テニス短編 | ナノ
忘れないで

分かってる。

私が忘れなきゃいけないこと。

でも少しぐらいいいと思う。


ねぇ?



忘れないで




「ありゃ心ここにあらずだにゃ」

「そうっすね。何があったんすか?」

「んー朝にあったときは普通だったにゃ」

「ふぅん」




あぁ周りうるさいなー。

ちょっとは静かにしてよ。

本当に人のこと分かってない人ばっかりなんだから!




「はぁ」

「三嶋」




こんなに悩んでる女の子がいるのに周りは何な訳?

まったく!!



「聞いているのか?」

「……うるさい」

「……」

「秋それはヤバイにゃ!!」

「?」




ふと顔をあげると、眼鏡を光らせた手塚の姿がいた。




「ありゃ?」

「………とりあえず三嶋グランド50周だ」

「えぇ!?」

「100周がいいか?」

「行ってきます」




これ以上怒らせるのは得策じゃないとばかりに、グランドに向けて走り出す。




「あれ?みんなどうしたの?」

「不二!」

「やっと委員会終わったんだ。それより秋どうしたの?」

「俺にもさっぱりだにゃ」

「そっか」




部活が終わっても秋が走り終わる様子はない。




「三嶋。もういい帰るぞ」

「はっ……先に……帰ってくだ…さい」

「……分かった」

「オイ!手塚?」

「……不二」

「んっ?」

「あとはお前次第だ」

「分かったよ」




手塚に文句を言いながらも、しぶしぶ帰っていく部員達に手を振って別れる。

再び秋に目を向けるが、先程よりも足取りが悪く今にも倒れそうな様子だ。




「秋!」




後ろから抱き止めるように、秋の足を止める。




「…不二」

「まったく何やってるんだい?」

「べ…つに…はな……して」

「はなさないよ」

「やめてよ」

「嫌だ。言ったよね?僕の前では無理しないでって」

「……無理してない」

「昼休み見てたんでしょ?」




ビクッと肩が動いたことを肯定と見て話を進める。




「どうして?……好きだったんでしょ」

「そうだね」

「私との約束なんて忘れればいいじゃない!」

「それが出来たら苦労はしないよ」

「?」

「忘れないで。そう言ったのは、僕の方だからね」

「だから!」

「今でもそれは変わらない。僕の前では無理しないで?僕を頼って?もう一人にはしないから」

「不二?」

「ねっ?」

「…本当にいいの?」

「うん。君が好きだから」

「私も……」

「うん。だから付き合って?そしたら秋を一人にしないですむ」

「うん」

「大好きだよ。これからも……」




忘れないで



(僕がいつも君といるから。もう一人じゃないってことを……)



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