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「ロン!し―――信じられないわ―――
スキャバーズよ!」



「何を言ってるんだい?」





目の前で突然叫ばれた名前は、驚いてかミルク瓶を抱えたまま動きを止めた。

ハーマイオニーは小走りでミルク入れをテーブルに持っていって、引っくり返している。
キーキーと大騒ぎする声が聞こえてきた。





「スキャバーズ!」





驚きにロンの目は見開かれ、声は一際高くなっていた。

ミルク瓶を抱えたまま、名前もテーブルの方へと向かう。

テーブルの上では、ミルク入れの中に戻ろうと溺れたようにもがいているネズミがいた。





「スキャバーズ、こんなところで、一体何してるんだ?」



『…』





名前は不思議そうにネズミと、ロンを交互に見詰めた。
ロンが名前を見る。





「何だい?どうしたの?ナマエ。」



『いや…、』



「なに?」



『スキャバーズだって、どうして分かったんだ。』





首を傾げつつ、名前は尋ねた。
ロンは納得したように一つ頷くと、手足をバタバタさせるスキャバーズを鷲掴みにした。
明かりに翳してよく見えるようにする。





「ここ、見える?指が一本無いだろ?」



『…』



「スキャバーズは指が一本欠けてるんだ。喧嘩か何かだと思うけど…」



『…随分毛が抜けてないか。』



「そりゃあ、年寄りだし…言ってなかったっけ?
十二年飼ってるって。」



『………』



「それに、病気も、ストレスもあるからな…とにかく、生きてて良かったよ。」





名前が日本で見掛けた事がある鼠は、大抵熊鼠や溝鼠で、寿命は約三年と父親に教わっていた。

それに比べたらスキャバーズは長寿である。
名前はちょっと驚いたようで、ロンの手から逃れようとするスキャバーズをじっと見詰めた。

ただ、ネズミの寿命は種類によって違う。
中には三十年近く生きる種もいるのだ。





「大丈夫だってば、スキャバーズ!猫はいないよ!
ここにはお前を傷つけるものは何にもないんだから!」





突然ハグリッドは立ち上がった。
暴れるスキャバーズから目を離し、名前はハグリッドを見る。
ハグリッドは窓の外を、瞬きもせずに見つめていた。
青白い顔が更に血の気を失っている。





「連中が来おった……」





ハリー達も窓の外を見た。
遠くの城の階段を何人か連れ立って下りてくる。

先頭はダンブルドア。
その隣はファッジだ。

二人の後ろから、委員会のメンバーである年寄り、死刑執行人のマクネアと続いている。





「お前さんら、行かねばなんねえ。」





手の震えは、今や全身に広がっていた。





「ここにいるとこを連中に見つかっちゃなんねえ……行け、はよう……」





抱えたままのミルク瓶を、名前はテーブルに置いた。

ロンは暴れるスキャバーズをポケットに押し込み、
ハーマイオニーは「マント」を持ち上げた。





「裏口から出してやる。」





ハグリッドに促され、名前達は裏庭に出てきた。

南瓜がごろごろ転がる畑に、一本の木の杭が刺さっている。
その木の杭に、バックビークは鎖で繋がれていた。
頭を左右に振ったり、翼を広げたり閉じたりと、落ち着かない。





「大丈夫だ、ビーキー。」





何か異様だ。バックビークはそう感じているらしい。
ハグリッドはまるで胸に抱いた赤ん坊をあやすように、優しく言った。





「大丈夫だぞ……。」





四人を振り返った。
青白い顔だった。





「行け。」





ハグリッドが言った。
南瓜畑では、バックビークがまだ不安げに地面を掻いている。





「もう行け。」





今にも倒れてしまいそうなほど、血の気を失ったハグリッド。

ガリガリと地面を引っ掻く音が響く。

四人は動かなかった。





「ハグリッド、そんな事出来ないよ―――」



「僕達、本当は何があったのか、あの連中に話すよ―――」



「バックビークを殺すなんて、ダメよ―――」



「行け!」





力強くハグリッドは言った。





「お前さん達が面倒な事になったら、ますます困る。そんでなくても最悪なんだ!」





誰の声かも分からない、男の声がだんだん近付いてくる。

四人はここに来た時のように寄り集まり、ハーマイオニーが「マント」を被せた。

男の声は小屋の前までやって来ていた。





「急ぐんだ。」





ハグリッドは四人が見えなくなった辺りを見ながら、掠れた声で言った。





「聞くんじゃねえぞ……。」





戸を叩く音が聞こえた。
同時に、ハグリッドが小屋に戻っていった。

ゆっくりと、時折小屋の方へ視線をやって、四人は小屋から離れた。





「お願い、急いで。」





先頭に立つロンに向かってか、全員に向かってか、
分からないが、ハーマイオニーが囁いた。





「耐えられないわ、私、とっても……」





城に続く芝生に差し掛かった。
陽は殆ど沈み、夕焼け空は夜空に変わりつつある。

途中、ロンが立ち止まった。
ハーマイオニーが急かす。





「ロン、お願いよ。」



「スキャバーズが―――こいつ、どうしても―――
じっとしてないんだ―――」





ロンはスキャバーズをポケットに押し戻そうと身を屈めていた。
スキャバーズは大暴れの大騒ぎだ。





「スキャバーズ、僕だよ。このバカヤロ、ロンだってば。」



「ねえ、ロン、お願いだから、行きましょう。いよいよやるんだわ!」



「ああ―――スキャバーズ、じっとしてろったら―――」





背後の方でドアが開く音がして、話し声が聞こえた。

四人は前進した。
キーキーと騒ぐ声が絶えずマントの中で響いている。

ロンがまた立ち止まった。





「こいつを押さえてられないんだ―――スキャバーズ、黙れ、
皆に聞こえっちまうよ―――」





背後のハグリッドの庭の方から男達の声が混じり合い、ふと静かになった。

突如、風を切る音―――
そして―――
何か、重たいものが落ちる音―――
が、ほんの一瞬の内に続いて、耳に届いたのだ。

ガクリ。
ハーマイオニーの膝が折れ、倒れかけた。





「やってしまった!」





ハーマイオニーが呟くように言った。
呼吸が乱れていた。





「し、信じられないわ―――
あの人達、やってしまったんだわ!」

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