24.-3






ハリーを縛る縄をほどき、杖を返す。
それはヴォルデモートとの決闘を意味していた。

決闘とはどちらかが死ぬ事で決着がつく。
つまりどちらか一方は必ず死ぬ。

明らかに弱っているハリーと、蘇ったばかりのヴォルデモート。
力の差を身に刻ませる、残酷な戦いだ。





「ナマエ、……
…セドリック…………」




荒い息を繰り返すハリーの前に、名前とセドリックは立った。
今どうしても、どうなっても、ここへ立たなければならなかった。
この期を最後にハリーを救う機会は無くなるからだ。
三人全員で生きて帰る為に、立ち向かわなければならない。

杖を構えた名前は、魔法でセドリックの体を覆う蔦を切り裂き、手を掴んで走った。
数え切れないほど蛇に身体中を噛まれた。
おそらくセドリックも。
激痛に足が竦みそうだったが、それでも二人は走った。

咄嗟の出来事に反応しきれなかったのか、無防備に立ち尽くす死喰い人達を、名前ははね除けた。
そしてハリーの前に立って杖を構えた。
その様子を、ヴォルデモートは黙って見届けた。恐ろしいほどに冷静に。
真っ直ぐ杖を構える名前に、死喰い人は態勢を整えて、それぞれ杖を持ち出す。
それをヴォルデモートが手で牽制した。





「よい。」





死喰い人達は戸惑うようにヴォルデモートと名前を見比べたが、やがて杖を下げる。

ヴォルデモートは名前を見つめると腕を広げて、大袈裟に驚いた顔を作った。





「おお!ナマエ……
俺様としたことが、ハリーとの再会に浮かれて…お前がいたことをすっかり忘れておったわ。」





杖を構えたまま微動だにしない名前の背中に、セドリックの手が触れた。
ハリーの体に触れた状態であることを示す合図だ。
後は優勝杯を引き寄せて触れるだけ。

ヴォルデモートの動きと死喰い人の動きに警戒しながら、優勝杯の位置を素早く確認する。





「かつての部下であるミョウジの息子だ。歓迎しよう。
しかし、決闘に横槍をいれるのは良くないな。決闘とは一対一で行われるものだ。学校でもご両親にでもいい、そう教わらなかったか?
ああ、ご両親の事といえば……知っているぞ。まことに残念だ……特に父親の方は、優秀な部下だったからな。ナマエ、お前の姿を見ていると、父親の若い頃を思い出させる。よく似ておるのだ。感傷に浸らせられる……。」






ヴォルデモートの話を聞く気はない。
情報を引き出すよりも、戦う事よりも、学校に戻ることが先決だ。

しかし背中に触れていた手が動揺したように震えた。
ハリーは名前の父親が元死喰い人であった事を知っているが、セドリックは知らない。
不自然にもこの場に居合わせた名前の存在を信用できるほど親しくもない。
セドリックの心に疑心が生まれてしまったのだ。

杖を構える手とは反対の手で、名前は隣に立つセドリックの背中を触れた。





『俺を信じてください。』





セドリックの視線が名前の顔へ向けられた。
名前はヴォルデモートから目を離さない。

ヴォルデモートは笑みを浮かべた。





「ああ、本当に恐ろしいほどよく似ておるわ。まるで生き写しだ。
お前の父親は知識があり頭の回転も速かった。
行動力も判断力も、それを可能にする魔力も、お前の父親にはあった。
そして何より、人を信用させる能力に長けていた……。」





ーーー今のお前のように
言外にそうほのめかしているような言い振りだった。

時間を稼ごうとしているのか、動揺を誘っているのか。
ヴォルデモートが何を企み話し続けるのか、この場にいる誰にも分からない。

死喰い人達にさえ分からないのだ。ただ成り行きを見守っている。
だが名前が少しでも動こうものなら、たとえ主に手出し無用と命じられていようが、死喰い人達は一斉に杖を振るうだろう。





「だからこそ、無くすには惜しい人材だ……。俺様の元へ来い、ナマエ。
今ここで返事をするのだ。」






死喰い人がざわめいた。

何故…と理由を問う者。裏切者の子どもなど…と否定する者。

一人一人意見を申し出たが、ヴォルデモートはしもべの声に耳を傾けようとはしない。
名前から片時も目を離さず、反応を窺っていた。





「…」





「名前を信じる」というセドリックの決心は揺るがなかった。
集中砲火を避ける為に慎重にならざるを得ない。それも心得ている。
しかし話の雲行きが怪しくなっている事に、じわじわと焦りが募っていった。
蛇の毒が体を蝕んでいくのもあり、冷静な考えも出来ないでいる。

名前は勿論NOと答えるだろう。
そうしたら、ヴォルデモートはどう行動するだろうか。
諭すだろうか。魔法で無理矢理仲間に引き入れるかもしれない。
断る事を前提としていて、口実であり、今度こそ戦闘になるかもしれない。





『一年生の時にも言われたけど、何度言われたって俺は行かない。』





杖を構えたまま下ろさず、淡々とそう言った。
ヴォルデモートは笑った。心底おかしそうに。

その瞬間、セドリックは背中から手を離し、杖を掴む名前の手を握った。





「アクシオ!優勝杯よ、来い!」





セドリックが叫ぶのと同時に、体に衝撃が走る。

引っ張られているような、落下していくような浮遊感だ。
暗闇の中では上下左右も分からない。

ただひたすら、無事ホグワーツに戻る事を願っていた。

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