとはしなかったのだ。

引っ掛かるキーワードはいくつかある。
会う度にヴォルデモートが突っ付いてきた事柄で、部下である父親が裏切ったとか、沢山の仲間の命を奪ったとかだ。

何の役にも立たないかもしれない。
それどころか、名前の心を傷つける可能性があると、何やらクィレルはしつこく忠告している。
それでも名前が目を逸らさなかったので、クィレルは降参して、一息つき、
気合を入れ直してから、再び口を開いた。





「順にお話します。落ち着いて聞いてください。
まず最初にこの話は、私が実際に見聞きしたわけではなく、ダンブルドアに聞いた話だということを理解してください。なので不明瞭なところもあります。」



『はい。』
頷く。



「君の父親の家系は、ずっとスリザリンに選ばれてきて、いわゆる純血主義でした。
対して母親の方はマグルで、母親の家系でいえば、ホグワーツに入学したのは、彼女が初めてでした。」



『父は、魔法使いの家系だったのですね。』



「はい。ただ、純血主義のブラック家にも関わらず、シリウス・ブラックがグリフィンドールに選ばれたように、
彼は寮こそスリザリンでしたが、純血主義ではなかったし、誰がどの寮でも、たとえ相手が人でなくても、分け隔てなく接していたようで、多くの人が彼を慕ったそうです。」



『……そうでなければ、母と結婚していませんね。』



「まあ、そうですね。君の父親と母親の馴れ初めまでは知りませんが。
でも彼らは惹かれ合った。」



『父が言うには、周囲がうるさいからと、駆け落ちしたそうです。』





生前に父親が言った事を思い出して、名前はそう言った。
冗談が多い父親だったので、その言葉が本当なのか冗談なのか、名前には分からない。

ちょっと考える素振りをしてから、クィレルは頷いた。





「ああ、ええ。そうです。
母親の家族は分かりませんが、父親の家族の方が猛反対しました。」



『それで駆け落ちですか。』



「いいや。その前に騒動がありました。」





母親はマグルだ。
純血至上主義である父親の家系からすれば、マグルと家庭を築くなど、とんでもない事だったのだろう。

クィレルはまた考える素振りを見せて、視線を下に向けた。





「聞いているでしょうが、君の父親は望んでヴォルデモート卿の配下になったわけではない。魔法で操られていたのです。
ヴォルデモート卿と、自分の家族によって。」



『……』



「おそらく彼らは『死喰い人』だったのでしょう。
隠し事が上手なようで、ゴシップや噂話はあっても、決定的な証拠は何もありません。
それに、ヴォルデモート卿が失脚する前に、彼らは何も残さず死んでしまった。」



『……死んだ、』





───一体、どのようにして?───

老衰、病気、怪我───色々な理由を想像して、浮かんでは消えていく。





「……
彼らは……
…」





クィレルは、殊更言いにくそうに声をくぐもらせた。





「彼らは……
君の父親が殺したのです。」



『父が、……自分の家族をですか。』





顔をしかめたまま、クィレルは頷く。
肯定を受け取り、名前は唇を引き結んだ。
その際に微かに頬の筋肉が浮き立って、クィレルは、名前が歯を食い縛っているのだと分かった。

空調の冷風に煽られているせいか、名前の顔色はいつもより青白く見える。
歯を食い縛り、青ざめながらも、涼しげな目元は変化が無い。
じっと此方を見つめて、話の先を待っている。

クィレルは唇を舌で湿らせて、話を続けた。





「君の父親の家族は魔法で息子を操って、君の母親を殺すよう差し向けた。
君の母親は多分、その特殊な能力で、君の父親が操られていると知ったのでしょう。
誰にも相談せずに、彼女は一人で事を起こした。」



『……』



「彼女は見事、父親を呪いから解放し、救い出す事を成功させた。
しかしその間に父親の一族によって、家族を殺された。
故郷に戻ってみれば、家も何も残されてはいなかった。
君の父親は、自分の一族を跡形も無く消し去った。」



『……』



「そして、……ご両親は、日本に向かった。
父親の故郷からも、母親の故郷からも離れた、この土地で……
マグルに紛れて生きることとなったのです。
この話は、」



『……』



「ミョウジ。君が入学する前に、君のご両親がダンブルドアへ打ち明けた話です。
君の事もあるし、抱えきれなかったのでしょう、必要であれば他者に話してもいい、判断はダンブルドアに任せると、そう仰られたそうです。」



『……』



「この話が伝わっているのはおそらく、私と、君の寮の先生のマクゴナガルだけです。
君の寮の先生ですし、ご両親の事もご存知ですから。
少なくとも、ホグワーツの中ではね。それも推測でしかないのですが。……

君に身内が存在しないのは、そういった理由です。」



『……』



「……
ミョウジ……、」





ちっとも反応をよこさない。
此方を見つめたまま瞬きを繰り返すだけで、意識がどこへ向けられているのか、クィレルには分からない。

自分の父親が人を殺していた。ショッキングな話だ。
たとえ、そうせざるを得ない状況であっても。
それも相手が家族である。
その家族が、恋人の家族を殺したとあっても……。

幸いなのはこの話が大々的に、周知されていない点だ。
家族が「殺され、殺した」などと知れ渡れば、名前はホグワーツで白眼視されていた事だろう。





「家族に手を掛けると聞くと、冷酷で残忍に聞こえると思います。でも、君のお母さんは、人の心の声を聞く事が出来たようですし、きっと、お父さんがもし本当に冷酷で残忍だったら、お母さんは誰にも相談せずに救い出そうなんて事はしなかったでしょう。」



『……』



「だから、ご両親は、心から互いを愛し合っておられたのです。殺人はもちろん罪です、してはいけない事だ。でも、そうしなければ、どちらかを失っていた。だから───……」



『大丈夫です。』





必死に身振り手振り伝えようとしているが、早口で殆ど聞き取れなかった。
ただ、名前をフォローしているのは伝わった。





『俺は両親が好きです。クィレルさん、今までと変わりません。
大変心苦しい内容だったと思います。無理を言って、ごめんなさい。でも話していただいて、本当にありがとうございました。』





隣の席で横に向けていた体を、此方に向けて。
ペコリ。名前は頭を下げた。
真横だったので、名前の頭が、クィレルの肩と腕を掠っていった。

心苦しい内容だと感じるのは、何もクィレルだけではない。
当事者である名前にだって苦痛だったはずだ。
ガックリと下げられた頭が上げられる気配は無く、クィレルは数秒、名前のつむじと、空調の風に撫でられてフヨフヨ動く髪の毛を見下ろした。

どういう返答をすべきか分からないが、何か言わなければ、名前はこのままでいるのだろう。
「どういたしまして」と迷いつつ言えば、名前はようやく頭を上げた。





『もう少し話を続けて頂いても構いませんか。』



「話?」



『母の力について、何かご存知でしたら教えてください。』



「あ、ああ。そうでしたね。そういう話でした。」





淡々と名前が続けたので、クィレルの方が動揺してしまった。
元の話から長々と、それも大きくズレてしまった事もあるが、名前が強かな態度を見せたのも、動揺した理由の一つだ。

クィレルは話そうとしていた事を必死に思い出して掻き集めた。





「君の母親の家系が力を持っていたかどうかでしたね。」



『はい。』
頷く。



「もしかしたら、そういった能力を持つ家系だったのかもしれませんが、ダンブルドアから、そのような事実があったかどうかは、聞いた事が無い。
先程も言いましたが、ホグワーツに入学したのは、君のお母さんの家系で言えば、彼女が初めてでした。」



『……』



「長い間ひた隠しにして、ひっそりと生きてきたのかもしれません。それか単純に、魔法使いとしてのセンスが見込まれなかったのか、どちらかでしょう。
何か切っ掛けが───例えば、
君の母親がホグワーツに入学せざるを得ない状態にあったのか───」



『……』



「理由は分かりませんが、君の母親の家族は、つまり君の祖父母にあたる人でしょうか。ホグワーツに入学させる事を、結果的に選んだ。
もしかしたら、ずっと先を見越していたもかもしれない。ヴォルデモート卿の存在や、ハリー・ポッターの出現。君という存在……
一体、どこまで見据えていたのでしょうね。」





誰に向かって話すでもなく、独り言のようにクィレルはそう言った。
それから少しの間、口を閉じて黙った。

名前の反応を窺っているわけではなく、何か考えているようだ。
自身の唇に触れて、じっと紅茶を見下ろしている。

そんなクィレルの様子を、名前は隣で見つめていたが、
不意に目を逸らして、紅茶の入ったカップを持ち上げた。





「実例は無いのです。だがダンブルドアには経験も知識もある。
それでも君のお母さんに手を焼いた。」





話が再開されて、名前は紅茶のカップをテーブルの上へ戻した。
クィレルは紅茶ではなく名前を見つめている。





「あれこれと試して、結果的には生きていくことにおいて邪魔にならない程度にはコントロール出来るようになったようですが、
何が効果的だったのかは分からず、何となく出来るようになっていたという状態です。」



『……』



「分からない事ばかりです。ダンブルドアにも分からないのです。
だが、一つ。力を扱う事に関して鍵となりそうな、可能性として高いものを上げるのなら、精神の力でしょう。
君の母親に限っての話かもしれませんがね。」



『それは、……』
ちょっと考えるように目を逸らし、またクィレルを見る。
『集中力や、根気の事でしょうか。』



「それもあります。だが、それだけではない。」



『……』



「心の働き。気の持ち方や考え方。意識下に抑えられている無意識の領域。理性と感情、意思の調和などが関係して、それをいかにコントロール出来るかが鍵となります。
通常、これは一筋縄ではいかないものだ。」



『母は、コントロール出来ていたのですか。』



「結果的にはね。在学中はそうでもなかったそうです。手を焼いたと言ったでしょう?
彼女は他者の心を感じ取れる能力があったせいか、人一倍ナイーブなようでしたから。」



『……』



「いや、思春期は多くの場合、多感で、心理的動揺が激しい時期でもあります。しかしその動揺に支配されると、もうコントロール出来ない。

手を焼いたというのは勿論困らせたという意味も含まれていますが、そのままの意味でもあるんですよ。
度々彼女はパニックに陥って、落ち着かせようと背中に触れたダンブルドアの手を、文字通り焼いてしまったそうです。

彼女にすればそうするつもりはなくて、自己防衛だったのでしょうがね。」















腕立て伏せ何回とか、どれだけ走れとか、具体的な方法は無い。
精神の力など、どうやって扱えばいいのだろう?
母親の件から考えて、動揺は厳禁だとは分かったが。
どこから、どのようにして手を付ければいいのか、全く見当が付かない。
しかし、だから名前は、手当たり次第、(マグルと魔法使いでは解釈が違うだろうが)情報を集めたり、色んな方法を試すと決めて、その日のうちに行動を始めた。

クィレルが前述した通り、両親の過去は酷な話だった
し、不明瞭な部分、例えば───
「死喰い人」と思われた父親の一族は、一体どのような事をしていたという噂話があったのか。
父親の一族が、父親自身の手によって殺害された時、当時の魔法界ではどのように報じられたのか。
また、それを打ち明けた際に、ダンブルドアは父親に対して、何か罰したのか。
───などと、疑問点が残っている。
しかしそれを尋ねてもクィレルは答えを持ち合わせていない。
お喋り出来るほど、ダンブルドアも暇ではない。
今は考える時ではない。
名前は分かっていたし、言い聞かせた。
訓練にひたすら集中した。





『(動揺は禁物)』





いわゆるマグルの世界で育った名前にとって、それまで魔法は御伽話だった。
そんな世界でも何でもありではないのだ。
死者の声を聞く、動物の声を理解するなんて言えば、まず冗談だと笑われる。
それでも言えば変人扱いだ。

受け継いだ能力は、魔法とは似て非なるもの。
未知だが、可能性がある。





『(やろうとする事に集中。俺の意識次第だ)』





マグルの情報───
専門書から眉唾物の怪しい記事まで手にして───
名前が目をつけたのは、超能力、または霊能力と呼ばれるものだった。

これまでの経験から考えるに、サイコメトリーやヒーリングなどは、自身の能力に近いものと判断したようだ。
異なるものでも、模倣してみれば、似たような事が出来るようになるかもしれない。
それがたとえ創作物でも、名前の意識次第で変わる。
きっと……。

物は試しとばかりに、名前あれこれと挑戦した。
バリアや念力、テレパシーなどなど。
そうすると精度はまだまだ物足りないが、アッサリとそれらしいものが出来てしまう。
それも練習を重ねれば重ねるほど、より強固になっていく。





「本当に色々な事が出来ますね。」





干すはずだった洗濯物から、能力で水分を取り除いて乾かす。乾いたら正座した膝の上で、順次畳んでいく。
寝室の畳の上で作業する名前を、居間のテーブルの方から眺め、クィレルはそう言った。

寝室の空中で雲のように浮遊する雫を見つめている。
まるで無重力空間にいると錯覚してしまいそうな光景だ。





『役立てばいいのですが。』



「役立ってるように見えますがね。そういえばミョウジ、君、体は何ともないのですか?」



『……』





空中で水分を飛ばす光景を眺めていた名前は、その目をクィレルに向けた。
それからちょっと首を傾げる。
何故そんな事を聞くのか分からない、といった様子だ。




「あのですね、私が君の力の補助をしているという話は覚えていますか?」



『はい。』



「変身が解けないよう、変身魔法に関しては、補助をしている状態です。精神の乱れや、意識が無い時に、早々解けないようにね。ただそれだけ……
君の膨れる魔力に関しては全く手出ししていません。」




『……はい。
……』



「君の魔力は変身魔法によって一定量、消費され続けています。使い続けたら疲れや精度の落ちが出たりします。
魔法だったらの話です。でも君はそんな様子もない。
それだけ魔力が有り余っているという事かもしれませんが……
もし君のその能力に魔力を消費しないのなら、一体何をエネルギーとして使っているのでしょう。」



『……』



「走るのには体力。魔法には魔力。では、君の能力には?」
クィレルは考え事をするように顎を指で触れた。
「精神力───なら、まだいい。生命力でなければね。

ミョウジ、君はこの短期間で様々な力を使った。繰り返す内に精度も上がっている。魔法ではないとなると私には専門外ですし、未知の世界です。
本当に、体に異常はありませんか?」



『……
無いと思います。』





───いまのところは。
と続けて、作業を再開した。

納得したのかしていないのか、クィレルは微妙な顔で唸り声をもらし、とにかく何か気になる事があれば報告するようにと話を締め括った。
洗濯物を畳みながら返事をして、名前は少し、首を傾げる。

連日見続けている夢は異常なのだろうか?
どちらにせよ、訓練を始める前から続いている事だが。

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