10.-2
「あの女は、あんまり魔法生物に関心があるようには見えんかったな。正直言うと。」
学期最後の「魔法生物飼育学」は、今までの授業内容に比べると格段に穏やかだ。
スクリュートが好みそうな餌を用意するという授業で、
ハグリッドの小屋の陰に置かれた簡易テーブルの周りに腰掛け、皆まったりと談笑しながら、各々の餌を用意している。
というのもスクリュートの冬眠に失敗して以来、ハグリッドは直接スクリュートと触れ合う事を諦めたからだ。
皆は心から安堵したが、ハグリッドはまだ残念そうである。
「あの女はな、ハリー、俺にお前さんの事ばっかり話させようとした。」
皆が各々の作業に没頭しているのを確認しつつ、ハグリッドは低い声で話を続けた。
「まあ、俺は、お前さんとはダーズリーのところから連れ出してからずっと友達だって話した。
『四年間で一度も叱った事はないの?』って聞いてな。
『授業中にあなたを苛々させたりしなかった?』ってな。
俺が『ねえ』って言ってやったら、あの女、気に入らねえようだったな。
お前さんの事をな、ハリー、とんでもねえヤツだって、俺にそう言わせたかったみてえだ。」
「その通りさ。」
悪い予感はしていたが、リータ・スキーターのインタビューは、やはり良いものではなかったらしい。
スクリュートの詳細を尋ねられなかっただけでも良かったと言うべきだろうか。
ハリーは言いながらドラゴンのレバーを切り、その塊を大きな金属ボウルに投げ入れた。
血生臭さがつんと鼻をつき、名前は木の実を砕く手を止めて顔をそらす。
「いつまでも僕の事を、小さな悲劇のヒーロー扱いで書いてるわけにいかないもの。
それじゃ、つまんなくなってくるし。」
「あいつ、新しい切り口が欲しいのさ、ハグリッド。」
焼け野原と化した南瓜畑を眺めていると、遠くから酒の匂いが漂ってきた。
吹きっさらしのこの場所に、それは容易に届くのだ。
「ハグリッドは、『ハリーは狂った非行少年です』って言わなきゃいけなかったんだ。」
「ハリーがそんなわけねえだろう!」
冗談なのか真面目なのか定かではない提案だったが、少なくともハグリッドはまともに捉えたらしい。
相当ショックを受けたような様子だ。
「あの人、スネイプをインタビューすればよかったんだ。」
ナイフでレバーを切りながら、ハリーは不快そうに言う。
「スネイプなら、いつでも僕に関するおいしい情報を提供するだろうに。
『本校に来て以来、ポッターはずっと規則を破り続けておる……』とかね。」
「そんな事、スネイプが言ったのか?」
ロンとハーマイオニーは笑っていたが、ハグリッドは驚いていた。
ハリーの物真似の上手さに、名前も驚いていた。
「そりゃ、ハリー、お前さんは規則の二つ、三つ曲げたかもしれんが、そんでも、お前さんはまともだろうが、え?」
「ありがとう、ハグリッド。」
ハリーは嬉しそうに、ニッコリと笑った。
「クリスマスに、あのダンス何とかっていうやつに来るの?ハグリッド?」
「ちょっと覗いてみるかと思っちょる。ウン。」
あまり聞かれたくない話だったのかもしれない。
ハグリッドは急に無愛想に早口になった。
ロンはそれ以上問い掛けようとはしなかった。
「ええパーティのはずだぞ。
お前さん、最初に踊るんだろうが、え?ハリー?誰を誘うんだ?」
「まだ、誰も。」
頬を赤らめたハリーを見て、ハグリッドはそれ以上パーティーの話をしなかった。
ダンスパーティというものがこれほどまでに影響力があるのかと驚かされるぐらいに、学期最後の週はその話題で日毎に騒がしくなっていった。
それにともない集中力もなくなっていくので、授業を諦めた先生もいる。
最後まで授業を続けた先生も勿論いて、マクゴナガルやムーディ、スネイプなどはそうだ。
(スネイプは学期最後の授業で解毒剤のテストをすると言い渡し、生徒達は一気に現実に引き戻されたようだった)
そしてムーディの訓練も変わらず、毎日決められた時間に行われた。
「よく眠れているか?」
『…』
訓練の最中、ムーディが雑談の為に口を開くのは、そう珍しい事でもなかった。
今暫く名前は杖を下げて、ムーディの方へ目を向ける。
『はい。』
「そうか。」
言って、一旦口を閉じた。
「薬を使っているか?」
『はい。』
「減り具合はどうだ。」
『半分くらいです。』
「無くなったら言え。すぐに用意しよう。」
チラリ。ムーディは名前をじっと見つめた。
「まだ悩んでおるようだな。ミョウジ。」
『…』
「クリスマス休暇は日本に帰ると聞いた。」
『はい。』
「お前のそんな顔を母親に見せてはならんぞ。余計な心配を掛けたくないならばな。」
『…』
名前は無表情である。
ムーディからもらった睡眠薬のおかげでぐっすり眠っているし、少なくとも表面上はいつも通りのはずだ。
しかしムーディには名前の些細な変化が見て取れるらしい。
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