03.






誰もが予想出来ていたはずだ。

一年生の頃より二年生。
二年生の頃より三年生。
学年が上がる毎に授業は難しく、厳しくなっていく事は。

そして四年生となった今、それが今までに無く過酷なものだと誰もが気付いた。

授業の難しさも、宿題の量も、前年の比ではない。
そしていくらかの差はあるが、どの先生も大量の宿題を出した。





「皆さんは今、魔法教育の中で最も大切な段階の一つに来ています!」





教師陣の中でも特に厳しいマクゴナガルである。
当然大量の宿題を出し、その多さに彼方此方で呻き声が上がったのだった。





「『O・W・L』、
一般に『ふくろう』と呼ばれる『普通魔法レベル試験』が近付いています―――」



「『O・W・L』を受けるのは五年生になってからです!」





説明の声を遮って、ディーン・トーマスが怒ったように叫んだ。
マクゴナガルはディーン・トーマスの方に顔を向ける。
眼鏡の奥の瞳が危険な輝きを放っていた。





「そうかもしれません、トーマス。しかし、いいですか。
皆さんは十二分に準備しないといけません!
このクラスで針鼠をまともな針山に変える事が出来たのは、Ms.グレンジャーとMr.ミョウジのみです。
お忘れではないでしょうね、トーマス、
あなたの針山は、何度やっても、誰かが針を持って近づくと、怖がって、丸まってばかりいたでしょう!」





ハーマイオニーは頬を赤く染めて、身を縮こまらせたり、髪を撫で付けたりとちょっと落ち着きを無くした。
あまり得意気に見えないよう努力しているようだ。

一方名前はといえば、突然名前を呼ばれたから驚いたのだろう。
無表情のまま硬直していた。
こちらはもう少し得意気に見える努力をするべきである。















怒濤の宿題ラッシュは続く。

「占い学」の授業では前回同様、一ヶ月の自らの運勢を予言するという宿題が出た。
(今回の宿題でハリーとロンの宿題が最高点を取ったと言って、トレローニーは二人の予言を長々と読み上げ、その未来を怯まず受け入れた事を褒め上げた)
(しかしこの通り同じ宿題を出され、愉快そうにしていた二人の顔から笑みが消えたのだった)

「魔法史」の授業では毎週、十八世紀の「小鬼の反乱」についてのレポートを提出させた。

スネイプは解毒剤を研究課題に出した。
そしてクリスマスまでに生徒の一人に毒を飲ませ、皆が研究した解毒剤の効果を試すとそれとなく言ったものだから、こればかりは皆我が身可愛さで真剣に取り組んだ。

フリットウィックの授業では、「呼び寄せ呪文」の授業に備えて、三冊余分に参考書を読むようにと皆に言い渡した。

そしてハグリッドも宿題を出した。
生徒が一晩おきにハグリッドの小屋に来て、「尻尾爆発スクリュート」の生態について観察日記をつけようと言うのだ。
「尻尾爆発スクリュート」は青白い剥き海老のような形で、その胴体は常に粘液で包まれており、脚か尻尾かも判別できないところから時折火花を飛ばすという、
とにかくとても生き物とは思えない奇妙な姿をしていて、その上腐った魚のような臭いを発する。
性別の判別は分かるようだが、まだ詳しい生態は分かっていない。
しかし著しく成長していた。
ハグリッドは大喜びである。





「僕はやらない。」





ドラコ・マルフォイは不機嫌な顔も隠さず、遠慮なく言った。
今回ばかりはマルフォイと同意見の者が多いだろう。
爆発するわ吸血するわ針はあるわ、危険がいっぱいなのだから。
危険がいっぱいで喜んでいるのはハグリッド一人だけである。





「こんな汚らしいもの、授業だけで沢山だ。お断りだ。」





生徒の殆どが心中で大きく頷いていることだろう。





「言われた通りにしろ。」





ハグリッドの顔から、観察日記を提案した時のあの笑顔が消えた。





「じゃねえと、ムーディ先生のしなさった事を、俺もやるぞ。
……お前さん、中々良いケナガイタチになるっていうでねえか、マルフォイ。」





途端、グリフィンドール限定で爆笑の渦である。
(名前一人は訳が分からず無表情だったが)
マルフォイは怒りで顔を真っ赤にさせ、けれども睨むだけで口応えをしなかった。

授業後、学校に戻る道すがら。
名前はその理由を知る。

何でも、以前ムーディがマルフォイをケナガイタチに変え、仕置きしたという。
その痛みをまだ十分覚えているらしい。
三人(特にハリーとロン)は、事細かに名前に説明した。





「何だろう?」



「掲示板に何かあるのかな。」





玄関ホールには大勢の生徒が集まっていた。
その理由はどうやら掲示板にあるらしい。
皆首を伸ばして掲示板を見ている。

名前達四人は掲示板の方へ足を向けるが、人が多すぎて中々近付けない。
のっぽなロンは兎も角、ハリーとハーマイオニーは爪先立ちになって見ようとしている。しかし見えてはいないようだ。
四苦八苦する二人を見下ろして、四人の中で一番背の高い名前が(この学校で名前より背の高い者となるとハグリッドくらいだろう)、掲示の内容を読み上げた。





『三大魔法学校対抗試合。
ボーバトンとダームストラングの代表団が十月三十日、金曜日、午後六時に到着する。
授業は三十分早く終了し―――』



「いいぞ!」





ハリーはとても嬉しそうだ。





「金曜の最後の授業は、『魔法薬学』だ。
スネイプは、僕達全員に毒を飲ませたりする時間がない!」



『―――全校生徒は鞄と教科書を寮に置き、「歓迎会」の前に城の前に集合し、お客様を出迎えること。』



「たった一週間後だ!」





ハッフルパフのアーニー・マクラミンが群れから抜け出てきた。
きらきらと目を輝かせている。





「セドリックのやつ、知ってるかな?
僕、知らせてやろう……。」



「セドリック?」





独り言なのだろう、アーニーは名前達に見向きもせず走り去る。
その後ろ姿を見送りながら、ロンが鸚鵡返しに呟いた。





「ディゴリーだ。
きっと、対抗試合に名乗りを上げるんだ。」



「あのウスノロが、ホグワーツの代表選手?」



「あの人はウスノロじゃないわ。
クィディッチでグリフィンドールを破ったものだから、あなたがあの人を嫌いなだけよ。」





皆掲示板の内容に夢中な様子で、他の事など目に入らないらしい。
退く気配の無い生徒達を掻き分け、四人は階段の方へ進む。





「あの人、とっても優秀な学生だそうよ―――
その上、監督生です!」





ハーマイオニーは自信たっぷりに言い切った。
ロンは横目にハーマイオニーを見て、若干眉を寄せている。





「君は、あいつがハンサムだから好きなだけだろ。」



「お言葉ですが、私、誰かがハンサムだというだけで好きになったりいたしませんわ。」





ハーマイオニーは心外だとばかりに刺々しく言い返した。
そこでロンが何故か大きな空咳をしたが、名前の耳にはそれが「ロックハート!」と聞こえた。
ハーマイオニーの耳には聞こえなかったらしい。
パッと勢い良く名前を見た。
何か思い出したような表情だ。





「ああ、うっかりしてたわ!ねえ、ナマエ。
あなたにまだ伝えてなかったわね。」



『…』





思い当たる節の無い名前は首を傾げる。
ハリーとロンも首を傾げていた。
ハーマイオニーが言わんとする事を思い付かなかったのだ。





「今年クィディッチ試合は取り止めになったの。
その代わりに、三大魔法学校対抗試合が行われるわ。」



『トライウィザード・トーナメント。…』



「ああ!そうか、ナマエは組分け式にいなかったんだっけ。」





納得したようだ。
ハリーとロンは頷き合った。





「組分け式の時に知らされたんだよ。」



「ナマエ、君、三大魔法学校対抗試合がどういうものか知ってるかい?」



『…』





名前が返事をする前に、ロンは意気揚々と話し始めた。





「ヨーロッパの三大魔法学校…
ホグワーツと、ボーバトン、ダームストラングの三校のそれぞれから、代表選手が一人選ばれるんだ。それで、三つの課題をこなす。
勝った人には優勝杯と賞金一千ガリオンがもらえるんだ!」



「十七歳以上しか立候補出来ないけどね。」





ハリーが付け加えた。
名前はちょっと首を傾げ、考える風にする。





『危険、か。』



「そう、危険ね。夥しい死者が出て中止されたって、ダンブルドア先生がそう仰っていたもの。」



「だけど、今年再開されるんだ!ホグワーツで!」





ロンはやけに力んで言った。
それから隣に立つ名前をじろじろと見上げる。





「君なら立候補出来るかもな…十七歳って言っても通じるよ。
というか、十四歳に見えない。」



「ナマエが十四歳だって、先生方はご存知よ。立候補出来るわけないじゃない。」





素早くきっぱりそう言ったが、「十四歳に見えない」という言葉は否定されなかった。

西洋人から見た東洋人は幼い顔付きに見えるらしく、年齢よりも若く見られるのが大概である。
しかし名前は歳上に見えると言うのだ。
若さを意識した事は無いが、大人のように振る舞った事も無い。

老けているのか?
落ち着いた雰囲気や高い身長からそう思われているだけだが、聞く勇気の無い名前は知る由もない。

- 156 -


[*前] | [次#]
ページ:




×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -