05.-1






『………どうしたんだ。』



「何がだい?ナマエ。
それより、君のお母さんの調子はどう?」



『…あぁ。変わりはない……
……』





ベーコンに乱暴にフォークを突き刺すハリーをチラリと見てから、名前はハーマイオニーを見た。
名前の視線に気が付いたハーマイオニーは肩を竦めて、「後でね」らしき事を口だけを動かし名前に伝える。





『………』





十一月二日、月曜日早朝。
学校に戻ってきた名前はいつも通りトレーニングとシャワーを済ませてから、朝食を摂りに大広間に下りた。
そしてすぐに、周囲を取り巻く異変と違和感に気が付いたのだ。

ハリーとロンが離れて座っている。
それどころか、お互い目を合わそうとしない。
仲違いをしているのは明白だった。

ハリーに理由を尋ねてみても、刺のある口調ではぐらかされてしまう。
そしてその上どういう訳か、他の寮の生徒もハリーを白い目で見るのだ。

この二日間に何があったのか。
戻ってきたばかりの名前には、理由がさっぱり分からなかった。















「おい、ほら、見ろよ。代表選手だ。」





ハグリッドの小屋に現れたマルフォイは、ハリーを見るなり、普段より格段に意地悪な笑みを浮かべてみせた。

「魔法生物飼育学」はスリザリン生と合同授業である。
合同授業は今日に限った事ではないし、スリザリンだけに限った事でもない。
しかしハリーを見る目が厳しい今、スリザリンにとってハリーを揶揄う絶好のチャンスと言える。
何かとハリーに突っ掛かるマルフォイが、このチャンスを逃すわけがない。





「サイン帳の用意はいいか?今の内に貰っておけよ。もうあまり長くはないんだから……。対抗戦の選手は半数が死んでいる……。
君はどのくらい持ちこたえるつもりだい?ポッター?僕は、最初の課題が始まって十分だと賭けるね。」





クラッブとゴイルは、マルフォイを引き立てるようにバカ笑いをした。
笑い声が止んだ頃を見計らい、話を続けようとしたマルフォイは、しかし、ハグリッドの登場で口を閉じざるを得なくなる。

ハグリッドは木箱を積み上げて抱え、小屋の後ろからバランスを取りながら現れた。
積み上げられた木箱は、その巨体を隠す程である。
そしてその中身は、大きな「尻尾爆発スクリュート」が一匹ずつ入っている。
生徒の前にどっかりとそれを置いたハグリッドは、疲れた表情の彼らに気付いているのかいないのか、説明を始めた。
ここのところスクリュートは攻撃的で、互いに殺し合うばかりである。
それはエネルギーを発散しきれていないからで、スクリュートに引き綱をつけて犬のように散歩させてやれば満足するだろうと言うのだ。





「こいつに散歩?」





箱の一つを覗き込み、マルフォイはうんざりした声を出した。





「それに、一体どこに引き綱を結べばいいんだ?毒針にかい?それとも爆発尻尾とか吸盤にかい?」



「真ん中辺りだ。」





ハグリッドは手本を見せたが、それを安全に実行出来るかと言うと難しいところである。





「あー―――ドラゴン革の手袋をした方がええな。なに、まあ、用心の為だ。
ハリー―――こっち来て、このおっきいやつを手伝ってくれ……」





皆がスクリュートに引き摺られるようにして散歩に出ると、ハグリッドはハリーに向き直り、何やら真剣な顔付きで言葉を交わしていた。

手伝いをハリーに頼んだのは口実で、本当の目的はハリーと話す事にあったらしい。





『…』





その光景を遠目に眺め、名前はスクリュートの手綱をしっかり握り締める。
そして散り散りになった生徒の中から、ハーマイオニーの姿を探した。
手元の手綱が掌に食い込むが、気にする様子は無い。
やがて引き摺られるように歩くハーマイオニーを見つけると、名前はそちらに足を向けた。





『ハーマイオニー。』





側まで寄って呼んではみるが、立ち止まる気配は全く無い。
ハーマイオニーは名前に気付いているし、立ち止まろうとしてはいるが、明らかスクリュートに力負けしている。足元に二本の轍が出来ていた。

名前はもっと側に寄って、ハーマイオニーの手綱を掴んだ。
スクリュートは前進を止めて、ハーマイオニーも立ち止まる。
肩で息をしながら名前を見た。





「ナマエ、あなた、よく出来るわね…。」



『…』





片手には自身に元々宛がわれたスクリュート。
もう片方にはハーマイオニーに宛がわれたスクリュート。
その二匹の手綱を握る名前は微動だにせずその場に立っている。

スクリュートは今や体長一メートルを超え、その体は灰色に輝く分厚い鎧のようなものに覆われている。
尻尾らしき部分が爆発し、先に飛ぶ事は変わらない。
ただし成長した分力も強くなっている為、飛距離は数メートルはある。





『…ハリーの事、聞きたい。』



「そうね……」





周囲を用心深く見回すハーマイオニーにつられてか、名前も周囲を見回した。

散り散りになった生徒が、思い思いに歩き回るスクリュートに引き摺られてもがいている。





「今なら大丈夫そうね。…ねえ、ナマエ。
今回の事、あなたはどこまで知っているの?」



ゆるり、首を横に振る。
『何も知らない。……
…ハリーが嫌われる理由。』



「ロンと喧嘩している理由も?」



『…』
頷く。



「そう…分かったわ。ねえ、ちょっと歩きましょう。
スクリュートがイライラしてるみたい。」



『…』





立ち止まったままでいたせいか、スクリュートは地面を引っ掻いたり、尻尾の先に火花を飛ばしたりしていた。
このまま互いのスクリュートが殺し合いを始めては敵わないので、二人は人気を避けつつ散歩を再開する。





「金曜日の夕方、あなたが出ていってから暫くして、ダームストラングとボーバトンがやって来たわ。それから宴会があって、試合の事も説明があった。
三校それぞれの代表選手をどうやって決めるのか、その説明ね。」



『…』



「代表選手を選ぶのは、『炎のゴブレット』だったわ。
羊皮紙に名前と学校の名前を書いて、ゴブレットに入れる。そうすれば、ゴブレットが相応しいと思う人を選ぶ…。」



『…』



「そして、選ばれたのは四人の選手だった。」



『四人、…』
首を傾げる。
『代表選手は、三人じゃなかったのか。』



「本来なら三人よ。三校それぞれ一人選ばれるはずなのよ。」



『…』



「ダームストラングからはビクトール・クラム、ボーバトンからはフラー・デラクール。
そしてホグワーツからはセドリック・ディゴリーと、…
ハリー。…………」



『………ハリーは年齢を満たさない。』



「ええ。だけど確かに、ゴブレットはハリーを選んだ。
ダームストラングとボーバトンは怒っているでしょうね。だって、ホグワーツから二人の代表選手が試合に出るんだもの。
それに、セドリック・ディゴリーだって……。
学校にいる人殆どが、ハリーがズルをしたって思ってる。」



『…取り下げる事は出来ないのか。』



「出来ないわ。
一旦代表選手に選ばれたら、最後まで試合を戦い抜かなければいけないの。」



『…』



「ゴブレットの周囲には、ダンブルドア校長先生が『年齢線』を引いたわ。十七歳に満たない者は線を越える事は出来ない。
生徒なんかに破れるはずないのよ。
ゴブレットを騙す事も、ダンブルドアを出し抜く事も、出来やしないわ。
誰かがハリーの名前を入れたのよ!」



『ハリーがこの状況を望んでいたとは思えない。』



「ええ、ハリーが望んだ事じゃない。
でも皆、ハリーがやった事だと思ってる。ロンだってそう…。」



『………
ハリーが選手に選ばれたから、ロンは怒ったのか。』



「怒ったと言うより、…それも勿論あるとは思うけど、嫉妬してるのよ。
家ではお兄さんと比較されて、友達のハリーは有名人で。ロンはいつも添え物扱いだった。」



『………』



「今まで我慢していたんでしょうね。
それが今回の事がきっかけになって、爆発した。」



『…』



「シリウスに手紙を書いたわ。
今回の事、シリウスに知ってもらう為にね。ハリーは渋っていたけれど…
…知らせた方がいいもの。」





別の梟を使って送られた手紙は、それから数日間が過ぎても何の返事も無かった。
その数日間でハリーの状況が変わるわけでもなく、むしろ悪化するばかりである。

ロンとの仲は相変わらずだし、別の梟を使った事で、ヘドウィグはヘソを曲げている。
四方八方から白い目を向けられ、トレローニーはいつもより自信たっぷりにハリーの死を予言した。

身に覚えがない事で悪者に仕立てあげられ、死ぬかもしれない試合で戦い抜かなければならない。
ハリーは向ける先の無い怒りで苛立っていたし、焦ってもいた。
そのストレスは授業にまで影響を与えて、フリットウィックの授業で「呼び寄せ呪文」の出来が悪く、ハリーは特別に宿題を出されてしまったのだ。





「そんなに難しくないのよ、ハリー。」



『練習すれば出来るようになる。』





励ますハーマイオニーに同意するように頷いてから、名前も出来る限り励ました。
ハリーはどんよりと落ち込んだ表情で、いつもよりずっと口数が少ない。





「あなたは、ちゃんと意識を集中してなかっただけなのよ―――」



「何故そうなんだろうね?」





目の前をセドリック・ディゴリーと、その追っ掛けの大群が通り過ぎていく。
擦れ違う瞬間、追っ掛けはハリーを冷たい目で睨むように見た。
それから何故か名前を見て、ほんのり頬を染めた。
理由が分からない名前は首を傾げるばかりである。





「これでも―――気にするなってことかな。
午後から二時限続きの『魔法薬学』の授業がある。お楽しみだ……。」





「魔法薬学」を受け持つスネイプが、自身の寮であるスリザリンを贔屓するのは広く知られている。
授業でグリフィンドールはいつも苦い経験をしているし、中でもハリーは何故か嫌みたらしいほど絡まれる。
四人目の代表選手、四面楚歌のこの状態で、スネイプやスリザリンがどんな態度をとるか容易く想像がつく。

名前達三人は大広間で昼食を摂り、ノロノロとした歩みで地下牢の教室に向かった。





『…』





教室の近くまで来ると、何やら生徒達が廊下で屯している。スリザリン生のようだ。

ハリーに気付いたスリザリン生は意地悪な笑みを浮かべて、皆不自然に胸を張った。
ローブの胸元がキラリと輝く。
見てみると、大きなバッジを付けている。

それは赤い蛍光色で、「セドリック・ディゴリーを応援しよう―――ホグワーツの真のチャンピオンを!」と書いてあり、薄暗い地下廊下で浮かび上がるように光っていた。

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