01.-2






『長距離でも大丈夫と、仰っていた。』





彼らは困惑しているようだった。
言葉を失い黙る彼らを目だけでぐるりと見回してから、名前はその理由を考える。
そして結論付けて、ぽつりとそう付け加えた。
けれども、彼らが呆気にとられていた理由はそうではなかったらしい。名前の言葉を聞いた彼らは、困惑という表情に呆れを含ませた。

ロンは脱力感を滲ませて肩をすくませた。





「それはいいね。
それで、その鳥が君を守るってこと?」



「ダンブルドア先生には、ダンブルドア先生の考えがあるんだわ。
ナマエ。あなたが日本に帰る事を了承して、ダンブルドア先生は鳥を預けたんでしょう?」





ジロリとロンを見てから、ハーマイオニーは名前に優しくそう問い掛けた。
名前はコクリ、頷く。





「それなら大丈夫ね。」



「ハーマイオニー。君、本気で言ってるのか?」





ロンが目を剥いている。





「鳥だぞ?何かを運ぶ以外に、一体何が出来るんだ?
いざって時に、ナマエを運んで逃げるのかい?」



「ダンブルドア先生はそれで了承したのよ。だから大丈夫よ。」



「そりゃ、ダンブルドアは偉大だろうさ。けど、君は先生ってものを信用し過ぎだよ。
先生だって人なんだぜ。間違いくらいするぞ。」



「それで、ナマエ。その鳥は、今はどこにいるの?」





ヒートアップしかけたのを察して、ハリーは少し声を大きくして名前に尋ねた。
それが功を奏したようで、ハーマイオニーとロンは口を閉じて名前を見た。





『………分からない。朝、起きた時はいた。』



「本当に大丈夫なのかい?どうも安心出来ないなあ。」



「ロン!だから、ダンブルドア先生が託した鳥なのよ。必ず何か考えがあるって、そう言ってるでしょ。」



「そうは言ってもだ、ハーマイオニー。たかが鳥だぞ!」



「ねえ、ナマエ、もう二人には、話したんだけど。」





再熱しかけたのを見兼ねてか、ハリーは早口で切り出した。





「君が大変な時なのは分かっているんだけど…僕、夏休みに、夢を見たんだ。」



『…どんな。』



「ヴォルデモート。」



『…』





話の成り行きを見守っていたロンの顔が恐怖に強張るのと同時に、名前はハリーの言葉に母親の話を思い出した。
時を同じくして、母親もヴォルデモートの夢を見たのだ。
ハリーの見た夢と同じだったのかは分からないが。





「ピーター…ナマエ、憶えてるよね?ワームテールだよ。
二人で何か企んでたんだ。殺すって言っていた。」



「それ、ナマエのお父さんの事だったのかなあ?」





ロンは恐々言った。
ハリーは表情では否定していたが、黙ったままだ。





「その時傷痕が痛んだから、シリウスに手紙を書いたんだ。最近返事が届いて…
どうやらこっちに向かっているらしい。」



「ナマエの事も、シリウスに知らせた方がいいんじゃないかしら。」





呟くようにそう言うハーマイオニーに目を向ければ、何事か考えているようだった。名前の視線に気が付いていない。
ハリーはちょっと納得がいかないらしく、眉をひそめながら口を開いた。





「どうして?」



「情報としてよ。
シリウスはナマエを知っているし、何か身を守るヒントをくれるかもしれないわ。それに、
……」



「何だい?」



「それに、何だか、おかしいもの。」



「何が?」



「だって、奴らにとって、裏切り者なんか沢山いるのよ!
それなのに、どうしてナマエのお父さんを手に掛けなければいけないの?
遠く離れた地にいるのに。
どうして急ぐ必要があるの?」





ハリー、ロン、名前は揃って目をぱちぱちさせた。
それから互いに顔を見合せ、話の先を促すようにハーマイオニーを見た。

ハーマイオニーは何か考えているようだ。
名前達には目もくれず、暖炉の火を睨むように見つめている。





「気になるのは、どうして火事なんか起こしたかって事よ。」



「騒ぎを起こしたかったんじゃないの?
それか、沢山の人を殺したかったとか。」



「それなら姿を現して、直接手を下せばいいだけだわ。
クィディッチ・ワールドカップの時みたいにね。」





棘のある言い方だ。「奴ら」の事がよっぽど嫌いらしい。





「それなのに、どうしてわざわざ火事なんか面倒な事をするの?」





パチパチと燃える薪を見つめたまま、ハーマイオニーは額に手を当てた。





「きっと、そうする必要があったんだわ。何か理由があるのよ。」





ハリー、ロン、名前は再び、互いに顔を見合せた。

あの大火災で死亡したのは父親ただ一人だけだ。
父親が「奴ら」にとって裏切り者だから、だから殺された。

けれどもハーマイオニーの言う通り、殺すのならばもっと簡単な方法があるはずだ。
名前の自宅に乗り込むのも、散歩中に襲う事も出来たはずなのだ。

殺す、それだけなら。





「事故に見せ掛けて、殺されちゃったってこと?」





ぽつり、ハリーが呟いた。





「だって、わざわざ火事を起こして、姿を見せないなら、マグルにだって出来る。
放火みたいじゃないか。」



「確かに。
あんまり、裏切り者の見せしめ、って感じじゃないよな。」





ハーマイオニーが非難げにロンを見た。
しかしロンは全く気付いていない。
何か考えていて、それに夢中なようである。





「ウーン。どうして事故に見せ掛ける必要があったんだろう?」



「犯人だって知られたくないからでしょ。
でも、それなら変よね。奴らの事だもの、手柄にするわよね。だけど、そうしない……隠すみたいに………
自分の事を知られたくないから?…」





ハーマイオニーは考えるふうに額を撫でた。





「三つほど仮説を立ててみましょうか。」



「なに?」



「まず。そうね…
熱狂的な支持者が起こした。」





一本指を立てた。





「もしくは、目立ちたくなかった。存在を知られたくなかったのか。」





続けて二本目の指も立てる。





「はたまた、沢山の人を相手に暴れる力がなかったから。」





三本目の指を立ててから、その手を膝に置いた。





「まあ、これは可能性が低いわね。クィディッチ・ワールドカップでのあいつらを見ると…
一人だって、きっと、沢山の人を殺める力は十分にあるわ。」



「それじゃ、熱狂的な支持者か、目立ちたくなかったかの二択か。」



「僕は熱狂的な支持者の方だと思う。」





強い口調でハリーが言った。





「クィディッチ・ワールドカップであんなに暴れたんだ。
『闇の印』まで打ち上げて、目立ちたくなかった、なんて事があるのかな。」



「でも、それなら…」





反論しかけたハーマイオニーは、目を見開いて名前を見た。
ハリーとロンも何が起こったのか分からないといった様子でハーマイオニーと名前を交互に眺めていたが、一瞬の間を置いて、ハーマイオニーと同じように目を見開いて名前を見た。

何が起こったのか分からないといった様子なのはハリーとロンだけではなかった。名前も分からなかったらしい。
けれども名前は依然として分からないままで、瞬きばかり繰り返している。





「ごめん、ナマエ。」





そう申し訳なさそうにロンが言うものだから、名前はますます訳が分からないというふうに首を傾げた。
その体勢のままチラリとハリーとハーマイオニーを見る。
二人も何だか落ち込んだような雰囲気を背負っていた。





『どうして謝るんだ。』





首をカクンと傾けたまま尋ねるが、三人は口を開こうとしない。
名前はそこから更に首を傾けて、今や肩にくっつきそうなくらいである。





「だって、……」



『…』





そして、やっと口を開いたのはハリーだった。
首を元の位置に戻してハリーを見つめる。

ハリーは迷うようにロンとハーマイオニーを見て、それから名前の方を見た。
名前の様子を窺うような目付きである。
名前は相変わらず無表情であったので、そこから心情を読み取るのは困難だと思われるが。





「僕達、今、ナマエの気持ちを考えてなかった。」



『…』
首を傾げる。



「君がつらいっていう事は、分かっているのに…」



『色々考えてくれてるんだと思って、嬉しかった。』





一切の感情を捨て去ったかのような抑揚の無い声である。
三人の名前を見つめる表情からは、名前のその言葉が信じがたいと口に出さずとも伝わってきた。





『俺ではそこまで考えられない。
…けど、俺が話したから、皆考えてくれた。』



「………」



『…違うのか。』



「いや!勿論、考えてるさ。
でも、君、ナマエ、……」





慌てた素振りで早口に言ったロンだが、最後の方はモゴモゴと何やら言葉を濁している。

名前はまた不思議そうに首を傾げた。
そんな名前を、ロンはじっと見つめる。





「ナマエ。僕らに何か出来る事があったら、何でも言ってくれよ?」



『…』





首を傾げたまま、パチパチと瞬いた。





「君、自分で解決しちゃうから必要ないかもしれないけど、それに、なかなか話してくれないけどさ…」



『…』



「些細な事でもいいから。」



「そうよ。」





念を押すように強く言われてしまった。
しかもハーマイオニーとハリーもうんうんと頷いて同意している。





「ナマエ。私、勉強で分からないところがあったら教えてあげる。」



「僕達、友達なんだよ。友達の事を考えるのは当たり前だろ?」



『……
ありがとう。』





押しに弱いのは日本人の質なのか、それとも名前の性格なのか。
分からないが、話下手な名前は言われるままに了解してしまった。

いや、はっきり返事はしていないが、了解した流れになってしまっていた。
今更断れる雰囲気ではない。





『頑張る。』





やけに神妙な顔付きで頷いた名前を見て、ハリー達は不安そうに眉根を寄せた。

最後の一言は余計だったかもしれない。

- 153 -


[*前] | [次#]
ページ:




×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -