色々な短編 | ナノ
類義語

君と


幸せになりたい




類義語





「また帰ってこられない」




朽木家に嫁いで3年の月日がたった。
嫁いだ相手……白哉様とは、1週間顔を会わせてない。
最後に会ったのは……。




「遊様。朽木家に嫁ぎ早いことで3年がたちました。これがどういうことか貴女様ならお分かりでしょう?もう猶予はありませんぞ」

「……すみません」




世継ぎの話しをされるのは、これが初めてではない。
ただ……今日はいつもとは違っていた。


そう……隣に白哉様が座っていらっしゃるのだ。


白哉様はいつも世継ぎの話になると不快そうに、『これは夫婦の問題だ』と声をかけて下さっていた。
しかし今日は、一点を見つめたまま何も仰らなかった。そう私などいないかのように……。




「ではよろしくお願いいたしますぞ」

「はい」




会話が終わっても白哉様は一言も喋らなかった。それからだ。白哉様が邸に帰らなくなったのは……。




白哉様。


もうお側にもおいてくれないのですか?



……‥



今日も仕事があまり進まなかった。仕事をしていてもあのことが思い出されて進まない。


遊。
どういうことだ?


そう問い詰めることができれば、この憂いも晴れるだろう。だが遊が口を割るとも思えない。思考は周り続け解決するようにも思えなかった。




「隊長。また帰られないんですか?」

「仕事が終わらぬ」

「そうですが……」

「恋次。終わったのか?」

「えっ?……いや終わりました」

「なら今日はもうよい。あとはやっておく」

「隊長!」

「なんだ?」




恋次とて言いたいことはある。しかし白哉は、有無を言わさぬように圧力をかけている。
そんな状態で隊長でもある白哉に、何か言うという行為を自分が出来るはずもなかった。







辺りは真っ暗で、隊舎には自分以外は誰もも残ってはいまい。そう思うと自然と肩の力が抜ける。




「なぁ白哉坊?」




誰もいないと油断していたため、声がかかるまで反応出来なかった。
この女にそんなところを見られることが、白哉にとって嫌悪することだが、今の白哉はそんなことどうでもよくなっていた。




「何用だ。四楓院夜一、用のないなら早々に去れ」

「つれないのぉ。まったくウジウジと一人悩んどるようじゃから、からかいにきてやったのに、のぉ?」

「余計な世話だ。そもそも貴様がこの部屋に入ることを許した覚えはない」

「そうかそうか。まぁそんなことはどうでも良い。儂はな白哉坊。遊の悩んどる姿は見とうないんじゃ」

「遊が……」

「原因はお主であろう?」

「……」

「何があったか知らぬが、あんまりあやつを苦しめるな」

「貴様に言われるまでもない」

「そうじゃったな。余計なお世話じゃったな。ハハハッ。おっと、いい忘れるとこじゃった。お主早く邸に帰ったほうが身のためじゃぞ?取り返しが着かんことになるじゃろうからな。……今日あたりにな」

「……なっ!」

「じゃあの。忠告はしたぞ」




次の言葉を発する前に、夜一の気配は遠ざかっていた。



白哉は、夜一に言われたとおりにするのは、少し癪だったが、遊を可愛がる夜一が嘘をいうとは思えず、足早に家路へと歩を進める。




「遊!?」




夜ということを忘れたかのように部屋をバシンと開く。
そこには、頬を濡らし今にも消えてしまいそうに、部屋の真ん中で縮まって寝ている遊の姿があった。


白哉は、遊の姿にホッと息をつくが、周りを見回した瞬間さっと血の気が失せていく。
部屋には、遊の私物がなく風呂敷に着物が折り畳まれていた。



出ていくつもりだったのか?


何故?


白哉には、あの現場を見た瞬間からの記憶が薄れていた。そのため、世継ぎの話のことなど記憶の片隅にも残っていなかったのだ。




「遊」




掠れた声が出る。それでも頬の涙を拭いながら、遊の名を囁く。




「………んっ?」




固く閉じられていた瞳がゆっくりと開いていく。まだ寝惚けているようで、ぼーっと白哉を見ているようだった。


もう一度彼女の名を呼ぶと、ビクッと肩が震え焦点のあった瞳が白哉を見つめる。




「……どうして?」

「出て行こうとしていたのか?……何故だ」

「……っ!」

「あの男のもとへ行くのか?」

「………えっ?」




訳の分からぬ言葉に一瞬理解が遅れる。それでも白哉の言葉の真意がつかめず、首を傾げる。




「1週間前のことだ。侍女と買い物に出たであろう」

「はい」

「そのとき会っていた男のことだ」

「その……とき?」




遊は、会っていた男などいない。そう思ったが言えるような雰囲気ではない。




「抱き合い楽しげに会話していたであろう」

「………抱き合う?」




必死に記憶を辿る。男と抱き合って話す……。

そんなことは……。
否定しようとした瞬間ふと思い出す。




「……もしやぬかるみにはまりそうになった私を助けて下さった方のことでしょうか?」




遊には、それ以外は考えられなかった。




「助けて……?」

「はい。そのとき鼻緒も切れてしまい、通りかかった夜一様が邸まで連れ帰って下さったのです」

「……だからあやつあんなことを」

「あの…白哉様?」

「すまぬ。不安であっただろう」




そっと胸の中に閉じ込めると、ポロポロと涙を流す。




「白哉様。白哉様のおそばにいられないと思ってました」

「?」

「世継ぎが出来ぬ私など……「そのようなこと気にするなと言っている」

「しかしあのとき…」

「あのとき?……すまぬ遊。しばらくあの男とのことばかりが頭をちらついていたせいで、最近のことはあまり記憶にないのだ」

「……えっ?ではもしかして世継ぎのことを言われたときのことも」

「覚えておらぬ」

「そ……そうだったんですか」

「…また何か言われたのだな。私から皆には言っておく」

「はい。……白哉様」

「何だ?」

「お帰りなさいませ」

「あぁ今もどった」




顔を見合わせるとふっと笑いあい、自然と唇が合わさっていくのだった。




(「元サヤにもどったか?」
「夜一様!」
「また出たな化け猫め」
「ハハハッ今回は儂に感謝したいぐらいじゃろう?」
「貴様が話をしていれば、ここまで拗れることはなかった」
「ふっまだまだ青いのぉ白哉坊?」


この後地獄の追いかけっこが始まったのは言うまでもない。しかし遊が二人の様子を楽しげに見ていたのを、気づいていたのも間違いではないだろう……)



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