「な、何だよ」
「は?」
「さっきからこっち見てるだろ」
「見てねーよ、ボゲ」

指摘され、影山はもやもやとしていた思考を振り払ってそう返したものの、あの日から気付くと日向を注視していることが増えたのは自覚していた。
どうしてあの人と一緒にいたのか、軽く切り出せばいいはずなのに、いざそうしようとするとまるで喉に鉛でも詰まったかのように言葉が出ない――あの日から、言い様のない不快感が胸に滞っているせいかもしれない。
今も無意識にそうしてしまっていたのだろうが、理由を問われたとて答えを持ち合わせていないため、認めることは憚られてつい否定する口調がキツくなる。
よりにもよって日向が着替えの最中だっただけに、尚更だ。

「また虫に刺されたのか?」
「え?…あー、そうみたい」

ふと意識を向ければ、納得いっていない様子の日向の晒された背に赤い痕がついているのが目に留まった。
本人からすれば通常見ることのできないそこを乱雑に放り出されていた鏡で確認したかと思うと、日向は頬を赤くして眉を寄せ、恨めしげに溢した。

また、と言ったようにそれを目にするのは数回目で、初めて指摘した時の日向はかなり焦った様子で何故か顔を真っ赤にして"虫に刺された"のだと言った。
何度か目にしたそれを、これまではそれほど気にしたことはなかったというのに。
今日は何だか妙にそれが気になった。

「だから、何だよ」
「別に」
「…変なヤツ」

それはすっぽりと呆気ないほどにTシャツに覆い隠されて、睨み付けるようにこちらを向いた日向に、影山は自分がまた日向を凝視していたことに気付く。
それがどうしてなのか、己の行動理由がさっぱりわからない影山は、ただ首を傾げるしかなかった。



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