ダイヤモンドリリーに包まれて(シャルルカン)
一年ぶりのシンドリア生活も明日が最終日。とはいえ明日の午前に出航だから、今日が実質的な最終日だ。本当は今日も非番だったのに、急な欠員補充で近場の商船警護にウチは駆り出されている。
「突然悪いな、ゴンベエ。おまえ、明日からまたしばらく出るんだろ?」
「ええ。今回は考古学調査団も一緒なんです」
ウチと甲板で話すのは、我々海兵のトップに立つヒナホホ様。彼は信頼のおける上司で、海兵はもちろん国中の人たちから慕われている。王に引き取られた元難民に航海術を叩き込み、ウチを一人前の海兵にしてくれた屈強なイムチャックは、ウチにとっての"シンドリアの父"だ。
シンドリアの海兵にはいくつか部隊がある。ウチが属するのは、もっとも航海期間の長い遠洋部隊。大まかにいうと、一度海に出ると一年は帰国できない。その代わりに帰国すれば四月の長期休暇に入り、休暇明けには再びシンドリアを発つ。
その長期休暇の最終日が今日なのだ。明日から船上生活が始まるため、この船を降りれば隣で海を見つめるヒナホホ様とも一年近く会えなくなる
「今日も本当は誰かと約束してたんだろう?」
「いえ、約束なんてありませんよ。…お世話になってる人に挨拶に行くつもりでしたが、本当にそれだけで」
難民孤児だったから家族はいないし、わざわざ最後の日に約束を取り付ける相手もいない。当初の予定では、留守中に王宮の私室を掃除してくれる清掃員に挨拶して、行きつけのバルで店員や常連と一杯引っかけるつもりだった。しかし商船警護のおかげでバルに行く時間はなさそうで、王宮食堂でシンドリアの地魚を堪能するのが限界だろう。
「…ゴンベエのことは優秀な海兵だと思ってる」
突然つぶやいたヒナホホ様に右を向けば、神妙な面持ちの彼と視線がぶつかった。先ほどまでの会話のトーンからの変化にウチが戸惑っていると、ウチを次の昇級対象に考えている、と上司は続ける。
「ただ…今おまえがいる遠洋部隊は体力もいるし、いつまでも続けられるものじゃない。もっと短期の部」
「いつまでもって…ウチ、今年の誕生日で二十一歳ですよ」
ウチの指摘に罰の悪そうな笑みを浮かべたヒナホホ様は、ポリポリと左手で自身の頭を掻く。上司の言う通り遠洋部隊の任務は体力勝負で、料理人や清掃員などの非戦闘員も含めて三十代以下が大半を占める。さらにいえば、長期任務にあたる遠洋部隊の隊員は大半が独り身だ。
"短期の部隊に異動すべき"なんて話をヒナホホ様がしたいわけでないのは、ウチもわかっていた。要は"さっさと男を見つけて結婚したらどうだ"ということ。家族を持たない者を否定するわけでも自分の考えを押しつけるわけでもないが、折に触れてこの上司は「家族を持て」「子供はいい」と言う。
ヒナホホ様の考えを否定する気はないが、まだウチは結婚も子供も考えていない。"いずれは"という気持ちがないと言えば嘘になるが、難民孤児だったウチを拾ってくれた王や国のために死んでもいいとすら思っていて。部隊の足手まといにならない限り、ウチは遠洋部隊にいるつもりだ。
もっとも、今だってそういうことを想像する相手がまったくいないわけではない。ただ、その人とは結ばれないとわかっているだけ。遠洋部隊を実らない恋から逃げる口実にしてるとヒナホホ様に悟られないよう、ウチは自嘲を隠すように歯を見せた。
「最悪…」
商船警護を終えたウチは、私室のテラスでため息をつく。シンドリアで眠る最後の夜くらい、太陽の香りがするふかふかの布団で眠りたい。そう思ったウチは、このテラスに布団一式を干して商船警護に出かけていた。
ウチの船が海に出た時点できつすぎるくらいの日差しだったが、午後に天気は急変。三週間ぶりの雨は"バケツをひっくり返したような"というたとえがぴったりで、あっという間にシンドリアを水浸しにした。
その結果、ウチの布団はたっぷりと雨水を吸っていて、部屋に布団を戻すに戻せない状態だ。替えの布団は部屋に常備してあるものの、「また一年留守にするから」と清掃に出したタイミングで、この部屋に予備はない。つまり、今日の寝床がないのだ。
船上ですら寝台があるわけで、床で寝るなど論外。しかし、ずぶ濡れの敷布団は床にシミを作りながら湯殿に運び、水分を搾るのがやっとの状態だ。商船警護帰りに水分を吸った布団を湯殿に運んで満身創痍のウチは、ひとまず腹を満たすべく着替えてから王宮食堂に向かった。
人間関係の狭いウチにとって数少ない心を許せる女性の一人は、運悪く帰郷中。彼女の部屋に泊めてもらう気でいたのに、と肩を落としたウチがアバレケブガニのムニエルを口に運んでいると、背中に重みを感じた。背中側から首元に回された華奢な腕と甘い香りで、顔を見なくても正体は一目瞭然。
「ゴンベエの向かい、座っていーい?」
ウチの首肯を待って、嬉々とピスティ様は対面に腰を下ろす。ピスティ様はウチと同い年の八人将で、一年前の帰国時の謝肉宴を機に距離を縮めていた。ピスティ様に限らず商船警護で八人将と任務をともにする海兵は、他の官職に比べて八人将と距離を縮めやすいのだ。
遠洋部隊の商船警護を八人将が担当することはないが、近場の警護を担当する新人時代に遠洋部隊の海兵も八人将のお世話になる。シンドリアの海兵の男女比は九対一で、同船したのが昔だろうと、特に女の海兵は顔と名前を八人将に覚えてもらいやすかった。
「もうゴンベエが帰ってきて結構経つよね〜。次の出発はいつ?」
「明朝です」
アバレヤリイカのステーキにフォークを刺すピスティ様は、「こんな雨じゃなければ市街地に飲みに行ったのに」とウチの答えにむくれる。"こんな雨"で目の上のたんこぶを思い出したウチは、彼女に寝台を使わせてもらえないかと丁寧に依頼した。ピスティ様の部屋には何度か伺ったことがある。薄っすらとだが、天蓋付きの大きな寝台を記憶していた。
「ごめーん!床で雑魚寝する分にはいいけど、布団にはオトコしか入れない主義なの!」
「は、はあ…」
想定していたあらゆる断り文句の斜め上をいく返答に、ウチは完全に閉口する。頼みの綱となる女性のいなくなったウチが大きなため息をつくと、「案ずるな、ゴンベエ!」と満点の笑みを浮かべるピスティ様。
「私のツテで寝台を使わせてくれる人を探すよ!さすがに最終日くらい王宮の寝台で寝たいもんねえ?」
「それをあなたが仰いますか」という言葉を胃の奥に押し戻して、"ツテ"の詳細をウチが問う。
「シンドバッド様は断らないだろうけど、さすがに不躾だよねー。ショーグンには奥様がいるし…ヒナホホさんに頼めば?可愛い部下の頼みだし、今日の商船警護で貸しがあるんでしょ?」
確かに貸しはあるが、ヒナホホ様にも家族がいる。ドラコーン将軍夫妻のように子供のいない夫婦ならまだしも、四人の子供に妹君までいるわけで。
ピピリカ様とも面識はあるし、頼めば彼女もウチを温かく迎え入れてくださるだろう。だからといって、任務の貸しをこんなことで返してもらうつもりはない
そうピスティ様に告げれば、わかりやすく彼女は肩を落とした。
「ヤムもまだマグノシュタットだしね…」
"ヤム"ことヤムライハ様は、八人将の一人で天才魔導士。ウチ同様に故郷から逃れるようにしてシンドリアに来たヤムライハ様を、ウチは姉のように慕っていた。もっとも、天才魔導士には帰れる故郷がありそうなのだが。
先日勃発した戦争は、天才魔導士の故郷・マグノシュタットとレーム帝国、さらには煌帝国も参入した大規模なもの。戦場として大きな被害を受けた故郷の復興に尽力すべく、ヤムライハ様はシンドリアを留守にしている。
「おっ、ピスティとゴンベエじゃん!二人して眉間に皺寄せて、どうしたんだよ」
ため息をついたウチの背後から声をかけたのは、八人将のシャルルカン様。声だけで背後の人物の正体を悟れば、水瓶の水をがぶ飲みしていたウチの体温が急上昇する。ピスティ様の隣にシャルルカン様が腰を下ろそうとするが、それを制した彼女はウチの対面から離れた。
「私は"彼"と約束してるから行かなくちゃ!シャル、ゴンベエを頼んだよ〜」
ウチが思うのと同じタイミングで、「どの"彼"だよ」と毒づくシャルルカン様にすらウチの頬は緩む。それを悟られないように両頬に手のひらを当てていると、何があったか剣士がウチに問う。手のひらで顔の火照りを冷ましながら一通り説明すると、「まじかァ、やっちまったなァ」とシャルルカン様は吹き出した。
「気象魔導士に聞かなかったのかよ、午後から雨って言ってたぜ」
「…急に駆り出されたので時間がなかったし、あんなに天気がよかったのに雨が降るなんて思わないですよ」
非魔導士のウチに詳細はわからないが、魔導士には天候の予測に長けた者がいるらしい。"気象魔導士"と呼ばれる彼らは白羊塔の一階に常駐していて、そこを訪ねれば近い未来の天候を教えてくれるのだ。ウチの反論に「ゴンベエの言うことも一理あるなァ」と、対面のシャルルカン様は口角を上げる。
「バカ女はいないし、ピスティは男のところに行っちまったし…ってとこか。ぜってー手ェ出さなそうな野郎どもは今日に限っていねェしなァ」
シャルルカン様が言うところの"ぜってー手ェ出さなそうな野郎ども"とは、同じく八人将のスパルトス様とマスルール様だろう。宗教上の理由で仕事以外で女性と距離を置きがちなササンの騎士も、関心のないことにはとことん無関心なファナリスも、二泊三日の商船警護に帯同中だ。
「そういうことなので…シャルルカン様」
対面を一瞥すると、まさか自分に白羽の矢が立つとは思っていなかったと言いたげにエリオハプトの剣士は目を泳がせた。あまりに露骨な反応に、思わずウチは空のグラスに視線を落とす。
「い、いや…確かにゴンベエと俺は気心知れた関係だけどよォ、ちょっとは考えた方が」
これでもウチは真剣に考えている。海兵として初めてウチが海に出たときに帯同してくださったのがシャルルカン様。そのとき優しくしていただいてから、ずっと彼に想いを寄せていた。しかし、シャルルカン様はヤムライハ様に思いを寄せているから、この想いが実らないのもウチは知っている。
二人はお似合いだし、ヤムライハ様のご意向次第でシャルルカン様の想いは報われるだろう。しかし天才魔導士は剣士を弟としか見ていない。ウチが告白して散れば楽になれるのはわかっている。それでも、せっかく海兵としての経験と実績を積みつつある今、失恋後に気まずい思いもしたくなかった。
「シャルルカンなんかの布団で寝たら、何されるか分かりませんよ」
想い人への返答に頭を抱えるウチの頭上から声をかけたのは、八人将で政務官のジャーファル様。彼は夕食を摂りに来たようで、湯気の立つ皿を乗せたお盆をシャルルカン様の隣の席に置く。心配そうにウチの顔を覗き込むジャーファル様に、ここまでの経緯をウチが説明した。
「そーいうワケなんすけど、緑射塔に空き部屋とかないんですかァ?」
余った官服の袖で覆われた両手の甲に顎を埋めた政務官は、シャルルカン様の問いに斜め上に視線を向けて考え込む。しばらくして顔をウチに向けたジャーファル様の眼差しで、彼の言葉より先に答えを察する。
「ない、かな。あの部屋もアリババくんたちの私物が置きっぱなしだから使えないし…」
"アリババくん"とは、前回の任務期間中にシンドリアに亡命したバルバッドの元王子。"マギ"というすごい魔導士を自称する少年・アラジンとファナリスの少女・モルジアナ、元王子の三人に、王は大部屋を宛がっていた。
いつ戻るかわからない三人のために、彼らが滞在した部屋は残しているらしい。ヤムライハ様の母校で魔法の勉強をしていたアラジンの意向で、現在三人組は魔導国家で彼女と復興支援に勤しんでいる。
一切の非がないのに謝罪するジャーファル様にウチが慌てふためいていると、何かを閃いた彼は元々大きな瞳を大きく見開いた。
「私の寝台でよければお貸ししますけど」
文官のトップで他の八人将ほど海兵とは接点がないのに、ウチに優しい政務官の背後には後光が射す。確かにジャーファル様なら手を出される心配もない、と彼に甘えようとした矢先、ニタニタ顔のシャルルカン様が政務官を指さしながら口を開いた。
「あ、ジャーファルさん、そーやって女のコを連れ込むんすかァ」
「違うわ!」
顔を真っ赤にして隣の剣士の頭に手刀を入れた政務官は、お盆を手に席を立つ。「力になれなくてごめんね、ゴンベエ」と小声で謝罪して、ジャーファル様は食堂の奥に消えてしまった。あと一歩で寝床を逃したウチが視線で対面に鋭い視線を向ければ、「わりィ」と顔の前で両手を合わせるシャルルカン様。
「ゴンベエさァ、バカ女とピスティ以外の女のコで寝かせてもらえる子いねーの?」
「…いません、女の海兵ってだけで嫌われがちですから」
ウチの言葉の意味がわからないようで、シャルルカン様は首を傾げる。
「ほら、ウチらって一度海に出ると一年近く帰ってこないでしょう?その間に同僚とよろしくやってるんじゃないかって」
「嘘なら嘘って否定したほうがいーぜ」
「わかってませんね。遠距離恋愛に耐えられなくて彼氏を振ったくせに"あんたが寝取った"なんて言いがかりをつける女性に、そんなことを言っても逆効果です」
日帰りの商船警護や港の警備だけならともかく、中長期の宿泊を伴う任務に就く女の兵士なら、この手の恨みを買うのは日常茶飯事。かといって女の海兵を長期任務に就かせないのは、シンドリアの労働法に抵触する。つまり、元より少ない女の海兵の誰かが長期任務に就かなければならない。
多くの場合、その役回りは身寄りも家族もない難民出身者が担う。ウチも例に漏れず難民出身だし、明日から同じ船に乗る女性陣もウチとは別の国から来た難民だ。ウチの反論に、対面のシャルルカン様は眉間に皺を寄せる。
他の女の海兵もウチと同じだろうが、この手の話を他人にすることはない。するにしても難民出身の女海兵、つまり同類相手に愚痴るだけ。姉のように慕うヤムライハ様にだって、ウチはこの話をしていなかった。
「そんな悲しいこと言うなよ。ちゃんと俺が釈明してやるからさァ、どこのどいつが」
「だから逆効果なんですって!」
思わず声を荒げれば、シャルルカン様の肩が大きく跳ねる。自分で思っていた以上の声量だったようで、周囲の視線もウチに集まった。食堂の奥の柱の向こうからは、こちらを窺う緑のクーフィーヤが見え隠れする。
「でもよォ」
「その辺の海兵ですらあらぬ疑いを持たれるのに、シャルルカン様に釈明されたら…」
周囲にウチが嫌われる分には構わないが、シャルルカン様に悪い噂が立つのは耐えられない。八人将の悪評はシンドバッド王の悪評に、つまりシンドリアの悪評に直結する。シャルルカン様の優しさで国の評価を落とすなど、あっていいはずがなかった。
「ごめんなさい…ただ、ウチは大丈夫ですから。今みたいにシャルルカン様が味方してくださるだけで嬉しいです」
「当たり前だろ、ゴンベエは俺の大事なダチだからなァ」
間髪容れずに返された言葉に、鼻の奥がツンと痛む。"大事なダチ"でも畏れ多く、誇り高き八人将に海兵が想いを寄せるなどもってのほかなのに。実らない恋とわかっていても、心のどこかで"大事なダチ"以上をウチは求めてしまう。
「…ゴンベエ、今から俺の部屋に行くかァ」
「え?"ちょっとは考えた方が"と仰っていたじゃないですか…」
急な方針転換に戸惑うウチに、とても優しい眼差しをシャルルカン様が向ける。
「確かに言ったけどよォ…遠洋部隊はリスクも多いし、"シンドリアでゴンベエが最後に寝たのが硬い床"なんてことになったら、後悔してもしきれねーだろ」
「縁起でもないこと仰らないでください…でもお気持ちが嬉しいです」
ムニエルのソースがこびりついた皿を返却すべく席を立つと、ウチからお盆を奪ったシャルルカン様が颯爽と返却台へ向かってしまった。最強剣士を小走りで追いかけて合流した先で謝意を告げれば、「気にすんな」と彼は目を細める。
「で?ゴンベエさえよけりゃ、マジで寝台貸すけど…どーすんの?」
王宮食堂を出てすぐのところでウチの返事に頷いたシャルルカン様が半歩先を進みながら、ウチらは彼の私室へ向かった。
早朝。カーテンの隙間から漏れる日光でウチは目を覚ました。見慣れない天井や肌触りのいい寝具、少し柔らかい枕で、ここが想い人の私室であることを悟る。しかし、部屋の主はいない。
当然シャルルカン様とは、どうにもならずに朝を迎えている。王宮食堂を出たときから、どうなってもいい心積もりが昨晩のウチにはあったのに。
部屋に着いてからは、先にウチを湯浴みさせたシャルルカン様が紅茶を淹れてくださって。快眠作用のあるエリオハプト産の紅茶を飲んだあとは、同じ寝台に潜って一緒に就寝した、それだけだ。もちろん衣服は一切乱れていないし、それどころかシャツの第一ボタンすら開いていない。
女の子と遊ぶとき、必ず女の子の肩を抱いてシャルルカン様は部屋なり娼館なりに行く。この部屋に着くまでの間、ウチの肩に触れる素振りすら想い人は見せなかった。エリオハプトの剣士にとって正真正銘ウチは"ダチ"であり、手を出す対象ではないのだ。
告白して散ることもできないくせに実らない恋を抱え続けるくらいなら、人魚姫のように海に身を投げてしまいたい。そんな考えがふと頭をよぎり、寝台の上で枕に顔を埋めたウチは、海中でもがくように四肢をじたばたさせる。
真っ暗な海を泳いでいると、シャルルカン様が眠ってらっしゃった位置に右手と右足が当たった。まだほんのり温かくて、さほど遠くない過去まで想い人がそばにいてくださった事実に気づく。部屋の主がいた位置に触れた拍子に鼻孔をくすぐったほのかな芳香に顔を上げると、寝台脇のミニテーブルには見慣れない香水の瓶。
部屋の扉を一瞥してから心の中で謝罪して、左手首に香水を一振り。すぐに蓋をしてから左手首に鼻を寄せると、先ほど寝台で嗅いだ香りが微かに漂う。
香水のラベルを読むと、そこには花か何かの名前。ゆっくり目を閉じてからもう一度手首に鼻を寄せ、あった場所に小瓶を戻してからウチは紫獅塔の部屋をあとにした。
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