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「トリカブト系の脱狼薬が開発されるまでは、私は月に一度、完全に成熟した怪物に成り果てた。
ホグワーツに入学するのは不可能だと思われた。
他の親にしてみれば、自分の子供を、私のような危険なものに晒したくないはずだ。」





誰も口を挟まない。
話に聞き入っている。





「しかし、ダンブルドアが校長になり、私に同情してくださった。
きちんと予防措置を取りさえすれば、私が学校に来てはいけない理由など無いと、ダンブルドアは仰った……。」





ルーピンは溜め息を吐いた。
そしてハリーを見つめた。





「何ヵ月も前に、君に言ったと思うが、『暴れ柳』は私がホグワーツに入学した年に植えられた。
本当を言うと、私がホグワーツに入学したから植えられたのだ。この屋敷は―――」





ルーピンはぐるりと部屋を見回した。
悲しそうな、申し訳なさそうな、複雑な表情だ。





「―――ここに続くトンネルは―――
私が使う為に作られた。一ヶ月に一度、私は城からこっそり連れ出され、変身する為にここに連れてこられた。
私が危険な状態にある間は、誰も私に出会わないようにと、あの木がトンネルの入口に植えられた。」





スキャバーズはキーキーと鳴き続けている。
それ以外に物音はしない。





「その頃の私の変身ぶりといったら―――それは恐ろしいものだった。
狼人間になるのはとても苦痛に満ちた事だ。
噛むべき対象の人間から引き離され、代わりに私は自分を噛み、引っ掻いた。
村人はその騒ぎや叫びを聞いて、とてつもなく荒々しい霊の声だと思った。
ダンブルドアはむしろ噂を煽った……
今でも、もうこの屋敷が静かになって何年も経つのに、村人は近付こうともしない……。」





少し間を置き、再び話が始まった時、少し声に覇気が戻ったように感じられた。





「しかし、変身する事だけを除けば、人生であんなに幸せだった時期はない。
生まれて初めて友人ができた。三人の素晴らしい友が。
シリウス・ブラック……
ピーター・ペティグリュー……
それから、言うまでもなく、ハリー、君のお父さんだ―――
ジェームズ・ポッター。」





ハリーは目を見開いた。
けれども何も言わない。
話の先が気になるのだ。





「さて、三人の友人が、私が月に一度姿を消す事に気付かないはずはない。
私は色々言い訳を考えた。
母親が病気で、見舞いに家に帰らなければならなかったとか。……
私の正体を知ったら、途端に私を見捨てるのではないかと、それが怖かったんだ。
しかし、三人は、ハーマイオニー、君と同じように、本当の事を悟ってしまった……。」





少なからず自分に関わる話をしているのに、ブラックはずっとスキャバーズを見詰めている。





「それでも三人は私を見捨てはしなかった。それどころか、私の為にある事をしてくれた。
お陰で変身は辛くないものになったばかりでなく、生涯で最高の時になった。
三人共『動物もどき』になってくれたんだ。」



「僕の父さんも?」



「ああ、そうだとも。」





ハリーが驚いて思わず聞けば、ルーピンは静かに答えた。





「どうやればなれるのか、三人はほぼ三年の時間を費やしてやっとやり方が分かった。
君のお父さんもシリウスも学校一賢い学生だった。それが幸いした。
何しろ、『動物もどき』変身は罷り間違うと、とんでもない事になる。
魔法省がこの種の変身しようとする者を厳しく見張っているのもそのせいなんだ。
ピーターだけはジェームズやシリウスに散々手伝ってもらわなければならなかった。五年生になって、やっと、三人はやり遂げた。
それぞれが、意のままに特定の動物に変身できるようになった。」



「でも、それがどうしてあなたを救う事になったの?」



「人間だと私と一緒にいられない。だから動物として私に付き合ってくれた。
狼人間は人間にとって危険なだけだからね。
三人はジェームズの『透明マント』に隠れて、毎月一度こっそり城を抜け出した。そして、変身した。……
ピーターは一番小さかったので、『暴れ柳』の枝攻撃を掻い潜り、下に滑り込んで、木を硬直させる節に触った。
それから三人でそっとトンネルを降り、私と一緒になった。
友達の影響で、私は以前ほど危険ではなくなった。
体はまだ狼のようだったが、三人と一緒にいる間、私の心は以前ほど狼ではなくなった。」



「リーマス、早くしてくれ。」



「もうすぐだよ、シリウス。もうすぐ終わる。……
そう、全員が変身出来るようになったので、ワクワクするような可能性が開けた。
程無く私達は夜になると『叫びの屋敷』から抜け出し、校庭や村を歩き回るようになった。
シリウスとジェームズは大型の動物に変身していたので、狼人間を抑制できた。
ホグワーツで、私達ほど校庭やホグズミードの隅々まで詳しく知っていた学生はいないだろうね。……
こうして、私達が『忍びの地図』を作り上げ、それぞれのニックネームで地図にサインした。
シリウスはパッドフット、
ピーターはワームテール、
ジェームズはプロングズ。」



「どんな動物に―――?」





ハリーの声を遮って、ハーマイオニーが口を挟んだ。

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