キメツ短編 | ナノ
・好きな人

眺めててもきっと気づいてもらえない

だから


「義勇くん!おはよ」

「あぁ」

「もう!それはおはようって返すべきでしょ」

「そうか」


この言葉足らずの男の子が、私の幼馴染冨岡義勇。まぁ朝一緒にいこうと言ったら、必ず待っててくれる優しい人なんだけど。


「花奈」


ボーッとしている間に、義勇くんが先に行っていたようだ。それでもちゃんと待ってるのだから、優しい。


「佐伯さん。いいですか?」


放課後知らない男の子に声をかけられ、誘われるまま屋上につく。


「うわっ。屋上寒いね。ごめんね。佐伯さん」

「大丈夫ですが、私に何か用でしょうか?」

「あぁまぁえーっとさ。冨岡と幼馴染だよね?」

「はい?」

「そうだよな。あのさ佐伯さん。好きなんだよね」

「えっ?」

「付き合って下さい」

「いや?えっ?」

「返事は明日またここで、よろしく」


名前も知らない彼は、走って屋上を出ていった。


「返事って?えっ?」


私は意味分からないまま、そのまま帰路に着いた。


「花奈が告白。俺は」


答えは出ないまま無言で、屋上から出ていく。誰にも見られないまま。


次の日の朝。義勇くんの顔を何故か見れなくて、スマホで先に行くと伝えた。


「どうしよう」


悩んだまま屋上に進む。


「佐伯さん。返事聞かせて下さい」


名も知らない彼は、寒い中私を待っていた。私の好きな人は、本当は


「すまないが、それは無理だ」

「えっ?」


突然上から聞こえた声に、顔をキョロキョロとさせる。貯水タンクよりヒラリと降りてきた彼に目を見開く。


「義勇くん」

「花奈を譲る訳にはいかない」

「そうは言っても冨岡!付き合ってないんだろう」

「だが、花奈が困ってる」

「だから何だよ」

「俺は困らせたくないんだ」

「義勇くん?」

「はぁ?でも俺は佐伯さんに聞きたいんだよ」

「あの!ごめんなさい」

「・・・はぁ分かってたけど、まっ仕方ないな」


と言って名も無き彼は屋上から出ていった。


「でっ?義勇くん。昨日のも聞いてた?」

「・・・」

「やっぱり」

「花奈が先に行ったから」

「えっ?」

「俺はお前に隣にいてほしい」

「それって?」

「花奈。好きだ」

「うん。私も好き」



ふっと義勇くんが笑ったのを見て幸せな気分で、帰宅した。


明日は一緒に行くぞ

うん

そうか



やっぱり彼は言葉は足らないけど、私はそんな彼が大好きです。






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