色々な短編 | ナノ
ひとしずく

コツコツ


コツコツ



そんな音が周りに鳴り響く。

その音は寂しさを表す音だった。




ひとしずく




「もう知らない!別れる」

「そうか」




男はひどく楽しそうに笑うだけで、その言葉に何も感じていないようで、そのことが女を無性に腹立たせる。




「今月に入って何度目?私この前言ったよね?」

「3度目だな。遊がそのときに次はないっていったんだよな」

「そう!覚えてるなら話が早い。別れるから」

「それで?また泣きついてくるのは遊の方だろうが」

「もうそんな真似はしない。自分が惨めになるだけだもん」


ねぇロー?私本当に好きだったんだよ?



「ならいいじゃねぇか」

「よくない。このままじゃ私が……ううん。私の心が壊れちゃう。だからごめんね?」




そう言って部屋を出ていった彼女をチラリと横目で追うが、また視線を戻す。


別に遊が嫌いになった訳じゃねぇ。

ただペンギンといるときの表情のほうが俺にはよく見えて……。


それが腹立たしく遊にもその思いを分かってもらいたかっただけだった。




「うまくいかねぇ」




遊が別れると言ってもどうせ船の中だと安心していた。

それが間違いだったことにこのときの俺は気づくはずもなかった。




私は荷物を纏めてみんなに分からないように、そっと船を降りた。

私にはペンギン直伝の航海の力がある。だからこの島で船を調達して一人で航海をすればいい。

これまでに多くのお金を貯金していたため、船は簡単に買えるだろう。


ただし一人という不安だけは拭いきることはできなかった。



とりあえず近くの宿に泊まらなければと歩きだす。



「せんちょー」

「なんだ?」




ノックをして入ってきたのは、沈んだ様子のシャチだった。




「遊知りません?ペンギンと探してるんですが見つからないんっすけど」

「……よく探したのか?」

「あぁ、船内は全部探し終えた。探していないのはこの部屋だけだ」

「ペンギン」

「ロー。お前遊に何か言われてないか?」




ペンギンが俺を名前で呼ぶときは、俺に対して怒っているときだけだ。




「……別れるって言われた。俺に付き合いきれねぇらしい」

「それで?出ていったのか?」

「そこまでは知らん」




静かに告げるとペンギンは俺の胸ぐらを掴み頬を一発殴った。




「っ!」

「遊の痛みはこんなものじゃない。……あいつは、船を降りた」




ペンギンの言葉が重く何度も繰り返される。

船を降りた?

もう戻ってこない?

俺は安心していたのかもしれない。

ペンギンがいればあいつは船を降りることはないと。

また自分を好きにならせればいいと。
間違いだったことに気づくと俺は無意識に立ち上がり走りだした。


遊を探しに……。




「此処もダメか」




5件目の宿を後にする。

どの宿も海賊お断りらしく、船を降りたと言っても海賊をやめたくない私は、ばか正直に海賊と名乗っていた。

こんなところでもこれ以上自分の心を裏切りたくなかったために……。



飲み屋が続くこの通りを一人歩く。
変な男に絡まれそうになったが、私だって戦闘要員の一人だった。

軽く気絶させる。

しかしこの街は海賊が多いのに何故宿は海賊禁止なのか疑問に思っていると、目の前に大柄の男が立っていた。




「何か?」

「可愛い顔しておれの仲間を気絶させてくれるとはな」

「……あれの仲間?どこの海賊?」

「あぁ?俺たちは山賊だ。この街には山賊が山ほどいるぜお嬢ちゃん」




だから海賊禁止なわけか。

今日の昼間に船長とペンギンしか船を降りなかった理由がようやく分かった。
しかし分かったからと今の状況をどうにかできる訳でもない。

街にいた男たちがギラギラとした目で自分を見ている。


この街を敵に回したのかもしれない。




「はぁ」




とりあえずこの場は戦うしかないようだ。

腰に下げていた剣を構えるとギャラギャラと男が笑いだす。

それがムカついたので男に切りかかれば後ろから足を撃たれた。

拳銃をもったやつが後ろにいたのか。

自分の失態に笑えてくる。
もう一度息をつき戦う態勢を整えるが自分に向けられた拳銃があると分かっているため動くことは出来なかった。




「Room」




そんな声が聞こえたかと思うと後ろから悲鳴が聞こえた。




「ロー」

「悪かった」

「とりあえず話は後だ。」

「ひと暴れしてやるぜ」




目の前にはロー、ペンギン、シャチが立っていた。



3人はあっという間に山賊を片付けてしまった。




「どうして?」

「遊を……おまえを手離すつもりはねぇからな」

「今さら……」

「あぁ自分勝手だと分かってる。お前がペンギンに惹かれてるのを知っていたから俺は……」

「ペンギンに惹かれる?」

「遊が俺を?」

「「ない(ね/な)」」

「……二人でいるときのほうが遊は楽しそううだ」

「船長とののろけ話を聞かされてただけだが?」

「?」

「もしかしてペンギンにやきもち?」

「……っ」

「もしかして私に対しての当て付け?」

「悪いか?」

「……もうダメ。お腹痛い」

「俺は真剣に……」

「ちょっと待って笑い止めるから」

「笑い過ぎだ遊」

「だってさ。ペンギン兄」

「今何て言った」

「だからペンギンは私の実のお兄ちゃん」

「そういうことだ」

「……」

「じゃ俺たちは先に船に戻る。行くぞシャチ」

「あっあぁ」




二人が去ると沈黙が続いた。




「兄妹か……」

「うん」

「……遊を傷つけてばかりだ」

「そうだね」

「これからは遊を傷つけない。だから……」

「帰ろう?」

「遊?」

「私の家に」

「遊!あぁ」




私たちは二人寄り添うように船に戻った。



それから街にいってもローは私のそばから離れることはなかった。



そんな私たちが結婚するまで後少し……。




(「ペンギーン」「またか」「やっとだよ……」「そうか……良かったな」)


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