▼ 01 見える幸せ ホントは見たいけど 見えないのは、未来 09 車が止まるとそこは、夢の世界の入り口だった。 「広ーい。楽しそう」 「気に入ったみてぇだな?」 「うん。とっても」 「じゃ早速中入ろうぜあゆ」 名前を呼ばれ、差し出された手をそっと握る。 ヤクザの行列のようにディーノさんと自分の後ろをついてくる人達がいると考えると…… 苦笑がたえない。 「ボス」 「あぁ。そうだったな」 「んっ?どうしたの?」 ディーノさんは、ロマーリオさんから何かを受け取ると、私に差し出す。 「もしかしてこれってフリーパス?」 「まぁそういうことだな」 「えっ?いいの?……じゃ入場料払わないと」 急いで財布を取り出すあゆを笑いながら止める。 「まぁ待てって」 「えっ?でも………」 あゆの手をひき、入口まで行くと、従業員が慌てて入口を開いた。 「なっ?心配いらなかっただろっ」 これを普通としているディーノの様子に、唖然としながらも、ワクワクが止まらない。 「こういうことは、入口だけにしとかねぇとつまんねぇだろ?」 「へっ?」 「やっぱフリーパス使って乗り物に乗るから楽しんじゃねぇか。なっ?」 ディーノの言葉に目を見開くあゆ。しかしそれも一瞬で、次の時にはその表情は自然と綻んでいき、笑顔にかわった。 「そうだよね」 よしっと頷くと今度は、ディーノを引っ張って歩く。 夢の世界で早く遊びたい一心で……。 「じゃあ時間がもったいないから早く乗ろ?」 「あぁそうだな」 俺は、手を引かれるままついて行こうとするが後ろから声がかかる。 「オーイ!ボスー?」 「あぁそうだった。忘れてたぜ。………ちょっと待ってろよあゆ」 「分かった」 あゆの手を離すと、部下の前に立つ。 これがマフィアのボス。 さっきまでの雰囲気も表情も全然違う。 別人。 ディーノさんが束ねるマフィアは多い。ここにいるのは、一部ぐらい。 それでも、部下に対する態度は同じだ。 やっぱりこの人は、人を惹き付ける。 「オイ。お前ら今日は自由だ。何してもいい。ただし人様の迷惑にはなるなよ?お前達の服装は十分怪しんだからな」 「ボスの格好がラフすぎんだよ」 「そうだぜボス」 「うるせー。……まったく少しは黙って解散しろよな」 「俺達のボスがあんただからしかたねぇや」 「ちげーねぇ」 「クスクス」 「俺達の姫様にも笑われたなボス」 「なっ」 「私姫って柄じゃないですよ。……みなさん仲良くていいですね」 「まぁそれが俺達ファミリーのいいとこってことだな」 「って、お前達さっさと解散しやがれ」 「しかたねぇな。姫さんを泣かせんなよボス」 口々にディーノとあゆに声をかけながら去っていく。その様子に自然とため息が零れる。 「お疲れ様です」 「あぁ。悪かったな」 「いぇ……。それより、私今日ディーノさんについてていいんですか?」 「当たり前だぜ。あゆがいなけりゃ俺一人になっちまうだろ?」 「はい」 再びあゆの手をとり歩きだす。 「早くしねぇと周りきれないかもしれねぇぜ」 「うん。急がなきゃね」 (楽しい。そう楽しいんだ。この世界に来れたこと。みんなが優しいこと。ディーノさんがいること。全てを合わせて、今が楽しい。) . prev|main|next |