07.-2
「あなたは何をしていたの?」
楽しそうな雰囲気から一変。
ハーマイオニーは心配そうにハリーに問う。
「宿題やった?」
「ううん。ルーピンが部屋で紅茶を入れてくれた。
それからスネイプが来て……」
ロンとハーマイオニーがホグズミードの話を夢中でしたように、
ハリーもその事を誰かに話したかったのかもしれない。
ハリーの口からは初めから準備でもしていたように、スルリスルリと言葉が出てきた。
話しによれば。
ハリーはルーピンの部屋に誘われた。
そこで水魔を見せてくれて、紅茶をご馳走になった。
他愛もない雑談をしていると、スネイプがやって来たという。
手にはゴブレットを持ち、微かに煙が上がっていた。
薬―――
ルーピンはそう言った。
スネイプがわざわざルーピンのために調合した、複雑な薬だと。
「ルーピンがそれ、飲んだ?」
目を見開き、息を呑み。
ロンは呆然と口を開ける。
「マジで?」
『……』
驚き固まるロンをよそに、ハーマイオニーは自身の腕時計を見た。
その動きに反応してか、チラリとハーマイオニーを眺める名前。
ロンほど、この二人は衝撃を受けていないのかもしれない。
「そろそろ下りた方がいいわ。
宴会があと五分で始まっちゃう……」
ハーマイオニーの提案に、三人は従った。
急ぎ足で寮を出ると、皆と一緒に大広間に向かう。
その道すがら、彼らの会話の中心は、もっぱらスネイプの事だった。
「だけど、もしスネイプが―――
ねえ―――」
少し言いにくそうにしながら、ハーマイオニーはだんだんと声を落とす。
それから目だけで辺りを見渡した。
「もし、スネイプがホントにそのつもり―――
ルーピンに毒を盛るつもりだったら―――
ハリーの目の前ではやらないでしょうよ。」
「ウン、たぶん。」
ハリーがそう答え、その時大広間に到着した。
おそらくは彼らの頭の中から、スネイプの事は二の次になったに違いない。
毎年の事ながらも、息を呑むほど見事な装飾が施された大広間。
食事も豪勢で、いつもは見ない料理もある。
当然会話は弾み、食も進んだ。
宴会が終わってもまだ楽しい雰囲気が皆を包み込み、笑い声や話し声が絶えないまま、就寝のために各々塔へと戻った。
太った婦人の肖像画に繋がる廊下まで来ると、やけに混雑している。
生徒がすし詰め状態になっているのだ。
「何で皆入らないんだろ?」
「通してくれ、さあ。」
ロンの不思議そうな呟きに続き、パーシーの声が後ろから聞こえた。
生徒の波を掻き分けて、胸を張ってやって来る。
「何をモタモタしてるんだ?全員合言葉を忘れたわけじゃないだろう―――ちょっと通してくれ。
僕は首席だ―――」
パーシーが肖像画のところまで辿り着いた。
そしてその瞬間、異様な空気が流れ始めた。
沈黙。
ただの沈黙ではない。
何か得体の知れないものを目の前にして黙り込む。
恐怖を感じた時に感じる冷気のように。
突然、パーシーが叫んだ。
「誰か、ダンブルドア先生を呼んで。急いで」
「何があったんだろう?」
『……』
パーシーの鋭い声に。
生徒達のざわめきに。
ハリーとロンとハーマイオニーは互いに顔を見合せたりした。
名前は目を細め、じっと肖像画の方を見つめる。
「ナマエ、どうなっているか見えるかい?」
「どうしたの?」
ロンの問い掛けに、名前は口を開き―――そこへ、今来たばかりのジニーが訊ねてきた。
答えるタイミングを逃した名前は、口を開きかけたままジニーを見て、再度、今度は声を発しようとする。
しかし次の瞬間、ダンブルドアがそこに現れた。
肖像画の方に歩いていく。
生徒は壁に沿い、ダンブルドアのために道を空けた。
ハリー達はそれを好機に、何が問題なのかよく見ようと近寄っていく。
「ああ、何てこと―――」
ハーマイオニーは言って、側にいたハリーの腕を掴んだ。
鋭利な刃物で切り裂かれたように、肖像画は滅多切りにされていた。
肖像画の中に太った婦人の姿はない。
誰がどう見ても一目で異常と感じるものだった。
「婦人を探さなければならん。」
駆け付けてきた先生方―――
マクゴナガル、ルーピン、スネイプの先生方の方へ振り返って―――
ダンブルドアは硬い声でそう言った。
「マクゴナガル先生。
すぐにフィルチさんのところに行って、城中の絵の中を探すよう言ってくださらんか。」
「見つかったらお慰み!」
この雰囲気には場違いなほど、甲高く高揚した声が響いた。
ポルターガイストのピーブズだ。
ニヤニヤと気味の悪い笑顔を浮かべながら、皆の頭上を漂っている。
「ピーブズ、どういう事かね?」
ダンブルドアが静かに聞くと、ピーブズの笑顔は少しだけ引っ込んだように見えた。
けれども一層、下卑た笑みは強くなったようだった。
「校長閣下、恥ずかしかったのですよ。
見られたくなかったのですよ。
あの女はズタズタでしたよ。
五階の風景画の中を走ってゆくのを見ました。
木にぶつからないようにしながら走ってゆきました。
ひどく泣き叫びながらね。」
演技がかった口調と声音で、今にも踊り出しそうなほど嬉しそうに話す。
そして小さく、「お可哀想に」と言い添えた。
「婦人は誰がやったか話したかね?」
「ええ、確かに。校長閣下。」
ダンブルドアが聞くと、尚もピーブズは演技がかった口調と声音で、重々しく答えた。
「そいつは婦人が入れてやらないんでひどく怒っていましたねえ。」
そこでピーブズはくるりと宙返りをする。
そして自分の脚の間からダンブルドアを見た。
込み上げる喜びに我慢出来ないのか、満面の笑顔である。
「あいつは癇癪持ちだねえ。
あのシリウス・ブラックは。」
辺りがしんと静まり返る。
皆言葉を失った。
紅潮していた頬は一気に血の気が引き、青白い。
ピーブズただ一人だけはこの状況を楽しむかのようにニヤニヤと笑っていた。
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