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「これを―――これをハグリッドが送ってきたの。」





言葉を失う彼らの前に、ハーマイオニーは手紙を突き出した。
ハリーが受け取り、隣からロンが覗き込む。





「こんな事って無いよ。」





読み終わったハリーは開口一番にそう言った。





「こんな事出来るはず無いよ。
バックビークは危険じゃないんだ。」



「マルフォイのお父さんが委員会を脅してこうさせたの。」





涙を拭いながらも、ハーマイオニーはハキハキと喋る。





「あの父親がどんな人か知ってるでしょう。
委員会は、老いぼれのヨボヨボの馬鹿ばっかり。皆怖じ気づいたんだわ。
そりゃ、控訴はあるわ。必ず。
でも、望みはないと思う……何にも変わりはしない。」



「いや、変わるとも。」





突然、ロンが口を開いた。
力強い言葉だった。





「ハーマイオニー、ナマエ。今度は君達二人で全部やらなくてもいい。
僕が手伝う。」



「ああ、ロン!」



『…』





ハーマイオニーはロンの首に飛び付くように抱き着いた。
途端、声を上げて泣き出す。

これに慌てたのはロンだ。
ハーマイオニーを見て、ハリーを見て、名前を見て、またハーマイオニーを見た。

そして右往左往させた手を、尚も迷うようにしながら、ハーマイオニーの頭に置いた。





「ロン、スキャバーズの事、ほんとに、ほんとにごめんなさい……」



「ああ―――
ウン―――
あいつは年寄りだったし。」





暫くして落ち着いたハーマイオニーはロンから離れて、所々声を飲み込みながら謝った。
ハーマイオニーが離れてホッとしたロンは、いつもの調子を取り戻したようだった。
少しふざけたように話すのだ。





「それに、あいつ、ちょっと役立たずだったしな。
パパやママが、今度は僕に梟を買ってくれるかもしれないじゃないか。」















「みんな俺が悪いんだ。舌が縺れっちまって。」





他の生徒達と共に城に向かう最中、話し掛けたハグリッドの声には覇気が無かった。

警備が厳しくなった今、ハグリッドと話が出来るのは授業中しかない。
授業に現れたハグリッドは放心状態で、真っ赤な目は夜通し泣き続けたかのように腫れていた。





「そんでもって俺はメモをボロボロ落としっちまって、ハーマイオニー、ナマエ。
お前さん達が折角探してくれた色んなもんの日付は忘れっちまうし。
そんで、その後ルシウス・マルフォイが立ち上がって、やつの言い分を喋って、
そんで委員会はあいつに『やれ』と言われた通りにやったんだ……」



「まだ控訴がある!」





すっかり意気消沈したハグリッドを、ロンはキラキラした目でしっかり見つめた。





「まだ諦めないで。僕達、準備してるんだから!」



「ロン、そいつぁダメだ。」



『…』





前の方でクスクスと忍び笑いが聞こえた。
見ると、クラッブとゴイルを従えたマルフォイが、チラチラこちらを見ては笑っている。





「あの委員会はルシウス・マルフォイの言う成りだ。
俺は只、ビーキーに残された時間を思いっきり幸せなもんにしてやるんだ。
俺は、そうしてやらにゃ……」





最後の方は、今にも泣いてしまいそうなほど震えた声だった。
ハグリッドはハンカチで顔を隠すようにして、殆ど走る勢いで小屋に戻ってしまった。





「見ろよ、あの泣き虫!」





そして、呆然とその姿を見守る四人の耳にそれは聞こえた。
一斉に振り返れば、マルフォイ、クラッブ、ゴイルがいた。





「あんなに情けないものを見た事があるかい。」





彼らは城の扉の裏側で話を聞いていたのだ。
その悪口に、名前は勿論怒りを抱いただろう。
しかし、両隣に立ち並ぶ友人から殺気とも見紛う凄まじい怒りのボルテージがグングン上がっていくのを感じ取ってしまい、そちらに意識が向いてしまう。





「しかも、あいつが僕達の先生だって!」






ついにハリー達が動いた。マルフォイに向かって手を上げたのだ。
名前はそんな友人達を止めるべく動く。
しかし、一番速かったのはなんとハーマイオニーだったのだ。





バシッ!





風船が割れたような音が辺りに響いた。

マルフォイはよろめき、信じられないような顔でハーマイオニーを見る。
おそらく、マルフォイ自身もまさか引っ叩かれるとは予想していなかったのだろう。
想定外の出来事に男子全員棒立ちである。





「ハグリッドの事を情けないだなんて、よくもそんな事を。
この汚らわしい―――
この悪党―――」



「ハーマイオニー!」





ハーマイオニーがもう一度手を上げた。第二撃である。
我に返ったロンが慌ててその手を取り押さえた。





「放して!ロン!」





しかしそれでは気が済まないハーマイオニーは、空いている手で素早く杖を取り出したのだ。
今度は名前が動いた。ハーマイオニーの杖を持つ手を掴み、下ろさせた。





「行こう。」





オロオロするばかりのクラッブとゴイルに向かって、マルフォイが呟く。
三人は逃げるようにして地下牢に続く階段を下りていった。





「ハーマイオニー!」





ロンが再度名を呼んだ。
その声音には驚きや賞賛が含まれていた。





「ハリー、クィディッチの優勝戦で、何がなんでもあいつをやっつけて!」





ハーマイオニーはまだ怒りが収まらない様子で、上擦った声で叫んだ。





「絶対に、お願いよ。スリザリンが勝ったりしたら、私、とっても我慢できないもの!」



「もう『呪文学』の時間だ。早く行かないと。」





ロンは珍しい物を見るようにしてハーマイオニーを眺めながら、そう促した。
四人は急いで『呪文学』の教室に向かう。





「三人とも、遅刻だよ!」





ハリーが教室のドアを開けると、それを見たフリットウィックが少し怒った声で注意した。





「早くお入り。杖を出して。
今日は『元気の出る呪文』の練習だよ。もう二人ずつペアになっているからね―――」





三人は急いで後方の空席に向かい、鞄を開けて準備をする。
今回名前は一人ではない。
三人でペアになったのだ。





「ハーマイオニーはどこに行ったんだろ?」



「変だなぁ。」





そう、ハーマイオニーがいないのだ。
だから三人でペアになった。
ハーマイオニーがいれば二人ずつでペアになれたのだが。





「きっと―――トイレとかに言ったんじゃないかな?」





ハリーの予想に反し、授業の終了の鐘が鳴ってもハーマイオニーは現れなかった。





「ハーマイオニーも『元気の出る呪文』が必要だったのに。」





授業が終わって、皆は「元気呪文」の余韻で笑顔を振り撒きながら昼食を食べに行く。
そこでもハーマイオニーは現れなかった。
ここまでくると、「元気呪文」の効果が薄れてきた事もあり、不安が募ってくる。





「マルフォイがハーマイオニーに何かしたんじゃないだろうな?」





グリフィンドール塔への階段を二段、三段と飛び越しながら、ロンが言った。

しかし、そんな心配は無用だった。
談話室にハーマイオニーはいた。
テーブルに教科書を開き、その上に頭を載せて、熟睡中だ。

三人は無言で、ハーマイオニーの両側と前に腰掛ける。
ハリーがそっとつついた。





「ど―――どうしたの?」





飛び上がるようにしてハーマイオニーは目覚めた。
両隣にいるハリーとロン、前にすわる名前、三人の顔を見回している。





「もう、クラスに行く時間?今度は、な―――何の授業だっけ?」



「『占い学』だ。でも後二十分あるよ。
ハーマイオニー、どうして『呪文学』に来なかったの?」



「えっ?あーっ!」





眠る前の記憶が甦ってきたらしい。
目を真ん丸に見開いている。





「『呪文学』に行くのを忘れちゃった!」



「だけど、忘れようがないだろう?教室のすぐ前まで僕達と一緒だったのに!」



「なんてことを!」





ハーマイオニーはショックで聞いてやしない。





「フリットウィック先生、怒ってらした?ああ、マルフォイのせいよ。
あいつの事を考えてたら、ごちゃごちゃになっちゃったんだわ!」



「ハーマイオニー、言ってもいいかい?」





ハーマイオニーが枕代わりに使っていた分厚い本―――
(内容からして「数占い学」の本だろう、と名前は考える)
を見下ろしながら、ロンが口を開いた。





「君はパンク状態なんだ。あんまり色んな事をやろうとして。」



「そんな事ないわ!」





ちょっと寝癖のついた髪を乱暴に掻き上げつつ、ハーマイオニーは鞄を探している。





「ちょっとミスしたの。それだけよ!
私、今からフリットウィック先生のところへ行って、謝ってこなくちゃ……。『占い学』のクラスでまたね!」

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