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病室で溶けるように姿を消した二人は、直後ダンブルドアが出ていったドアから入ってきた。

端から見ていた名前からすれば、瞬く間の出来事である。

しかしその一瞬の間に、濃密な時間を過ごしてきたであろう事は、知っている名前には理解出来た。





『おかえり。』



「…ただいま。」





何を言うべきか分からないが、口を開いた名前は、そう言った。
二人は緊張した声音で返したが、大きな事をやり遂げた安堵が表情に滲み出ていた。
どうやら、上手くいったようだ。





『……』





会話はそれっきりだ。

ドアの鍵が閉まる音がして、ハリーとハーマイオニーは急いでベッドに潜り込んだ。

そしてそのすぐ後、マダム・ポンフリーが事務室から戻ってきた。





「校長先生がお帰りになったような音がしましたけど?
これで私の患者さんの面倒を見させていただけるんでしょうね?」





声だけで分かる。機嫌が悪い。

ハリーとハーマイオニーも察したらしい。
差し出されるチョコレートを黙って食べた方が良さそうだと。















差し出されるチョコレートを受け取るままに口に運んで、その数が四個目になった。

マダム・ポンフリーは二人を監視するが如く立ちはだかっていて、名前が目覚めた事に気付く様子はない。





『……』





声を掛けるか否か。
名前はマダム・ポンフリーの背中を見つめ黙っている。
迷っていたのだ。
そうしていると、遠くの方から咆哮のような音がしているのに気が付いた。





「何かしら?」





マダム・ポンフリーも気が付いたようだ。いや、気が付かない方がおかしい。
声はだんだんと大きくなっていたのだから。





「全く―――全員を起こすつもりなんですかね!一体何のつもりでしょう?」





声の主は今やすぐ近くまで来ているらしい。
話している内容は廊下に反響してはいるが、はっきりと聞こえてくる。





「きっと『姿くらまし』を使ったのだろう、セブルス。誰か一緒に部屋に残しておくべきだった。こんな事が漏れたら―――」



「奴は断じて『姿くらまし』をしたのではない!」





ファッジとスネイプだ。
スネイプの声量はかなり大きい。





「この城の中では『姿くらまし』も『姿現し』も出来ないのだ!
これは―――断じて―――何か―――
ポッターが―――絡んでいる!」



「セブルス―――落ち着け―――ハリーは閉じ込められている―――」





勢いよくドアが開かれた。
勢いがよすぎて、ドアが壁に当たって跳ね返った程だ。
勢いと音に驚いて、名前の心臓も跳ね返った程だ。

やって来たのはファッジとスネイプ、ダンブルドアだった。
前者の二人は怒り心頭に発しているが、ダンブルドアは素知らぬ顔だ。





「白状しろ、ポッター!」





大股に近寄りながら、スネイプが怒鳴った。





「一体何をした?」



「スネイプ先生!」





胸座に掴みかからん勢いである。
これに対して怒ったのは、当然校医であるマダム・ポンフリーだ。





「場所を弁えていただかないと!」



「スネイプ、まあ、無茶を言うな。」





ファッジは怒ってはいたが、スネイプよりは落ち着いているようだ。
穏やかにスネイプを静めている。





「ドアには鍵がかかっていた。今見た通り―――」



「こいつらが奴の逃亡に手を貸した。分かっているぞ!」





けれどもスネイプの興奮は治まらない。
ハリーとハーマイオニーを指差し、我を忘れたように叫んだ。





「いい加減に静まらんか!」





ついにファッジが怒鳴った。





「辻褄の合わんことを!」



「閣下はポッターを御存知無い!」





スネイプの声はファッジよりも大きい。





「こいつがやったんだ。分かっている。こいつがやったんだ―――」



「もう充分じゃろう、セブルス。」





宥めるでもなく、窘めるでもなく、ダンブルドアは静かにそう言った。





「自分が何を言っているのか、考えてみるがよい。
わしが十分前にこの部屋を出た時から、このドアにはずっと鍵がかかっていたのじゃ。
マダム・ポンフリー、この子達はベッドを離れたかね?」



「勿論、離れませんわ!」





マダム・ポンフリーはきっぱりと言い放つ。





「校長先生が出てらしてから、私、ずっとこの子達と一緒におりました!」



「ほーれ、セブルス、聞いての通りじゃ。」





ダンブルドアは穏やかな調子のまま続けた。





「ハリーもハーマイオニーも同時に二ヵ所に存在する事が出来るというのなら別じゃが。
これ以上二人を煩わすのは、何の意味もないと思うがの。」





スネイプは黙っている。
けれども納得いかないようだった。恨みのこもった鋭い目でファッジ、ダンブルドアと睨み付けたのだ。
それから何も言わずに、黒いマントを翻すと、大きな足音を立てて病室から出ていった。





「あの男、どうも精神不安定じゃないかね。」





出ていってから、ファッジは呟くように言った。
見境なく怒鳴り散らすスネイプに対し、若干失望した雰囲気である。





「私が君の立場なら、ダンブルドア、目を離さないようにするがね。」



「いや、不安定なのではない。」





ダンブルドアは相変わらず穏やかな調子を崩さない。





「ただ、ひどく失望して、打ちのめされておるだけじゃ。」



「それは、あの男だけではないわ!」





ファッジは急に声を荒らげた。





「『日刊予言者新聞』はお祭り騒ぎだろうよ!
我が省はブラックを追い詰めたが、奴はまたしても、我が指の間から零れ落ちていきおった!
あとはヒッポグリフの逃亡の話が漏れれば、ネタは充分だ。私は物笑いの種になる!
さてと……もう行かなければ。
省の方に知らせないと……。」



「それで、吸魂鬼は?
学校から引き揚げてくれるのじゃろうな?」



「ああ、その通り。連中は出ていかねば。」





ファッジは苦悩の表情で髪を掻きむしっている。





「罪もない子供に『キス』を執行しようとは、夢にも思わなかった……
全く手におえん……全くいかん。
今夜にもさっさとアズカバンに送り返すよう指示しよう。
ドラゴンに校門を護らせる事を考えてはどうだろうね……。」



「ハグリッドが喜ぶことじゃろう。」





そうして、嵐は過ぎ去った。

ダンブルドアとファッジは病室を出ていって、直ぐ様マダム・ポンフリーがドアの鍵をかけた。
愚痴をこぼしながら、マダム・ポンフリーは事務室へと戻っていく。

そして、タイミングが良いのか悪いのか。
名前の隣のベッドから呻きが聞こえた。
ロンが目覚めたのだ。





「ど―――どうしちゃったんだろ?」





上半身を起こしたロンは、頭を掻きながら、辺りをキョロキョロと見回している。





「ハリー?僕達どうしてここにいるの?
シリウスはどこだい?ルーピンは?何があったの?」





一瞬。
ハリーとハーマイオニーは顔を見合わせた。





「君が説明してあげて。」





言って、ハリーはチョコレートをかじった。

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