心から | ナノ
01



見える幸せ


ホントは見たいけど


見えないのは、未来




09




車が止まるとそこは、夢の世界の入り口だった。




「広ーい。楽しそう」

「気に入ったみてぇだな?」

「うん。とっても」

「じゃ早速中入ろうぜあゆ」




名前を呼ばれ、差し出された手をそっと握る。

ヤクザの行列のようにディーノさんと自分の後ろをついてくる人達がいると考えると……

苦笑がたえない。



「ボス」

「あぁ。そうだったな」

「んっ?どうしたの?」




ディーノさんは、ロマーリオさんから何かを受け取ると、私に差し出す。




「もしかしてこれってフリーパス?」

「まぁそういうことだな」

「えっ?いいの?……じゃ入場料払わないと」




急いで財布を取り出すあゆを笑いながら止める。




「まぁ待てって」

「えっ?でも………」




あゆの手をひき、入口まで行くと、従業員が慌てて入口を開いた。




「なっ?心配いらなかっただろっ」




これを普通としているディーノの様子に、唖然としながらも、ワクワクが止まらない。




「こういうことは、入口だけにしとかねぇとつまんねぇだろ?」

「へっ?」

「やっぱフリーパス使って乗り物に乗るから楽しんじゃねぇか。なっ?」




ディーノの言葉に目を見開くあゆ。しかしそれも一瞬で、次の時にはその表情は自然と綻んでいき、笑顔にかわった。




「そうだよね」




よしっと頷くと今度は、ディーノを引っ張って歩く。


夢の世界で早く遊びたい一心で……。




「じゃあ時間がもったいないから早く乗ろ?」

「あぁそうだな」




俺は、手を引かれるままついて行こうとするが後ろから声がかかる。




「オーイ!ボスー?」

「あぁそうだった。忘れてたぜ。………ちょっと待ってろよあゆ」

「分かった」




あゆの手を離すと、部下の前に立つ。




これがマフィアのボス。

さっきまでの雰囲気も表情も全然違う。

別人。

ディーノさんが束ねるマフィアは多い。ここにいるのは、一部ぐらい。

それでも、部下に対する態度は同じだ。

やっぱりこの人は、人を惹き付ける。




「オイ。お前ら今日は自由だ。何してもいい。ただし人様の迷惑にはなるなよ?お前達の服装は十分怪しんだからな」

「ボスの格好がラフすぎんだよ」

「そうだぜボス」

「うるせー。……まったく少しは黙って解散しろよな」

「俺達のボスがあんただからしかたねぇや」

「ちげーねぇ」

「クスクス」

「俺達の姫様にも笑われたなボス」

「なっ」

「私姫って柄じゃないですよ。……みなさん仲良くていいですね」

「まぁそれが俺達ファミリーのいいとこってことだな」

「って、お前達さっさと解散しやがれ」

「しかたねぇな。姫さんを泣かせんなよボス」




口々にディーノとあゆに声をかけながら去っていく。その様子に自然とため息が零れる。




「お疲れ様です」

「あぁ。悪かったな」

「いぇ……。それより、私今日ディーノさんについてていいんですか?」

「当たり前だぜ。あゆがいなけりゃ俺一人になっちまうだろ?」

「はい」




再びあゆの手をとり歩きだす。




「早くしねぇと周りきれないかもしれねぇぜ」

「うん。急がなきゃね」




(楽しい。そう楽しいんだ。この世界に来れたこと。みんなが優しいこと。ディーノさんがいること。全てを合わせて、今が楽しい。)


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