16.-2






「行け!アリシア!」





見た事の無い乱暴な応酬に観客は静かになる。
まだ始まったばかりだというのに、雲行きが怪しくなってきた。
果たして、この先試合はクリーンに行われるのだろうか。
静かな競技場にリーの声だけが高く響き渡る。





「やったー!キーパーを破りました!
二十対〇、グリフィンドールのリード!」





空中ではハリーがファイアボルトを旋回させ、フリントの動向を見守っている。
ウッドはグリフィンドールのゴールの前に移動した。





「何てったって、ウッドは素晴らしいキーパーであります!」





フリントがペナルティでホイッスルを待っている。
その間、リーは観衆に語り掛けた。





「すーばらしいのです!キーパーを破るのは難しいのです―――
間違いなく難しい―――
やったー!信じらんねえぜ!ゴールを守りました!」





ハリーが再び動き始めた。
辺りに目を配っている。
スニッチを探しているのだ。





「グリフィンドールの攻撃、いや、スリザリンの攻撃―――いや!―――グリフィンドールがまたボールを取り戻しました。
ケイティ・ベルです。グリフィンドールのケイティ・ベルがクアッフルを取りました。フィールドを矢のように飛んでいます―――

あいつめ、わざとやりやがった!」





スリザリンのチェイサー、モンタギューがケイティの前に回り込みんだ。
伸ばしたその手はクアッフルを奪うかと思いきや、ケイティの頭を鷲掴んだのだ。

思いがけない攻撃にケイティは空中で体勢を崩した。あわや落ちるところだったが、既の事で持ち直す。
代わりに、クアッフルは取り落としてしまったが。

ホイッスルが再び鳴り響き、フーチがモンタギューを叱りつける。
ペナルティだ。





「三十対〇!
ざまぁ見ろ、汚い手を使いやがって。
卑怯者―――」



「ジョーダン、公平中立な解説が出来ないなら―――!」



「先生、有りの儘言ってるだけです!」





ハリーが動いた。
スリザリンのゴールに向かって飛んでいく。
そのすぐ後ろをマルフォイが追尾する。

スリザリンのビーター、デリックとボールがハリーに向かってブラッジャーを打った。

掠りはすれどもしかし、当たらない。
二人は棍棒を振り上げ、ハリーに接近する。





「ハッハーだ!」





リーが叫んだ。
ギリギリのところでハリーは急上昇した。
二人は正面衝突したのだ。





「お気の毒様!ファイアボルトに勝てるもんか。顔を洗って出直せ!
さて、またまたグリフィンドールのボールです。ジョンソンがクアッフルを手にしています―――
フリントがマークしています―――
アンジェリーナ、やつの目を突ついてやれ!―――あ、ほんの冗談です。先生。冗談ですよ―――
ああ、ダメだ―――フリントがボールを取りました。フリント、グリフィンドールのゴール目掛けて飛びます。
それっ、ウッド、ブロックしろ!―――」





しかしフリントが加点し、スリザリン側からは歓呼の声が湧き上がった。
これに対しリーが聞くに耐えない罵詈雑言をマイクを通して叫んだので(名前は所々理解出来ない)、マクゴナガルはマイクを奪取しようもがいている。





「すみません、先生。すみません!二度と言いませんから!
さて、グリフィンドール、三十対十でリードです。ボールはグリフィンドール側―――」





グリフィンドールが得点を先取したせいだろうか。
スリザリンは手段を選ばない戦法に出ていた。

殴る蹴るとしっかり痛め付けておいて、平然と言い逃れをしようとしたのだ。
これにはグリフィンドール・チームは怒り心頭に発した。力業で返したのだ。

勿論、両者ペナルティーである。
試合は泥仕合と化していた。

その頭上で、ハリーはスニッチを探して飛び回り、マルフォイはその後を執拗に追跡していた。
突如として、ハリーはフルスピードで飛んだ。
スニッチを見つけたのだ。手を伸ばした。
ところが、箒のスピードが急激に落ちた。





「このゲス野郎!」





阻止するべく、マルフォイがファイアボルトにしがみついたのだ。
フーチが甲高い声で何か言いながら向かっていく。

音が割れるほど大きな声でリーが叫んだ。





「このカス、卑怯者、この―――!」





試合も観客席も荒れていたが、放送席も荒れていた。
あのマクゴナガルが、リーと同じように拳を振り回し何かを叫んでいた。
その激しさに帽子が頭から落ちている。





「スリザリンのボールです。スリザリン、ゴールに向かう―――
モンタギューのゴール―――」





グリフィンドール・チームは怒りで集中力を失っている。
反対にスリザリン・チームは活き活きし出した。

リーの実況は呻き声に変わっている。





「七十対二十でグリフィンドールのリード……」





一体この試合はどうなってしまうのか。
乱れる試合に彼方此方と視線を向けて、表情ばかりは冷静沈着そのものだが名前は落ち着きが無い。
そんな中フリントがチラチラと此方を見てくるのである。
名前は余計に視線をさ迷わせている。





『…』





混乱する試合の中でハリーを探せば、今度はハリーがマルフォイをマークして飛んでいた。
互いの膝が接触するほど、側を張り付くように追跡している。
マルフォイがハリーに向かって何事か悪態を吐いているのが見えた。





「アンジェリーナ・ジョンソンがグリフィンドールにクアッフルを奪いました。行け、アンジェリーナ。
行けーっ!」





マルフォイ以外のスリザリン選手全員が、アンジェリーナを追って駆けていく。
全員で食い止めようとしている。





「アアアアアアアーーーッ!」





急遽向きをそちらへ変更したハリーが、弾丸のように飛び込んだ。
あまりの勢いに、スリザリン・チームは蜘蛛の子を散らすように離散する。
これでアンジェリーナを妨害する者はいない。





「アンジェリーナ、ゴール!アンジェリーナ、決めました!
グリフィンドールのリード、八十対二十!」





空中でハリーは急停止し、旋回する。
そして、ファイアボルトを駆ってマルフォイの方へ接近していく。
どうやら、マルフォイがスニッチを見つけたらしい。

ボールが妨害しようとブラッジャーを打つが、ハリーは体勢を低くして避ける。
箒から両手を離し、身を乗り出した。

そして。

急降下から翻す。
空に高く、スニッチを掴んだ拳を突き出した。
歓喜の悲鳴が轟き、競技場が揺れた。





『…』





グリフィンドール・チームは地上へと向かいながら喜びに腕を絡ませたり、抱き合ったり、意味の無い言葉を叫んでいる。
そして、応援団がフィールドに雪崩れ込み、選手のところへ駆けていった。
押し合い圧し合いの状態である。
皆笑顔を浮かべながら、涙を流していた。

夢にまでも見たグリフィンドールの優勝だ。
優勝杯をハリーが、天高く掲げた。





『…』





最後列から、名前は一人眺めた。
何せ入り込む勇気が無い。

祝いの言葉を伝えるのは、談話室に戻ってからになるようだ。

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