小説 四天宝寺 短編 | ナノ


▼ ピアノと君

「ちゃう。それはミやで?」

「え、ミってどこ?」

「……」

俺はピアノに手をおいている彼女に一瞬殺気が沸きつつ、「ここやで、」と教える

「よし、もう一回やろか」

「ん、わかった」

再び最初から弾き始める…が、正しい音が5分の2ぐらいしか出てない

「できた!!」

なんて、嬉しそうに言うけど…

「出来てへんわ」

「ぇ…」

なんや、そのキョト顔自覚無しかいな
相当な重症やな 

「ちょい貸してみ?」

「あ、うん」

貴子が席からどいて俺が座る
鍵盤に手をかざし“カノン”を弾き始める
俺の得意な曲であり、貴子が好きな曲

「……凄い」

貴子の口から放たれた言葉

「ね、天才なの?」

別に普通だけど、

「おん。天才やで」

言ってみた
ふざけてみたかったから 


「…」
「…あれ、ウケ悪かったか」
「うん」

ズバリと言うなや、アホ…

「もぅ…蔵はたまに残念な王子様になるなあ」

「うるさいで?貴子」

「だって、その通りじゃない?これを知ってる私しか蔵を愛せないのだーっ」

「…っ」

どさくさに紛れて、何ゆうてんのや
まぁ、確かに。
…なら、貴子は…


「ギターやら、ヴァイオリンやら出来るのにピアノは全く駄目。そんな貴子を愛せるのは俺しかおらへんな」


「ふふ、そうかも」

俺の方に顔を向けピアノに頬杖をつく

夕陽に紛れて笑う君が可愛くて、俺は、微笑む


「かもって、なんやねん」


「えー?秘密ーっふふ、好き!」

俺は少し立って貴子の頬にキスを落とす
くすぐったそうに肩をすくめた貴子


運動音痴でも、アホでも、暗譜も苦手な彼女やけど、それもまた可愛いんだ



俺は、貴子とピアノに手をおいた

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