▼ 01 これからのことに 期待を膨らませる はずだった…… サボりという名の逃避行 私城井 真那は、本日豊吉(ほうきつ)高校に入学します。私は、中学卒業まで寮に住んでいた。でも高校進学が決まり、独り立ちのために、お母さんには内緒で、お兄ちゃんの家の近くのアパートに引っ越しをした。 お母さんにばれると、一人暮らしを反対される。悪ければ、また寮にいれさせられちゃう。 お兄ちゃんのマンションは私が住んでも部屋があまるくらい広い。だからお母さんは、寮から出ることを許したのだ。そして、お兄ちゃんは私が通う豊吉高校の教師をしている。 頭も良くて何でも器用にこなせる。私の自慢のお兄ちゃんだ。ちょっと心配なのは、顔は良いはずなのに彼女が一度も出来たことがないことぐらい。 そして、今日は入学式。お母さんは仕事で入学式には来ない。だからお兄ちゃんが教師兼保護者をしてくれる。 といってもお兄ちゃんと私のことは一部の先生を除いては、秘密だけど……。 ---- 新しい制服に身を包み、新しい鞄を持って、いざ入学式へと新たな一歩を踏み出したのだが……。 ここどこー! うぅ迷子だ。これは絶対お兄ちゃんのせいだ!道案内してくれたときに、近道とか言いながらたくさん曲がったから……。 「すみません……真那ではありませんか?」 後ろから声をかけられとっさに振り返るとそこには、私の家庭教師をしてくれた人が立っていた。 「謙信先生」 彼は、上杉謙信先生。私の通う学校で教師をしている。そして、受験中私の家庭教師をしてくれた、お兄ちゃんの友達でもある。 お兄ちゃん意地悪だから勉強教えてくれないんだもん。だから謙信先生に頼んだ。 「やはりそうでしたか。このような所でどうしたのです?」 「えっと道が分からなくなってしまって……」 「あぁ貴女は、外部受験でしたね。彰に聞いていないのですか?」 豊吉高校は、小学から大学までエスカレーターだ。私は、生まれ変わりたくて、豊吉高校を受験した。元いた学校もエスカレーターだったが、寮生活で、規則に縛られた生活をしていた。これ以上縛られた生活をしたくないという気持ちで豊吉高校に入学することを決めた。幸いお母さんもお兄ちゃんがいる高校ならと認めてくれたため、何の問題もなく受験することが出来た。 「……近道を教えてもらいました」 「彰の家の方向からでしたら此処は確かに近道ですね」 「そうなんです。でも此処通るのもう3回目なんです」 私の言葉に目を丸くし、次にクスクスと笑いはじめる。 「3回も此処を回ったのですね。すみません」 「どうして謙信先生が謝るんですか?」 「此処は私の家の前なんですよ?」 と目の前の大きな家を指差す。 「上杉道場?ってこの大きく長い塀は、全部謙信先生の家ですか?」 「そうですよ」 「恥ずかしいです」 「ふふふっ。仕方ないですよ。此処は住宅街ですからね。それより一緒に学校行きますか?」 「いいんですか?」 「迷っている生徒を置き去りにして行くような薄情者に見えましたか?」 「いえ!見えません」 私は、謙信先生のおかげで、学校に無事に着くことにが出来た。 . |