小説 四天宝寺 短編 | ナノ


▼ 迷子

「ええですか」

「うん?」

「はぐれたら、そのまま帰りますんで、そのつもりで…」

「えっ」

そんなキツいことを言ってくるのは後輩で
しかも彼氏で
財前くんで
そして、幼なじみで

「ひどいから!」


酷すぎる
そのまま帰りますんでって…それ置き去り…

「何ゆうてるんですか、はぐれたらこの人混みの中探すの面倒っすわ。」

「……ええー…」


でも、まぁ、確かにそうだ。
私達は今デパートにきている
しかも今日はやけに混んでいて探すとしても中々見つからないだろう

「先輩、携帯も忘れたんでしょ?」

「…うっ」


そうだ。そもそも携帯さえ忘れなければこんなことには!

「まぁ、いきまひょか。」

そう私が後悔している間も光はさっさっと行こうとする

え、ちょ、はぐれるから!

私は慌てて追いかけた


ーーーーーーーー……


「あ、あれ可愛い」

ふらぁっと私はウィンドウへ近寄る


「ね、光!……あ」


いな、い…

え、待って待って!ありきたりすぎるから!なんでいないの!?

私は慌てて人混みへ入る
すると今度は人混みに揉まれてどこかわからなくなった

「……ジエンドオブ私…」

私、方向音痴なんだけど…


「……どうしよう…もう30分経ってる…あー、帰っちゃったかなぁ…」

私はあいていたベンチに座って呟いた
あれから光を探してみたけどいない

…今日は光とデートだった
来なきゃよかった
私は昔から方向音痴で、いつも迷子になる

「…うぅっ…」

なんだか心細くなって涙が出てきた
「いっけない…ハンカチ…」

ゴソゴソと探すけど…無い…
もう、やだ…

「光…」

そう、呟いたときだった


「ねぇ、一人?」

「は?」

誰かに話しかけられた

「うわ、泣いてるやん、どうしたん?あ、振られちゃったの?」

「え、いや…」


男3人…
しまった…囲まれてる…


「ね、ゲーセン行こや。パァッとさ?ね?」

腕を捕まれる
ヤダヤダヤダヤダ

「うわ、可愛いじゃん。やっべ」


「や、ひか…」

「貴子。」

違う方から、腕を引かれた

「ひか、る……」

引かれた方を見ると息をきらす光がいた

「はぁ?んだこいつ」

「こいつの彼氏なんすけど?悪いっすけど…どっか、行ってくれへん?」

最後、トーンを低くした
それにビビったのか三人は私の腕をはなしてどこかに行ってしまった

よ、よかった…
でも…


「どうしてここに?」

「アホ。探したんやで?」

ペチンと、たたかれた 
…地味に痛かったんだけど

「だって、帰るって…」

「ほんま、あほなん?貴子を置いて帰るわけないやろ。昔から方向音痴なの知っとるんやから。」

「……うっ」

「まぁ、見つかってよかったわ。焦った…」

そういう光の額には汗が滲んでいた
あぁ、本当に探してたんだ
とか思った

「ありがとう…」

私はベンチから立つ

「ま、しゃーないすわ。次こそ、はぐれたらおいてきます」


そう言って光は私の手をとる

「……ふふ、好き。」
「アホ。」

そう言う光の耳が赤い
なんだかんだで優しい光

迷子になってよかったとか、思った


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