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「ねえ。ペティグリューがネズミに変身出来たとしても―――
ネズミなんて何百万といるじゃないか―――
アズカバンに閉じ込められていたら、どのネズミが自分の探してるネズミかなんて、
この人、どうやったら分かるって言うんだい?」



「そうだとも、シリウス。まともな疑問だよ。」





ロンの問いに、ルーピンは頷いて同意した。
ブラックの方を見て、ちょっと眉間に皺を寄せている。





「あいつの居場所を、どうやって見つけ出したんだい?」





ブラックはすぐには返事をよこさなかった。
黙ったまま片手を懐に入れてまさぐる。
そしてそこから、皺だらけになった紙の切れ端を引っ張り出した。
皺を伸ばし、皆に見えるように前に突き出す。

新聞の切れ端だ。
大きな写真が掲載されている。

そしてその写真にあるのは見知った顔触れで、全員、よく見覚えがあるものだった。





「一体どうしてこれを?」





ルーピンの声はショックで震えていた。

写真は、今からおよそ一年前の夏のものだ。一目で分かる。何しろ話題になったのだから。
「日刊予言者新聞」に載ったロンと家族の写真だ。
そしてニッコリ笑顔を浮かべるロンの肩に、スキャバーズがいた。






「ファッジだ。」





動揺するルーピンを、ブラックは冷静に見詰めている。





「去年、アズカバンに視察に来た時、ファッジがくれた新聞だ。
ピーターがそこにいた。一面に……
この子の肩に乗って……
私はすぐ分かった……こいつが変身するのを何回見たと思う?
それに、写真の説明には、この子がホグワーツに戻ると書いてあった……
ハリーのいるホグワーツへと……。」



「なんたることだ。」





ルーピンは今ここにいるスキャバーズを見てから、新聞の写真へと目を移した。
そしてまた、スキャバーズを見つめる。





「こいつの前足だ……。」



「それがどうしたって言うんだい?」



「指が一本無い。」



「まさに。」





食って掛かるロンにブラックが返し、ルーピンが続く。





「なんと単純明快な事だ……なんと小賢しい……あいつは自分で切ったのか?」



「変身する直前にな。」





話はどんどん進んでいく。
ブラックとルーピンの間では話の辻褄が合っているらしい。
名前達にしてみれば、中々信じがたい話だ。





「あいつを追い詰めた時、あいつは道行く人全員に聞こえるように叫んだ。
私がジェームズとリリーを裏切ったんだと。
それから、私が奴に呪いをかけるより先に、奴は隠し持った杖で道路を吹き飛ばし、自分の周り五、六メートル以内にいた人間を皆殺しにした―――
そして素早く、ネズミが沢山いる下水道に逃げ込んだ……。」



「ロン、聞いた事はないかい?」





これ以上ロンを脅かさない為にだろうか、ルーピンの声は優しいものだ。





「ピーターの残骸で一番大きなのが指だったって。」



「だって、多分、スキャバーズは他のネズミと喧嘩したかなんかだよ!
こいつは何年も家族の中で゛お下がり゛だった。確か―――」



「十二年だね、確か。」





相変わらず落ち着いた声音で、ルーピンは冷静に返した。





「どうしてそんなに長生きなのか、変だと思った事はないのかい?」



「僕達―――僕達が、ちゃんと世話してたんだ!」



「今はあんまり元気じゃないようだね。どうだね?」





ロンは認めようとはしない。
それはそうだ。十二年も大事に飼い続けたのだ。
まさか鼠ではなかったなんて考えられない。考えたくもないだろう。





「私の想像だが、シリウスが脱獄してまた自由の身になったと聞いて以来、痩せ衰えてきたのだろう……。」



「こいつは、その狂った猫が怖いんだ!」



「この猫は狂ってはいない。」





ロンはベッドに寝そべるクルックシャンクスを顎で指した。
すると、ブラックが否定した。

ブラックに頭を撫でられるクルックシャンクスは、気持ち良さそうに目を細め、ゴロゴロと喉を鳴らしている。
ブラックが否定したように、クルックシャンクスが狂っているようには見えなかった。





「私の出会った猫の中で、こんなに賢い猫はまたといない。
ピーターを見るなり、すぐ正体を見抜いた。
私に出会った時も、私が犬でない事を見破った。
私を信用するまでに暫くかかった。
ようやっと、私の狙いをこの猫に伝える事が出来て、それ以来私を助けてくれた……。」



「それ、どういう事?」



「ピーターを私の所に連れてこようとした。しかし、出来なかった……
そこで私の為にグリフィンドール塔への合言葉を盗み出してくれた……
誰か男の子のベッド脇の小机から持ってきたらしい……。」





横から割り込むハーマイオニーの質問に、ブラックは気にしたふうもなく答えている。

ハリーは大分混乱しているようだ。
話に耳を傾けながら、目があちこちに泳いでいる。





「しかし、ピーターは事の成り行きを察知して、逃げ出した……この猫は―――
クルックシャンクスという名だね?―――
ピーターがベッドのシーツに血の痕を残していったと教えてくれた……
多分自分で自分を噛んだのだろう……
そう、死んだと見せ掛けるのは、前にも一度うまくやったのだし……。」



「それじゃ、何故ピーターは自分が死んだと見せ掛けたんだ?」





口を開いたハリーは、突然激しい口調で聞いた。





「お前が、僕の両親を殺したと同じように、自分をも殺そうとしていると気付いたからじゃないか!」



「違う。ハリー―――」



「それで、今度は止めを刺そうとやってきたんだろう!」



「その通りだ。」





ルーピンが口を挟むも、ハリーは止まらない。
その上ブラックは否定もせずに、ただただスキャバーズに殺意を向けている。





「それなら、僕はスネイプにお前は引き渡すべきだったんだ!」



「ハリー。」





感情の波に流されそうになるハリーを、ルーピンが急いで塞き止めに入る。





「分からないのか?私達は、ずっと、シリウスが君のご両親を裏切ったと思っていた。
ピーターがシリウスを追い詰めたと思っていた―――しかし、それは逆だった。
分からないかい?ピーターが君のお父さん、お母さんを裏切ったんだ―――
シリウスがピーターを追い詰めたんだ―――」

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