すれ違うなんて言葉もでない
学校が始まるまでに、私の心は幾分かは落ち着きを取り戻していた。
先生が覚えていなくても、覚えていても私が今度も好きになったのは変わりない。
それを否定できるはずもない。
それが私の出した答えだった。
「寺沢!この前はどうした?急に走って行ったから俺は驚いてしまった」
後ろからかけられた声にギギギっとロボットのように頭をゆっくりと回す。そこには今まで考えていた。煉獄先生がいた。
「ギャー」
先生には悪いが、驚きのあまり女の子らしからぬ声がでたことには目を瞑ってもらおう。
「ハハハッ酷いな。そんな声を出さなくてもいいだろうに!あぁそうだ。部活動のことを伝えようと声をかけたのを忘れるところだった」
「あっそうでした。早く出さないと」
私の声を遮るように煉獄先生は、剣道部のマネージャーが急遽決まったからと話始めた。代わりにマネージャーならサッカー部が空いていると笑いながら話す。
「えっ!?」
煉獄先生の傍にいたいという願いからだった。最初はそんなこと考えられなかったが、今では分かる。
だから剣道部マネージャーと書いた紙をカバンの中でグシャと掴んだが、何も言うことはできないまま、放課後までに出すようにと声をかけられ、煉獄先生は気づいたら目の前にはいなかった。
「どうして?」
サッカー部といえば、冨岡先生の部活だ。別にマネージャーがしたくて、書いた訳ではない。
頭の中がグチャグチャでよく分からなくなった私の意識は気づけば遠のいていた。
耳の奥で煉獄先生の切羽詰まったようなあきという声が聞こえた気がしたが、私の都合のいい夢でしかないのだろう。
「んっ!?」
気が付くと保健室のベッドにいた。
私を運んでくれたのは煉獄先生であるはずもないのだから、考えるのは止めよう。
「気が付きましたか?今はもう昼時間ですよ?気分はいかがでしょう?」
「あっ大丈夫です」
若く美人な保健室の先生は、珠世先生だとしのぶさんから聞いていたので、じっくりと眺めてみる。
うん。キレイだ。
「どうされますか?今日は帰りますか?」
「えっと、まだ本調子ではないので帰ります」
「分かりました。私から煉獄先生には伝えておきます」
「先生。。私を運んだの」
「やっぱりいいです」
「そうですか。お大事に」
そのまま保健室を後にした私を校門で待ち伏せていたのは意外な人物だった。