15.-2











『…』





談話室に足を踏み入れると、暖かい空気が名前を包み込んだ。

室内に人気は無く静かだ。
暖炉の薪が燃えるパチパチという音がよく聞こえる。
そしてその暖炉の側には、よく見知った者達がテーブルに物を広げて頭を寄せ合っていた。





「ナマエ!」





名前の足音が聞こえたせいか、彼らは顔を上げてこちらを見た。
そして見る見る間に笑顔を浮かべて、半ば叫ぶように名前を呼んだ。





「ナマエ、おかえり!…って言うのも、変かな?」



『いや、…ただいま。ハリー、
ロン、ハーマイオニー。』



「おかえり、ナマエ。元気そうだね。」



「おかえりなさい。寒かったでしょう。ナマエ、ここに座って少し暖まったら?
頭とコートに雪が積もってるわよ。」




言われて見てみれば、雪が毛玉のようにくっ付いている。
黒いコートだからか余計に目立っていた。

テーブル周辺は教科書やら本やらのちょっとした山が出来ている。
ハーマイオニーはソファーに置いていたそれらを素早く移動させて、空いた場所に座るよう名前に促した。





『…宿題。』





トランクとネスの入った鳥籠、そしてお土産を抱えて、空いた場所へ腰掛ける。
テーブルの上いっぱいに教科書や羊皮紙が広がっているので、お土産以外は床に置いた。

狭い鳥籠の中で長旅を終えたネスを労ろうと、鳥籠からネスを出してやる。
ネスはひらりと飛んで名前の肩に止まり、凝り固まった体を伸ばすように羽根を広げた。





「そうよ。ちょっと教えてって言うから見たのよ。そしたら、二人とも全く手をつけて無いって、ねえ、ナマエ、信じられる?
もうすぐ休暇は終わっちゃうのに!」



「だからこうしてやってるじゃないか。」



「計画的にやればこうして焦ることも無いんだけれど。」



「悪かったね。計画が無くて!」



「ナマエ、荷物置いてきたら?」





口を挟む隙が無い会話に、名前がついていけないと察したらしい。
宿題の手を止めてハリーは提案した。

名前ははたとハリーを見て、何か考える素振り見せる。
そして、持っていた紙袋を軽く持ち上げて見せた。





『…お土産。』



「日本のお菓子かい?前にもくれたよね。」



「ワオ!開けていい?」





今の今までハーマイオニーと話していたはずなのに、ロンはお菓子という言葉に素早く反応する。
これにはハーマイオニーも、呆れ顔だ。





「ロン。一段落ついてからにしなさいよ。」



「もう一時間もやってるじゃないか。休憩にしようよ。」



『… 』





キラキラした目で見つめられては頷くしかない。
紙袋を渡せば、早速中からお菓子を取り出して吟味している。

包み紙を剥がし始めたロンを見て、ハーマイオニーは深い溜め息を吐いた。





『……ダンスパーティは楽しかった。』



「ん?うん。まあね。」





お菓子を食べるのに夢中なのか、ダンスパーティの話はしたくないのか。
分からないが、いち早く返事をしたロンは素っ気ない。
そしてハリーやハーマイオニーが口を開く前に、ロンは再び切り出した。






「ダンスパーティの夜にさ、ハリーと一緒に、ちょっとその辺を歩いたんだ。
クラウチが病気だから、代わりにパーシーが来てたんだけど、補佐官だとか言ってたかな。話に付き合ってられなくて。」



『…』



「そしたら、ハグリッドとマダム・マクシームが一緒にいる所に出会しちゃったんだ。二人は僕達がいる事に気付いてないみたいだった。
それで、聞いちゃったんだよ。ハグリッドのママは巨人なんだって。」



『…そう。』



「マダム・マクシームもさ。本人は骨が太いだけだって否定してたけど、無理があるよな。」



『だから、背が高い。』



「…それだけ?」



『…』
首を傾げる。それから少し考えるふうに黙り込む。
『手も大きい。』



ロンは深い溜め息を吐いた。
「ナマエ、君、巨人がどういうものか知ってる?」



『本で読んだ。』





魔法界では、巨人という一族は一般的に野蛮で危険だとされている。
そう短く前置きをして、名前は続けた。





『ハグリッドさんは優しい。』



「皆が皆、同じとは限らないわよね。」





ハーマイオニーが満足そうに笑顔で頷いた。
諦めたようにロンは肩を竦める。
それから話を変えようと、また口を開いた。





「そういえば、フレッドとジョージから聞いたんだけど。
ダンスパーティの日にナマエを見たって。」





続け様にお菓子を頬張りモゴモゴさせたまま、ロンは言った。
いつもは飲み込んでから話せと注意するハーマイオニーが、何も言わずに名前を見ている。
ハリーもロンの話に興味を示したらしく、名前を見た。






「黒いスーツを着てて、ダンブルドアと一緒に歩いてたって。
ナマエは日本に帰ったから、いるはずないって言ったんだ。」





ダンスパーティ間近の喧騒の中、喪服を着て学校の中を堂々と歩いたのだ。
誰に目撃されてもおかしくはない。
ダンブルドアと一緒だったから声を掛けられなかったのだろう。





『俺だと思う。』



「二人の見間違いじゃなかったのか。」



「どうして学校にいたの?」





ハリーの疑問は、ロンとハーマイオニーにとっても同じ様に疑問だったようだ。
黙って名前を見つめる瞳は、その答えを促している。





『…
母が亡くなった。』





話すべきか、話さないべきか。
多少の迷いはあったようだが、名前はハッキリそう言った。
いずれ知られる事―――そう思ったのかもしれない。

告げられた言葉に、三人の時は止まったようだった。

頬張ったまま咀嚼も忘れ、ロンは目を見開いて固まった。
固まったのはロンだけではない。
ハリーもハーマイオニーも目を見開き、こちらを見つめたまま動かない。
持っていたお菓子がポロリと手を滑り、テーブルに落ちたその音で、やっと我に返った三人は、漸く動き始めた。





「君のお母さんが?…
亡くなった?」





頷くと、三人は一斉に顔を見合わせた。
それから名前の方を、何か言いたそうに見つめた。

しかし躊躇しているようだった。
口をモゴモゴと動かすが、なかなか声にはならない。

そうした少し長い沈黙の後、口を開いたのはハリーだった。





「一体どうして?
まさか、また……」





その先は言わなかった。
おそらく、「死喰い人」が?―――と続くはずだったのだろう。

名前の父親は「死喰い人」に、火災という手段で、間接的にではあるが殺害されたのだ。





『可能性はある。ダンブルドア校長先生は、そう仰っていた。だから、警戒を怠るなと…。』





夏に父親が殺され、冬に母親が殺された。
残るのは名前一人だ。

ハリー達は不安そうに眉を寄せた。





『けど、分からない。父が亡くなってから、母は精神的に参っていた。
それに、俺は誰も見ていない。』




ハリー達は目を見合わせたり、何か言おうと口を動かしたが、結局黙ってしまった。

おそらく大多数の人にとって、人の死や複雑な家庭事情は、そう簡単に踏み入れられる話題ではない。

それはハリー達も同じなようで、
何と言ったら良いのか、何を話せば良いのか、考え迷っているらしかった。





「………
ナマエ、今までどこで生活していたの?
まさか、家で一人…なんて事は無いわよね?」



『…いや、家は…』





遠慮がちに、おそるおそるいった風に、ハーマイオニーはそう聞いた。

名前は言いかけて考える。
不安そうな三人を、これ以上不安にさせて良いものだろうか。

口を開きかけたまま黙るので、三人は訝しげに名前を見つめ、ますます不安そうにしている。





「ナマエ?」



『…家は、火事で焼けた。』



「火事だって?」





名前を呼ぶ声に咄嗟に答えてしまうと、
ロンは素っ頓狂な声を出した。





「おかしいよ。君のお母さんが亡くなって、次は火事?
絶対『死喰い人』の仕業だ!」



「確かに、偶然にしては出来すぎているわ。
…でも、無事でよかった。」



「家が無くなっちゃったのなら…本当に、今までどこで生活していたの?漏れ鍋?」



『いや。俺が通っている、ボクシングジムの…
トレーナーの家に、居候させてもらっていた。』



「トレーナーの家?」



『両親の古い友人で、昔からお世話になっている。』



「それなら安心ね。」



「でも、その人まで『死喰い人』に狙われたりしないかな…。」





ロンの小さなその一言に、名前は唇を引き結ぶ。
苗字という一族が狙われているのなら、残るは名前だけだ。
しかし「死喰い人」が親しい人を手に掛けないとも限らない。

戦う術を身に付けなければならない。
自分自身を守る為にも。
柳岡を守る為にも。
その為に訓練が必要だ。

まだ休暇中ではあったが、ムーディのいる教室へと出向いた。
訓練を受けたい事を申し出ると、ムーディは了承した。





「いいだろう。しかし休息も必要だ。分かるな?わしが必要だと判断したら、大人しく従ってもらうぞ。
お前は疲労に気付かず、無理を無理と感じない節があるからな…。」





宿題は終わらせてあったので、残りの休暇は訓練と勉強に費やした。
とはいえ、数日間ではあったが。

訓練は変わらず厳しかったが、時折ムーディに無理矢理ベッドへ叩き込まれる事もあった。
そのお陰か、毎日の訓練と勉強も苦にはならなかった。

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