08.-2
「ナマエ、何をやってるの?」
『………ハリー。』
図書室にやって来たハリーの目に映ったのは、本に埋もれながら本を読む名前の姿だった。
『…本を読んでる。』
「本に埋もれながらかい?」
『………』
言われて名前は、右、左、と自分の周りを眺め、やがてハリーに目を戻し、こっくり頷く。
ハリーは深い溜め息をこぼした。
「この本は必要なの?」
『いや、もう読んだ本だ。』
「読んだら戻さなきゃ…」
『ん…ごめん。
気になる言葉を探していたら、連鎖的に…。』
「気になる言葉って?」
本を元ある場所に戻していたハリーが、振り返って名前を見る。
名前は涼しげな顔をしていた。
『本を読んでいると、わからない言葉が出てくる。
…だから、それがなんなのか調べながら読んでたんだ。』
「ふーん。なんだかナマエって、ハーマイオニーみたい…あっ、
ねえ、ナマエ。」
『…』
「ニコラス・フラメルって知ってる?」
『ニコラス・フラメル…』
「うん。」
思案しているようだ。
どこを見るでもなく、抱えた本の山をじっと見つめている。
ハーマイオニーと同等に聡明な名前のことだ。何か知っているかもしれない。
ハリーが期待をこめた眼差しで名前を見ている。
『名前は聞いたことがある。』
「!」
『…疎覚えなうえに、マグルの世界で得た幼少の知識だ。魔法界とは違うかもしれない。
不確かなことを教えることはできない。』
「…そっか…。」
『…ごめん。』
「ううん、気にしないでよ。」
にっこりと笑ってはいるが、眉を八の字に寄せてどことなく残念そうだ。
ハリーの苦笑いを見て、名前は少し俯いて口を一文字に引き結んだ。
腕の中に抱えた様々な本を、一冊一冊手に取り、ゆっくりと本棚に戻していく。
『調べる理由は、何だ。』
「えっ…
……あー……ウン…」
本を戻しながら、突然呟くような声量で名前がハリーに問う。
クエスチョンマークを感じさせない、名前独特の話し方だ。
慣れてしまえば気にならない。
しかし慣れていない者にはある種の威圧感を感じさせるようだった。
ハリーは名前の話し方に慣れていたが、この時ばかりは凄まじい威圧感を感じた。
(ハリーとしては、別にやましいことを企んでいるわけではないのだが)
「あのね、ナマエ…これは秘密のことなんだ。
誰にも話しちゃいけないよ?」
『………』
最後の一冊を棚に納め、振り向いたハリーは真剣な眼差しを名前に向けた。
その表情を目の前にして、名前はじっとグリーンに輝く瞳を見つめる。
ゆっくり、深く頷いた。
内緒話でもするかのように背伸びをして身を寄せて、口元に手をあてるハリーに合わせて、
名前も身を屈めて体をくっつける。
「"クィディッチ今昔"をスネイプに没収されて、取り返しに行った夜のことを覚えている?」
『………』
コクリ、頷く。
「スネイプが足に怪我をしていたのを見た?」
『………』
またコクリ、頷く。
「三頭犬は知ってる?」
『………』
ややあってから、頷く。
「今、ホグワーツには三頭犬がいるんだ。その三頭犬は何かを守ってる。それをスネイプが狙っているみたいなんだ。
三頭犬が何を守っているのかは、まだわからないんだけれど…ニコラス・フラメルっていう人が関係しているみたいなんだ。」
『…………』
「ナマエ、誰にも話しちゃいけないよ?」
『………。』
コクリ、頷く。
(名前ならば、と初めからその心配はハリーはしていないかったが)
それを確認してから、ハリーは寄せていた身を離した。
(実は少し背伸びがキツかった)
ぐるぐると足首を回すハリーを、名前は傍観するように眺めている。
ハリーがその視線に気付き名前を見るが、名前は珍しく視線を外さず見詰めてくる。
(いつもなら三秒と経たない内に素晴らしいくらい素早くナチュラルにそっぽを向かれる)
驚いたハリーはぽかんと名前を見つめ、名前も相変わらず涼しげな目元で見つめている。
果たして、この異様な(男子生徒が言葉もなく互いをただ見詰め合う)光景を目の当たりにしたある生徒は、その紅顔から顔色を無くし全速力で逃げ去り、
(すぐに司書のマダム・ピンスが尖り声を出し、その生徒は一週間立ち入り禁止になった)
またある生徒は頬を染めて鼻息を荒くした。
(進展がないことを知ると、柳眉を逆立て一つ盛大な舌打ちをしさっさと行ってしまったが)
しばらくすると、興味をなくしたように名前は視線を外し、何事もなかったかのように次に読む本を物色し始める。
落ち着いた名前の様子に、ハリーは少し驚いた。
それは違う見解だ、と否定するわけでもなく、
ビックリするわけでもなく、
馬鹿げた話だと呆れるわけでもなく、
ハリーの話をそのまま受け止めている。
心の中では色々と考えているかもしれないが、今のハリーには、名前はそう見えた。
やがて本を読み始めた名前を見て、ハリーは図書室に来た当初の目的を思い出す。
"昼食でまた会おうね"と言うと、慌てて奥へ入っていってしまった。
『………』
名前の目はよどみなく文字の羅列を追っている。
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