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沈黙。

ほんの数秒間、思考が止まった。















「二人共どうかしてる。」



「馬鹿馬鹿しい!」



「ピーター・ペティグリューは死んだんだ!」





ロンの呟きに、ハーマイオニー、ハリーが続いた。
ハリーはもう一度ブラックに指を向ける。





「こいつが十二年前に殺した!」



「殺そうと思った。」





ブラックは歯噛みして唸るように言った。





「だが、小賢しいピーターめに出し抜かれた……
今度はそうはさせない!」





弱っていたとは思えない素早さで、ブラックはスキャバーズに襲い掛かった。

瞬時に名前が間に入ってロン庇い、ロンはスキャバーズを庇い隠す。
しかし、恐ろしいほど強い力だった。名前はブラックを押し返すが、それ以上の力で掴み掛かってくる。

折れた脚にブラックの重みが掛かり、ロンは痛みに悲鳴を上げた。





「シリウス、よせ!」





ルーピンがブラックの背中に飛び付いた。
ブラックは直ぐ様振り払ってしまう。





「待ってくれ!そういうやり方をしてはだめだ―――
皆に分かってもらわねば―――
説明しなければいけない―――」



「後で説明すればいい!」





獣のような唸り声を上げて、片手でルーピンを振り払いながら、
もう片方の手はスキャバーズを捕えようとがむしゃらに動き続けている。
名前はブラックとロンの間で、片手はロンを庇い、もう片手はブラックを押さえようと力を込めている。





「皆―――全てを―――
知る―――
権利が―――
あるんだ!」





ルーピンはブラックを押さえようと息を切らしながら、それでも力強く言った。





「ロンはあいつをペットにしていたんだ!
私にもまだ分かってない部分がある!
それにハリーだ―――シリウス、君はハリーに真実を話す義務がある!」





ブラックは足掻くのをやめた。
荒い呼吸が響く。





「いいだろう。それなら」





不意に言った。
しかしブラックの目は鼠から離れない。





「君が皆に何とでも話してくれ。ただ、急げよ、リーマス。
私を監獄に送り込んだ原因の殺人を、今こそ実行したい……」



「正気じゃないよ。二人共。」





名前の背中で、ロンの声は震えていた。





「もう沢山だ。僕は行くよ。」





そして、ロンは立ち上がろうと名前の肩に手をついた。
ルーピンが素早く杖を構えてロンを指す。
ロンは目を見開いて動きを止めた。





「ロン、最後まで私の話を聞きなさい。」





ルーピンは静かに言い、杖の照準をスキャバーズに移動した。





「ただ、聞いている間、ピーターをしっかり捕まえておいてくれ。」



「ピーターなんかじゃない。こいつはスキャバーズだ!」





鼠を胸ポケットに戻す。
スキャバーズは大暴れだ。
その暴れっぷりに手間取ったロンは、よろめき、倒れそうになった。
名前は立ち上がってロンを支え、ベッドに座らせる。

そこまで見守ってハリーは、ルーピンを見た。





「ペティグリューが死んだのを見届けた証人がいるんだ。通りにいた人達が大勢……」



「見てはない。見たと思っただけだ。」



「シリウスがピーターを殺したと、誰もがそう思った。」





スキャバーズを睨み付けたままブラックは乱暴に言う。
その後にルーピンが続いて頷いた。





「私自身もそう信じていた―――今夜地図を見るまではね。
『忍びの地図』は決して嘘は吐かないから……。
ピーターは生きている。ロンがあいつを握っているんだよ、ハリー。」



「でもルーピン先生……スキャバーズがペティグリューのはずがありません……
そんな事、あるはずないんです。先生はその事をご存知のはずです……。」





ハーマイオニーは震えながらも、必死に話し掛けた。





「どうしてかね?」



「だって……
だって、もしピーター・ペティグリューが『動物もどき』なら、皆その事を知っているはずです。
マクゴナガル先生の授業で『動物もどき』を勉強しました。
その宿題で、私、『動物もどき』を全部調べたんです。
―――魔法省が動物に変身できる魔法使いや魔女を記録していて、何に変身するとか、その特徴などを書いた登録簿があります―――
私、登録簿で、マクゴナガル先生が載っているのを見付けました。
それに、今世紀にはたった七人しか『動物もどき』がいないんです。
ペティグリューの名前はリストに載っていませんでした―――」



『ハーマイオニー。』





鼠を睨み付けるブラックを見詰めながら、唐突に名前は口を開いた。





『…シリウス・ブラックを擁護するわけじゃないが……彼は『動物もどき』だった。
けれど、名前は載っていなかった。…
未登録の『動物もどき』が他にいても不思議じゃない。』





ハーマイオニーはハッとして名前を見た。
ルーピンが笑い出した。





「またしても正解だ、ハーマイオニー。
そしてナマエ、君はとことん冷静だね。
ナマエの言う通りだ。魔法省は、未登録の『動物もどき』が三匹、ホグワーツを徘徊していた事を知らなかったのだ。」



「その話を皆に聞かせるつもりなら、リーマス、さっさと済ませてくれ。」





スキャバーズから目を離さないまま、ブラックが唸った。





「私は十二年間待った。もうそう長くは待てない。」



「分かった。……だが、シリウス、君にも助けてもらわないと。
私はそもそもの始まりの事しか知らない……」





ギシリ。
軋む音がした。

皆は一斉に音のした方を見た。

閉めたはずのドアが開いている。
ルーピンが足早にドアの方に進み、外を覗き込んだ。





「誰もいない……」



「ここは呪われてるんだ!」



「そうではない。」





怪訝そうに未だドアを見詰めたまま、ルーピンはロンの叫びに答えた。





「『叫びの屋敷』は決して呪われてはいなかった……
村人がかつて聞いたという叫びや吼え声は、私の出した声だ。」





ルーピンは目にかかる髪を掻き上げ、一瞬物思いに耽るように黙った。
それから顔を上げて、ぐるりと皆の顔を見回す。





「話は全てそこから始まる―――私が人狼になった事から。
私が噛まれたりしなければ、こんな事は一切起こらなかっただろう……
そして、私があんなにも向こう見ずでなかったなら……」





ルーピンは疲れた様子で話し始めた。





「噛まれたのは私がまだ小さい頃だった。
両親は手を尽くしたが、あの頃は治療法がなかった。

スネイプ先生が私に調合してくれた魔法薬は、ごく最近発明されたばかりだ。あの薬で私は無害になる。
分かるね。
満月の夜の前の一週間、あれを飲みさえすれば、変身しても自分の心を保つ事が出来る……。
自分の事務所で丸まっているだけの、無害な狼でいられる。
そして再び月が欠け始めるのを待つ。」

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