04.-2







「健康な皮膚の上から触るのには問題ないが、口腔や気管、傷口から容易く侵入する毒だ。マグルの世界で言うならば、効果は丹毒に似たようなものだろう。…
何をしているのかね。そこへ座っていたまえ。」





短くそれだけ言うと、たくさん小瓶が並べられたテーブルへ、足早にカツカツと踵を鳴らして向かう。

名前はそれでも動かず、じっと背中を見つめている。
スネイプは再度『座れ』と唸るような低い声で言った。

名前は珍しく慌てた様子で、真っ黒いソファへ腰掛けた。





「倦怠感はあるかね。」



『…少し、』





言い切ったのと同時に、スネイプはくるりと振り返り、真っ黒いマントをバサッと翻しながら、
いくつかの小瓶を手に持ち大股で歩み寄ってきた。

ぎしりとソファが沈んだ。
隣にスネイプが座ったらしい。

スネイプは名前の手を掴み引き寄せると、薬らしきものを名前の指先に塗り付け、冷たい湿布を貼る。

乱暴な動作の割に、手当てはとても丁寧だ。





「飲みたまえ。」
カップを差し出される。
藤色の液体が並々と入っている。



『………これは。』



「内服薬だ。腫れが酷いのでな。
これで倦怠感もなくなるだろう。」



『………』
一拍置いて、一気に飲み込む。
途端、顔が青ざめた。



「楽になるまでここに寝ていて構わん。
痛みが完全に治まるまで動かない事だ。」





名前はゆっくりとソファへ体を横たわらせて、瞳を閉じた。
熱を孕み熱った指先から肩にかけては、痛みと痺れで動かない。





『…スネイプ先生。』



「…何だね。ミョウジ。」



『ごめんなさい。』



「…それだけかね。」



『、…』



「それだけの事を言うために口を開いたのかね。」



『……はい。…』



「…
寝ていたまえ。体裁振る前に自分の状態をよく理解することだな。」





ごりごりと薬草を擦り潰す音が静かな部屋に響く。

それ以上の会話を許さないような雰囲気をスネイプの背中に感じ、名前は口を閉じた。





「…ミョウジ、」



『…、』



「返事はしなくて良い。聞いて頭に入れておきたまえ。」



『………』



「今後の罰則の話だ。
残り約一週間の罰則があるが―――…




















「あぁ、やっと来た!
こっちこっち、ナマエ!」



「ナマエ、今日は遅かったね。
スネイプに何か厄介な事でもやらされたの?」





夕食時。

大広間は今日一日の出来事を楽しげに話す生徒で埋め尽され、とても騒がしく賑やかだった。

既に夕食は終わりに近く、残りはデザートしかなかったが、ハリーとロンがあらかじめ名前の分の夕食を取っておいたようで、食いっ逸れはしなくてよさそうだった。

名前は二人にぺこりとお辞儀をして、温くなったサーモンのグリルを、のろのろと口に運ぶ。





『………』



「…ねぇ、ロン、何だかナマエ、元気ないね。」

「君もそう思うかい?ハリー。」

「うん。まぁ、表情には出てないんだけど、雰囲気が、ね…暗いっていうか。」

「うん…言いたいことは分かるよ。ナマエ顔に出ないもんな。
やっぱりスネイプと関係あるのかな?」

「スネイプのせいとしか考えられないよ。だって僕らと離れるまで何もなかったでしょ?
戻ってきてからだもの。ナマエの様子がおかしいの。」

「そうだよな…
ナマエに聞くのが一番だろうし、聞いてみるかい?」

「答えてくれるといいんだけどね…」





口数が少ないのはいつもの事だが、これほどにも食事のペースが遅いのは珍しい。
大好き(であろうと、ハリーとロンは思っている)なミルクにも、今夜は見向きもしない。

急かすハリーをたしなめて、ロンは言葉につっかえながら名前に聞いた。

『何かあったのか』と。
『スネイプに何か言われたのか』と。

名前は頬張ったプチトマトを咀嚼した後、八の字に眉根を寄せてハリーとロンを見た。
珍しく感情的な表情をする名前に、一体何があったのだろうかと、二人は更に気になった。





『…今日、スネイプ先生の機嫌が悪いように感じたんだ。……』



「スネイプの機嫌が?…」



「(あいつに機嫌がいい日があるのかなあ…)」



『……俺、自分でも知らないうちに、スネイプ先生に不快な思いをさせていたのかな。…
……考えてみたけど、わからなくて。…』



「そりゃ違うよ、ナマエ。
スネイプはきっと、ハリーがシーカーに選ばれて、しかもニンバス2000を手にしたことが気にくわないんだよ。
だから君のせいじゃないさ。」



「そうだよ。あいつ、僕のこと、何故か知らないけど憎んでるみたいだから。」



『でも、俺は、今日、…』



「何かやっちゃったの?」



頷き、
『…それで、………

罰則は、今日これきりで終わると、…そう、言われたんだ。…』



「よかったじゃないか!
一週間くらい短く終わったってことだろ?」



「別に気にすることないよ、ナマエ。
どうせスネイプのただの気まぐれだろうし。」



『…そうかな。……』



「そうだよ。気にすることないさ。」



「これで心置き無くハリーの応援できるじゃないか。
いいことだろ?」



『……………。』





名前は長い沈黙の後、小さく頷いた。
ハリーとロンはホッと息を吐く。



ハリーは名前のコップにミルクを注ぎながら、名前の話の内容を思い返す。

少し、何か違和感があった。

―――本当にスネイプは、ただの気まぐれでナマエの罰則を終わりにしたのかな―――

自分で導き出した答えだったが、後々考えてみると納得できない箇所があるのに気付いた。

何をしでかしてしまったのかは知らないが、名前はスネイプに不快な思いをさせるようなことをやってしまったらしい。名前はそう言う。

しかしそういう場合、スネイプは罰則の日数を増やすのではないか、とハリーは思う。
実際、悪戯好きのロンの双子の兄達は、罰則を度々くらって、罰則をサボろうものなら容赦なく罰則日数を増やされたのだから。

―――何か別の理由があるのではないだろうか?―――

ハリーはちらりと教師陣が座るテーブルへ目を向ける。
スネイプはクィレルと何か話していた。

しばらくその様子を見つめていたが、ロンに話し掛けられ、名前も交えて談笑していく間に、だんだんとその猜疑心も薄れていって、
ハリー自身が気付かないうちに、いつの間にか忘れてしまったのだが。

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