25.-2
「ハリー。」
それまでの会話やゲームなどを遮って、ハーマイオニーは突然名前を呼んだ。
呼ばれたハリーはハーマイオニーを見たが、ハーマイオニーはハリーを見てはいない。
ハリーの肩越しに、その後方を見つめていたのだ。
「そっちの窓の外にいるもの、何かしら?」
ハリーは窓の外を見た。
名前もロンも、つられるように見た。
灰色の小さな毛玉。
第一印象はそれだ。
しかし毛玉には羽が生えていて、封筒らしき四角いものを持っている。
ハリーは窓を開けてその毛玉を掴むと、コンパートメント内に引き入れた。
『梟。』
呟くと、毛玉―――梟は、返事をするかのように「ホー」と鳴いた。
そして、ハリーの元に封筒を落とした。
『…』
梟は名前達の頭上を飛び回り始めた。
どうやらこの梟は、仕事を果たせた事が嬉しいらしい。
その勢いが凄まじいものだから、名前はつい目を見張ってしまう。
同じ梟であるヘドウィグが、気に入らなさそうにカチカチと嘴を鳴らしているのが聞こえた。
『……』
今にも飛び掛かりそうなクルックシャンクスの視線に気が付いて、ロンが梟を捕まえた。
ロンの手の中に収まる梟は見れば見るほど小さくて、ふわふわとしている。
「シリウスからだ!」
「えーっ!」
手紙の封を開けたハリーが叫んだ。
名前がじっと梟を見つめたまま、周囲では興奮に歓声があがっていた。
「読んで!」
「ハリー、元気かね?
君がおじさんやおばさんのところに着く前にこの手紙が届きますよう。おじさん達がふくろう便に慣れているかどうか分からないしね。
バックビークも私も無事隠れている。この手紙が別の人の手に渡ることも考え、どこにいるかは教えないでおこう。
このフクロウが信頼出来るかどうか、少し心配なところがあるが、しかし、これ以上のが見付からなかったし、このフクロウは熱心にこの仕事をやりたがったのでね。
吸魂鬼がまだ私を探していることと思うが、ここにいれば、私を見付けることは到底望めまい。
もうすぐ何人かのマグルに私の姿を目撃させるつもりだ。ホグワーツから遠く離れたところでね。
そうすれば城の警備は解かれるだろう。
短い間しか君と会っていないので、ついぞ話す機会がなかったことがある。ファイアボルトを贈ったのは私だ。」
「ほら!」
ハーマイオニーが得意げに言ったところで、名前はやっと梟からハリー達の方に視線を向ける。
「ね!ブラックからだって言った通りでしょ!」
「ああ、だけど、呪いなんかかけてなかったじゃないか。え?」
ロンが意地悪くそう返す。
直後、苦痛の表情を浮かべた。
「アイタッ!」
梟がロンの指を噛んだのだ。
手の中に大人しく収まる梟に、嫌がっている様子はない。むしろ嬉しそうにしている。
この梟は愛情を込めて、自分なりに甘噛みをしたらしい。
「クルックシャンクスが私に代わって、注文をフクロウ事務所に届けてくれた。
君の名前で注文したが、金貨はグリンゴッツ銀行の711番金庫―――
私のものだが―――そこから引き出すよう業者に指示した。
君の名付け親から、十三回分の誕生日をまとめてのプレゼントだと思ってほしい。
去年、君がおじさんの家を出たあの夜に、君を怖がらせてしまったことも許してくれたまえ。
北に向かう旅を始める前に、一目君を見ておきたいと思っただけなのだ。
しかし、私の姿は君を驚かせてしまったことだろう。
来年の君のホグワーツでの生活がより楽しくなるよう、あるものを同封した。
私が必要になったら、手紙をくれたまえ。君のフクロウが私を見つけるだろう。また近い内に手紙を書くよ。
シリウス。」
読み終えたハリーは、もう一度封筒を取り上げた。
手紙に記されていた事を確認する為だ。
そして記されていた通り、封筒の中にはもう一枚羊皮紙が入っていた。
「私、シリウス・ブラックは、ハリー・ポッターの名付け親として、ここに週末のホグワーツ行きの許可を、与えるものである。」
読み上げながら、ハリーの表情は喜びに綻んでいく。
「ダンブルドアだったら、これで十分だ!」
幸せそうに言った。
それから、もう一度ブラックの手紙を見る。
「ちょっと待って。追伸がある……。」
呟くと、名前もロンもハーマイオニーも、続く言葉を待った。
「よかったら、君の友人のロンがこのフクロウを飼ってくれたまえ。
鼠がいなくなったのは私のせいだし。」
「こいつを飼うって?」
目を見開いたロンは、それからじっと手元の梟を見つめた。
困っているような、迷っているような表情だ。
やがて掴んだ梟を持ち上げて、クルックシャンクスの鼻先に突き付けたのだ。
「どう思う?」
クルックシャンクスはクンクンと匂いを嗅いでいる。
「間違いなくフクロウなの?」
暫くして、クルックシャンクスはゴロゴロと喉を鳴らした。
「僕にはそれで十分な答えさ。」
ロンが嬉しそうに言って、突き付けた梟を胸に抱いた。
「こいつは僕のものだ。」
ブラックの手紙が届いたという嬉しいハプニングからキングズ・クロス駅に到着するまで、時間はかからなかった。
四人は各自重たいトランクを引き摺って、9と4分の3番線ホームから柵を通って反対側に戻ってきた。
そこではウィーズリー夫妻が待っていて、名前やハリーをお帰りなさいと抱き締めた。
「ナマエ、手紙書くからな!去年みたいに僕の家に泊まりに来なよ。
それで、皆と一緒にワールド・カップに行こう!」
『…』
トランクを引き摺る猫背に向かって、ロンが叫んだ。
見えるかどうかは不明だが、名前はちょっと振り向いて、小さく頷いてみせた。
そして前に向き直り、歩き始める。
長身痩躯の猫背は、あっという間に雑踏に紛れて姿を消した。
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