16.-1






「………」



『………』





朝早くから図書館の椅子に腰を据える生徒がいた。
名前とハーマイオニーである。





「………」



『………』





隣同士並んで座る彼らだが、特に会話があるわけでもなく、思い思いに作業を進めている。

イースターの長い休暇は、この通りのんびりというわけにいかなかった。
嘗てないほどの宿題を出され、皆切羽詰まっていた。

誰よりも沢山の授業をとる名前とハーマイオニーは尚更である。
朝から晩まで、ひたすら宿題に専念している。





『…』





名前はチラリと、横目でハーマイオニーを見る。

泣きそうになりながら本を読んでいる。目の下の隈は一層色濃くなっていた。

彼女はいっぱいいっぱいなのだ。





『…』





とはいえ、名前も余裕があるわけではない。いつもと何も変わってないようには見えるが。

イースター休暇が明ければクィディッチの試合がある。

山積みの宿題も勿論だが、名前とハーマイオニーは、それがちょっぴり気掛かりでもある。

















イースター休暇が明け、試合は明日に迫っていた。
生徒の緊張はこれまでに無いほどに高まっている。

試合前夜は決まって緊張が高まっていたが、グリフィンドール対スリザリンの試合だ。

試合前の数日間はあちこちで小競り合いが頻発し、騒動が起こったのも影響しており、選手だけでなく観客である生徒も神経質になっている。





「勉強出来ないわ。とても集中できない。」





言って、ハーマイオニーが本を閉じてしまったのは、異様な程に騒がしい談話室のせいではない。

騒ぎの中心から離れて座る彼らは、いつもの落ち着きを失っていた。
相変わらず無表情の名前はいつも通り本を読んでいたが、珍しい事に談話室にいるのだ。





「絶対、大丈夫よ。」



「君にはファイアボルトがあるじゃないか!」



『先生方が見ている。…スリザリンはおかしな事は出来ない。
普段通りにやれば、勝てる。』



「うん……」





元気の無いハリーを励まそうと、そして自分自身に言い聞かせるように言う。
それでもハリーの顔色は優れない





「選手!寝ろ!」





ウッドが急に立ち上がり、騒がしい談話室はその一声にピタリと静かになった。
ぞろぞろと寝室に引き上げる選手と共に、一緒に騒いでいた生徒らも付いていく。

談話室は一瞬にして夜の静けさを取り戻したのだった。





―――……



―――………



―――……





そして、名前がすっかり眠りに落ちた頃。
耳元で囁くような音がした。
意識がだんだんと浮上していくにつれて、音が声だと分かった。





「ロン!ナマエ!」





ハリーの声だ。
寝惚け眼にぼんやりした頭が理解する。
名前はゆっくりと目を開けた。
辺りは真っ暗だった。





「ロン!ナマエ!起きて!」



「ウーン?」



『…』



「君達にも何か見えるかどうか、見て欲しいんだ!」



「まだ真っ暗だよ、ハリー。」





呂律が回らないままロンは呟いている。





「何を言ってるんだい?」



「こっちに来て―――」





名前は閉じそうになる目を必死に開けて、何とかといった様子で体を起こした。
暗い辺りを見回せば、ハリーは窓の外を眺めている。

ベッドから足を下ろした名前は、素足にローファーをはいて、ゆっくりハリーの元へと近寄った。





『……』





ハリーの隣に並び、名前も窓の外を眺めた。
月が浮かび、星が煌めいている。
静かだ。
森の木々も芝生も、少しも揺れていない。





『ハリー、何を見たんだ。』



「…」





ハリーは窓枠によじ登って、城の真下辺りを覗き込んでいた。
それから振り返って名前を見て、迷うように視線をそらした。





「クルックシャンクスが歩いていたんだ。あの辺り…」



『…。』





ハリーは話ながら、森の方を指差した。
何もない。





「ただ、一匹じゃなくて。別の動物と一緒に歩いていたんだ。
辺りが暗いから、よく分からないんだけど、…」



『…』



「黒い…
黒い、大きな犬に見えた。」





思い当たる節があるのだ。
今度は名前がハリーから目をそらした。

それを見たハリーは何やら慌てた様子で、口を開き言葉を探している。





「あの、ナマエ、僕、ちょっと…寝惚けてたのかも。それに、暗いし。何かと見間違えたのかもしれない。」



『…』



「ごめん、起こしちゃって。
ベッドに戻っていいよ。僕も寝るから。」





ハリーは返事も待たずにベッドに戻ると、素早くベッドに寝転んだ。
カーテンは閉じられ、それ以上の会話を拒むかのようだった。

名前もベッドに戻った。
しかし目は閉じず開いたままで、何か考え事をしているのか、ただ瞬きを繰り返すばかりだ。

ロンはとっくに寝入っており、大きなイビキが聞こえてくる。















「さあ、グリフィンドールの登場です!」





翌日。
歓声と拍手の中、試合はついに開始された。

たくさんの熱狂的な観衆に追いやられ、名前は観客席の最後列で競技場を眺める。

すぐ眼下では真紅の旗や、何事か書かれた横断幕が振られていた。




『…』





名前の目はスリザリンのゴール・ポストの後ろにピタリと止まる。
若干目を見開いているように見える。

生徒が緑のローブを着て、スリザリンの旗を振っている。
それはいい。名前が注目したのはそこではない。

注目したのは最前列を陣取るスネイプだ。
いつもの真っ黒いマントではなく、生徒と同じく緑を纏い、陰気な笑みを浮かべているのだ。





「ポッター、ベル、ジョンソン、スピネット、ウィーズリー、ウィーズリー、そしてウッド。
ホグワーツに何年に一度出るか出ないかの、ベスト・チームと広く認められています―――」





解説役のリー・ジョーダンの声は、スリザリン側からのブーイングに掻き消された。





「そして、こちらはスリザリン・チーム。
率いるはキャプテンのフリント。
メンバーを多少入れ替えたようで、腕よりデカさを狙ったものかと―――」





スリザリンからまたブーイングが起こったが、これは何も間違った事は言っていない。
マルフォイ以外は長身で見るからに屈強な肉体をもつ者ばかりだ。





「さあ、グリフィンドールの攻撃です。グリフィンドールのアリシア・スピネット選手、クアッフルを取り、スリザリンのゴールにまっしぐら。
いいぞ、アリシア!
アーッと、だめか―――
クアッフルがワリントンに奪われました。
スリザリンのワリントン、猛烈な勢いでフィールドを飛んでます―――
ガッツン!―――
ジョージ・ウィーズリーの素晴らしいブラッジャー打ちで、ワリントン選手、クアッフルを取り落としました。拾うは―――
ジョンソン選手です。グリフィンドール、再び攻撃です。
行け、アンジェリーナ―――
モンタギュー選手を上手く躱しました―――
アンジェリーナ、ブラッジャーだ。躱せ!
―――ゴール!十対〇、グリフィンドール得点!」





十四の箒が一斉に飛び上がり、早くもグリフィンドールが得点を先取した。
アンジェリーナがガッツポーズをする。
そこへ、マーカス・フリントが体当たりをした。
ブーイングの嵐である。





『…』





その光景を目の当たりにしていた名前の瞳に飛び込んできたのは、周りの野次をあしらいながらこちらに向いたフリント目だった。
明らかに名前を見詰め、その瞳には尋常ではない熱意が込められている。

敵意は感じられない。
むしろ好意的なものだ。





『…』





けれども名前はそっと目をそらし、何故かフリントの箒の先に目を止める。

次の瞬間、鈍い音が響いた。
フリントが頭を抱えて呻いている。
その後ろでは投擲のポーズをとったままのフレッドがこちらを見ていた。
ビーターの棍棒をフリントの後頭部に投げ付けたのだ。

今にも喧嘩が始まりそうな雰囲気だが、フーチが二人の間に飛び込んだ。
両者、ペナルティである。

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