月がみている | ナノ

02




翌日。そわそわと落ち着かない気持ちで朝餉の支度を手伝う。
落ち着かないせいか、なかなか上手くいかず、千寿郎くんが何度も困った顔をしているのに、手伝いを止めるとは言い出せなかった。
そう何かしていないと怖くて堪らなかったから。


昨日とはまた違う雰囲気で朝餉を終え、私は自室で旅支度を整える。


手が震え、刀を何度も落としそうになる。
師範から渡されているこの刀で鬼刈りをするのは今回が初めてだ。鬼にあったことがない訳でもないのに心がざわつく。
最終選別の内容は、怖くて聞けなかった。聞いたら、刀を持てなくなりそうだった。



「美紅?準備は出来ているか?千寿郎は玄関で待って…………」


師範は、刀を握り締め浅い呼吸を繰り返す私をそっと抱き寄せる。


「大丈夫だ。美紅が帰ってくるのを千寿郎も俺も父上も待っている」

「はい」

「恐怖心は持っていていい。だが、忘れるな!俺達の存在を。美紅。お前は一人じゃない。無事に最終選別を終えて帰ってこい。美紅の家はここだ」

「はい」


師範の声で、私の心は落ち着きを取り戻していた。恐怖心は消えない。でもまたここに帰って来たい!それだけは間違いなかった。


「美紅さん!良かった。遅いから何かあったのかと思いました」

「ううん。心配かけてごめんね。千寿郎くん」

「いえ。私よりも………」


あとの言葉は、師範のパンっと手を鳴らした音で掻き消される。よく分からず首を傾げるが、千寿郎くんが納得したように何でもありませんと、安心したように笑うので何も言えなくなった。


「じゃ気をつけて行って来い」

「美紅さん。これ食べて下さい」


千寿郎くんに、お弁当の包みを渡される。いつの間に作ったのだろう。おにぎりが3つも入っていた。


「千寿郎くん。ありがとう」

「美紅!俺も1個握った」

「えっ!?」


料理の苦手な師範が、握ってくれたおにぎりに嬉しさが込み上げてくるが、師範がもう一度同じことを言うので、首を傾げてしまった。


「兄上は美紅さんに褒めてもらいたいみたいですよ?」


千寿郎くんが耳打ちした台詞に、再度師範を見ると、不貞腐れたようにそっぽを向いている師範が目に入る。
次第に笑いが込み上げてくる。あの師範の可愛さに………。


「師範!ありがとうございます。いただきますね」

「あぁ。気をつけて行って来い」
  
「はい」



師範からは実はおにぎりだけでなく、処置用にと軟膏も渡されている。そう、師範と千寿郎くんから多くの驚きと感動をもらい、胸に留めて歩を進め始めた。



(早く鬼殺隊の一員となって帰ってこい!俺は。俺達は待っている)

「ところでお前は心配してきたのか?」

「ふっ。そんな訳ないだろ。今のあいつのことなんて気にするかよ」


じゃ何故ここにいる?そう聞かないのは彼の心を読み取ったからだ。それでも一言聞かずにはいられなかった。
彼女と彼のためにも。




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