主人公がダンスパーティーに参加していたら・・・(1/3)
もうすぐ終業の鐘が鳴るという頃、
教科書やら何やらを名前はすっかり片付けて、マクゴナガルの話を聞く体勢になっていた。
教壇に立つマクゴナガルの顔をじっと見つめれば、彼女もまた、自身を見つめる視線一つ一つを見つめ返していく。
そしてピタリと視線が止まったかと思えば、眉間に一筋の線が刻まれた。
「ポッター!ウィーズリー!こちらに注目なさい!」
一番後ろの端っこの席に座る名前の、そのまた後ろで、ハリーとロンが「だまし杖」を使いちゃんばらをやっていたのだ。
マクゴナガルの声に二人が驚いた事が、振り向かずともピタリと止まった気配で分かる。
「さあ、ポッターもウィーズリーも、歳相応な振舞いをしていただきたいものです。」
じろりと睨まれ、二人は身を縮こまらせて席に戻っていった。
「皆さんにお話があります。」
二人が席に着いたのを見届けてから、マクゴナガルはコホンと一つ咳払いをして、そう切り出した。
「クリスマス・ダンスパーティが近付きました───
三大魔法学校対抗試合の伝統でもあり、外国からのお客様と知り合う機会でもあります。
さて、ダンスパーティは四年生以上が参加を許されます───下級生を招待する事は可能ですが───」
どこからかクスクスと笑い声がもれた。
一番後ろの席に座る名前は、小刻みに揺れる背中を見つける。
ラベンダー・ブラウンだ。
隣の席に座るパーバティ・パチルも笑いを堪えており、ラベンダーの脇腹を小突いていた。
そして二人揃って、ハリーの方を振り返って見た。
「パーティ用のドレスローブを着用なさい。」
笑う理由もハリーを見る理由も分からない名前は、首を傾げるばかりである。
マクゴナガルの話が続けられたので、名前は再びマクゴナガルの方へ目を向けた。
「ダンスパーティは、大広間で、クリスマスの夜八時から始まり、夜中の十二時に終わります。
ところで───」
と、言葉を切ったマクゴナガルは、
じっくりと時間をかけて生徒達の顔を見回した。
「クリスマス・ダンスパーティは私達全員にとって、勿論───
コホン───
髪を解き放ち、羽目を外すチャンスです。」
背中の揺れが激しくなり、同時にクスクスという笑い声も激しくなる。
手で口を押さえてはいるが、今やラベンダーのクスクス笑いは、教室にいる全員に聞こえていることだろう。
「しかし、だからと言って」
しかしマクゴナガルはそんなクスクス笑いを全く意に介さない。
いつもの厳格な雰囲気を保ったまま、きびきびと後を続ける。
「決してホグワーツの生徒に期待される行動規準を緩めるわけではありません。
グリフィンドール生が、どんな形にせよ、学校に屈辱を与えるような事があれば、私としては大変遺憾に思います。」
終業の鐘が鳴った。
話も終わったようで、とてもタイミングが良い。
すっかり片付け終えてある名前は、教材を詰め込めた鞄を肩に掛けて立ち上がった。
名前、ハリー、ロンの三人は、肩や手が触れ合うほど互いに近付いて、石畳の廊下を歩く。
ホグワーツ内にはボーバトンとダームストロングの生徒も歩いており、普段よりも廊下が狭くなるのだ。
そして、三人が身を寄せ合い歩くのはそれだけが理由ではない。
前方から十二、三人の女子学生が、こちらに向かって歩いてくる。
それを避ける為でもある。
ハリーを見つけると女子学生達は目でやり取りをして、クスクス笑いながら通り過ぎた。
「どうして皆、塊って動かなきゃならないんだ?」
これは今回が初めてではない。
ハリーは誰ともなしに、うんざりとした様子で尋ねた。
ダンスパーティの話があって以来、学校中の生徒がその話で持ちきりのようだった。
少なくとも四年生以上の全員はダンスパーティの事で頭がいっぱいのようだったし、特に女子学生は変化が顕著だった。
集団で行動して、クスクス笑ったり、ヒソヒソ囁いたり、意味深な視線を向けたりした。
「一人でいるところを捕らえて申し込むなんて、どうやったらいいんだろう?」
「投げ縄はどうだ?」
『…』
「誰か狙いたい子がいるかい?」
ハリーは黙って答えなかった。
どうやら、いるにはいるらしい。
「いいか。君は苦労しない。代表選手じゃないか。ハンガリー・ホーンテールもやっつけたばかりだ。
皆行列して君と行きたがるよ。」
ロンが言った通り、翌日ハリーは誘いを受けた。
その次の日も二人の女の子が誘ってきた。
学年は三年生だったり、二年生だったり、五年生だったりとまちまちで、その上誰も彼も一度も口をきいた事がない子ばかりだ。
「ルックスは中々だったじゃないか。」
「僕より三十センチも背が高かった。」
ロンは散々笑ったがまだ笑いが治まらないらしく、ひくひくと口許がひきつっている。
ハリーそんなロンの様子に気付いているのかいないのか、どんよりと落ち込んでいた。
「考えてもみて。僕があの人と踊ろうとしたらどんな風に見えるか。」
「まあ、身長ならナマエがちょうど良かったかもな。」
『…』
「そういえばナマエは、もう誰と行くか決まったの?」
「そりゃそうだよ、ハリー、たとえナマエが黙ってたって、相手が黙ってないさ。な、そうだろ?」
急に話を振られ、名前は目をぱちくりさせた。
ロンは見るからに興味津々である。
先程の落ち込みはどこへやら、ハリーも名前の答えを待っていた。
『行かない。』
「え?」
「何だって?」
『俺は日本に帰る。ダンスパーティには行かない。』
「エエーッ!」と、二人から同時に声が上がった。
「そんな、まさか。ナマエ、君、誘われただろ?」
『…』
頷く。
「断ったの?」
『…』
また頷く。
ダンスパーティの話があって直ぐに、名前は何人からも誘いを受けた。
その殆どが話した事のない相手ばかりだった。
そして何故か何人かは男子学生だった。
「ナマエ、そりゃないよ。こんな事滅多に無いんだぜ!」
『分かってる。』
だけど帰る───
無表情できっぱり言った名前は、考えを曲げるようには見えない。
二人は残念そうに肩を落とした。
「一日だけでもいられないのかい?」
『駄目。』
「駄目かあ。…」
『…ごめん。』
「仕方ないさ、ロン。大切な家族が入院しているんだもの。
天秤に掛けることなんて出来やしないよ。」
物分り良くそうは言ったものの、ハリーも残念そうだった。
例年、クリスマスのホグワーツは静かなものである。
殆どの生徒が帰宅して、家族と一緒にクリスマスから年越しまでを過ごすからだ。
けれど今年は三大魔法学校対抗試合の伝統、クリスマス・ダンスパーティが催される。
それを理由に参加が許される四年生以上の生徒殆どがホグワーツに残る事を選んだ。
静かなホグワーツを一人過ごすのも寂しいが、皆が楽しくクリスマスを満喫して騒ぐ傍ら、彼らと同じように友達と過ごせないのも、かえって寂しさを助長させてしまうのだろう。
「ダンスパーティ、素敵じゃない!」
何の気無しに話題に取り上げると、母親はアッサリそう言った。
「滅多にない機会だもの、出席しなきゃ。
私のことは心配しないで大丈夫だから、楽しんできて。」
欠席する気でいると伝えるととっても驚いた顔をして、今からでも出席するよう説得されてしまった。
しかし出席となると時間もあまり無いし、今更変更出来たところで準備が間に合うかどうか不明である。
翌日ホグワーツに戻った名前は、早速マクゴナガルの部屋に向かい、出席の旨を伝えた。
「あら、そうですか。よろしいですよ。」
『ありがとうございます。』
マクゴナガルは机の引き出しからホグワーツに残る希望者リストを取り出して、その横に羽根ペンとインクを並べ、名前に名前を書くように促した。
身を屈めて、リストに名前を書く。
名前はすぐに書き終わった。
「ところでMr.ミョウジ。パーティ用のドレスローブは用意しているでしょうね?」
『……』
丸めた背を伸ばしながら、名前はマクゴナガルの顔を見た。
『いいえ。』
「それならば急いで用意しなさい。格式高い舞踏会ですから、きちんと正装するのです。」
『あの……マクゴナガル先生、どこで用意すればいいのでしょう。』
突然マクゴナガルは唇を引き結んで、じっと名前を見つめた。
天辺から爪先まで。
爪先から天辺まで。
何度も繰り返して見つめられている。
やがて名前の顔で視線を止めると、やっと口を開いた。
「ホグズミードにグラドラグス魔法ファッション店があります。」
『でも、マクゴナガル先生。ホグズミードは定められた日にしか行く事が出来ません。
今月はもう無いはずです。』
「ええ。ですがこういった事態になれば話は変わります
ホグズミード行きを許可します。今度の週末は空けておきなさい。
その日の訓練はお休みする旨を、ムーディ先生には私からお伝えします。」
『ありがとうございます。でも、よろしいのですか。』
「ただし、ハグリッドに同行してもらいます。遊びに行くわけでは無いのですからね。
それから誰か一人、助言をしてくれる人を連れて行く事をお勧めします。あなたはこういった行事が身近では無いようですから。
そうですね、Ms.グレンジャーはどうでしょう。ミョウジ、友達ですね?彼女が予定を入れる前に聞いてみるというでしょう。」
短期間でやらなければならない事がどっと押し寄せてきた。
今まで以上にダンスの練習を真面目に取り組み、早急にドレスローブを手に入れ、同時にダンスの相手を探す。
もう十二月も中旬を過ぎて冬期休暇に入ろうとしていて、学期最後の授業を迎える。
それに伴い、これから宿題もどっさり出されるだろうに。
朝食を摂る為に大広間でハリー、ロン、ハーマイオニーと顔を合わせると、名前はクリスマスに残る事になったと話した。
少しでも一緒に過ごせると知って、三人とも喜んでくれた。
『ハーマイオニー。』
「なあに?」
夜。
少なめの夕食を採った名前と、図書室に用事があるからと早めに切り上げたハーマイオニーは、
ハリーとロンをテーブルに残し、二人揃って大広間を出た。
名前は訓練へ。
ハーマイオニーは図書室へ。
途中まで一緒に行こうと、行き交う生徒の群れを避けつつ、二人並んで石畳の廊下を歩く。
『今度の土曜日、空いてるか。』
「まあ、特に予定は無いわね。
強いて言えば、勉強かしら。ノートを纏めたいのよね。」
『……
よかったら、俺と一緒にホグズミードへ行って欲しい。』
「ホグズミード?」
急停止したハーマイオニーは、勢い良く名前を見上げた。
驚きに目を見開いている。
「ナマエ。ホグズミード行きの日なんて掲示されてないわ。」
『ああ。』
「まさかナマエ、あなた、学校を抜け出す気じゃないでしょうね?あなたが?
何で?一体、ホグズミードへ何しに行くの?どうして私なの?」
『いや……。』
答える間も無く詰め寄られ、質問を重ねられ、名前は言い淀んで後退る。
別に悪い事はしていないが、ハーマイオニーには鬼気迫るものを感じた。
廊下と同様に石で出来た壁に背中が当たり、それ以上後退出来なくなって、
それでもハーマイオニーが詰め寄るので、名前は隙間無くピッタリと壁に張り付いた。
『ハーマイオニー。
ドレスローブが必要だ。』
「ドレスローブ?」
一瞬、ハーマイオニーは言葉の意味を理解していないふうに、名前の言葉を繰り返した。
それから突如、鬼気迫る表情が消えた。
詰め寄るのをやめて数歩離れると、まじまじと名前を見つめる。
「ナマエ、まさか用意してないの?」
『パーティに出る予定じゃなかったから。』
「ああ、そっか。そうよね。
でも、どうしてホグズミードへ?」
『今朝マクゴナガル先生に話したら、そうするように言われた。ハグリッドさんが同行する。それで、誰か……
助言してくれる人が一緒の方がいいって、そう仰った。ダンスパーティ、俺は詳しく無いから。』
「そういうことだったの。」
更に数歩離れて、今朝マクゴナガルがそうやったように、
ハーマイオニーは天辺から爪先まで、名前をジロジロ見た。
「まあ、ナマエの場合は、お店に置いてあるのをそのまま……っていうのは、難しいかもしれないわね。」
『そう。』
首を傾げる。
「そうよ。そりゃあ、探せばサイズはあると思うわ。
でもナマエって、背が高いわりに細いから、身長に合わせて選ぶと布が余っちゃうだろうし、体に合わせて選ぶと、手足が長いから、逆に足りなくなる。」
『……』
「だからちゃんと仕立ててもらった方がいいわ。
折角のクリスマス・ダンスパーティよ、そうしないと勿体無いもの。
いいわよ。一緒に行ってあげる。」
『ありがとう。』
「いいのよ。楽しそうだもの。
ところでパートナーは決まってるの?」
『まだ。』
不穏な言葉に一瞬気を取られたが、そう言った。
「あら、そうなの。でも今からでも十分間に合うわよ。」
『そうかな。』
「もちろん。だって何度も誘われてたでしょ?それに、ほら。」
『……』
顔は動かさないまま、ハーマイオニーは意味ありげに目を動かした。
その視線を辿ってみると、そこには女子生徒が数人、グループになって此方に向かってくるところだった。
こっちを見て、互いに顔を寄せ合い、内緒話をしている。
擦れ違ってからも彼女達は、わざわざ振り返って、チラチラ此方を見ていた。
「ね?ナマエ、あなたに誘って欲しい人がいるのよ。」
そう言って、ハーマイオニーは再び歩き始めた。
壁に張り付いた名前だが、数歩で追い付く。
『ハーマイオニーは誰と行くんだ。』
「えっ?ああ、うーん……私は……」
いつも素早く、キッパリ答えるハーマイオニーが、珍しく言い淀んでいる。
眉根を八の字に寄せて、何だか困った表情だ。
『言いたくないなら、いい。』
「ううん。そういうわけじゃないの。うーん……そうね……ナマエになら……」
話している内に頬がじわじわ赤く染まっていく。
胸にしっかり抱えた鞄から手を離して、ハーマイオニーは自身の髪を梳いた。
忙しなく目を動かして、挙動不審だ。
少なくとも、ハリーとロンじゃないのは確かである。
二人はまだパートナーを探している真っ最中だ。
「ビクトール───ビクトール・クラムよ。」
『ダームストラングの。』
「ええ。二人には秘密にしてくれる?特にロンには。絶対からかうから。」
『……分かった。』
「お願いよ、ナマエ。」
ちょっと自信無さそうに小さな声で承知したせいか、ハーマイオニーは念を押した。
「きゃっ!」
『……』
廊下の分かれ道でハーマイオニーと別れてすぐの事だ。
角を曲がった先で誰かと正面衝突した。
相手は走っていたようだが、ぶつかった名前はビクともしない。
衝突して後ろに倒れかけたのはむしろ相手の方だった。
咄嗟に腕を掴んで引き留めると、相手は恐る恐る顔を上げた。
ラベンダー・ブラウンだ。
『ごめん。……
大丈夫か、ラベンダー。』
「え……ええ、ありがとう。ナマエ……。」
不安定な体勢を立て直させ、名前は周囲に目を走らせた。
いつもはパーバティ・パチルとセットなのだが、珍しい事に一人だ。
「ごめんなさい。私、パーバティを待たせてて、走るのに夢中だったの。ちゃんと前を見てなくて。」
『いや。俺も不注意だった。
ラベンダー、どこか怪我はしてないか。』
「私は大丈夫よ。ナマエ、あなたこそ大丈夫?思いっきりぶつかっちゃったけど……。」
『平気。』
そこで一瞬、会話が途切れた。
お互い見つめ合って黙り込む。
廊下を行き交う他の生徒がそんな二人を見付けて、冷やかすようなクスクス笑いをもらした。
上目遣いに、ラベンダーは名前を見つめる。
何か期待するような視線だ。
ピンク色の頬が赤みを増し、クスクス笑いを我慢しているようで、唇をモゴモゴさせている。
『ラベンダー。』
「なあに?」
『よかったら、俺と一緒にダンスパーティへ行って欲しい。』
ラベンダーは目を見開いた。
それと同時に口も開いてしまっていたが、すぐに両手で覆った。無意識の動作だった。
それから堪えきれなくなったようで、ついにクスクス笑った。
「あなたと?」
『ああ。』
「でも、家に帰るって話を聞いたんだけど。」
『ダンスパーティには出る事になった。』
「それで、私と?」
『ああ。』
「うん……ええ、いいわよ。」
ラベンダーはもう首まで真っ赤になっていた。
口を覆っていた手を今度は頬に添えて、熱を冷まそうとしている。
『よかった。ありがとう。』
「こちらこそ。誘っていただいて嬉しいわ。」
『……ええと、パーバティを待たせているんだったね。引き止めてごめん。』
「いいのよ、それじゃ……また。」
ラベンダーは頬に手を添えたまま歩き出して、角を曲がって見えなくなった。
姿が見えなくなってから、名前は胸に手を当てた。
今更心臓が早鐘を撞くように高鳴り始めたらしい。
学期最後の週。金曜日の朝。
城内は隅から隅まで丁寧に掃除され、クリスマス・ダンスパーティに向けた飾り付けが施された。
それは随分気合いの入ったもので、今まで見た中で一番派手で、美しく、規模の大きいものだった。
『…』
「いざとなれば『嘆きのマートル』がいるさ。」
「ハリー───
我々は歯を食い縛って、やらねばならぬ。」
「綺麗だな」と、思っているのかは分からないが見事な飾り付けを眺める名前の隣で、ハリーとロンは憂鬱そうに声を低めていた。
ハリーもロンも、まだダンスパーティの相手がいないのだ。
「ナマエ、君はどうなんだ?」
見兼ねたようにハリーはそう言った。
ハリーとロンの会話を聞いていたのかいないのか、名前は大広間に並ぶクリスマスツリーをぼんやり眺めていて、時折思い出したかのようにサラダをつついていた。
「君だってもう無関係な話じゃないだろう?パートナーは見付けたの?」
『ああ。』
「えっ、ほんと?」
気に留めるふうもなくアッサリ返ってきた答え。
向かいに座る二人は身を乗り出した。
「誰?」
『ラベンダー・ブラウン。』
「ラベンダー?」
素っ頓狂な声で聞き返して、ロンはグリフィンドールのテーブルを見回した。
少し離れた所にラベンダー・ブラウンがいる。
どうやらパーバティ・パチルと一緒のようだ。
ロンの声が聞こえたのか、二人揃って此方を見ていた。
目が合うと顔を寄せ合って、クスクス笑う。
ラベンダーから名前に視線を戻し、ロンは内緒話でもするように、ちょっと顔を近付けた。
「なんで?」
『何が。』
「悪くないよ。でも君ならもっと上を狙えるだろ?
それこそフラーとか。」
『……ああ、ボーバトンの……
……
どうして彼女を誘うんだ。』
「どうしてって、そりゃあ、彼女がとってもキレイだからさ。」
『そうだね。でも、ラベンダーは可愛い。』
「へえ。ナマエはラベンダーがタイプなんだ?
でもフラーには敵わないだろ?君、違うって言うなら、ちょっとズレてるな。
ああ、これ、美的感覚の話だぜ。」
ロンと名前の会話が、ハリーにはつい最近同じような会話を聞いた事を思い出させた。
夜の談話室で、名前は訓練で不在。
ハーマイオニーは「魔法薬学」の勉強をしていて、ロンは「爆発スナップ」ゲームのカードを積んで遊んでおり、ハリーは確か「キャノンズと飛ぼう」を読んでいた。
そこにフレッドとジョージがやって来て、ダンスパーティのパートナーの話になったのだ。
フレッドはその場でアンジェリーナを見事誘って見せた。
それでロンが焦りを見せたのだが、その時の発言が───確か───残るはトロール二匹じゃ困るぞ───とか何とか、そんなふうな事を言ったのだが、それがハーマイオニーに火を付けた。
名前がハーマイオニーのように怒るとは、ハリーには想像つかない。
しかし以前一度、ロンは名前を怒らせた事がある。
一年生の時だ。
まだハーマイオニーとそこまで仲良くなくて、ロンがハーマイオニーの性格に悪口を言った時、名前は静かに怒った。
あの時のように怒らせたくない。
話を変えようと、ハリーは口を挟んだ。
「でも、意外だな。ナマエはそういうの苦手かと思ってた。」
「ところがどっこい、ハリー。ナマエは時々大胆になるんだ。
ああ……でも、じゃあ、ナマエにとっては無関係ってわけだな?この話は。パートナーを見付けてないのは僕達だけだ。」
拗ねたように言って、ロンは皿の上のソーセージに齧り付いた。
「今夜、談話室に戻る時には、我々は二人ともパートナーを獲得している───いいな?」
「あー……オッケー。」
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