12.






「ナマエ。隣、いいかしら?」



『…ああ。』





名前はそこに置いていた本をどけ、椅子を引く。
するとお礼を言いながらハーマイオニーはその席に座った。

図書館の奥の奥。
壁寄りの隅にある小さなテーブルを陣取る名前。

ハーマイオニーはわざわざそんな名前の元までやって来て、空いていれば名前の隣に座り、専ら勉強に打ち込んだ。





『…それは、バックビーク関係か。』



「ええ。時間が限られているもの。それまでに探さなきゃいけないわ。」



『手伝うよ。』



「ありがとう、ナマエ。」





図書館に頻繁に来る理由。
それはバックビークを助けるために、役立つ本を探す目的もあった。

ハーマイオニーは勉強の合間を縫っては、弁護の為になるような事を調べている。

名前の隣にやって来るのは、名前が少なからず知識を備えているからだろう。
あまり役立った事は無いが。





『…』





名前はチラリとハーマイオニーを見る。

ハーマイオニーの目の下には隈があり、フワフワした栗色の髪の毛は無造作に広がっていた。

明らかに疲れが蓄積されている。




『……』





鈍感に見える名前だが(実際鈍感だが)、ハーマイオニーが肉体的にも精神的にも弱ってしまっている、その原因は推測出来る。

沢山の宿題―――
ロンとハリーとの亀裂―――

ストレスだらけの彼女が、それでも名前の傍に来て、変わらず接する。
いつも無表情で、無口で、変化に乏しい名前の傍が、
今のハーマイオニーにとっては、安心できる場所なのかもしれない。





『…』





休暇が終わり、授業が開始した。
しかしロンとハリーの態度は変わらず冷たい。
全くと言っていいほど口をきかない。

幸い矛先は名前に向かないが、そんな刺々しい空間に挟まれるだけでも、
争い事が苦手な名前にとっては、正直地獄である。















「ナマエ、最近痩せたんじゃない?」





夕食を摂るために、大広間に行く途中。
隣に並ぶロンは名前をじっと見て言った。
ちょっと考えるように黙ってから、名前は首を傾げる。





『…そうかな。』



「痩せたよ。ちゃんと食べてる?」



『うん。』



「ナマエの『食べた』は少ないからなあ…」





ロンが言った事は正しかった。
名前は増して細くなったし、元々食が細かった。

さっさと食事を切り上げて、勉強の時間にあてているのだ。

トレーニングをし、勉強をし、そうでなければ眠りこけている。
それでも一応、食事は摂っている。

あの黒い犬に与える為に。
黒い犬に出会っていなければ、名前は恐らく食事に時間を割かなかったかもしれない。





「風邪なんかじゃないよね?
君、雪だろうが雨だろうがトレーニングしてるだろ?」



『大丈夫。…クィディッチの練習するのだって天気は関係ない。』



「でも一年に何回かは必ず寝込んでない?」



『………』





クィディッチの選手であるハリーに言われてしまった。ハリーはどんな悪天候に見舞われようが、体調を崩した事がない。
思い返せばその通りである。
名前に言い返す事は出来なかった。





「ナマエで思い出したけど、ルーピンも痩せたよな。」



「そうだね。目の下に隈もある。」



「ルーピンはまだ病気みたい。
そう思わないか?一体どこが悪いのか、君、分かる?」





ロンはハリーと名前に向かって尋ねた。

するとすぐ後方で、チッと舌打ちする音がする。
振り向いて見ると、ハーマイオニーが口が閉まらなくなった鞄に本を詰め直していたところだった。





「何で僕達に向かって舌打ちなんかするんだい?」



「何でもないわ。」



「いや、何でもあるよ。」





冷静であるかのように振る舞うハーマイオニーに、ロンは食い下がる。





「僕が、ルーピンはどこが悪いんだろうって言ったら、君は―――」



「あら、そんな事、分かりきった事じゃない?」



「教えたくないなら、言うなよ。」



「あら、そう。」



「知らないくせに。」





つっけんどんにそう言って、ハーマイオニーは先に歩いていってしまった。
遠ざかるハーマイオニーの背中を、ロンは睨み付けて呟く。





「あいつ、僕達にまた口をきいてもらうきっかけが欲しいだけさ。」





学期が始まって一週間目、レイブンクロー対スリザリン戦が行われた。
僅差だったが、スリザリンが勝利を収めた。

これはグリフィンドールにとってチャンスだった。
グリフィンドールがレイブンクローに勝てば、二位に上がることになる。

それからのハリーは、一週間の殆どをチーム練習に追われるようになった。
一晩で一週間の宿題を全てをこなし、それ以外はルーピンとの特訓を行っているらしい。
(吸魂鬼祓いの練習だと、名前は聞いた)

ロンは兎も角。
ハードな日々を送るハリーに余裕は無い。

ハーマイオニーと二人の亀裂は塞がらないまま、月は二月に進む。





『…』





名前は相変わらず図書館を利用し、それが出来なければ、寝室のベッドの上で縮こまり宿題をこなしていた。

日課のトレーニング―――
大量の授業に宿題―――
弁護の資料探し―――…

さすがに堪えるのか、度々、宿題をこなしていたはずが眠りこける事もあったが。





―――ウワアアア!





眠りこけていた名前は、その押し殺したような叫び声に体を揺らして、目を覚ました。

慌てて半身を起こし、声の主を探す。

ロンが血の気の無い顔で、ベッドのシーツをかき集めるかのようにしているのに気付いた。
引き剥がすつもりなのかもしれない。




『ロン、』





声を掛けたが、聞こえなかったらしい。

ロンはベッドのシーツを引き剥がすと、慌ただしく寝室を出ていった。





『…』





寝惚け眼の名前には、何が何やらさっぱり分からない。

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