そんなはずではない
翌日。
私は担任の煉獄先生が休みなのを知った。
また明日と先生から言われてなかったのに、勝手に明日と決めたのは私の方なので、落ち込むなんておこがましいにも程がある。
「あきさん。そんな暗い顔をして、そんなに煉獄先生が好きになったんでしょうか?」
しのぶちゃんの一言にギョッとした。
会ってまだ日が浅いのに、私が好きになっている?
そんなはずはとも言えないことに驚いた。
「しのぶちゃんにはそう見える?」
「そうですね。そう見えなくもないという話です。でも何か煉獄先生だけでもないんですよね」
その一言からしのぶちゃんは何も話さなかった。私も昨日の夢のことも話せなかった。そのため沈黙が続いた。
「ねぇ知ってるー?今日の煉獄先生の休みの理由」
クラスで派手目の女の子達が話しているのが、聞こえ思わず耳をすませる。
「えー?なになに?」
「私の家、校長の親戚じゃん!朝に聞いたんだけど、家柄てきにすごいらしいの」
「誰が?」
「煉獄先生」
「それで?」
「婚約者が帰ってくるからエスコートしないといけないらしいよ」
「婚約者!?そんな話1度も聞いてないよー」
「うん。婚約者が海外にいたから、話が出なかったんだって」
そんな話を聞いて何故かまた、手が届かないのかと思った。
またという言葉によく分からず頭を傾げるが、私を見ていたしのぶちゃんが、目を大きくして驚いているのが分かった。
しのぶちゃんも話が聞こえて驚いたのだろうと思っていた。
「あきさん。こちらをどうぞ」
そういって、渡されたハンカチに驚いていたが、もっと驚いたのは、自分が泣いていることだった。
よく分からない感情に悩まされ、それでも何故か自分を嫌だとは思わなかった。
「しのぶちゃん。私変なのかな?」
「まぁ変なのかは分かりませんが、あきさんのことをかわいいとは思いますよ」
「かわいい!?」
「よく分からないはずなのに、心は正直なのでしょうね。私は心のままに動いていいと思いますよ」
そんな話をした放課後。入部希望用紙を持って職員室に行く。煉獄先生は休みでも、部活動を取りまとめる先生に渡した方がいいと思ったからだ。
しのぶちゃんに聞いた先生を探そうと職員室を見回すと煉獄先生がいたことに驚き、ア然としてしまった。
「おぉ!寺沢。どうした?」
私の感情とは関係なく先生の笑顔は眩しかった。
今日は会いたくなかった
こんなに心が揺さぶられる
そんな煉獄先生を見たくはないと思ってしまった。