主人公がダンスパーティーに参加していたら・・・(2/3)


二人の思惑通り事が運んだのかは、結局その日は分からずじまいだった。
教室の移動最中も、昼食時も、夕食時も、別行動だったからだ。
おまけに名前は冬期休暇をホグワーツで過ごすので、休暇前夜ではあったが、みっちり訓練を受けたのだった。

翌朝、早朝。名前とハーマイオニーは早々に大広間へ向かい朝食を摂ると、しっかり防寒対策をして、雪深い校庭へ繰り出した。

雪に埋もれた芝生は滑りやすい。
二人は体勢を低くして小屋の方へ近付く。
すると遠目からでも、小屋の扉の前にハグリッドが立っているのが見えた。
彼方も二人を見付けたらしい。
大きな手をブンブン振っている。





「おはようさん、二人とも。」



「おはよう、ハグリッド。」



『おはようございます。ハグリッドさん、今日はよろしくお願いします。』



「おう。ナマエ、参加出来るようになって良かったな。ダンスパーティはええぞ。今日はハーマイオニーにしっかり見立ててもらうといい。
さあ、寒いからな、とっとと移動しちまおう……。」





そうしてハグリッドに引率される形で、二人はホグズミードへの道程を急いだ。

高く降り積もった雪など何のその。
ハグリッドが歩いた後は平坦になる。

けれど一歩一歩が大きいので、多少歩きやすくはあったが、二人は駆け足にならざるを得なかった。





「俺は『三本の箒』で待ってる。」





ホグズミードに到着するやいなや、息を切らして追い付いた二人を見下ろし、ハグリッドはそう言った。





「でもハグリッド、私達を見てなくていいの?」



「お前さん達が悪さをするわけなかろう。」



「勿論そんな事しない。でもマクゴナガル先生がハグリッドにお願いしたのは、そういう意味じゃないと思うわ。
ホグズミードへ行って良い日でもないのにホグワーツの生徒がうろついていたらおかしいでしょう、それが問題なのよ。だからハグリッドが一緒じゃないと駄目なの。」



「大丈夫だ、何かあったら俺の所に来い。きっちり説明してやる。
時間は気にせんでいいから、ゆっくり選んでこいや。」



「分かったわ。それじゃ、『三本の箒』で落ち合いましょう。」





言いながらもハーマイオニーの顔には、不承不承の感情がありありと表れていた。
しかしハグリッドは気が付かないのか。
その場に二人を置いて、いそいそ「三本の箒」へ向かったのだった。
だんだん小さくなっていく、その大きな背中を、ハーマイオニーは胡乱に見遣る。





「ハグリッド、『三本の箒』で誰かと会うつもりかしら?」



『分からない。偶然知り合いに会うかも。』



「前みたいに違法な魔法生物を取り引きしたりしなければいいけど。まあ、人目もあるし、『三本の箒』なら大丈夫かしら……。
とにかく、あんまり待たせるのも悪いわね。私達は用事を済ませちゃいましょう。」



『ああ。』





まだちょっと気にしつつも、ハーマイオニーは名前の腕を引っ張った。
クリスマス色に染められたホグズミードを突っ切り、グラドラグス魔法ファッション店に一直線だ。

ショーウインドーには魔法で雪が降っていて、サンタクロースの格好に飾り付けられたマネキンの周りを、ミニチュアのサンタクロースがソリで飛び回っていた。
よく見ようと立ち止まる隙も与えず、ハーマイオニーは名前の腕をグイグイ引っ張り、店の扉を潜る。

店内に入ると見渡す限り、陳列棚は床から天井まで物に埋め尽くされていて、覆い被さるような圧迫感があった。
私服からフォーマル、仮装のような衣装まで、様々な商品が並べてある。
キョロキョロと物珍しそうに店内を眺める名前をなおも引き摺り、ハーマイオニーは真っ直ぐ店員の元へ歩み寄った。





「すみません、いいですか?」



「はいはい。どんなご要件?」



「この人にピッタリのドレスローブを仕立てて欲しいんです。」



「ああ、ホグワーツの子だね?先生から話は伺っていますよ。
どれどれ……。」





ハーマイオニーと店員の会話に、名前は店内を見回すのを止めた。
カウンターの向こうから店員が回り込んでやって来る。

派手な化粧に、カールした髪の毛。
恰幅が良く、真っ赤なスパンコールのドレスを身に着けていた。

かなり高いヒールを履いているので、ずいっと近付いた顔がそのままキスされそうなくらい近い。
名前は後退りかけたが、ハーマイオニーに腕を掴まれたままだったので、何の意味も無い。





「ふぅん、うんうん。涼しげでミステリアスな感じ。良い男だね。お嬢さんの恋人?」



「友達です。」



『…』





その通りなのだが、バッサリ言い切られると妙な気持ちになる。





「三大魔法学校対抗試合の伝統の、ダンスパーティだったね?」



「はい。だけどこの人、ドレスローブが無くて。それにダンスとかパーティとはあんまり身近じゃない国で育ってきたから、どういう物がいいとか、必要とか、分からないんです。」



「ナルホドねえ。じゃあまずはサイズを知りたいから、採寸させてくれる?」



「コートは私が持ってるわ。」





コートと言わずマフラーも手袋もハーマイオニーに引ったくられ、薄着になったところに直ぐ様、店員の魔女は巻尺を名前の体に回した。

巻尺はひとりでに名前の体あちこちに回り、名前は店員に指示されるがままに手を上げたり、姿勢を正したりした。

採寸は数分で終わった。
服飾専用の紙にサイズを書き込んだ店員は、うーんと唸った。





「確かに、これは仕立てる必要があるわね。」





店員はカウンターの後ろへ引っ込み、カタログを引っ張り出した。





「フルオーダーになると値段が張るから、セミオーダーをオススメするよ。ある型でサイズだけ変えるやつね。まあどちらにせよ、仕立てるとなると、多少高くなるんだけどねぇ。」



「セミオーダーだと、どんなものがありますか?」



「色々あるよ。ええーっと……ほら。このページだ。見てごらん。」





パラパラと分厚いカタログを捲り、店員はカタログを見せた。





「今回のダンスパーティは伝統ではあるけど、あんまり堅苦しくする必要は無いよ。例えば自分の国の伝統衣装を着ても、会場から摘み出されたりはしないさ。
そりゃあ、あんまり奇抜なのはよろしくないけど。
君の国の伝統衣装は?」



『着物です。』



「キモノ……日本だね。」





店員はまたカウンターの裏に引っ込んだ。
そこから分厚いハードカバーの、図鑑のような大きな本を取り出して、パラパラ捲る。
どうやら世界中の伝統衣装が載っているようだ。
日本のページを開いて、先に開いて置いたカタログの横に並べて見せた。





「うーん、この着物はダンスには不向きかもしれないね。でも、袴なら大丈夫そうだ。
どうする?これが気に入ったなら作れるよ。」



『……』





カタログと図鑑を見下ろして、名前は思案しているようだった。

ホグワーツは色んな国の生徒がいる。中には伝統衣装を着る者もいるだろう。
けれど殆どがヨーロッパだ。燕尾服が多いだろう事は容易に想像がつく。
その中に紋付き袴の名前が混じれば、目立つ事この上ない……。





『やめておきます。』



「そう?」



『俺の格好が個性的だと、相手に悪いです。』



「確かにパーティは女の子を引き立たせてなんぼだからね。分かったわ、じゃあ今回は無しと。
でもまあパーティ目的じゃなくてもさ、普段使いでも仕立ててあげるから。その時にいらっしゃい。」



『はい。ありがとうございます。』



「それじゃあ、カタログだね。
ああ、ベルトは見た目アクセントになっていいんだけど、金具が女の子のドレスに引っ掛かっちゃう事があるんだよねぇ。」



「しない方がいいですか?」



「気を付ければ大丈夫さ。ベスト着ちゃえば金具の部分にベストが被さって、引っ掛かる可能性は低くなるし。
それに君は背が高いから、アクセントがあった方が間延びしなくていいと思うよ。」



「それじゃあ、ベルトとベストは付ける方向で。でも、それでも色々ありますね。」



「ここに載ってるドレスローブは、店に置いてあるよ。着てみる?ピッタリのサイズは無いけど、イメージは掴めると思うよ。」



「そうですね。お願いします。」





店員とハーマイオニーの目が輝いている。
生き生きとした二人の様子に、名前は薄ら寒くなってきた。

店員はドレスローブやシャツや靴など一式持ってきて、名前と一緒に試着室へ押し込んだ。
正面に大きな鏡が置いてある。
着方は制服と変わりないので、時間はかからない。

カーテンを開く。





「うーん、サイズが合ってないから少し不格好だけど。でも良く似合ってるわ。ちょっと回ってみて。」



「燕尾服に蝶ネクタイ。オーソドックス過ぎるかしら?一応フリルシャツとかウエストコートとか、試してみましょうかね。」



「そうですね。意外とそっちの方が合ってたりしたら勿体無いですもの。」



『……』





本人確認、無し。
それから名前は取っ替え引っ替え、着せ替え人形状態である。
襟の形が異なるとか、材質が違うとか、色柄のパターンがあるからとか……。
同じような組み合わせで、シャツやベストなど一つずつ変えて着せるものだから、長い戦いとなった。





「初めのが良さそうねぇ。どう?お嬢さん。」



「私もそう思うわ。髪型はどうしたらいいですか?」



『…』





散々試着をして出た結論だ。
椅子に座って項垂れる名前を他所に話は続く。
店員とハーマイオニー、全く疲れた様子がない。
むしろ元気になっている。





「そうねぇ。そのままでもいいと思うわ。勿論セットするのもありよ。オールバックとか七三分けとか。
その場合はジェルやスプレーを使って、汗なんかじゃ崩れないようにしっかり固めてね。落とすのが大変だけどさ。
あ、匂いの強いものはダメだからね。女の子が気分を悪くするかもしれないから。」



「分かりました。長い時間居座っちゃってすみません、色々教えて下さってありがとうございます。」



「いいの、いいの。私も楽しませてもらったから。
ダンスの練習しっかりやって、エスコートしてあげるんだよ。」





バンと背中を叩かれ、油断しきっていた名前は息が詰まった。





『……はい。ありがとうございます。』



「本当にありがとうございました。」



「出来上がり次第ホグワーツに届けるから、楽しみにしてて。」



「はい。楽しみに待っています。
さあ、ナマエ。『三本の箒』へ急ぎましょう。もう夕方だわ。」





支払いを済ませて店を出ると本当に夕方だった。
窓は服に覆われて外の景色なんて見えなかったし、店内にいた時は時間の確認をする余裕も無かったのだ。

待ちくたびれているだろうと大急ぎで「三本の箒」へ向かうと、ハグリッドは意外にものんびりしていた。





「なあに、買い物っちゅうのは時間がかかるもんだ。」





支払いを済ませて「三本の箒」を出て、三人はホグワーツへ帰った。
ハグリッドは小屋へ、名前とハーマイオニーは学校へ。
校庭で別れ、二人は談話室に戻った。

ハリーとロンが暖炉の前に座っていて、雪を積もらせた二人を見るなり、「どこへ行ってたんだ」と質問攻めにした。
事情を説明したが、ちょっと不貞腐れていた。

クリスマスまでの一週間。
授業は無いが、宿題がたっぷりある。
それに加えて、名前は普段より多く訓練に時間を費やす事となっていた。
休暇ではあったが、結果的には、学期中とさほど変わらない生活を送った。





『……』





クリスマスの朝。つまりダンスパーティ当日。
名前はいつも通り目を覚まし、ロードワークの準備を始めた。

ベッドの周囲に大小様々なプレゼントが山積みになっている。足の踏み場もない。
まだ寝ている同室の者を起こさないよう、名前は静かにプレゼントを避けて道を作った。





『……』





準備を終えて寝室を出ると、何かが足にぶつかった。

冬の朝は遅い。
室内も窓の外も真っ暗だ。

正体を確かめようと、名前は体を屈めた。
団扇のように大きくて平たい耳。
テニスボール程はありそうな緑の目。





『君は……』



「ドビーはごめんなさいなのです、ナマエ・ミョウジ!」





屋敷しもべ妖精のドビーは床に座り込んだまま、キーキー声でそう言った。
両手にプレゼントを大切そうに抱えており、そのせいで受け身を取れなかったらしい。

謝りながら名前はドビーを助け起こして、唇に指を当てて見せた。
名前が「静かに」のポーズを取ると、ドビーはパッと自身の口を覆った。

その拍子に持っていたプレゼントが手を離れ、床に音を立てて落っこちた。
それを拾い上げて、ドビーの手に渡す。





『ごめんね……ハリーはまだ寝ています。』



「ドビーは待ちます。ハリー・ポッターに『クリスマスおめでとう』を言って、プレゼントを差し上げるのです。
ナマエ・ミョウジ、どこかに出掛けるのですか?」



『走りに。』



「いってらっしゃいませ。お気を付けて……」





深々とお辞儀するドビーと入れ替わり、名前は寝室を出た。
外は雪が降っていて、朝になっても、空は薄暗いままだった。

ロードワークを終えてシャワーを浴び、着替えて大広間に向かう。
そこにはハリー、ロン、ハーマイオニーがいて、朝食を採っていた。
朝食の後は訓練である。

午前中は訓練で終わったが、午後は支度があるだろうからと、ムーディは自由時間をくれた。
大広間に向かい、クリスマスの豪勢な昼食を採りながらその事を三人に伝えると、皆大喜びした。
午後は校庭で雪遊びの予定になった。





「参加は五人か。よーし、チーム戦でいこう。」



「ハーマイオニーが入れば三対三でやれるのになあ。
どう分けるの?」



「俺とジョージ。ハリー、ロン、ナマエのチームだ。」



「いいの?二対三て不利じゃない?」



「チッチ、ハリー。俺達を見くびるな。ちょうどいいハンデさ。」





雪合戦が始まった。
雪で塀を作り、身を隠しながら雪玉を投げる。

ジョージが言った通り、確かにフレッドとジョージの二人は素晴らしいコンビネーションだった。
此方は三人なのに、明らかに二人の方が手数が多いし上手だ。
長身の名前は良い的だったようで、何度も雪玉を食らった。

ハーマイオニーは参加せずに眺めるだけで、五時になると、支度があるからと寮に戻ると宣言した。





『俺も戻る。』



「エーッ、二人して何だよ。三時間も要るのかよ?」



『寒い。』





全身に雪玉を食らった名前は今や濡れネズミだ。
顔と首筋に髪の毛がぺったり張り付き、服が体に巻き付いている。
その姿を哀れに思ったのか、ハリーもロンも、フレッドもジョージも、
名前が体を縮こまらせて小走りでハーマイオニーの隣に並ぶのを、止めはしなかった。





「誰と行くんだよー?」





ロンが叫んだが、ハーマイオニーは手を振るだけだった。
ロンの横っ面に雪玉が飛んだ。

グリフィンドール寮に戻った名前とハーマイオニーは、それぞれの目的の為に談話室で別れた。
ハーマイオニーは支度へ。
名前はシャワーだ。
本当なら風呂に浸かり温まりたい所だが仕方無い。

ゆっくりシャワーを浴びて私服に着替え、水を含んだ重たい靴も履き替えて、名前は寝室に向かった。
寝室には誰もいない。





『……』





自身のベッドに歩み寄ると、まだ手付かずのプレゼントの山がそのままになっている。
のんびりプレゼント開封を楽しむ余裕は無い。
けれどその山の中に、グラドラグス魔法ファッション店からの荷物が混ざっているのだ。
それだけは開封しなければならない。

一際大きな箱だ。
包装を解き、開封すると、また箱が現れた。
大小様々な箱が数個、パズルのように隙間無く詰められている。
中身はそれぞれ、靴、ドレスローブ、蝶ネクタイ、ベストなどなど、一つ一つ丁寧に梱包されていた。

それらをベッドの上に置いて確認していると、寝室の扉が開いた。
同室のシェーマス、ディーン、ネビルの三人だ。
少し遅れて雪合戦を終えたハリーとロンも戻ってきた。





『……』





同室の皆が支度を始めたので、名前もそのまま準備に取り掛かった。

燕尾服に白の蝶ネクタイ、黒いエナメルの靴。
さすが、仕立てただけあってピッタリである。

凝ったところはない。
舞踏会では定番の格好だ。
見渡すと、皆似たような姿だ。
ただ一人、ロンを除いて。





「何だよ、これ……。」





姿見の前に立って、ロンは自分の姿に虚脱状態になっていた。
オフホワイトのフリルたっぷりのシャツ、黒いビロードの蝶ネクタイ。
千鳥格子の茶色のベスト、黒いパンツ。
光の加減で模様が見える茶色のローブには、襟にも袖にも赤茶色のレースがふんだんに使われている。

ロンが着替えにまごついている間に、シェーマス、ディーン、ネビル、ハリーの四人は出ていってしまった。
髪型をセットしに行ったのか、トイレにでも行ったのかもしれない。

寝室にはロンと名前だけだ。
名前はベッドに腰掛けて、私物の手鏡で髪を整えていたが、ロンの呟きに目を上げた。





「何だよ、これ……。」





独り言のようだ。ブツブツと同じ事を繰り返している。
───何か言葉を返すべきか。───
名前はロンを見つめたまま言葉を探しているようだった。

その時、寝室の扉が開いて、身支度を終えたハリーが入ってきた。
此方は名前と同じく白の蝶ネクタイ、燕尾服だ。
異なる点を挙げるのなら、ベストの着用くらいだろうか。
いつもは癖っ毛でボサボサした髪が整えられている。

いの一番にロンの格好に目を留めて、ロンのドレスローブがどんなものか事前に知っていたのに、ちょっと怯んだ様子である。
姿見越しにハリーを見て、ロンはますます惨めそうな顔になった。





「何だよ、その格好?」



「僕のドレスローブ。」



「まともじゃないか。レースも無いし、ふざけた襟も無いし。」



「その方が伝統的だ。」



「伝統的?」
声がひっくり返った。
「骨董品だよ。大叔母さんみたいだ。」
何か思い付いたように、おもむろに脇の辺りに顔を近付けて匂いを嗅いだ。
「大叔母さんみたいなニオイがする。」





ハリーはロンのフリルたっぷりのシャツを見て苦笑いした。
ロンは再び姿見に映る自身を見つめた。





「いっそ死にたい。」





ロンの隣に並んで、ハリーは一緒になって姿見を見た。
天辺から爪先まで見て、また苦笑いした。
フォローする言葉が見つからないようだった。

名前は手鏡をベッドに置いて、代わりにローブを持って立ち上がる。
立ち上がると黒いズボンに包まれた足は、普段よりも殊更長く見えた。

姿見越しに、ハリーとロンと目が合った。
ハリーは見とれたように名前をじっと見つめて、ロンはまた惨めそうな顔になった。





「目を出してるんだね。」



『変かな。』



「ううん。良いと思うよ。」





名前は少し落ち着かないようで、顔に手を持っていきかけた。
前髪を少し後ろに流していて、いつもは見え隠れしている眉毛と涼しげな目元がハッキリと出ていた。
視界良好である。

立ち上がった名前はロンの隣に歩み寄った。
ハリーと同じように、ロンの姿を見つめている。

その時ハリーは、名前のベストが通常のベストとは違い、背のないカマーベストだと知った。
ローブを羽織っていない今のままだと、レストランやホテルのスタッフに見える。





『ロンが思うほどおかしくない。似合ってる。』



「どこが?」




あんまりにも落ち込んでいたので、名前は精一杯のフォローをした。
しかしこれがいけなかった。
今のロンには名前の言葉が、嫌味にも皮肉にも聞こえるからだ。





「そう思うんならナマエ、君のと僕のを交換してくれよ。」



「ロンには無理だよ。体型が違い過ぎる。」





ハリーがバッサリ切り捨てた。
ロンは背が高い方だったが、名前はもっと高い。
絶対に裾も袖も余るだろう。

少しでも改善しようと、一番の改善点である袖口と襟のレースに、ロンは「切断の呪文」を掛けた。
呪文は成功して、レースは無くなった。
けれど切り口がボロボロのガタガタだ。





「君達二人とも、どうやって同学年一位の美女を獲得したのか、僕、未だに分からないなぁ。」



「動物的魅力ってやつだよ。」





パーティの時間が差し迫り、渋るロンを引っ張って談話室を通り過ぎる際、ディーンとロンがそんな会話を交わした。

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