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皆の驚きは様々だった。

ハーマイオニーは悲鳴をあげ、ハリーは飛び上がり、ブラックは立ち上がった。

大した反応を見せなかったのは、怪我をして動けないロンと杖を突きつけられたルーピン、張本人であるスネイプ。
そしてやはり名前は眉一つ動かさない。















「『暴れ柳』の根本でこれを見つけましてね。」





スネイプは杖をルーピンの胸に突き付けたまま、「マント」を床に投げ捨てた。





「ポッター、なかなか役に立ったよ。感謝する……」





急いで来たらしく、少し息遣いが荒い。
しかし勝利を確信してか、笑みを浮かべている。





「我輩がどうしてここを知ったのか、諸君は不思議に思っているだろうな?」





スネイプの目だけが周囲の人々をぐるりと見回し動いた。
ルーピンで止まる。





「君の部屋に行ったよ、ルーピン。
今夜、例の薬を飲むのを忘れたようだから、我輩がゴブレットに入れて持っていった。
持っていったのは、まことに幸運だった……我輩にとってだがね。
君の机に何やら地図があってね。
一目見ただけで、我輩に必要な事は全て分かった。
君がこの通路を走っていき、姿を消すのを見たのだ。」



「セブルス―――」





ルーピンが口を開いた。
しかしスネイプはその声に被せるようにして続ける。





「我輩は校長に繰り返し進言した。君が旧友のブラックを手引きして城に入れているとね。
ルーピン、これがいい証拠だ。いけ図々しくもこの古巣を隠れ家に使うとは、さすがの我輩も夢にも思い付きませんでしたよ―――」



「セブルス、君は誤解している。」





少し強い口調で、ルーピンは再度口を開いた。





「君は、話を全部聞いていないんだ―――説明させてくれ―――
シリウスはハリーを殺しに来たのではない―――」



「今夜、また二人、アズカバン行きが出る。」





全く耳を貸そうとしない。
スネイプの目は普段よりも鋭く、暗い眼差しで、とても冷静には見えない。





「ダンブルドアがどう思うか、見物ですな……ダンブルドアは君が無害だと信じきっていた。
分かるだろうね、ルーピン……
飼い慣らされた人狼さん……。」



「愚かな。」





呟くようにしてルーピンが言った。





「学校時代の恨みで、無実の者をまたアズカバンに送り返すというのかね?」





破裂音が部屋に響いた。
スネイプの杖から細い紐が飛び出したのだ。

紐は生き物のようにルーピンの口、手首、足首に巻き付き、身動き出来なくなったルーピンは為す術も無く床に倒れ込んだ。

怒りに唸り声をあげながらブラックがスネイプに立ち向かう。
けれども眉間に杖を突き付けられ、足を止める他無かった。





「やれるものならやるがいい。」





殊更低い声でスネイプ呟く。





「我輩にきっかけさえくれれば、確実に仕留めてやる。」





ブラックの顔に憎悪の念が浮かび上がる。
対するスネイプの顔にも、それに負けないくらい深い憎悪が刻み付けられている。

無言で睨み合いをする二人の前に進み出たのは、ハーマイオニーだった。





「スネイプ先生―――あの―――この人達の言い分を聞いてあげても、害はないのでは、あ、ありませんか?」



「Ms.グレンジャー。君は停学処分を待つ身ですぞ。」





ブラックから目を離さないまま、スネイプは言った。





「君も、ポッターも、ウィーズリーも、ミョウジも、許容されている境界線を越えた。
しかもお尋ね者の殺人鬼や人狼と一緒とは。
君も一生に一度ぐらい、黙っていたまえ。」



「でも、もし―――もし、誤解だったら―――」



「黙れ、この馬鹿娘!」





低い声は雷鳴のように部屋を揺らした。





「分かりもしない事に口を出すな!」





スネイプの怒りがそのまま表されたように、杖先から火花が散る。
ハーマイオニーは口を閉じた。





「復讐は蜜より甘い。」





呟くように、囁くように。
スネイプは言う。





「お前を捕まえるのが我輩であったらと、どんなに願った事か……。」



「お生憎だな。」





スネイプを睨みながら、ブラックは返した。





「しかしだ、この子がそのネズミを城まで連れていくなら―――」





未だスキャバーズを押さえ付けるロンを顎で指す。





「―――それなら私は大人しくついて行くがね……。」



「城までかね?」





ロンの方をチラとも見ずに、淀み無い弁舌でスネイプが返す。





「そんなに遠くに行く必要は無いだろう。柳の木を出たらすぐに、我輩が吸魂鬼を呼べばそれで済む。
連中は、ブラック、君を見てお喜びになることだろう……
喜べのあまりキスをする。そんなところだろう……。」





元々死体のようだったブラックの顔色が更に悪くなった。





「聞け―――最後まで、私の言う事を聞け。」





掠れ、緊張した声だ。





「ネズミだ―――ネズミを見るんだ―――」





スネイプはスキャバーズを見ない。
無視をしている、というよりも、聞こえていない。
血走った目は据わっている。





「来い、全員だ。」





パチン。スネイプは指を鳴らした。
すると、ルーピンを縛っている縄の端がスネイプの手に飛んできた。





「我輩が人狼を引き摺っていこう。吸魂鬼がこいつにもキスをしてくれるかもしれん―――」





ハリーが飛び出した。
今まで立ち竦んでいた者とは思えない素早さだった。
ドアの前に立ち塞がり、スネイプを見上げている。





「どけ、ポッター。
お前はもう十分規則を破っているんだぞ。」





ハリーを睨み付け、スネイプは威嚇するように言う。





「我輩がここに来てお前の命を救っていなかったら―――」



「ルーピン先生が僕を殺す機会は、この一年に何百回もあったはずだ。
僕は先生と二人きりで、何度も吸魂鬼防衛術の訓練を受けた。

もし先生がブラックの手先だったら、そういう時に僕を殺してしまわなかったのは何故なんだ?」



「人狼がどんな考え方をするか、我輩に推し量れとでも言うのか。」





スネイプは威圧的に進み出る。





「どけ、ポッター。」



「恥を知れ!」





頑なにドアの前に立ち塞がったまま、ハリーは叫んだ。





「学生の時、揶揄われたからというだけで、話も聞かないなんて―――」



「黙れ!我輩に向かってそんな口のきき方は許さん!」





スネイプの声が大きくなった。ヒートアップしたのは明らかだ。
ハーマイオニーがオロオロと名前、ロンを見る。

名前は無表情にハーマイオニーとロンを見詰めて、やがてコクと頷いた。





「蛙の子は蛙だな、ポッター!
我輩は今お前のその首を助けてやったのだ。
平伏して感謝するがいい!
こいつに殺されれば、自業自得だったろうに!
お前の父親と同じような死に方をしたろうに。
ブラックの事でも親も子も自分が判断を誤ったとは認めない高慢さよ―――さあ、どくんだ。さもないと、どかせてやる。
どくんだ、ポッター!」





スネイプが足を踏み出す前に、ハリーは真っ直ぐ杖を構えていた。





「エクスペリアームス、武器よ去れ!」





そして、唱えたのはハリーだけではなかった。
ロンとハーマイオニーも、ハリーと同時に唱えたのだ。

生徒と言っても三人分の魔法が一斉に放たれたのである。その威力は中々のものだった。
杖先から飛び出た三人分の閃光は、スネイプを軽々壁まで弾き飛ばした。
ぶつかったスネイプは壁伝いに床に落ち、ぐったり項垂れて動かなくなってしまった。
垂れ下がった髪の下から血が流れ落ちるのが見える。

そして宙を舞ったスネイプの杖は、クルックシャンクスのいるベッドに着地した。





「こんな事、君がしてはいけなかった。」





振り返ったハリーを見詰めて、ブラックが言った。





「私に任せておくべきだった……。」





ハリーはブラックから目をそらした。

その脇で名前は踏み出した足と上げた手を戻して、壁に背を預けて立つ。
魔法ではなく自身の手で取り押さえようとしていたらしい。
「俺が何とかする!」という意志は、どうやら伝わっていなかったようだ。





「先生を攻撃してしまった……先生を攻撃して……」





ハーマイオニーはスネイプを見つめながら、今にも泣きそうな声で呟く。





「ああ、私達、物凄い規則破りになるわ―――」





ルーピンが縄目を解こうと手足を動かしているのを見て、ブラックは素早く屈み込み、固く結ばれた結び目を解いた。

自由になったルーピンは立ち上がって、腕や手首を摩る。





「ハリー、有難う。」



「僕、まだあなたを信じるとは言ってません。」





ハリーはルーピンを睨むように見て撥ね付けた。





「それでは、君に証拠を見せる時が来たようだ。」





ブラックは言って、ロンの方へ振り返った。





「君―――ピーターを渡してくれ。さあ。」





ロンは体を強張らせ、身を縮こまらせた。
怯えた表情でスキャバーズを胸に抱き締める。





「冗談はやめてくれ。」





恐怖か、痛みか。
ロンの声には力が無い。





「スキャバーズなんかに手を下す為に、わざわざアズカバンを脱獄したって言うのかい?つまり……」





言いながら、ハリーとハーマイオニー、名前へ視線を移した。

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