眠るきみに秘の愛を




「ただいま」


そう小さく呟いた声には明らかに疲れが滲んでいて、振り返った先には矢張り疲れた様子のマスターが居た。

重たそうな鞄を肩から下ろし、強張った体を解す様に大きく伸びをしている。


溜息だか欠伸だかを漏らす彼女は確かに疲れていたけど、何処かすっきりした風にも見える。

案の定中身がたっぷり詰まっている重い鞄を持ち上げ、未だ体を解してるマスターの手を引いて彼女の部屋へ向かった。





「お疲れ様、マスター」

「うん…いやね、テストとか無いわ…」

「…とか言いながらちゃんと頑張ったマスター、偉いです」

「……ありがと」





へにゃ、ともへらっ、とも言えない緩んだ笑顔を浮かべたマスターは途端上機嫌になり、鼻歌を唄いながら一人先に自室へと向かってしまった。


その背中を追い掛けながら、ここ数日を思い返してみる。


時間さえ有れば机に向かい、途中息抜きという名の長い休憩を挟みながらも教科書や参考書とにらめっこの毎日。

時折ぐたっとしている時も有って、その時は笑ってしまったけどやっぱり心配だった。


彼女に声を掛けるのでさえ憚られてしまい、俺としても少し寂…じゃなくて、マスター不足(あれ、意味変わってないよ)。
 




「出来はどうでした?」

「それを聞きますか…」

「そういうのって、気になるもんじゃないですか」

「…まぁ、…うん。」

「で、どうでした?」

「……………出来る事はやったよ」

「何ですかその間と曖昧な反省」





先刻とは違った緩い笑顔を浮かべるマスターが制服に手を掛けたのを見て、大人しく部屋を出る。

気疲れというのか、何とも微妙な反応。

ゆっくり休ませたいという思いと、少しでも長く一緒に居たいという気持ちがせめぎ合う。


そんなくだらない考えを大きな吐息に乗せて吐き出し、彼女の夕飯を用意する為キッチンへと歩を進める。


冷蔵庫の中を覗き込んで数分、その間にメニューが浮かんでしまうのは今流行りの主夫スキルでも付いている所為か。

……これこそくだらない考えですね、なんか俺痛い。


先日と被らない様に組んだご飯を作り上げたは良いが、着替えたマスターが出て来る様子が無い。

もしかして寝てるなんて在り来たりな展開は無いだろうと思いつつ再び彼女の部屋へ戻ると、寝ていた。


規則正しい寝息を立てながらベッドに突っ伏し、それはもうすやすやと。




「…マスター、」

「…………………」

「マスター、ご飯出来ましたよ」

「…………ご、…はん…」

「はい、ご飯です」

「……………ご飯……」
 




ご飯ご飯と反応する割には、起きる気配が一向に無い。

お腹は空いているが眠気には勝てないらしく、偶に小さく指先をぴくりと動かしてはまたすぐに寝息を立て始める。


いよいよ本格的に眠ってしまったのか、遂には呼び掛けにさえ応えてくれなくなってしまった。

取り敢えず布団を被せ、頭の下に枕を置いてやる。


布団の柔らかさに幸せそうな笑みを浮かべると、何かもごもごと口を動かしたのが無性に可愛らしくてつい吹き出してしまったのは内緒。

眠るきみに秘密の愛を




額に散らばる前髪を退けて、軽く口付ける。

部屋に小さく響いた(マスターが気いたら顔を真っ赤に染めそうな)リップ音に、今度こそへにゃりと笑った君。


「お疲れ様です、儚さん。
また明日、………お休み」


願わくば、今夜の夢では俺と一緒に居てくれます様に。





(例え)(夢でも構わない)(傍に居られるのなら)(それだけで充分なんです)(……今は)
 


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徒花/朱様
(KAITO 甘)

テストが終わった時に、
頂いたものです(*^^*)

まさかこんな素敵な小説を
頂けるなんて思っていなかったので、
びっくりした反面
すごく嬉しかったです(//∀//)

主夫スキルの高いカイト…
なんて萌ゆる組み合わせ…!
(*´`)はあはあ


朱様、本当にありがとうございました!!


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