02.-2






長かった授業が終わり、ハリーとロンは同情した目付きで、教室を出るまで名前を振り返って見ていた。

薄暗い教室の中で名前は相変わらず猫背で、高い身長に涼しげな表情にも関わらず、哀愁を漂わせていた。
ハリーとロンは無償に名前が可哀想に思えてならなかった。

教室から生徒が皆出ていくのを確認し、名前は教壇に向かう。

教壇ではスネイプが腕組みをして立っており、その顔を見てみるとやっぱり不機嫌そうだった。





「今日の罰則は掃除だ。
机の上と床、雑巾と箒を使って綺麗にしたまえ。
無論魔法ではなく自分の手でな。」





意地悪く笑むスネイプから、バケツと雑巾、箒にちり取りを受け取り、名前は無言で掃除を開始した。

名前が机の上の薬草のカスを小さな箒で集めているのを横目に、スネイプは自分の机で本を読み始める。
時折目だけを名前に向けて、また本に集中する。

名前は黙々と掃除を進め、早くも終えようとしている。

スネイプは本を閉じた。





「ミョウジ、何故今日の授業に遅刻したのかね?」





名前はゆっくりと顔を上げた。
その緩慢な動作のせいか、一瞬、固まったようにも見えた。

好き勝手にピョンピョンと跳ねた黒い髪の毛が揺れる。

寝癖だらけのボサボサの髪の毛を見て、スネイプは不快そうに口を曲げた。





『…人を、医務室まで運んだ…です。』



「ほう、どこの寮生だったのかね?
名前は聞いたのかね?」



ゆるりと首を振る。
『スリザリンの、ネクタイをした…男子生徒でした。』



「…そうかね。後で確認させてもらおう。」





会話は途切れ、しばらくスネイプを見ていたが、名前はまた黙々と机を拭き始めた。
スネイプは本を読むのをやめたらしく、名前の作業を見つめている。
眉間に皺を寄せながら。





「ミョウジ、」





またスネイプは名前を呼んだ。
名前は素直に顔を上げてスネイプを見つめる。

スネイプは椅子から立ち上がり名前の側まで来ると、上から下まで名前を見て、静かに口を開いた。





「少しは身なりを整えたらどうですかな。」



『………あの、頭のことですか。』



「自覚しているのなら直しておきたまえ。
君が良くとも周りがどう思うかはわからんのだぞ。」



『すみません…でも、直らないんです。』



「何?」



『直らないんです。………』



「………」



『………』



「………」



『………』



「………なら背筋だけでも伸ばしたまえ。
だらしなく見えますぞ。」



『………はい。』





スネイプは名前に背筋を伸ばさせたあと、真っ黒いマントを翻して机に戻っていった。

本を開き、終わったら道具をロッカーにしまい、後は帰っていいと言って。

名前はスッと伸ばした背筋のまま机を拭き終わり、雑巾を洗い、バケツをゆすいだあと、ロッカーに道具をしまって、荷物を持って出ていった。

スネイプが見送った名前の背中は、いつもより華奢に見えた。





「で、どうだった?」





一日の終わり、騒がしい夕食の時間、ロンが鴨胸肉のグリルを口いっぱいに頬張りながら、興味深そうに名前に聞いた。
ハリーも名前に目を向けた。

名前は無表情でもそもそとサラダを食べていた。
(その様子は少しウサギに似ていた)





『…罰則、掃除。』



「へーぇ、スネイプのことだから、もっとえげつないことさせるかと思ったけど、案外普通だなぁ。」



「ナマエ、何で今日遅刻したの?」





ハリーが聞いた。
名前はプチトマトを頬張ったまま一瞬固まり、





『人を、医務室まで運んだ。』





とボソボソと答えた。
ハリーはその『一瞬固まる』反応が引っ掛かり、疑わしげに名前の顔をジッと見つめた。

名前は不自然に目をそらした。





「嘘つかないでよ、ナマエ。」



「そうだよ、ナマエ。
君が嘘ついてんのは僕にだってわかるぜ。」



『…ごめん………。』





ハリーとロンに言われ、名前が項垂れる。
そしてゆっくりと後ろへ振り返った。

ロンとハリーもつられて同じ方向を見てみると、どうやらスリザリンの席から誰かが見ていたらしく、熱心にこちらを―――いや、名前を見つめる者がいることに気付いた。

その熱心に見つめてくる者は、どう見てもガタイのいい男子生徒だった。

グリフィンドールとスリザリンは常に対立している。
なので、これだけ熱心に見つめてくるのも何かの対抗心からかと、ロンとハリーは最初は思った。

だがすぐに取り消した。
その男子生徒の目は潤み、頬は熱って赤く染まり、明らかに名前に恋する顔だったのだ。

ロンとハリーは見てはいけないものを見たような複雑な気分になり、一気に食欲が失せたように感じた。





「あ…あれスリザリンのクィディッチチームのキャプテンだろ。五年生の…。
マーカス・フリント。」



「何でそんなやつがナマエのことを……あんな目で見てるんだろ?ナマエ、何かあった?」



『………廊下の角でぶつかった。』



「ぶつかった?
ぶつかったら、あんな…ヘンな目で見てはこないだろ。」



『ぶつかった時、…惚れ薬…持ってたから。』



「「………。」」





ハリーとロンは、この話があまり聞きたくない怪しい雲行になっていくように感じた。(しかし興味ももちろんあった)

惚れ薬―――使用した相手に恋させる薬だ。

名前の話の流れで予想すると、誰に使う予定だったのかはわからないが、マーカス・フリント自身が惚れ薬を使ってしまった、ということになるだろう。





「そ、それで?」



『…自分自身に惚れ薬を振り掛けた。
俺は…平気だった、けど…』



「…フリントが惚れ薬を吸って、初めに見たのがナマエだった………つまり、」



「フリントはナマエに恋してる…」



「………」



「………」



『………』



「………それで、フリントを医務室まで連れて行ったの?」





ハリーは想像してしまった『フリントの恋する乙女な姿』を消し去るかのように頭を振り、話を戻して名前に聞いた。

名前はミルクを引き寄せながら頷いた。
サラダの皿の中身はキレイになくなっている。





「スリザリンの生徒なんかほっとけばいいじゃないか、ナマエ。
第一、今日はあの根暗教師スネイプの授業だったんだぞ。君の頭がよかったからあの場はしのげたものの、スネイプの気まぐれで何が起きたかわからないんだ…。
それにフリントだって、正気に戻ったらきっと君を殺しにくるぜ。自分のあんな姿見られちゃな。」



「ロンの言う通りだよ、ナマエ。
どうして放っておかなかったんだい?」



『………くっついて離れなかった。』



「………」



「………」



『………俺にも薬がくっついたかもしれない、から…一応取り除いてはもらった、けど…ハリーとロンは大丈夫…。……何ともない。』



「……ああ…うん…
それは、大丈夫だけど…」



「…うん…なんていうか…
……フリントはいつまでああなの?医務室で治してもらえなかったのかい?」



『…強い薬じゃないから、その内戻るって…』



「じゃあ………」



「しばらくあのまま?……」



『……本当は話、しちゃいけないから…誰にも…』



「………」



「………」



「………君って、ナマエ………」



『………』



「……やっぱりあんまり、頭よくない…」





口端に生クリームをつけながらトライフルを食べる名前を見て、ハリーは溜め息とともにそう呟いた。

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