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「嘘だ!」





ハリーの声が部屋中に響いた。





「ブラックが『秘密の守人』だった!ブラック自身があなたが来る前にそう言ったんだ。
こいつは自分が僕の両親を殺したと言ったんだ!」





ハリーはブラックを指差し、叫びながらそう続けた。
ブラックは否定しない。
それどころか、ゆっくりと首を縦に振った。肯定したのだ。





「ハリー……私が殺したも同然だ。」





涙こそ流れなかったが、落ち窪んだ目は潤んでいる。





「最後の最後になって、ジェームズとリリーに、ピーターを守人にするように勧めたのは私だ。ピーターに代えるように勧めた……
私が悪いのだ。確かに……
二人が死んだ夜、私はピーターの所に行く手筈になっていた。
ピーターが無事かどうか、確かめに行く事にしていた。
ところが、ピーターの隠れ家に行ってみると、もぬけの殻だ。しかも争った跡がない。
どうもおかしい。私は不吉な予感がして、すぐ君のご両親のところへ向かった。
そして、家が壊され、二人が死んでいるのを見た時―――私は悟った。ピーターが何をしたのかを。
私が何をしてしまったのかを。」





声は震え、くぐもり、
やがてブラックは顔を背けた。





「話はもう十分だ。」





切り捨てるようにルーピンは言って、ロンの方を見る。





「本当は何が起こったのか、証明する道は唯一つだ。ロン、そのネズミをよこしなさい。」



「こいつを渡したら、何をしようというんだ?」



「無理にでも正体を顕させる。もし本当のネズミだったら、これで傷付く事はない。」





ロンは躊躇っていた。
しかし、ついにスキャバーズを差し出した。
ルーピンの手に渡ったスキャバーズは、より一層激しく暴れている。




「シリウス、準備は?」





ルーピンが尋ねた時には、既にブラックの手には杖が握られていた。
スネイプの杖だ。
それを持って、ブラックはルーピンと鼠の方へ近付いていく。
その目に涙は浮かんでいない。





「一緒にするか?」



「そうしよう。」





ルーピンは片手にスキャバーズを、もう一方の手で杖を握った。





「三つ数えたらだ。
いち―――
に―――
さん!」





青白い光が迸る。
部屋中を明るく照らした。
眩い光に目を細めながらも、名前はじっとスキャバーズの影を見詰め続ける。

宙に浮いたスキャバーズはそこで静止して、激しく捩れたかと思うと、床に落ちた。
そして再び、閃光が走る。

すると、瞬く間に。
早送りの映像を見ているかのように。残像を残して。
小さな鼠のスキャバーズは、一人の小柄な男に変わった。

男は浅く乱れた息遣いで、周りの全員を見回した。





「やあ、ピーター。」





妙に穏やかな声でルーピンが声を掛けた。





「しばらくだったね。」



「シ、シリウス……リ、リーマス……」





ペティグリューの目は忙しなく辺りに走っている。





「友よ……懐かしの友よ……」





ブラックの杖腕が上がった。
ルーピンがその手首を押さえ、たしなめるような目でブラックを見る。

それからまたペティグリューに向かって、この場では不似合いな、奇妙な程に穏やかな調子で続けるのだ。





「ジェームズとリリーが死んだ夜、何が起こったのか、今お喋りしていたんだがね、ピーター。
君はあのベッドでキーキー喚いていたから、細かいところを聞き逃したかもしれないな―――」



「リーマス。」





ペティグリューの呼吸が一層乱れる。
体は小刻みに震えているようだった。





「君はブラックの言う事を信じたりしないだろうね……あいつは私を殺そうとしたんだ、リーマス……」



「そう聞いていた。」





穏やかな口調だが、ルーピンの声は底知れない冷たさがあった。





「ピーター、二つ、三つ、すっきりさせておきたい事があるんだが、君がもし―――」



「こいつは、また私を殺しにやってきた!」





ペティグリューは突然ブラックを指差して、大きな声でそう言った。

指差すその手に人差し指は無い。
差している指は中指だ。





「こいつはジェームズとリリーを殺した。今度は私も殺そうとしてるんだ……
リーマス、助けておくれ……」



「少し話の整理がつくまでは、誰も君を殺しはしない。」



「整理?」





ペティグリューは忙しなく辺りを見回した。
板張りした窓を見て、確かめるように一つしかないドアを見た。





「こいつが私を追ってくると分かっていた!
こいつが私を狙って戻ってくると分かっていた!
十二年も、私はこの時を待っていた!」



「シリウスがアズカバンを脱獄すると分かっていたと言うのか?」





ルーピンは眉を寄せてペティグリューを見る。





「未だ嘗て脱獄した者は誰もいないのに?」



「こいつは私達の誰もが夢の中でしか敵わないような闇の力を持っている!」





ペティグリューは大きな声のまま続けた。





「それがなければ、どうやってあそこから出られる?おそらく『名前を言ってはいけないあの人』がこいつに何か術を教え込んだんだ!」





ブラックが急に笑い出した。
狂ったように笑い、それからペティグリューを見る。
口角は上がっていたが、目は全く笑っていない。





「ヴォルデモートが私に術を?」





ペティグリューはビクリと体を揺らし、身を縮こまらせた。





「どうした?懐かしいご主人様の名前を聞いて怖じ気付いたか?」





ブラックはギラギラとした目でペティグリューを見詰め続けている。





「無理もないな、ピーター。昔の仲間はお前の事をあまり快く思っていないようだ。違うか?」



「何の事やら―――シリウス、君が何を言っているのやら―――」





ペティグリューは何か言おうとしているが、殆ど言葉にならない。





「お前は十二年もの間、私から逃げていたのではない。
ヴォルデモートの昔の仲間から逃げ隠れしていたのだ。
アズカバンで色々耳にしたぞ、ピーター……皆お前が死んだと思っている。
さもなければ、お前は皆から落とし前をつけさせられたはずだ……
私は囚人達が寝言で色々叫ぶのをずっと聞いてきた。
どうやら皆、裏切り者がまた寝返って自分達を裏切ったと思っているようだった。
ヴォルデモートはお前の情報でポッターの家に行った……そこでヴォルデモートが破滅した。
ところがヴォルデモートの仲間は一網打尽でアズカバンに入れられたわけではなかった。そうだな?まだその辺に沢山いる。
時を待っているのだ。悔い改めたふりをして……
ピーター、その連中が、もしまだお前が生きていると風の便りに聞いたら―――」



「何の事やら……何を話しているやら……」





ペティグリュー顔は汗だくだ。
袖で拭って、ルーピンを見上げる。





「リーマス、君は信じないだろう―――こんな馬鹿げた―――」



「はっきり言って、ピーター、
何故無実の者が、十二年もネズミに身をやつして過ごしたいと思ったのかは、理解に苦しむ。」



「無実だ。でも怖かった!」





取り付く島がないペティグリューは、哀れっぽい声で叫ぶ。





「ヴォルデモートの支持者が私を追っているなら、それは、大物の一人を私がアズカバンに送ったからだ―――
スパイのシリウス・ブラックだ!」





ブラックの眉間に深い溝が刻まれた。





「よくもそんな事を。」





殺意がありありと込められた眼差しで、ペティグリューを睨み付けた。

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