椿雨 | ナノ



序章




私は、まだ


信じたい



時とともに




今日も周りは騒がしく、私を忘れさせてくれる。


もう2ヶ月の月日がたつ。


それでも私の心には、変わらず貴方がいた。




「白哉様」

「……何だ?」

「今日は何処に連れて行ってくれますか?」

「今日はあまり遠出は出来ぬゆえ、高台へと行こうと思うが……」

「本当ですか?私あの高台大好きですから、楽しみです」




些細な会話だけど、燈にとっては掛け替えのない宝物だった。



……‥



まだ白哉が護挺入りもしていない頃、流魂街に入り浸っていた時期があった。それは、ある少女と出会ってからのこと…… 。




「そう言えば今日は稽古早かったんですね」

「まぁ……」

「もしかしてまた鬼ごとですか?」

「勝てぬ訳ではない」

「……やっぱり」

「くっ……」

「でも楽しそうでいいですね」

「楽しくはない」

「いいえ。楽しそうですよ」

「ふんっ」




いつも笑顔だった。そんな燈を見ているのが白哉は好きだった。




「また来て下さいね」

「あぁ」




一度家まで送ると言ったが、寂しそうに目を伏せ『大丈夫。一人で帰れる』と言った燈に白哉は、何も答えられなかった。


それから一度も家まで送るとは言えていない。




『また』と言って、別れた少女はそれから、その場所には現れなかった。





--50年後の桜が咲く頃--




「白哉様……私は貴方と過ごせて幸せでした。今度はあの方を探して差し上げて下さい」

「あやつも探す……緋真にも会わせてやりたい。だから死ぬな」

「私もお会いしとうございました」

「あぁ」

「ですが、それも叶いそうにございません」

「……もうあやつを探すのを止める。お前の傍にいる。だから頼む」

「ダメです。本来この場所は私の場所ではなかったのです」

「そんなことは……」

「白哉様いつまでも貴方を傍で見守っています」

「……緋真」




その日白哉の最愛の妻が旅立った。



白哉に看取られるように、静かに息を引き取った。




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